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第八章 メロビクス戦争2
第163話 敵に嫌がらせをすると、メシが旨い!
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『君たちは、完全に包囲されている! 両手を上げて出てきなさーい!』
グースの後部座席に乗ったルーナ・ブラケットが、メロビクス王大国軍に投降を呼びかけていた。
空の上から風魔法を使って声を拡散しているのだ。
その声は、ノリノリである。
『君たちのご両親は泣いているぞ! フレッド! おーい! おいおいおい!』
嘘泣きである。
ルーナにフレッドなどという子供はいない。
異世界飛行機グースは、フリージア王国王宮の上を優雅に旋回しながら、アナウンス作戦を継続する。
『繰り返す! 君たちは、完全に包囲されている! 両手を上げて出てきなさーい!』
操縦席のリス族のパイロットは思う。
(両手を上げて出て行くにも、出て行く所がないだろう……)
ごもっともである。
フリージア王国軍は、アンジェロの土魔法で王宮全体を囲う石壁を生成したのだ。
その高さは二百メートルに達し、人族だろうが、獣人だろうが、脱出は不可能なのだ。
つまりメロビクス王大国軍は、巨大な石壁の中に閉じ込められてしまった。
にもかかわらす、ルーナは繰り返しアナウンスを行う。
『両手を上げて出てきなさーい!』
もう、これは心理戦というよりも、限りなく嫌がらせに近い。
ルーナの投降の呼びかけを聞きながら、遅めの朝食をとる黒丸は言う。
「メシが旨いのである!」
一方、投降を呼びかけられた雪隠詰めのメロビクス王大国軍は、全軍で歯ぎしりをしていた。
今にも歯ぐきから血が出そうである。
「おのれー!」
「クソ! 昨日は、負けて逃げたくせに!」
「アイツを撃ち落とせ!」
何人かが矢や魔法を打ち出すが、二百メートルを超える高さを飛ぶグースにはかすりもしない。
ウキウキボイスの嫌がらせアナウンスは続く。
『両手を上げて出てきなさーい!』
「黙れ! 黙れ!」
メロビクス王大国軍を率いる宰相ミトラルは、ブチ切れていた。
彼は朝からついていなかった。
宰相ミトラルが、目を覚ますと辺りは暗かった。
兵士に何事かと尋ねると、『敵が朝一番で、壁を作った』と報告をする。
部屋の外に出ると、占領した王宮をぐるりと囲む巨大な石壁が出来ていた。
宰相ミトラルは、めまいがした。
次に、兵士が、『捕虜がいない。地下牢の様子がおかしい!』と報告をして来た。
「おかしいでは、わからぬではないか! どのようにおかしいのだ!」
「それが……その……おかしいのであります!」
兵士の言うことは、ハッキリしない。
仕方がないので、宰相ミトラル自ら地下牢に降りてみた。
するとそこには――。
「一体何事だ!?」
全裸で縄に縛られ、局部を見せつけ合う、涙目のおっさん兵士たちがいた。
宰相ミトラルは、激しいめまいに襲われた。
「宰相閣下……。これは……敵の欺瞞工作でしょうか?」
一緒についてきた副官が、頬を引きつらせながら、生真面目に意見具申を行う。
「欺瞞工作……。一体何を欺瞞するというのか!」
「ハッ! 失礼いたしました!」
「早く、助けてやれ!」
「ハッ? わ、私が……で、ありますか?」
副官は心底動揺した。
自分がこの縛られた、怪しい雰囲気のおっさんたちを助けなければならないのか……と。
「貴官でも、誰でも良い! 縄をほどいてやれ!」
周りにいる護衛の兵士立ちが、嫌そうにノロノロと動き出す。
一人の兵士が、床から一枚の紙を拾って宰相ミトラルに差し出した。
「こんな物が落ちていました」
「何だ、これは? 請求書……?」
-------------------------
