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第八章 メロビクス戦争2

第172話 終わりの始まり

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「アンジェロ!」

「アルドギスル兄上!」

 アンジェロ軍、アルドギスル軍、両軍が見守る中、俺とアルドギスル兄上は、ガッチリと握手を交す。

「んもー! 作戦があったなら言ってよ!」

「すいません。ヒューガルデン伯爵と打ち合わせてはあったのですよ。スパイがいたので、作戦行動は極秘にしていました」

 そう、俺の派閥アンジェロ派とアルドギスル兄上派閥は、開戦前の会議で対立しているように見せた。
 だから、ここは、ガッチリ握手をして、仲が良いですアピールをしないとね。

「とにかくさあ~。大変だったよ~。防壁で国境を守る、つまり籠城戦じゃない? みんなストレスためちゃってさあ~」

「それは、大変でしたね!」

 俺は兄上の苦労話に相づちを打つ。

 アルドギスル兄上は、守勢に強い。
 今回も自軍をよくまとめて、国境を支え続けてくれた。
 そのおかげで、アンジェロ軍が自由に行動できたのだ。

 少し持ち上げてご機嫌を取っておこう。

「アルドギスル兄上は、守備が上手いですよね。守りの名将、王国の盾とでも言いましょうか、とにかくお見事でした!」

「えっ!? そ、そっかな~。いや~、そう言ってもらえると嬉しいなあ~」

 アルドギスル兄上は、ニッコニコのご機嫌だ。

「それで……アルドギスル兄上、気になる情報がありますので、すぐに会議を……」

「気になる情報? そりゃ大変だ! すぐにやろう!」

 伝令が四方へ飛び、すぐに重要人物が集まる。
 兵士たちが戦場の片付けをやっているから、立ったまま会議だ。

 俺、アルドギスル兄上、じい、ヒューガルデン伯爵、それぞれの派閥から領地貴族の代表者を二名ずつ。

 ルーナ先生は、エルフの代表として参加。
 黒丸師匠も冒険者ギルド代表として参加だ。

 ……えっと、敵将は?
 イセサッキに飲み込まれたままかな?

 まあ、いいや……。

 即席会議が始まる。

 俺が問題視しているのは、エーベルバッハ男爵からの報告だ。
 宰相ミトラルは死んだが、死ぬ間際、我が国への復讐戦を口にしていた。

 これでは、和平を結ぶのは難しいのではないか?

 俺は、戦後に不安を感じているのだ。

 エーベルバッハ男爵の報告を会議の出席メンバーに告げると、みんなうんざりした顔をする。

 まず、領地貴族が発言した。

「メロビクスは、まだ、やる気か……」

「じゃあ、ここで我らが勝っても、また戦になるのか?」

「終わりがないではないか……」

「うーん、領地が気になるな……」

 領地貴族はさっさと褒美をもらって、キリの良い所で領地に戻りたいのだ。
 和平が結べず、臨戦態勢がずっと続くのは、彼らとしては好ましくない。

 俺やアルドギスル兄上や王宮側も困る。
 国境や占領地域に、いつまでも大量の兵力を張り付かせておくわけにもいかない。

「宰相ミトラルの考えは、一般的なメロビクス貴族の考えなのだろうか?」

 俺の疑問にじいが答える。

「メロビクス王宮の貴族は気位が高いですので、宰相ミトラルと同じ考えの者は多いでしょう……。領主貴族になると、また別かと」

「そうか……。すると少なくともメロビクス王大国の中央は、また戦を仕掛けてくる可能性が濃厚か……」

「そうですじゃ」

 みんなが渋い表情をする中、アルドギスル兄上の懐刀であるヒューガルデン伯爵が、ニッコリ笑顔で、底冷えする声を出した。

「滅ぼすしかないでしょう」

 領主貴族の一人が、ヒューガルデン伯爵に発言の真意を尋ねた。

「滅ぼす……? それは、何を?」

「メロビクス王大国を!」

 ブルリと体が震えたのは、晩秋の寒さだけではない。


『メロビクス王大国を滅ぼす』


 俺、じい、ヒューガルデン伯爵とで、戦前に話し合っていたシナリオの一つだ。

 しかし、地域大国であるメロビクス王大国を滅ぼすと、戦後の統治・政治体制が難しい。
 地域が不安定化する恐れもあり、どうなるか読めない。

 最悪小国が乱立して、古代中国の春秋戦国時代のようになってしまうかもしれない。
 そうなれば、商人たちは隊商を動かしづらくなり、経済へのダメージが計り知れない。

 つまり、戦後の政治処理が難しいのだ。

 だが、このまま、防衛戦を行って押し返しては、またメロビクス王大国が攻めてくるのを繰り返してはたまらない。

 そこで、最悪のケースであるが……。
 メロビクス王大国を、滅ぼしてしまうのだ。

「エルフは、支持する」

 ルーナ先生が、賛成に回った。
 ジト目の奥に怒りの炎が見える。

「メロビクス王大国は、エルフを奴隷にした。そんな連中をのさばらせておくわけにはいかない。滅してしまおう」

「わかりました。他にご意見は?」

 黒丸師匠が挙手した。

「それがしは、賛成である。冒険者ギルド代表としては、中立である。だが、商業都市ザムザの商人連中は、しょっちゅう戦争が起きて困っているのである。物流が滞るのであるよ」

「商人は敵に回したくないですね……」

「商人の事を考えると、こう度々事を起こすメロビクス王大国には、ご退場いただきたいのである」

「なるほど」

 二人が賛成意見を述べてくれた事で、会議全体の意見は賛成に流れた。

「ううむ……このまま何度も戦うくらいなら……」

「そうだな。一度に終わらせてしまった方が楽だな」

「幸い、今は農閑期だ。短期でケリがつくなら、私も賛成だな」

 領主貴族たちも『短期間なら』と条件付きだが賛成だ。
 だが、アルドギスル兄上は、意外に慎重だ。

「そうかな……。大丈夫かな……。アンジェロ。父上……、国王陛下のお考えは?」

「俺たちに任せるそうです」

 父上には王都にお帰り頂いたが、心労がたたって寝込んでしまった。

『委細は任せる』

 と、白紙委任されている。

「ん……。なら、反対しない。アンジェロたちがメロビクス王大国の王都を攻めて、俺たちはこのままニアランド王国を押し込もう」

 アルドギスル兄上も折れてくれた。

 ヨシッ!
 じゃあ、メロビクス王大国まで、ひとっ走り行ってきますか!

「わかりました。それでは、兄上! ご武運を!」

「ああ、アンジェロもね! ご武運を!」
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