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第八章 メロビクス戦争2

第162話 魔法で作った石壁(ただし、200m級である)

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「アンジェロ殿下! ありがとうございます!」
「アンジェロ殿下!」
「アンジェロ殿下!」

「静かに! さあ! 早く行って! ゲートをくぐって!」

 俺たちは、王城の地下にある牢獄に侵入した。
 この地下牢獄にフリージア人捕虜がいるとマール子爵から情報を得たからだ。

 見張りの兵士が二人いたが、ルーナ先生がグンマークロコダイルをフルスイングして失神させた。

 ルーナ先生……。
 それは魔物であって、バットじゃないぞ!

 捕らわれていたフリージア人は、みんな王宮で働いていた人だ。
 五十人ほどだが、救出できて良かった。

 ゲートをキャランフィールドへつないで、全員を移動させる……。
 させるのだが……。

「何をやっているのですか!」

 黒丸師匠とルーナ先生が、また悪ノリを始めた。
 二人の気絶した兵士を全裸にして、亀甲縛り、かつ、M字開脚で向かい合うように縛り上げたのだ。

「他国を侵略するなど、愛が足らないのである」

「愛に目覚めて欲しいの」

 ルーナ先生が、嬉しそうに頬に手を当てクネクネする。

「ムサイおっさんたちの愛の目覚めなんて、ニーズないでしょう……。さあ、次は食料奪取ですよ!」

 気の毒な見張りのおっさん二人。
 疲れているのに見張りをさせられ、朝、目が覚めると、この羞恥感満載の格好を同僚に見られるのか……。

 変な性癖に目覚めないことを祈る。

 俺は一枚の書類を地下牢に残し、次へ向かった。

 食料が保管されている王宮内の倉庫も全く同じ手順だ。

 ルーナ先生がグンマークロコダイルで、見張りの兵士をフルスイング!
 ↓
 気絶した兵士(おっさん)を、全裸に剥く。
 ↓
 変な格好に固定する。

 黒丸師匠とルーナ先生が、おっさん緊縛アートにいそしむ間、俺は倉庫内の食料をアイテムボックスに収納した。

「黒丸師匠……。ルーナ先生……」

「とても楽しいのである」

「私は芸術家を目指す!」

 お二人とも楽しそうなところ、申し訳ないですが、おっさんの全裸アートは、ニーズがないのですよ。

 倉庫に山のように積まれていた食料は、全て俺のアイテムボックスの中だ。
 メロビクス王大国軍は、明日からの食事が大変だろう。
 敵司令官に同情する。

 そして、もう一人同情すべき人がいる。
 マール子爵だ。

 一応、マール子爵をスカウトしてみたのだけれど、うわごとのように『グンマー! グンマー!』と繰り返すので……。
 ホント、スマン……。

 マール子爵は食料倉庫の中に、グンマークロコダイルと共に放置しておくことになった。
 もちろん、グンマークロコダイルは、逃げないように鎖で縛ってある。

 ルーナ先生が、グンマークロコダイルを見て気を失ったマール子爵に手を振る。

「さようならマール子爵! ありがとうマール子爵! 君の勇気は忘れない!」

 ウソだ!
 絶対に秒で忘れる!

