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第八章 メロビクス戦争2
第167話 食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?
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フリージア王国王都東側にある魔の森。
抜け荷に使う間道が、魔の森の中にあった。
その間道を兵士五人が、必死で走っている。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ」
「も……もうダメだ! 走れねえよ!」
「バ……バカヤロウ……。後ろから……アレが来るぞ……」
「グ……グンマーか!」
アレとは、ルーナたちが乗るグンマークロコダイル――マエバシ、タカサキ、イセサッキの事である。
彼らメロビクス王大国軍の兵士は、アレに散々追い回されていた。
疲れた上に、腹ぺこだ。
兵士たちの体力は、限界に近くなっていた。
一人の兵士が立ち止まり、鼻をひくつかせる。
「オイ! ちょっと待て! 良い匂いがしないか?」
「えっ? 匂い? あ……! するな!」
「これ……食い物の匂いだよな?」
「ああ! スープや肉の焼ける匂いだ!」
匂いは間道の出口の方から漂ってくる。
兵士たちは、夢遊病者のようにフラフラと匂いがする方へ歩みを進めた。
やがて開けた場所、平原に出た。
兵士たちの一団は、魔の森を抜けたのだ。
そこでは、シメイ伯爵領のおばちゃんたちが、大きな鍋でグツグツとスープを煮込んでいた。
美味しそうな匂いが辺りに立ちこめている。
「ゴクリ……」
兵士たちは、スープの美味しさを想像しツバを飲み込んだ。
スープの隣には、カゴに山盛りのパン、皿に山と盛られた焼き肉もあった。
しかし――。
「オイ! あの旗は、フリージア王国の旗じゃないか!?」
料理の奥には、沢山の天幕が張られ、フリージア王国の旗が夜風になびいていた。
フリージア王国兵士の姿も見える。
兵士たちは、思った。
(まずい……敵だ!)
魔の森を抜け、母国に戻ったと思ったら、敵軍が待ち構えていたのだ。
しかし、体力は限界で、腹も減っている。
魔の森を引き返すことも出来ないし、敵軍と戦うにも腹に力が入らない。
それに……先ほどから、鼻をくすぐる美味しそうな匂い……。
理性は『逃げろ!』と言っているが、食欲が『食べたい!』と言っている。
兵士たちは、退くもならず、進むもならずで、ただただ料理を見つめていた。
兵士たちが目を見開き、料理を凝視していると、お玉を持ったおばちゃんが近づいてきた。
シメイ伯爵領訛りで話しかける。
「あんたたちは、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
「は……?」
「え……?」
「食事をするか……?」
「食事になるか……?」
「何を言っているのだ……?」
兵士たちは、おばちゃんの言うことが理解できなかった。
しばらくして、兵士の一人が、恐ろしいことを口にした。
「待て! あんたら……、まさか、俺たちを食うのか!?」
恐怖に顔を引きつらせる兵士たち。
お玉を持ったおばちゃんは、大声で笑った。
「あははははは! ちょっとー。変な冗談は止めておくれよ! 人を食べるわけがないさ!」
「なんだ……違うのか……」
ホッとする兵士たち。
しかし、おばちゃんは、また、同じ言葉を繰り返す。
「それで、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
「「「「「……」」」」」
「まあ、いいさ。どちらか決めたら言っとくれ」
「「「「「……」」」」」
困惑する兵士たち。
「オイ……どう言うことだ?」
「知るかよ!」
「どうするよ?」
ひそひそ声で相談するが、結論は出ない。
ふと目を横に向けると、鍋から少し離れた所では、たき火がたかれ、たき火の周りで子供たちが何か作業をしていた。
兵士の一人が子供に声をかける。