■■■請求書■■■
メロビクス王大国 御中
内容:フリージア王国王宮宿泊費
請求額:倉庫の食料全部
フリージア王国
第三王子 アンジェロ・フリージアより
-------------------------
宰相ミトラルは眉根を寄せ、手元の請求書を凝視する。
ご丁寧に赤い蝋で印章まで押してあった。
隣に立つ副官が請求書をのぞき込み、生真面目にコメントした。
「宿泊費の請求書とは、敵も律儀ですな」
「これは……どんな意味があるのだ……?」
敵に宿泊費の請求書など寄越しても、支払われるはずがない。
それをわざわざ残していったのだ。
(やつら一体何を考えておるのだ……)
宰相ミトラルは、アンジェロたちの狙いを考えた。
だが、考えても思いつかない。
それは、そうだ。
彼らは、悪ノリしているだけなのだ。
隣に立つ副官が、一カ所おかしな文言があることに気が付いた。
「閣下! 請求額が、倉庫の食料全部となっておりますが……まさか!」
「……! 倉庫だ! 食料はどうなっておるか! 急げ!」
宰相ミトラル一行は、食料を保管してある倉庫へ走り出した。
倉庫の前には、貴族が連れて来たコックや料理番の兵士たちが呆然としていた。
宰相ミトラルは、一喝する。
「どうしたのだ! 報告せよ!」
だが、コックや料理番の兵士たちは、気味悪そうな表情をして視線をそらしてしまう。
「ええい! 私が確認する! どかんか!」
宰相ミトラルは、倉庫の中に足を踏み入れた。
そこに食料はなく、またも全裸にされ怪しげな格好に緊縛された中年兵士の姿があった。
そして、もう一人マール子爵の姿があった。
宰相ミトラルは、マール子爵に駆け寄る。
「貴殿は……。マール子爵か?」
「グンマー!」
「一体何があったのだ?」
「グンマー!」
「グンマーとは何だ!? 貴殿は何を見たのだ!?」
「グンマー!」
マール子爵の目には、星が浮かんでいた。
マール子爵の魂が、銀河の遙か彼方に旅立ってしまったことは、誰の目にも明らかだった。
「クッ……一体何が……」
宰相ミトラルは、激しいめまいと頭痛に襲われた。
そして、隣に立つ副官は、顎に手をあて生真面目に考えていた。
「閣下! グンマーとは何でしょう? 敵の作戦名でしょうか?」
「わからん……」
「秘密兵器という可能性も……」
「私に聞くな!」
いらだつ宰相ミトラルに兵士が一枚の紙を渡した。
「宰相閣下! この紙が床に落ちていました!」
「ご苦労……」
もう、見たくない……。
宰相ミトラルは思った。
だが、立場上見ないわけにもいかず、宰相ミトラルは手元の紙をイヤイヤ眺めた。
-------------------------
■■■領収書■■■
メロビクス王大国 御中
領収額:倉庫の食料全部
但し フリージア王国王宮宿泊費として
フリージア王国
第三王子 アンジェロ・フリージア
ご利用ありがとうございました。
-------------------------
生真面目な副官が、生真面目にコメントした。
「経費で落ちますかね……?」
「知らん! そんな事より、重要なのは……。我々は、食料を失ったということだ……」
「ハッ……! そうでした……。不味いですね! すぐに商人を呼び寄せ、食料の購入を――」
「壁で囲まれているのに、どうやって商人を呼ぶのか!」
宰相ミトラルの叫びで、側にいる士官や兵士たちは、自分たちが最悪の状況にある事を理解した。
倉庫に食料はない。
石壁に囲まれているので、商人から食料の買い取りは不可能。
本国からの補給も不可能。
つまり兵士たち手持ちの食料しかないのだ。
宰相ミトラル一行が絶望感に包まれる中、一人の兵士が叫んだ。
「おい! 食料と書いてあるぞ!」
「「「「なに!?」」」」
絶望の中に一筋の希望の光。
食料は、まだ残っていたのだ!
