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第九章 グンマー連合王国

第232話 つづき:ええか~? ええのか~? ええのんか~?

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 エラさんが、スライムによる浸食――。

 ではなく、スライムによる粘着プレイ――。

 ではなく、スライムによるシャワーというか、スライムをタオル代わりにして、体の汚れを落とした。

 エラさんは、さっぱりした顔をしている。
 お肌ツヤツヤだ。

 するとルーナ先生が、同じことをやりたいと言い出した。

 止せばいいのに……。
 珍しいことがあると、すぐにやりたがるのだよなあ。

 ルーナ先生がスライムを服の中に押し込む。
 エラさんが、ホイッスルを一つ『ピーッ!』と吹いた。

 ルーナ先生の目が、カッと見開かれ、口から聞いたことのない声が漏れ始めた。

「お……おお……! おっ! ああああ……あっ……」

「やたら色っぽいな」

「それがしは、不気味に感じるのである」

 黒丸師匠……ひどいな!
 いや、でも、コンビを組んで長いし種族も違うから、黒丸師匠はルーナ先生を、性的な目で見られないのかもしれない。

 俺と黒丸師匠が所在なさげにしている一方で、ルーナ先生のスライムプレイは続く。
 上半身から下半身にスライムが移動したようだ。

「あっ! そんなところまで……! 汚れている……」

「どこだよ!?」

「あまり考えたくないのである」

 これ以上は、見てはいけない気がした。
 俺と黒丸師匠は、ルーナ先生から背を向けて、スライムプレイが終わるのを待った。

 俺の頭の中で、あの言葉が、あの人の口調でグルグルと回った。


 ええか~?

 ええのか~?

 ええのんか~?


 ふう……。
 大人の階段を上る日は近そうだ。

 スライムプレイが終わると、ルーナ先生は非常にさっぱりした顔をしていた。

「これは良い。ダンジョン探索でも使えそう」

「なるほど。長期の探索の時は、良さそうですね」

 俺はルーナ先生の言葉を肯定してみる。
 本当は、違う意味で良かったのではないかと思うが、言えばぶっ飛ばされそうなので、そこは触れないでおこう。

 ルーナ先生の言葉を聞いて、エラさんが瞳を輝かせた。

「ダンジョンの探索! 私も行きたいです!」

「あー……、いや……、がっかりさせるようで悪いが……」

 俺はエラさんにダンジョン探索が、どういうものなのか説明をした。

 広いダンジョンだと、何日も泊まり込みで探索をするのだ。

 一般的な冒険者パーティーでは、水を節約して行動するので、女性は水浴びが出来ず不便をする。

 ダンジョン内に水が湧くポイントがあれば、そこでタオルを湿らせて体を拭く程度なのだ。

 そこにエラさんのようなスライムテイマーが入れば、『入浴代わりになる』とルーナ先生は言いたいのだが……。

「現実としては、難しい」

「どうしてですか?」

 俺の良くない答えに、エラさんが眉根を寄せる。

「エラさんは、戦闘力は高くないでしょう?」

「はい……。一応、杖術は習ったので、杖で戦えますが、あまり強くないです」

「護身術レベルってことだよね? それだとダンジョン探索のパーティーメンバーに入れるのは難しいよ。エラさんよりも戦闘力が高い戦士や魔法使い、回復が出来るヒーラーなんかを探索メンバーに入れたいもの」

「ああ……綺麗にする係だけで、ダンジョンには連れて行ってもらえないのですね……」

「うん。そういうこと」

 エラさんは、がっかりしているが、ダンジョン探索は生死がかかっている。
 どこの冒険者パーティーだって、生還確率が高そうな人選をするのだ。

 戦闘力の低いスライムテイマーは、お呼びがかからないだろう。

 逆に、俺たち『王国の牙』のような高レベルパーティーの場合は、エラさんのように戦闘力の低いメンバーを連れて歩く余裕がなくもない。

 あくまでも、ダンジョンの深くない場所、上層限定になるが。

 だが、入浴代わりのスライムプレイは不要だ。

 俺やルーナ先生のように魔力が豊富な魔法使いは、魔法で水なりお湯なりを生成出来る。
 その気になれば、土魔法で浴槽を生成し入浴も可能なのだ。

 だから、体を綺麗にしてくれる係のスライムテイマーは必要ない。

「ああ……うう……」

 俺が一通り事情を話すと、エラさんは、ズーンと落ち込んでしまった。

「アンジェロ少年が、エラにとどめを刺したのである」

「いえ。話はこれからですよ。」

 落ち込む必要はない。
 俺は、エラさんの仕事を思いついたのだ。

「エラさん。スライムと一緒に出来そうなお仕事がありますよ。試しに、働いてみませんか?」

 俺はエラさんをスカウトした。


 *


「ヴィス。いるかな?」

「ああ? サロットか……」

 宿舎で寝転がっている赤獅子族のヴィスに、小柄な人族の少年サロットが声をかけた。
 二人とも地球神によって、この異世界に転生させられた転生者である。

 だが、タイプは正反対だ。

 赤獅子族のヴィスは、喧嘩っ早く、直情型。
 体も大きく、戦闘力が高い。

 サロットは、人当たりが良く、淡々とし、知的な雰囲気を漂わせている。
 栄養状態が悪かったのか、体が小さく、戦闘力はほとんどない。

 ヴィスは、サロットが気に入らなかった。
 いや、気に入らないというよりも、不気味だった。

 労働問題研究会などという、変な集まりを主催し、参加者を洗脳しているように見えたからだ。

(どうせ、ロクでもないことを考えてやがるのさ……)

 そんなヴィスの気持ちに、サロットは気が付かないのか、それとも気が付いた上ヴィスの気持ちを無視しているのか。

 サロットは、淡々と告げた。

「明日から王都やあちこちの町を回る。護衛として同行して欲しい。良いかな?」

「良いかって、言われてもな……。俺は、ここが職場だぜ。勝手に離れる訳にはいかないだろう?」

「大丈夫だよ。鉱山所長には、許可を出してもらった」

 そう言うとサロットは、鉱山所長直筆の許可証を取り出した。
 ヴィスは、首をひねる。

「なんで……許可が?」

「鉱山所長も労働問題研究会のメンバーなのさ。この国の行く末を真剣に考える同志の一人だ」

(また、同志かよ……)

 ヴィスは、この『同志』という呼び方が、どうにもなじめなかった。
 この異世界にない概念、呼び方なので、何やら胡散臭く感じていたのだ。

 だが、どうやら、サロットはある程度の権力を手に入れている。
 それなら、しばらくはサロットと行動をともしていれば、食いっぱぐれることはない。
 ひょっとしたら、良い目が見られるかもしれない。

 ヴィスはそんな風に考えて、同行を了承した。

「ああ。いいぜ。バッチリ守ってやるよ」
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