「なあ、坊やたち。何をやっているんだい?」
兵士は、子供の手元を見てギョッとした。
子供たちは、ホーンラビットを解体していたのだ。
シメイ伯爵領の子供らにとっては、日常のお手伝いの一つだが、この兵士はメロビクスの王都育ちだった。
魔物の解体どころか、家畜の解体も見たことがない。
子供たちはナイフを使い、手際良くホーンラビットの毛皮を剥ぎ、角を外し、食べられる肉と食べられない内臓や骨とを分けていた。
「おじちゃんたちは、ごはんを食べるの? ごはんになって、食べられちゃうの?」
「「「「「……」」」」」
また、これである。
兵士たちは、質問の意味がわからなかった。
何と答えた物か、返答に窮した。
しかし、何となく『よく考えて答えなければならない』気がしていた。
子供たちは、作業を続ける。
きれいに分けられた肉は、料理をするおばちゃんたちに渡され、スープの具材や焼き肉になっていた。
「魔物の肉か……」
兵士は料理に一瞬躊躇したが、ホーンラビットは大きなウサギ型の魔物だ。
ウサギ肉と思えば、問題なく食べられる気がした。
それに、ひどい空腹で、クタクタに疲れていた。
「おじちゃんたちは、ごはんを食べるの? ごはんになって、食べられちゃうの?」
「えーと……」
再び子供に問いかけられる兵士。
兵士は、腹ぺこで頭が回らず答えられない。
すると、体格の良い男が現れ、木桶を抱えた。
木桶には、食べられない内臓や骨が放り込まれている。
(あれは……? 食べられないよな? あの男は、あんな物をどうするのだ?)
兵士は、木桶を抱えた男を目で追った。
すると男は、大きな木の下に木桶を運んだ。
そこには、気の荒そうな馬型の魔物や、凶暴そうな犬型の魔物が、沢山鎖につながれていた。
シメイ伯爵領は、魔の森に囲まれ、魔物が多い。
その為、魔物をテイム出来る才を持つ者を輩出する土地柄だ。
木につながれた馬形の魔物は馬車を牽き、犬型の魔物は夜の見張りをする番犬として、役に立っていた。
「さあ、メシだぞ! 食べり! 食べりーよ!」
男が木桶をひっくり返すと、内臓や骨が散らばった。
内臓や骨に飛びつく馬型の魔物と犬型の魔物たち。
硬い骨でもお構いなしに、バリバリと音を立ててかみ砕く。
その光景を見て、兵士たちの顔から血の気が引いた。
子供たちが、兵士たちに言葉をかける。
「悪いことをすると、魔物のごはんになっちゃうんだよ!」
「そうだよ! 魔物に食べられちゃうよ!」
兵士たちは、悟った。
『食事をするか? 食事になるか?』
つまり、降伏しないと魔物のエサにされてしまうのだろう。
馬型の魔物と犬型の魔物が、かぶりつく内臓や骨が自分たちの未来の姿だと考えると怖気がわいた。
それに、あの――。
「グンマー……」
一人の兵士が、ボソリとつぶやく。
他の兵士は、森の中で追い回されたワニ型の魔物グンマークロコダイルの事だと、すぐにわかった。
「あれか!」
「グンマー……あれか……」
「グンマーは、やばかった!」
「オイオイ! グンマーのエサはゴメンだぜ!」
兵士たちが顔を引きつらせると、お玉を持ったおばちゃんが再びやって来た。
「それで、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
兵士たちは、顔を見合わせうなずいた。
答えは、決まっている。
「「「「「降伏します! ご飯を食べさせてください!」」」」」
お玉をもったおばちゃんは、ニンマリ笑った。
「そうかーい! じゃあ、そこの天幕で手続きをしたら、ご飯を食べり! 食べりーよ!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
メロビクス王大国軍の兵士たちは、大人しくおばちゃんの言うことに従った。
こうして、王都を脱出したメロビクス王大国軍のほとんどの兵士が、シメイ伯爵軍――通称南部騎士団に降伏した。
彼らは武装解除されると、食事が与えられ、自宅へ帰ることが許されたのであった。
だが、彼らと違う行動を選択する者もいたのだ。
魔の森の中では、いまだにメロビクス王大国軍がもがいていた。