宰相ミトラルたちは、倉庫の奥へ駆けだした。
するとそこには、一匹の大きなトカゲのような魔物がいた。
グンマークロコダイルである。
グンマークロコダイルの背中には、『食用可』と書かれた紙が貼り付けてあった。
生真面目な副官が、ため息交じりにコメントする。
「食べられるのでしょうか?」
「「「「「「……」」」」」」
その問いには、誰も答えなかった。
メロビクス王大国は、酪農が盛んで、魔物が少ない土地柄だ。
従って、メロビクス人は、魔物を食さない。
シメイ伯爵領では、グンマークロコダイルを食べるが、ごく一般的なフリージア人は食べない。
食べないのである。
宰相ミトラルは、宿泊している部屋に戻り一人になると天を仰いだ。
「どうしろと! どうしろというのだ!」
宰相ミトラルの嘆き声に、ルーナ・ブラケットの楽しそうな声が重なる。
『両手を上げて出てきなさーい!』
グースの後部座席に乗ったルーナ・ブラケットが、メロビクス王大国軍に投降を呼びかけていた。
空の上から風魔法を使って声を拡散しているのだ。
その声は、ノリノリである。
『君たちのご両親は泣いているぞ! フレッド! おーい! おいおいおい!』
嘘泣きである。
ルーナにフレッドなどという子供はいない。
異世界飛行機グースは、フリージア王国王宮の上を優雅に旋回しながら、アナウンス作戦を継続する。
『繰り返す! 君たちは、完全に包囲されている! 両手を上げて出てきなさーい!』
操縦席のリス族のパイロットは思う。
(両手を上げて出て行くにも、出て行く所がないだろう……)
ごもっともである。
フリージア王国軍は、アンジェロの土魔法で王宮全体を囲う石壁を生成したのだ。
その高さは二百メートルに達し、人族だろうが、獣人だろうが、脱出は不可能なのだ。
つまりメロビクス王大国軍は、巨大な石壁の中に閉じ込められてしまった。
にもかかわらす、ルーナは繰り返しアナウンスを行う。
『両手を上げて出てきなさーい!』
もう、これは心理戦というよりも、限りなく嫌がらせに近い。
ルーナの投降の呼びかけを聞きながら、遅めの朝食をとる黒丸は言う。
「メシが旨いのである!」
一方、投降を呼びかけられた雪隠詰めのメロビクス王大国軍は、全軍で歯ぎしりをしていた。
今にも歯ぐきから血が出そうである。
「おのれー!」
「クソ! 昨日は、負けて逃げたくせに!」
「アイツを撃ち落とせ!」
何人かが矢や魔法を打ち出すが、二百メートルを超える高さを飛ぶグースにはかすりもしない。
ウキウキボイスの嫌がらせアナウンスは続く。
『両手を上げて出てきなさーい!』
「黙れ! 黙れ!」
メロビクス王大国軍を率いる宰相ミトラルは、ブチ切れていた。
彼は朝からついていなかった。
宰相ミトラルが、目を覚ますと辺りは暗かった。
兵士に何事かと尋ねると、『敵が朝一番で、壁を作った』と報告をする。
部屋の外に出ると、占領した王宮をぐるりと囲む巨大な石壁が出来ていた。
宰相ミトラルは、めまいがした。
次に、兵士が、『捕虜がいない。地下牢の様子がおかしい!』と報告をして来た。
「おかしいでは、わからぬではないか! どのようにおかしいのだ!」
「それが……その……おかしいのであります!」
兵士の言うことは、ハッキリしない。
仕方がないので、宰相ミトラル自ら地下牢に降りてみた。
するとそこには――。
「一体何事だ!?」
全裸で縄に縛られ、局部を見せつけ合う、涙目のおっさん兵士たちがいた。
宰相ミトラルは、激しいめまいに襲われた。
「宰相閣下……。これは……敵の欺瞞工作でしょうか?」
一緒についてきた副官が、頬を引きつらせながら、生真面目に意見具申を行う。
「欺瞞工作……。一体何を欺瞞するというのか!」
「ハッ! 失礼いたしました!」
「早く、助けてやれ!」
「ハッ? わ、私が……で、ありますか?」
副官は心底動揺した。
自分がこの縛られた、怪しい雰囲気のおっさんたちを助けなければならないのか……と。
「貴官でも、誰でも良い! 縄をほどいてやれ!」
周りにいる護衛の兵士立ちが、嫌そうにノロノロと動き出す。
一人の兵士が、床から一枚の紙を拾って宰相ミトラルに差し出した。
「こんな物が落ちていました」
「何だ、これは? 請求書……?」
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■■■請求書■■■
メロビクス王大国 御中
内容:フリージア王国王宮宿泊費
請求額:倉庫の食料全部
フリージア王国
第三王子 アンジェロ・フリージアより
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宰相ミトラルは眉根を寄せ、手元の請求書を凝視する。
