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第八章 メロビクス戦争2
第152話 スパイの逮捕と、残りのスパイ
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「アンジェロ様。グースです!」
「また、報告かな?」
俺はキャランフィールドの港で、防壁造りの最中だ。
魔法で石壁を作り、印術で印を切る。
黙々と地味な作業を繰り返している。
戦争は、今のところ順調だ。
各部隊に異世界飛行機グースを配置しているので、毎日報告が入ってくる。
キャランフィールドにいても、各部隊の状況は手に取るように分かる。
第二騎士団とじいたちは、メロビクス王大国南部に進出した。
シメイ伯爵は、侵攻してきた敵を撃退し、じいたちと合流を果たした。
彼らは、これからメロビクス王大国の南部を荒らし回った後に北上する。
アルドギスル兄上の守るアルドポリスとじいたちで敵を挟み撃ちにするのだ。
時計回りの大規模な軍団運動。
アルデンヌの森を突破したドイツ軍が、フランス軍を包囲した動きを参考にしたが、ここまで予想以上の早さで作戦が進んでいる。
ケッテンクラートや六輪自動車タイレルによる機動力とマジックバッグによる補給力があるから出来る事だ。
アルドギスル兄上も防衛を上手くこなしている。
兄上は、ああ見えて守勢に強い。
メロビクス戦役の時は、敵に挟み撃ちにされたが持ち場を死守してみせた。
今度も心配ないだろうと、俺は思っている。
「王子様! いるかい?」
「ここだよー!」
ウォーカー船長だ。
彼にはスパイの疑いがかかっているが、俺は今まで変わらず接している。
もちろん、作戦上の秘密は話さないが……。
「いや~立派な防壁が出来たな! これなら敵の陸戦隊が来ても安心だ!」
彼の快活な様子を見ていると、スパイとはとても思えない。
まあ、情報部のエーベルバッハ男爵なら『何を甘いことを言っとる!』と、俺の思いは一蹴されるだろう。
俺は声を潜めてウォーカー船長に、万一の脱出計画について確認する。
「それで、万一の場合はアリーさんを連れて離脱だな?」
「ああ。本当に最悪の場合な。船は、北の方にある入り江に隠しておいたぜ!」
「了解だ。万一の場合は、アリーさんを連れて逃げてくれ」
脱出計画は、ウォーカー船長からの申し入れだ。
万一、俺が死亡して、キャランフィールドが敵の手に落ちそうな場合は、ウォーカー船長はアリーさんを連れて『愛しのマリールー号』で脱出する。
行き先は聞いていないが、おそらくギュイーズ侯爵の元だろう。
彼がスパイだった場合を考えると、アリーさんを預けて良い物か悩む部分もある。
だが、ウォーカー船長のアリーさんを思う気持ちは、本物に感じた。
それに、彼がメロビクス王大国のスパイだったとしたら、メロビクス大物貴族の孫娘を害する事はないだろう。
「もっとも、俺は負ける気はないよ」
「そうだろうな!」
ウォーカー船長は、ニカッと白い歯を見せて笑った。
*
――アルドギスル領アルドポリス。
アルドポリス郊外の防壁の上で、アンジェロの兄、第二王子のアルドギスルが味方を鼓舞していた。
「ハッハー! まったく懲りない連中だね! みんな元気よくいこう!」
隣国ニアランド王国の兵士が、防壁に多数押し寄せてくる。
前列は木製の大楯を構え、後列は長いハシゴを持つ。
数はざっと五千。
防壁で守られたアルドポリスの国境を攻めるには、決して多くはない。
だが、侮れない数である。
アルドギスルは、十分に敵を引きつけたところで、フリージア王国軍に合図を送った。
「さあ! 撃て! 撃て!」
防壁の上から弓隊が矢を放ち、兵士は投石を行う。
魔法使いも、おのおの得意な属性攻撃魔法を打ち込み攻め手を削る。
防壁の後ろでは、遠くへ石を飛ばす攻城兵器トレビュシェットが鈍い音を立て動き出した。
「うひゃ!」
トレビュシェットの唸りに、アルドギスルは思わず声をあげる。
同時に無数の石が、防壁に攻め寄せるニアランド王国軍の頭上に降り注いだ。
「あがっ!」
「ギャア!」
ニアランド王国兵が悲鳴を上げるが、守るフリージア王国軍は手を抜かない。
「さあ、みんな! 敵を削るよ!」
