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第九章 グンマー連合王国

第196話 脳内ピンク色の兄上――新年を言祝ぐ宴

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 ――謁見の間。

 謁見の間の扉が開くと、沢山の貴族がこちらを見ていた。
 父上を先頭に、俺とアルドギスル兄上が少し下がって左右を固め、正面の玉座のある壇へ向かって進む。

 俺たちが一歩進むごとに、貴族たちが道を空ける。
 波紋が伝わるように、人混みが割れた。

 隣を歩くアルドギスル兄上をチラリとみると、のほほんとして緊張感は微塵も無い。
 それどころか、小声で話しかけてきた。

「アンジェロ。結局、練習をできなかったね」

「ええ、アルドギスル兄上。ぶっつけ本番です。お互いフォローしあうようにしましょう」

「そうだね! そうしよう!」

 これから父上の退位が行われる。
 そして、俺とアルドギスル兄上の戴冠が行われるのだ。

 だが、俺もアルドギスル兄上も忙しく、じいやヒューガルデン伯爵ら家臣も忙しい。
 王都へ移動してリハーサルを行う時間は、まったく取れなかった。

(普通、戴冠式とか重要イベントは、念入りに準備して行うモノじゃないのかなあ……)

 などと思うが、国として政務を滞らせるわけにも行かない。
 特に旧メロビクス王大国エリアは、戦争で勝って得た新領土だ。
 うかうかしていたら反乱の可能性もある。

 権力の空白を、時勢は待ってくれないのだ。

 俺がこんなコントをやるような――ベンジャミン伊東と言われそうな恰好であっても、時勢は待ってくれないのだ!

 謁見の間の一番奥、壇の上にある玉座に父上が座った。
 俺とアルドギスル兄上は、まだ戴冠前の王子なので、段の下に控える。

 謁見の間には、貴族家当主はもちろんだが、夫人や子弟を伴って出席している貴族も多い。
 老若男女沢山の貴族が詰めかけている。

 俺の立つ左側には、シメイ伯爵たちアンジェロ派の貴族が多い。
 ルーナ先生、黒丸師匠、ホレックのおっちゃん、白狼族のサラたち獣人三族もいる。

 サラがVサインをしてみせた。
 俺は少し笑みを返した。

 母上はサラとすっかり仲良くなっており、サラの隣で穏やかな笑顔を見せていた。

 右側には、アルドギスル兄上派閥の貴族たちがグループをつくる。
 そして、会場の後ろの方にメロビクス人貴族のギュイーズ侯爵、フォーワ辺境伯、ブリーフィー伯爵、マカロン男爵らがいる。

 アリーさんは、ギュイーズ侯爵の側にいる。
 今日、俺との婚約発表を行われるので、清楚なドレス姿で、すっかり綺麗なお姉さんだ。

(俺の婚約発表は、三人同時だよな……)

 そう考えると、居心地の悪さを感じる。
 異世界の王族に転生したけれど、小市民的な感覚はいまだに抜けない。

 美人三人と同時に婚約とか許されるのかね?

『リア充死ね!』

 とか、罵倒されそう。

 会場には、外国の大使や有力な大店商人も招待されている。
 今年は、参加希望者が殺到したそうだ。
 昨年よりも人数が多い。

 これだけ沢山の人々から視線を浴びると、さすがに緊張をしてしまう。

(さっさと初めて、さっさと終わってくれ!)

 などと考えていたら、侍従長が進み出た。

「それでは、これより新年を言祝ぐ宴を開催いたします!」

 会場から盛大な拍手が湧き上がる。
 会場の雰囲気が明るいのは、戦争に勝った後だからだろう。
 参加者の表情も明るい。

 地域大国であるメロビクス王大国からケンカを吹っかけられ、戦った後も和平も結べず、再度戦争になったのだ。
 国境近くに領地を持つ貴族たちは、生きた心地がしない一年だっただろう。

 最初にヒューガルデン伯爵が進み出て、国王退位を告げた。

「国王レッドボット三世陛下は、ご体調不良により、本日退位されます」

 ヒューガルデン伯爵が、父上の退位を告げると、会場から驚きの声が上がった。

「えっ!?」
「そんな、急に!?」
「陛下は、いかがされた!?」

 だが、驚いているのは、派閥に属していない貴族や派閥でも末端の貴族だ。
 フリージア王国貴族の半分は、既に知っているので動揺していない。

 俺もアルドギスル兄上も、自派閥の主立った貴族たちには、直接会って事前に根回しを済ませてある。

 そして、俺やアルドギスル兄上が話したことは、派閥の主立った貴族から他の貴族へと伝わっていく。

 だが、電話もネットもないこの異世界だ。
 全ての貴族に話が伝わるわけじゃない。
 いわゆる田舎男爵や泡沫騎士爵には、話が伝わっていないのだろう。
 スマンな。

 続いて、今後の統治体制について、じいが説明を行った。

 占領地域も含めて、四つの王国に再編成し、一つの連合王国とする。
 俺とアルドギスル兄上が国王となり、メロビクス貴族のギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯が代官として現地で政務を執り行う。

 会場後ろのギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯に視線が集中する。
 無理もない。
 二人は国王の代官、担当する地域の中では、王に次ぐ大きな権力を持つのだ。
 特に商人たちの目の色が変わっている。

 もちろん、ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯には、事前に話をして同意を得ているので、二人が動じることはない。
 堂々と会場の視線を受け止めている。

 さすが大物貴族だ。
 頼りにしているぞ。

 アルドギスル兄上が、小声で話しかけてきた。
 今度は真顔だ。

「アンジェロ。外国大使たちを見てご覧よ」

 アルドギスル兄上に言われ、外国大使たちに視線を移す。
 なるほど……アルドギスル兄上が真顔になるのもうなずける。

 大使たちは、いかにも計算高そうな人たちばかりだ。
 笑顔の下で何を考えているのやら。

 メロビクス王大国よりも大きな地域大国の出現に警戒をし、和を結ぶか、敵対するか、したたかに計算しているのだろう。

「色々考えているのでしょうね。油断できません」

「そうだね……。きっと『我が国の姫を、アンジェロ陛下の妃に!』とか言ってくるよ。アンジェロは、ハーレムをどれくらいの規模にするの?」

「そっちの話ですか……」

 なんだよ!
 アルドギスル兄上が真顔だから、てっきり外交の話かと思った!
 そしたら、ハーレム話か!

「僕の所は、何人くらいにしようかな……」

「アルドギスル兄上……。そんな真顔でする話ではありませんよ」

「いや、だってさ、こういう場でしょ? 真顔を崩したらダメでしょ?」

 と言いつつ、アルドギスル兄上は右手をアゴにあてた。

 これ、他の人が見たら、国の将来を真剣に考える真面目な王子に見えるだろうな。
 本当は、脳内ピンク色なのに!

「俺は婚約者が、もう、三人おりますので……。そっちの方は、アルドギスル兄上にお任せしますよ」

「よりどりみどりだね!」

 アルドギスル兄上は、顔色一つ変えずに喜んでみせた。

 少し離れた場所に立つヒューガルデン伯爵が、ニッコリ笑顔でアルドギスル兄上をにらんでいたのは黙っておこう。
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