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第七章 新たな住人

第130話 誇り高きマンテル家の至宝! ボルチーオ・ファン・マンテル!

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 ニアランド王国と国境を接するアルドギスル領アルドポリス。

 俺は、じい、アルドギスル兄上と一緒に、アルドポリス郊外の国境にいる。
 ニアランド王国からアンジェロ領への移住希望者を待っているのだ。

 アルドギスル兄上が、いつもの陽気な声で毒を吐いている真っ最中だ。

「しかし、まあ、ニアランド人の面の皮が厚い事、オークの尻に勝るね」

「アルドギスル兄上、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。国境で受け入れるのが一番良いと考えたのです」

「それは、そうだよ。これも国境を担う領主の役目だから気にしなくて良いよ。僕が気になるのは、ニアランド王国人の神経さ! メロビクス戦役では裏切られたからね!」

「あれは、嫌でしたね……」

「メロビクス王大国軍と挟み撃ちにされた恨みは、忘れてないよ~!」

 アルドギスル兄上は、前線に近いところにいたからな。
 同盟国に裏切られた衝撃、兵士の動揺、全てを間近で感じたのだ。

 俺としてもニアランド王国には思うところがある。
 ニアランド王国から移住希望者を受け入れるのは、どうかなとも思う。

 しかし、ひょっとしたらニアランド王国からの移住希望者は、良い人材かもしれない。

 俺は人材採用でアタリを引いている。
 最近ではアリーさんが大当たりだった。
 スラムの住人も一生懸命働いてくれている。

 ならば敵国ニアランド王国の人材も狙ってみようというわけだ。

「じい、ごめんね。ニアランド王国から移住者を受け入れると勝手に決めて」

「ワシは賛成ですじゃ」

「えっ!? そうなの!? じいは反対すると思っていたよ」

 じいは、頭が固いというか……保守的な性格だ。
 裏切ったニアランド王国から移住希望者を受け入れると知ったら、怒るとばかり思っていた。
 だが、賛成をしてくれる。
 なぜだ?

 じいは、ニヤリと悪そうな顔をした。

「上手くいけば、ニアランドの情報を抜き取れますからな」

「情報部らしくなってきたねえ……」

 さすがは、フリージア王国情報部準備室長!
 移住者からも情報収集するのか!

「アンジェロ! コーゼン男爵! お出ましだよ……」

「えっ!?」

「ややっ!?」

 平原の中、街道が真っ直ぐ続いている。
 その街道に大量の土煙が見えた。

「アンジェロ様! アルドギスル様! お下がりを! あれは騎兵の土煙です!」

「ちぇっ! まんまと一杯食わされたわけだあ~。ニアランドはやることが汚いなあ~」

「兄上、のんきな事を言ってないで退避してください! 俺は魔法で石壁を作ります!」

「敵襲じゃ! 敵襲じゃ! 護衛の兵士は前へ!」

 急に事態が緊迫した。
 移住希望者が来ると思ったら敵襲かよ!
 アルドギスル兄上の言う通り一杯食わされた!