抜け荷に使う間道が、魔の森の中にあった。
その間道を兵士五人が、必死で走っている。
「はあ……はあ……はあ……はあ……」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ぜえ」
「も……もうダメだ! 走れねえよ!」
「バ……バカヤロウ……。後ろから……アレが来るぞ……」
「グ……グンマーか!」
アレとは、ルーナたちが乗るグンマークロコダイル――マエバシ、タカサキ、イセサッキの事である。
彼らメロビクス王大国軍の兵士は、アレに散々追い回されていた。
疲れた上に、腹ぺこだ。
兵士たちの体力は、限界に近くなっていた。
一人の兵士が立ち止まり、鼻をひくつかせる。
「オイ! ちょっと待て! 良い匂いがしないか?」
「えっ? 匂い? あ……! するな!」
「これ……食い物の匂いだよな?」
「ああ! スープや肉の焼ける匂いだ!」
匂いは間道の出口の方から漂ってくる。
兵士たちは、夢遊病者のようにフラフラと匂いがする方へ歩みを進めた。
やがて開けた場所、平原に出た。
兵士たちの一団は、魔の森を抜けたのだ。
そこでは、シメイ伯爵領のおばちゃんたちが、大きな鍋でグツグツとスープを煮込んでいた。
美味しそうな匂いが辺りに立ちこめている。
「ゴクリ……」
兵士たちは、スープの美味しさを想像しツバを飲み込んだ。
スープの隣には、カゴに山盛りのパン、皿に山と盛られた焼き肉もあった。
しかし――。
「オイ! あの旗は、フリージア王国の旗じゃないか!?」
料理の奥には、沢山の天幕が張られ、フリージア王国の旗が夜風になびいていた。
フリージア王国兵士の姿も見える。
兵士たちは、思った。
(まずい……敵だ!)
魔の森を抜け、母国に戻ったと思ったら、敵軍が待ち構えていたのだ。
しかし、体力は限界で、腹も減っている。
魔の森を引き返すことも出来ないし、敵軍と戦うにも腹に力が入らない。
それに……先ほどから、鼻をくすぐる美味しそうな匂い……。
理性は『逃げろ!』と言っているが、食欲が『食べたい!』と言っている。
兵士たちは、退くもならず、進むもならずで、ただただ料理を見つめていた。
兵士たちが目を見開き、料理を凝視していると、お玉を持ったおばちゃんが近づいてきた。
シメイ伯爵領訛りで話しかける。
「あんたたちは、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
「は……?」
「え……?」
「食事をするか……?」
「食事になるか……?」
「何を言っているのだ……?」
兵士たちは、おばちゃんの言うことが理解できなかった。
しばらくして、兵士の一人が、恐ろしいことを口にした。
「待て! あんたら……、まさか、俺たちを食うのか!?」
恐怖に顔を引きつらせる兵士たち。
お玉を持ったおばちゃんは、大声で笑った。
「あははははは! ちょっとー。変な冗談は止めておくれよ! 人を食べるわけがないさ!」
「なんだ……違うのか……」
ホッとする兵士たち。
しかし、おばちゃんは、また、同じ言葉を繰り返す。
「それで、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
「「「「「……」」」」」
「まあ、いいさ。どちらか決めたら言っとくれ」
「「「「「……」」」」」
困惑する兵士たち。
「オイ……どう言うことだ?」
「知るかよ!」
「どうするよ?」
ひそひそ声で相談するが、結論は出ない。
ふと目を横に向けると、鍋から少し離れた所では、たき火がたかれ、たき火の周りで子供たちが何か作業をしていた。
兵士の一人が子供に声をかける。
「なあ、坊やたち。何をやっているんだい?」
兵士は、子供の手元を見てギョッとした。
子供たちは、ホーンラビットを解体していたのだ。
シメイ伯爵領の子供らにとっては、日常のお手伝いの一つだが、この兵士はメロビクスの王都育ちだった。
魔物の解体どころか、家畜の解体も見たことがない。