アルドギスルは、味方を鼓舞し、自身も石を持ち敵に投げつけた。
投げた石は敵に当たらなかったが、大将が自ら戦う姿勢を見せたことで、味方の士気は上がった。
アルドギスルの側に控える腹心ヒューガルデン伯爵は、冷静に戦局を見ていた。
(まだ、メロビクス王大国軍は着陣しませんか……。ならば、今のうちに、出来るだけ敵を削っておきたいですね……)
情報部が得た情報によれば、メロビクス王大国軍はフリージア王国王都への攻撃を企図している。
しかし、メロビクス王大国からフリージア王国王都へは直接進軍することは出来ない。
魔の森があるからだ。
メロビクス王大国からフリージア王国王都へ向かうならば、魔の森を迂回して、一度ニアランド王国へ出る必要がある。
そして、ニアランド王国からアルドギスル領アルドポリスを通り、街道沿いに王都へ向かうのだ。
(つまり……ここアルドポリスは防衛の要というわけです!)
ヒューガルデン伯爵とアンジェロが密かに打ち合わせた計画では、敵海軍を破ったアンジェロが、アルドポリスに合流し、第二騎士団が敵の後背をやくす。
敵を包囲殲滅する作戦だ。
「ヒューガルデン伯爵!」
防壁の下から、情報部のエーベルバッハ男爵がヒューガルデン伯爵に手で合図を送った。
メロビクス王大国のスパイ二名を逮捕したのだ。
ヒューガルデン伯爵は、片手を上げてエーベルバッハ男爵に答える。
(アルドギスル様は知らなくて良いことです。秘密裏に動いてくれて助かりましたよ。エーベルバッハ男爵……)
エーベルバッハ男爵は、大股早足で防壁の下から立ち去った。
そして、大声で部下を呼ぶ。
「部下アイン!」
「ハッ!」
キリッ! とした動作で、部下アインがエーベルバッハ男爵に駆け寄る。
「俺はキャランフィールドへ向かう。先ほど逮捕した二名は王都に送れ」
「ハッ! では、男爵は――」
「ああ。ウォーカーの野郎に会いに行く」
エーベルバッハ男爵は、待たせてあった異世界飛行機グースに乗り込み機上の人となった。
「これは操縦させて、もらえんのかね?」
「……」
リス族のパイロットは、強面エーベルバッハ男爵の度重なる要求に、何とか無言を貫いた。
*
メロビクス王大国の宰相ミトラルは、メロビクス王大国軍の本軍にいた。
メロビクス本軍は、移動中であった。
本来は、アルドギスル領アルドポリスに向かうはずが、街道を外れて進む。
兵士たちは命令された通りに、何の疑いもなく進んでいたが、士官や貴族たちは不思議に思っていた。
「はて? こちらに街道は、なかったと思うが?」
「東に向かっているよな?」
「ああ、方角はフリージア王国だ」
「だが、道を外れているぞ……」
兵に見られていない所で、士官や貴族たちは、そんな会話をしていた。
一方で、作戦を立てた宰相ミトラルは、悠然と馬にまたがっている。
そこへ調査局の伝令が馬を飛ばしてやって来た。
「ミトラル様……。アルドギスル領アルドポリスに忍ばせていた者が逮捕されました」
「そうか……ご苦労であった」
メロビクス王大国の調査局。
元々、国内の不平分子、特に貴族の反乱を警戒して作られた組織である。
あまり海外の諜報活動は得意ではないが、一部には凄腕の局員がいる。
そして、歴史の長い部署だけに、ノウハウの蓄積がある。
宰相ミトラルは、アルドギスル領アルドポリスで二人の貴族が逮捕されたと聞いても取り乱さなかった。
二人の貴族は、フリージア王国情報部の目をそらす為の『囮』なのだ。
ミトラルにしてみれば、逮捕される所までシナリオに織り込み済みである。
ミトラルは、誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「ふっ……。本命は別に潜り込ませてある……」
「また、報告かな?」
俺はキャランフィールドの港で、防壁造りの最中だ。
魔法で石壁を作り、印術で印を切る。
黙々と地味な作業を繰り返している。
戦争は、今のところ順調だ。
各部隊に異世界飛行機グースを配置しているので、毎日報告が入ってくる。
キャランフィールドにいても、各部隊の状況は手に取るように分かる。
第二騎士団とじいたちは、メロビクス王大国南部に進出した。
シメイ伯爵は、侵攻してきた敵を撃退し、じいたちと合流を果たした。