「友よ! さらばである! そのグンマークロコダイルは、メスである。お幸せになのである!」

 黒丸師匠も、ヒドイ言葉を口にする。
 この人たちは戦争中だというのに、緊張感の欠片もないのだ。

 俺は地下牢の時と同じように一枚の書類を倉庫に残し、倉庫から撤収した。

 ――そして、夜が明け、早朝。

「さて、壁で王宮を囲みましょう」

「敵が目を覚ましてから、壁で囲うとは、アンジェロ少年も性格が悪いのである」

「本当だ。敵が可愛そう」

 黒丸師匠とルーナ先生には、言われたくないです。

 ただ、まあ、二人の言うことは、あながち間違いじゃない。
 敵メロビクス王大国軍に心理的ダメージを与える為に、早朝、目の前で巨大な壁を生成してやろうと思う。

「印術の準備は?」

「いつでもどうぞ!」

 キャランフィールドから連れて来たエルフの皆さんも協力的だ。

 ――印術。
 魔石に特殊なインクで印を刻んで、土魔法で生成した石壁の中に魔石を埋め込む。

 こうすると敵が土魔法で石壁を崩そうとしても、印術を刻んだ魔石が敵の魔法をレジストする。

 エルフのみなさんは、徹夜で大量の魔石に印を刻んでいた。
 ニヤニヤと笑いながら。
 楽しそうに。

 エルフって、ちょっと腹黒いのか?
 性格悪い?

 味方で良かった。

「じゃあ、始めます!」

 俺は王宮近くの道路に手をあてて、地面に魔力を流し込む。
 発動するのは、初級の土魔法アースウォールだが、何せ規模がデカイ。

 一瞬で王宮全体を石壁で囲ってみせる!

 俺の魔力が地面に浸透して行く。
 隣でルーナ先生が、魔力の広がり具合を検知して指示を出す。

「アンジェロ。左前方の魔力が薄い」

「了解です……」

 目をつぶり、集中する。
 魔力が多い為なのか、地面が微かに揺れているのがわかる。

「まだだ! アンジェロ! まだ、魔力が足りない!」

「はい……」

 俺の感覚では、王宮を囲む円形に魔力が流し込まれている。
 後は、魔法を発動すれば――。

「やれ!」

 ルーナ先生から、ゴーサインが出た。
 俺は、目を見開き、石壁を生成する土魔法を発動する。

「アースウォール!」

 地面に染み込ませていた大量の魔力が垂直方向へ一気に開放された。
 土煙が上がると同時に、何カ所かで木片が空に舞い上がる。

「チイッ!」

 思わず舌を打つ。
 どうやら建造物を巻き込んでしまったらしい。

 だが、今さら止められない。

 地面から石壁が轟音と共にせり上がり、空へ向かって突き抜けていく。
 高く、高く――。

「なんであるか……。高さがありすぎである……」

「えっ……?」

 黒丸師匠のつぶやきが聞こえたが……。
 あ……確かに、高さが……。

 俺は思わず叫んだ。

「あー! 高く作りすぎた!」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ!


 石壁が……。
 あ、ダメだ。
 もう、制御できない。

「退避である! 退避である!」

 黒丸師匠が思わず叫び、俺たちは慌てて駆けだした。
 エルフさんたちも、頬を引きつらせて後退する。

 しばらくして土煙が晴れると、そこには、この異世界で見たことのない巨大な石壁がそびえ立っていた。

 やってしまった……。
 前世、新宿で見た高層ビル群のイメージで作ってしまった。
 これ、二百メートル級のヤツだ。

「やったな! さすがは、私の弟子にして婚約者!」

 ルーナ先生は、大興奮で満足している。
 だが、黒丸師匠は不安そうだ。

「これは……倒れてこないのであるか?」

「いや……それは……」

 ぶっちゃけ、保障できない。
 基礎工事とかやっていないから、マジで危ないと思う。

 ただ、一気に王宮を囲む円形の巨大な壁を生成したので、そう簡単には倒れないと思うが……。
 地盤沈下はしそうだな。

 とにかく、この巨大な石壁を敵の魔術師に崩されないように、印術を仕込んでしまおう。

「えー、みなさん。印術をお願いします」

 俺たちは手分けして、魔法で生成した巨大な石壁に印を刻んだ魔石を埋め込んだ。

 これで敵の主力は壁の内側に閉じ込めた。
 出陣も出来なければ、補給も出来ない、余所に連絡も出来ないのだ。

 ――つまり敵の主力は無力化されたのだ。

 壁の向こうでは、メロビクス王大国軍が泣きそうになっているだろう。

 合掌!
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