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第九章 グンマー連合王国

第238話 遠征軍とテイマー保護令

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 ――五月初旬。サイターマ領、ウーラの町。

 フォーワ辺境伯が総督を務める南メロビクス王国南部は、治安が悪化している。
 ミスル王国との国境沿いで、なんと奴隷狩りをしている不届きな連中がいるのだ。

 フォーワ辺境伯も兵士の見回りを増やしているが、国境線は広い。
 どうしても手薄になってしまう。

 そこで、俺は、グンマー連合王国総長として支援を行うことを決めた。

 さて、派遣する部隊の司令官だが――。

「私が行くッスか?」

「うん。頼むよ。ブンゴ隊長」

 第二騎士団のブンゴ隊長にお願いすることにした。
 決め手は人柄だ。

 南メロビクス王国は、フリージア王国と戦ったことがない連中が多い。
 この間の戦争も戦勝側――フリージア王国側だ。
 貴族たちや住民たちは、負けた意識が希薄だろう。

 メロビクス王大国から、グンマー連合王国に乗り換えた。
 それぐらいの気持ちでいるかもしれない。

 だから、威張ったフリージア人を派遣すれば、現地の反発を招き、派遣した俺の評判も落ちる。

 そこで人当たりの良いブンゴ隊長だ。

「奴隷狩り……。また、ミスル人ッスかね?」

「たぶんね。ミスル本国の許可は取ったから、よろしくね」

 ミスル本国は、相変わらず自国の治安維持に関心がない。

『国境沿いで奴隷狩りをする連中がいるから、叩き潰す。ついては、追撃で国境を越えるかもしれない』

 ――と、連絡したら『どうぞ! どうぞ!』だと。

 ウチがタダで治安維持をしてくれると勘違いしているっぽい……。

「いや、あの……。ウーラの町も忙しいッスよ?」

「この前、文官になりそうな人を送ったろ? あいつらに任せろ」

「わかったッス! 書類が面倒だったので、丁度良かったッス!」

 ブンゴ隊長は、乗り気になったようだ。
 良かった! 良かった!

 ブンゴ隊長に率いてもらう部隊は、機動力重視だ。


 ・ケッテンクラート×三台
 ・ブラックホーク×二機
 ・グース×二機
 ・人員三十名


 グース二機で哨戒、連絡用。
 ブラックホーク二機は、急襲用。
 そして、ケッテンクラート三台。

 機械化部隊としては、充実の装備だ。

 ただ、人員は寄せ集め。
 第二騎士団も入植に忙しく、あまり人を出せない。

 あちこちの冒険者ギルドから臨時で冒険者十五人を雇ったのだ。

 人手不足から混成軍となったが、ブンゴ隊長ならボチボチ上手くやってくれるだろう。

 俺はブンゴ隊長に後を任せて、キャランフィールドへ転移した。

「アンジェロ少年。忙しいのであるよ」

「黒丸師匠。がんばってください!」

 キャランフィールドの執務室に戻ると黒丸師匠が待っていた。

 ぼやきから入ってきたな……。
 デスクワークでストレスがたまっているのだろう。

 黒丸師匠のストレスの原因は、テイマー保護令で仕事が増えたことだ。

 テイマー保護令は、総長令としてグンマー連合王国全土に発布された。
 各領地の貴族は、テイマーを見つけ次第、総長に報告を行う。

 報告後は、キャランフィールドから迎えを出す。
 キャランフィールドにて、冒険者ギルドが聞き取りと実地でテイムスキルの調査を行う。

「それだけでも大変なのに、各地の冒険者ギルドとの調整である……」

「費用はたっぷり払いますから! がんばってください!」

 各領地貴族からの報告だけでなく、各地の冒険者ギルドにも依頼を行った。

『現在、過去を通じて冒険者として登録したテイマーやテイムスキルがある人物がいれば紹介して欲しい。本人には報酬を、冒険者ギルドには謝礼を支払う』

 リレー方式で、大陸全土に伝わるのだ。
 その問い合わせ先が、キャランフィールドの冒険者ギルドなのだ。

 黒丸師匠は対応に忙殺されている。
 お金を払うとはいえ、さすがにオーバーワークで申し訳ない。

「商業担当のジョバンニに、応援を送るように言っておきます」

「助かるのである。ミディアムたちは経験不足で、この手の仕事では、あまり戦力にならないのである」

「まあ、彼らには、荒事と新人教育を任せれば良いでしょう」

「そうはいかないのである。書類の束でケツを叩いているのである」

 俺は、ミディアムたち『砂利石』のメンバーが、机でイヤイヤ作業をする姿を想像して笑ってしまった。

 まだ、彼らは読み書きを覚えたばかりなのだ。
 脳が沸騰しているだろう。
 後で、甘いお菓子を差し入れてやろう。

「さて、である。スライムテイマーがいたのである。北メロビクス王国出身者であるな」

「おっ! いましたか!」

 ギュイーズ侯爵の所だ。
 魚の塩漬けを作って、内陸部で売りたいと言っていた。
 望みが叶うぞ。

「エラの商会で仕事を覚えさせるのである」

「おそうじバナナ商会ですよ」

「ひどいセンスなのである!」

 それ黒丸師匠が言うか?
 シオフキスライムだって大概だぞ。

「まあ、とにかく、ギュイーズ侯爵に報告を送りますよ。『スライムテイマーを一人確保。仕事を覚えたら、そちらに戻す』と」

「良いのであるか? キャランフィールドで囲い込む手もあると思うのであるが?」

「北メロビクス王国も俺が国王ですからね。領地の現金収入が増えるようにしないと、キャランフィールドばかり儲けても、仕方ないです。商売相手もお金を持っていないと」

「なるほどであるな」

 ギュイーズ侯爵なら、北メロビクス王国を上手く経営してくれるだろう。
 俺が孫娘のアリーさんと結婚して、ひ孫を見せてやれば、もっと張り切るに違いない。
 つまり、俺のこれからの夜の生活は、国の将来を左右する重大事項なのだ。

「ところで、驚くべきテイマーが存在したのである」

 黒丸師匠が、一枚の書類を俺の前に差し出した。

「なになに……サーベルタイガーをテイム!?」

 サーベルタイガーは、大陸中央部の暑い地方に生息する虎型の魔物だ。
 長い牙、鋭い爪、素早い動きと冒険者を圧倒するパワーを持つ。

 出身は南メロビクス王国……フォーワ辺境伯の所だ。
 あそこにサーベルタイガーが、生息していたのか!

 サーベルタイガーをテイムして、背中にまたがるとかロマン溢れるな。

「凄いのである。ルーナのグンマークロコダイルと良い勝負である」

「本当ですね! キャランフィールドには?」

「もう、到着したのである。ルーナが会いにいっているのである」

「えっ!?」

 俺はルーナ先生が会いにいったと聞いて、嫌な予感がした。
 まさか、イセサッキたちグンマークロコダイル軍団は連れて行かないよね!?
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