彼らは、これからメロビクス王大国の南部を荒らし回った後に北上する。
アルドギスル兄上の守るアルドポリスとじいたちで敵を挟み撃ちにするのだ。
時計回りの大規模な軍団運動。
アルデンヌの森を突破したドイツ軍が、フランス軍を包囲した動きを参考にしたが、ここまで予想以上の早さで作戦が進んでいる。
ケッテンクラートや六輪自動車タイレルによる機動力とマジックバッグによる補給力があるから出来る事だ。
アルドギスル兄上も防衛を上手くこなしている。
兄上は、ああ見えて守勢に強い。
メロビクス戦役の時は、敵に挟み撃ちにされたが持ち場を死守してみせた。
今度も心配ないだろうと、俺は思っている。
「王子様! いるかい?」
「ここだよー!」
ウォーカー船長だ。
彼にはスパイの疑いがかかっているが、俺は今まで変わらず接している。
もちろん、作戦上の秘密は話さないが……。
「いや~立派な防壁が出来たな! これなら敵の陸戦隊が来ても安心だ!」
彼の快活な様子を見ていると、スパイとはとても思えない。
まあ、情報部のエーベルバッハ男爵なら『何を甘いことを言っとる!』と、俺の思いは一蹴されるだろう。
俺は声を潜めてウォーカー船長に、万一の脱出計画について確認する。
「それで、万一の場合はアリーさんを連れて離脱だな?」
「ああ。本当に最悪の場合な。船は、北の方にある入り江に隠しておいたぜ!」
「了解だ。万一の場合は、アリーさんを連れて逃げてくれ」
脱出計画は、ウォーカー船長からの申し入れだ。
万一、俺が死亡して、キャランフィールドが敵の手に落ちそうな場合は、ウォーカー船長はアリーさんを連れて『愛しのマリールー号』で脱出する。
行き先は聞いていないが、おそらくギュイーズ侯爵の元だろう。
彼がスパイだった場合を考えると、アリーさんを預けて良い物か悩む部分もある。
だが、ウォーカー船長のアリーさんを思う気持ちは、本物に感じた。
それに、彼がメロビクス王大国のスパイだったとしたら、メロビクス大物貴族の孫娘を害する事はないだろう。
「もっとも、俺は負ける気はないよ」
「そうだろうな!」
ウォーカー船長は、ニカッと白い歯を見せて笑った。
*
――アルドギスル領アルドポリス。
アルドポリス郊外の防壁の上で、アンジェロの兄、第二王子のアルドギスルが味方を鼓舞していた。
「ハッハー! まったく懲りない連中だね! みんな元気よくいこう!」
隣国ニアランド王国の兵士が、防壁に多数押し寄せてくる。
前列は木製の大楯を構え、後列は長いハシゴを持つ。
数はざっと五千。
防壁で守られたアルドポリスの国境を攻めるには、決して多くはない。
だが、侮れない数である。
アルドギスルは、十分に敵を引きつけたところで、フリージア王国軍に合図を送った。
「さあ! 撃て! 撃て!」
防壁の上から弓隊が矢を放ち、兵士は投石を行う。
魔法使いも、おのおの得意な属性攻撃魔法を打ち込み攻め手を削る。
防壁の後ろでは、遠くへ石を飛ばす攻城兵器トレビュシェットが鈍い音を立て動き出した。
「うひゃ!」
トレビュシェットの唸りに、アルドギスルは思わず声をあげる。
同時に無数の石が、防壁に攻め寄せるニアランド王国軍の頭上に降り注いだ。
「あがっ!」
「ギャア!」
ニアランド王国兵が悲鳴を上げるが、守るフリージア王国軍は手を抜かない。
「さあ、みんな! 敵を削るよ!」
アルドギスルは、味方を鼓舞し、自身も石を持ち敵に投げつけた。
投げた石は敵に当たらなかったが、大将が自ら戦う姿勢を見せたことで、味方の士気は上がった。
アルドギスルの側に控える腹心ヒューガルデン伯爵は、冷静に戦局を見ていた。
(まだ、メロビクス王大国軍は着陣しませんか……。ならば、今のうちに、出来るだけ敵を削っておきたいですね……)
情報部が得た情報によれば、メロビクス王大国軍はフリージア王国王都への攻撃を企図している。
しかし、メロビクス王大国からフリージア王国王都へは直接進軍することは出来ない。
魔の森があるからだ。
メロビクス王大国からフリージア王国王都へ向かうならば、魔の森を迂回して、一度ニアランド王国へ出る必要がある。
そして、ニアランド王国からアルドギスル領アルドポリスを通り、街道沿いに王都へ向かうのだ。
(つまり……ここアルドポリスは防衛の要というわけです!)