子供たちはナイフを使い、手際良くホーンラビットの毛皮を剥ぎ、角を外し、食べられる肉と食べられない内臓や骨とを分けていた。
「おじちゃんたちは、ごはんを食べるの? ごはんになって、食べられちゃうの?」
「「「「「……」」」」」
また、これである。
兵士たちは、質問の意味がわからなかった。
何と答えた物か、返答に窮した。
しかし、何となく『よく考えて答えなければならない』気がしていた。
子供たちは、作業を続ける。
きれいに分けられた肉は、料理をするおばちゃんたちに渡され、スープの具材や焼き肉になっていた。
「魔物の肉か……」
兵士は料理に一瞬躊躇したが、ホーンラビットは大きなウサギ型の魔物だ。
ウサギ肉と思えば、問題なく食べられる気がした。
それに、ひどい空腹で、クタクタに疲れていた。
「おじちゃんたちは、ごはんを食べるの? ごはんになって、食べられちゃうの?」
「えーと……」
再び子供に問いかけられる兵士。
兵士は、腹ぺこで頭が回らず答えられない。
すると、体格の良い男が現れ、木桶を抱えた。
木桶には、食べられない内臓や骨が放り込まれている。
(あれは……? 食べられないよな? あの男は、あんな物をどうするのだ?)
兵士は、木桶を抱えた男を目で追った。
すると男は、大きな木の下に木桶を運んだ。
そこには、気の荒そうな馬型の魔物や、凶暴そうな犬型の魔物が、沢山鎖につながれていた。
シメイ伯爵領は、魔の森に囲まれ、魔物が多い。
その為、魔物をテイム出来る才を持つ者を輩出する土地柄だ。
木につながれた馬形の魔物は馬車を牽き、犬型の魔物は夜の見張りをする番犬として、役に立っていた。
「さあ、メシだぞ! 食べり! 食べりーよ!」
男が木桶をひっくり返すと、内臓や骨が散らばった。
内臓や骨に飛びつく馬型の魔物と犬型の魔物たち。
硬い骨でもお構いなしに、バリバリと音を立ててかみ砕く。
その光景を見て、兵士たちの顔から血の気が引いた。
子供たちが、兵士たちに言葉をかける。
「悪いことをすると、魔物のごはんになっちゃうんだよ!」
「そうだよ! 魔物に食べられちゃうよ!」
兵士たちは、悟った。
『食事をするか? 食事になるか?』
つまり、降伏しないと魔物のエサにされてしまうのだろう。
馬型の魔物と犬型の魔物が、かぶりつく内臓や骨が自分たちの未来の姿だと考えると怖気がわいた。
それに、あの――。
「グンマー……」
一人の兵士が、ボソリとつぶやく。
他の兵士は、森の中で追い回されたワニ型の魔物グンマークロコダイルの事だと、すぐにわかった。
「あれか!」
「グンマー……あれか……」
「グンマーは、やばかった!」
「オイオイ! グンマーのエサはゴメンだぜ!」
兵士たちが顔を引きつらせると、お玉を持ったおばちゃんが再びやって来た。
「それで、食事をするんかーい? それとも、食事になるんかーい?」
兵士たちは、顔を見合わせうなずいた。
答えは、決まっている。
「「「「「降伏します! ご飯を食べさせてください!」」」」」
お玉をもったおばちゃんは、ニンマリ笑った。
「そうかーい! じゃあ、そこの天幕で手続きをしたら、ご飯を食べり! 食べりーよ!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
メロビクス王大国軍の兵士たちは、大人しくおばちゃんの言うことに従った。
こうして、王都を脱出したメロビクス王大国軍のほとんどの兵士が、シメイ伯爵軍――通称南部騎士団に降伏した。
彼らは武装解除されると、食事が与えられ、自宅へ帰ることが許されたのであった。
だが、彼らと違う行動を選択する者もいたのだ。
魔の森の中では、いまだにメロビクス王大国軍がもがいていた。
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◇
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生暖かい目で見て下されば幸いです。
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