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第六章 二人の王子

第102話 異世界自動車の開発

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 次の開発は、異世界自動車の開発だ。

 異世界自動車……、名前だけは凄いが、俺がイメージしているのは、自走馬車とでも呼ぶのが丁度良い程度の物だ。

 魔導エンジンで動いて、人が歩くよりも速く走ってくれれば良い。
 変速機やクラッチも省略する。
 難しそうな機械の開発は後だ。

 書斎にホレックのおっちゃんを呼び打ち合わせだ。

「アンジェロの兄ちゃんに会うのも久しぶりだな!」

「そうだね。革鎧のオリハルコン、あれ、助かったよ。ありがとう」

 ホレックのおっちゃんが、革鎧の下に仕込んでくれた薄くのばしたオリハルコン。
 あれがハジメ・マツバヤシの銃弾を防いでくれた。
 おかげで、俺の命が助かった。

 ホレックのおっちゃんは、『ほれ! 見ろ!』と言わんばかりのドヤ顔だ。

「なーに、良いって事よ。な? オリハルコンは間違いねえだろう?」

「そうだね。間違いないね。今度オリハルコンを差し入れるよ。クイックを付けて」

「頼むぜ! そりゃそうと、今度は何を作らせるつもりだ? ここに俺を呼んだって事は、それだろ?」

 ホレックのおっちゃんが、チョイチョイと指さす先は、壁一面に展開するテクノロジーツリーだ。

 テクノロジーツリーは、俺がコツコツと書き貯めた技術メモの集合体で、地球世界の科学技術の進歩をまとめた物だ。
 メモ一枚には、一つの技術と簡単なイラストが書いてある。
 このメモを左側から歴史順に、それぞれの技術を関連付けて壁に張り付けた。

 俺はテクノロジーツリーの『自動車』を指さす。

「これを開発したい」

「自動車……ふむ……こりゃどういう物なんだ?」

「動く馬車って感じだね。馬が不要な馬車の方がわかりやすいかな」

「ほう! 面白いな! しかし、この『内燃機関』ってのが必要じゃないのか?」

 ホレックのおっちゃんは、テクノロジーツリーの手前側を指さす。
 そこには『内燃機関・エンジン』の技術を書いたメモが貼ってある。

「グースで使った魔導エンジンで車輪を回せば、内燃機関の代わりになると思う」

 内燃機関を造る為の精緻な金属加工は、おそらくドワーフなら可能だろう。
 しかし、ガソリンがない。
 俺は、石油をこの異世界で見たことがないのだ。

 ひょっとしたら、どこかにあるかもしれないが、あるかないか分からない物の為に内燃機関を開発してはいられない。

「ふん……すると、俺は何をすれば良いんだ?」

「板バネの開発。可能ならショックアブソーバー。それからステアリングを開発して欲しい」

「何? ショ……なんだって? ステ……?」

「長期的には、クラッチと変速機……トランスミッションの開発……」

「ちょっ! ちょっと待て! オイ! 俺の分かる言葉で説明しろ!」

 俺は夢中になっていた。
 ホレックのおっちゃんに一つ一つ説明しなくちゃならない。

 テーブルの上に羊皮紙を広げ、ペンで図を書いていく。

「こんな感じで、ショックを和らげる細工が欲しい。車の乗り心地が良くなる」

「ふん……なるほどな……。板バネならすぐ出来そうだ。しかし、ショックアブソーバーは難しいな……」

 ショックアブソーバーは、筒の中に油を詰めた油圧ダンパーと金属製のバネを組み合わせる。

「油圧ダンパーが難しいかな?」

「そうだな。バネは作れるな。鉄を細長くして、何かに巻き付けて型を整えればイケルだろう。だが、油圧ダンパーは、筒の中に油を閉じ込め、かつ、ここが上下に動くのが難しい」

 油の密閉とピストン部分か……。
 この異世界には、ゴムがない。

 それなら機械ではなく、魔法?