ヒューガルデン伯爵とアンジェロが密かに打ち合わせた計画では、敵海軍を破ったアンジェロが、アルドポリスに合流し、第二騎士団が敵の後背をやくす。
敵を包囲殲滅する作戦だ。
「ヒューガルデン伯爵!」
防壁の下から、情報部のエーベルバッハ男爵がヒューガルデン伯爵に手で合図を送った。
メロビクス王大国のスパイ二名を逮捕したのだ。
ヒューガルデン伯爵は、片手を上げてエーベルバッハ男爵に答える。
(アルドギスル様は知らなくて良いことです。秘密裏に動いてくれて助かりましたよ。エーベルバッハ男爵……)
エーベルバッハ男爵は、大股早足で防壁の下から立ち去った。
そして、大声で部下を呼ぶ。
「部下アイン!」
「ハッ!」
キリッ! とした動作で、部下アインがエーベルバッハ男爵に駆け寄る。
「俺はキャランフィールドへ向かう。先ほど逮捕した二名は王都に送れ」
「ハッ! では、男爵は――」
「ああ。ウォーカーの野郎に会いに行く」
エーベルバッハ男爵は、待たせてあった異世界飛行機グースに乗り込み機上の人となった。
「これは操縦させて、もらえんのかね?」
「……」
リス族のパイロットは、強面エーベルバッハ男爵の度重なる要求に、何とか無言を貫いた。
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メロビクス王大国の宰相ミトラルは、メロビクス王大国軍の本軍にいた。
メロビクス本軍は、移動中であった。
本来は、アルドギスル領アルドポリスに向かうはずが、街道を外れて進む。
兵士たちは命令された通りに、何の疑いもなく進んでいたが、士官や貴族たちは不思議に思っていた。
「はて? こちらに街道は、なかったと思うが?」
「東に向かっているよな?」
「ああ、方角はフリージア王国だ」
「だが、道を外れているぞ……」
兵に見られていない所で、士官や貴族たちは、そんな会話をしていた。
一方で、作戦を立てた宰相ミトラルは、悠然と馬にまたがっている。
そこへ調査局の伝令が馬を飛ばしてやって来た。
「ミトラル様……。アルドギスル領アルドポリスに忍ばせていた者が逮捕されました」
「そうか……ご苦労であった」
メロビクス王大国の調査局。
元々、国内の不平分子、特に貴族の反乱を警戒して作られた組織である。
あまり海外の諜報活動は得意ではないが、一部には凄腕の局員がいる。
そして、歴史の長い部署だけに、ノウハウの蓄積がある。
宰相ミトラルは、アルドギスル領アルドポリスで二人の貴族が逮捕されたと聞いても取り乱さなかった。
二人の貴族は、フリージア王国情報部の目をそらす為の『囮』なのだ。
ミトラルにしてみれば、逮捕される所までシナリオに織り込み済みである。
ミトラルは、誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。
「ふっ……。本命は別に潜り込ませてある……」
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