「ストーンウォール」

 俺は急いで石壁を生成する。
 魔力をガンガン注ぎ込み、国境沿いに高さ四メートルの分厚い石壁が出来上がった。

「ふう。これで当座の攻撃は防げる」

 護衛の兵士に囲まれたアルドギスル兄上が、ノンビリした声を出す。

「いや~アンジェロの魔法は凄いね! もう、防壁が出来ちゃったよ!」

 アルドギスル兄上は、まったく緊張していないな。
 この感じ……、大物なのか、それ以外なのか。

「アルドギスル兄上。言っておきますが、敵襲ですからね? ニアランドの騎兵が土煙を上げて、こちらに向かっているのですよ?」

「ハッハー! それなら心配ないよ! アンジェロが造った壁に激突しておしまいさ!」

「そんな風に、上手く行けば良いですが……」

 俺だけでなく、護衛の兵士も苦笑いだ。

 突然、壁の向こうから声が聞こえた。

「誰だ! こんな所に壁を造ったのはー!」

 若い男の声だ。
 アルドギスル兄上と顔を見合わす。

「兄上、どうしましょうか?」

「さあ? とりあえず返事をしてみたら?」

「わかりました。俺が対応しますよ」

 飛行魔法を使って飛び、壁の上に降り立つ。
 念のため魔法障壁を発動し、体の全面に展開する。

 眼下にはニアランド王国の騎兵が、二十騎ほどいる。
 金属鎧を身につけた騎士が多い。

 俺は壁の上から、声を張り呼びかけた。

「ニアランド王国の騎兵は、フリージア王国に入れません! 引き返してください!」

 騎兵の一団の中から、貴族服を着たリーダーらしき若い男が返事をした。

「そんなバカな!」

「我がフリージア王国とニアランド王国は、戦争状態です! まだ和平条約を結んでいません! 商人以外は、ここを通行できません!」

「私はアンジェロ王子と面会の約束があるのだ! ここを通せ!」

 ん?
 俺と面会の約束?
 そんなのないぞ?
 ていうか、オマエ、誰?

「あの……私がアンジェロですが……。あなたは?」

「私はニアランド王国のマンテル伯爵家が三男! ボルチーオ・ファン・マンテルだ!」

 若い男は名乗ると胸をそらした。
 名乗っただけなのに、なぜかドヤ顔だ。

 なんかダメそうなヤツだな……。

 フリージア側からアルドギスル兄上が呼びかけてくる。

「おーい! アンジェロ! こっちにも聞こえたけれど、マンテルさんは、お知り合い?」

「いえ、知りませんよ!」

「貴様! 無礼であろう! 我はボルチーオ・ファン・マンテルであるぞ!」

「だから、知らないって! お引き取りください!」

「冒険者ギルドから、連絡が行っているであろうが! この慮外者め!」

「えっ!? ギルドから!?」

 冒険者ギルドから連絡?
 ボルチーオ・ファン・マンテルさん?
 えっ……そんな連絡ないぞ?

「あの……連絡なかったですよ?」

「そんなはずはない! キャランフィールドとかいう冒険者ギルドに連絡を入れているはずだ!」

「えっ!? キャランフィールドの冒険者ギルドですか!?」

「そうだ!」

 おかしいな……。
 それなら、俺の所に連絡が来るはずだ。

 今度は、フリージア側から、じいが呼びかけてきた。

「アンジェロ様! ひょっとして……移住希望者では、ございませんか?」

「えっ!? あれが!?」

 俺はボルチーオ・ファン・マンテルを見る。
 十七、八才でニアランド人らしく背が高い。

 ただ、全体の雰囲気として、荒事は得意でなさそうだ。
 手綱を持つ手は、ほっそりとしているし、体を鍛えている感じではない。
 ボルチーオは、貴族のボンボンらしく威張っているだけだ。

 あれが移住してくるの?
 全力でお断りしたいな……。

「えーと……アンジェロ領に移住希望の方でしょうか?」

「そうだ! 誇り高きマンテル家の至宝! このボルチーオ・ファン・マンテルが住まおう! 喜ぶが良い!」

「お引き取りくださーい!」

 俺は『秒』でお断りした。
 こんな威張った人は、ウチの領地に不要だ。

 するとボルチーオ・ファン・マンテルは、顔を真っ赤にして怒りだした。
 両手をブンブン振り回して、馬が嫌がるほどの大声を出す。

「貴様! 無礼であろう! 誇り高きマンテル家の至宝! このボルチーオ・ファン・マンテルに対して、その態度は――」

「そんなに怒ると血圧が上がりますよー」

「人の話を最後まで聞け! 私は――」

「お引き取りくださーい!」

「紹介状を持っているのだぞ!」

「えっ!?」

 一体、誰の紹介状だろう?

 ……というより、こんなバカを紹介するのは誰だよ!
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