「ショックアブソーバーは、機械的解決ではなく、魔法的解決かな……」

「そうだな。風属性とか……。ないし、新しい魔物素材がみつからないと難しいだろうな。ステアリングは、車輪一つじゃダメか? 一つならすぐ出来るぞ」

「一つで良いです。じゃあ、板バネと車輪一つのステアリングで、自動車を開発しましょう」

「よし! やろう!」

 俺とおっちゃんは、工房にこもった。


 *


 女魔法使いミオは、馬車に揺られていた。

 馬車はメロビクス王大国からフリージア王国領内に入った。
 メロビクス王大国では、平原やなだらかな丘陵地帯が続いていたが、フリージア王国に入ると深い森に囲まれた山岳地帯になった。

 曲がりくねった上り坂を、馬車はゆっくりと上っていく。

 女魔法使いミオは、馬車を牽く馬に興味を持ち、荷台から馭者に話しかけてみた。

「その馬は、魔物ですか?」

「そうだよ。ワイルドホースさ!」

 馭者はミオの問いに気軽に答えた。

 ワイルドホースは、普通の馬よりも二回りほど大きく、がっしりとした馬体であった。
 上り坂で馬車を牽いているにもかかわらず、苦もなく同じペースで進んでいる。

「魔物を馬車馬にするのは、珍しいですね……」

「ん? お客さんメロビクスの人かい? フリージアの南の方だと珍しかないよ」

「そうなのですか?」

「ああ。フリージアの南は魔物が多いからね。家畜なんて、すぐに食われちまって育たないのさ」

「それで、魔物のワイルドホースですか」

「そういうこと!」

 メロビクス王大国は、穀物生産量が多く、魔物が少ない地域だ。
 家畜のエサが豊富で、安全なエリアなので、家畜の飼育が盛んになった。
 地形も平地と緩やかな丘陵地帯なので、馬車を牽くなら馬だ。

 メロビクス王大国出身の女魔法使いミオは、馬車馬の違いにお国柄を感じた。

「すると馭者さんは、テイマーですか?」

「そう。それもワイルドホースと相性が良いんだ。だから、この商売一筋さ!」

「それは幸運」

 テイマーは、魔物を飼い慣らす特殊な能力を持った人の総称だ。
 飼い慣らせる魔物との相性があり、どんな魔物でも飼い慣らせるわけではない。 
 それゆえ、使い勝手の悪い能力と言われている。

 馬形の魔物ワイルドホースをテイム出来るこの馭者は、テイマーの中でもかなり使い勝手の良い能力持ちだ。

 馭者とミオが世間話をしていると、森の間からゴブリンが現れた。
 五匹の集団で、手に棍棒を持ち、道の真ん中で通せんぼしている。

 ミオは荷台に乗る客を一瞥する。

 馬車を護衛する冒険者はいない。
 乗客は、ミオと行商人の若い男が一人、そして年若い母と小さな娘の四人だ。

(私が魔法で蹴散らすしかありませんね。まあ、ゴブリン五匹なら軽い物です。駅馬車なら護衛の冒険者一人くらいは、乗せておいて欲しいです……)

 ミオは仕方なく馭者に告げた。

「私は魔法使いです。前方のゴブリンですが――」

「ああ! 大丈夫! 大丈夫! 座っててよ!」

「え……」

 ミオは馭者の言う通り荷台に座った。
 馭者は手綱を振って、ワイルドホースをゴブリンへ向かってけしかけた。

「それいけ!」

 上り坂にもかかわらず馬車が加速した。
 ガタガタとオンボロ馬車が揺れる。

 ミオは驚いたが、他の乗客たちは慣れているようで、荷台の縁をしっかりと握り振り落とされないようにしている。
 ミオも荷台の縁を握って、ワイルドホースと馭者の様子をうかがった。

「BOLULULU!」

「GYAAA!」

 ワイルドホースは、ゴブリンの集団に突っ込むと、一匹のゴブリンを前足で踏み潰し、また一匹のゴブリンを後ろ足で蹴り飛ばした。
 他二匹のゴブリンは、ワイルドホースの体当たりを受けて、森の中へ吹っ飛んでいった。

「あらよっと!」

 馭者は、右手に持った鞭を振るい、最後のゴブリンを空高く放り上げた。
 ゴブリンは空中で、バタバタと手足を動かしたが、地面に落下し馬車にひき殺されてしまった。

 ミオはワイルドホースと馭者の鮮やかな戦闘を見て唖然とした。
 馭者は、ミオに振り返り得意満面の笑顔を見せた。

「ざっとこんなモンさ! へへ!」

「お、お見事でした……」

 ミオは、荷台の乗客が何事もなかったように平然としているのが気になり、行商人の若い男に聞いてみた。

「あの……これがフリージア王国では、普通なのでしょうか?」

 行商人の若い男は、何とも言えない酸っぱい物を口に突っ込まれたような顔をして答えた。

「いや……、シメイ伯爵の御領地だけだね。あそこが異常なんだ……」

「なぜでしょう?」

「そりゃ、ご領主のシメイ伯爵様が、異常だからさ」
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