ご丁寧に赤い蝋で印章まで押してあった。
隣に立つ副官が請求書をのぞき込み、生真面目にコメントした。
「宿泊費の請求書とは、敵も律儀ですな」
「これは……どんな意味があるのだ……?」
敵に宿泊費の請求書など寄越しても、支払われるはずがない。
それをわざわざ残していったのだ。
(やつら一体何を考えておるのだ……)
宰相ミトラルは、アンジェロたちの狙いを考えた。
だが、考えても思いつかない。
それは、そうだ。
彼らは、悪ノリしているだけなのだ。
隣に立つ副官が、一カ所おかしな文言があることに気が付いた。
「閣下! 請求額が、倉庫の食料全部となっておりますが……まさか!」
「……! 倉庫だ! 食料はどうなっておるか! 急げ!」
宰相ミトラル一行は、食料を保管してある倉庫へ走り出した。
倉庫の前には、貴族が連れて来たコックや料理番の兵士たちが呆然としていた。
宰相ミトラルは、一喝する。
「どうしたのだ! 報告せよ!」
だが、コックや料理番の兵士たちは、気味悪そうな表情をして視線をそらしてしまう。
「ええい! 私が確認する! どかんか!」
宰相ミトラルは、倉庫の中に足を踏み入れた。
そこに食料はなく、またも全裸にされ怪しげな格好に緊縛された中年兵士の姿があった。
そして、もう一人マール子爵の姿があった。
宰相ミトラルは、マール子爵に駆け寄る。
「貴殿は……。マール子爵か?」
「グンマー!」
「一体何があったのだ?」
「グンマー!」
「グンマーとは何だ!? 貴殿は何を見たのだ!?」
「グンマー!」
マール子爵の目には、星が浮かんでいた。
マール子爵の魂が、銀河の遙か彼方に旅立ってしまったことは、誰の目にも明らかだった。
「クッ……一体何が……」
宰相ミトラルは、激しいめまいと頭痛に襲われた。
そして、隣に立つ副官は、顎に手をあて生真面目に考えていた。
「閣下! グンマーとは何でしょう? 敵の作戦名でしょうか?」
「わからん……」
「秘密兵器という可能性も……」
「私に聞くな!」
いらだつ宰相ミトラルに兵士が一枚の紙を渡した。
「宰相閣下! この紙が床に落ちていました!」
「ご苦労……」
もう、見たくない……。
宰相ミトラルは思った。
だが、立場上見ないわけにもいかず、宰相ミトラルは手元の紙をイヤイヤ眺めた。
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■■■領収書■■■
メロビクス王大国 御中
領収額:倉庫の食料全部
但し フリージア王国王宮宿泊費として
フリージア王国
第三王子 アンジェロ・フリージア
ご利用ありがとうございました。
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生真面目な副官が、生真面目にコメントした。
「経費で落ちますかね……?」
「知らん! そんな事より、重要なのは……。我々は、食料を失ったということだ……」
「ハッ……! そうでした……。不味いですね! すぐに商人を呼び寄せ、食料の購入を――」
「壁で囲まれているのに、どうやって商人を呼ぶのか!」
宰相ミトラルの叫びで、側にいる士官や兵士たちは、自分たちが最悪の状況にある事を理解した。
倉庫に食料はない。
石壁に囲まれているので、商人から食料の買い取りは不可能。
本国からの補給も不可能。
つまり兵士たち手持ちの食料しかないのだ。
宰相ミトラル一行が絶望感に包まれる中、一人の兵士が叫んだ。
「おい! 食料と書いてあるぞ!」
「「「「なに!?」」」」
絶望の中に一筋の希望の光。
食料は、まだ残っていたのだ!
宰相ミトラルたちは、倉庫の奥へ駆けだした。
するとそこには、一匹の大きなトカゲのような魔物がいた。
グンマークロコダイルである。
グンマークロコダイルの背中には、『食用可』と書かれた紙が貼り付けてあった。
生真面目な副官が、ため息交じりにコメントする。
「食べられるのでしょうか?」
「「「「「「……」」」」」」
その問いには、誰も答えなかった。
メロビクス王大国は、酪農が盛んで、魔物が少ない土地柄だ。
従って、メロビクス人は、魔物を食さない。
シメイ伯爵領では、グンマークロコダイルを食べるが、ごく一般的なフリージア人は食べない。
食べないのである。
宰相ミトラルは、宿泊している部屋に戻り一人になると天を仰いだ。
「どうしろと! どうしろというのだ!」
宰相ミトラルの嘆き声に、ルーナ・ブラケットの楽しそうな声が重なる。
『両手を上げて出てきなさーい!』
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