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第六章 二人の王子

第101話 異世界飛行機グース改!

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 アンジェロ領の領都キャランフィールドに戻ってきた。

 今は二月。
 アンジェロ領がある荒れ地に雪は降らないが、冬の寒さはかなり厳しい。

 これからは本腰を入れて、開発と内政に精を出す。

 俺は異世界飛行機グースの改良に手をつけることにした。
 会議室に関係メンバーを招集する。

 俺、魔導エンジン開発者のエルフ族ファー・ブラケット、リス族のキュー、リス族の飛行隊長や開発に携わるリス族の皆さんだ。

 リス族はあまり人化していないので、見た目は大きなリスのぬいぐるみだ。
 大きなリスのぬいぐるみが会議室で、ワチャワチャしている光景は心和む。

 俺、ファー・ブラケット、リス族のキューは、メロビクス戦役参加メンバーからのアンケートを読む。

「じいからは、グースの台数を増やしてくれと希望が出ているね。戦場での連絡、状況把握の為にグース一機を手元に欲しかったそうだよ」

「グース増産の希望は、他領からも出ています。シメイ伯爵、第二騎士団、アルドギスル王子、ヒューガルデン伯爵、などなどキリがないです。祝勝会でグースを展示しましたが、購入希望者が後を絶ちませんでした」

 リス族のキューが愚痴る。
 グースの展示では、フリージア王国の貴族だけでなく、ゲストで呼ばれた外国の貴族や大商人もグースを欲しがったらしい。
 グイグイと要求を押しつける人もいて、キューは断るのに苦労したそうだ。

「キューちゃん、大変だったね。しばらくは、グースを売るつもりはないからさ」

「しかし、増産はしたいです。六機では、定期便のローテションが辛いです」

「そうだね。整備を考えると予備機を増やしたいな……。路線も増やしたいし……」

 俺はグースの定期便を就航させた。

 クイックの販売が主目的だが、旅客も兼ねている。
 客は後部座席に一人しか乗れないが、馬車や馬なら何日もかかるところを数時間で移動できるのだから革命的だろう。


 定期便は、アンジェロ領の領都キャランフィールドを起点に運行する。

 ■一日二便往復 午前・午後
 ・キャランフィールド⇒王都 
 ・キャランフィールド⇒商業都市ザムザ

 ■五日に一便往復
 ・キャランフィールド⇒シメイ伯爵領
 ・キャランフィールド⇒アルドギスル王子領

 ■不定期便
 ・各地の領主貴族へのクイック配達


 将来はキャランフィールドをハブ空港にする狙いだ。
 宿泊施設も造って、チャリチャリ儲けるぞ!

 その為にも、グースの改良・増産はしておきたい。

「魔導エンジンの増産は出来ますか?」

「大丈夫です。アンジェロさんが連れてきたエルフが協力してくれるので、すぐ出来ますよ」

 ファー・ブラケットが請け負ってくれた。

 ハジメ・マツバヤシ領から救出した奴隷にされていたエルフたちは、エルフの里に帰るのを拒んだのだ。
 ルーナ先生やファー・ブラケットによると、『里に帰れないような事をされた』そうだ。

 俺も深くは聞かなかったが、辱めを受けたのだろう。
 ハジメ・マツバヤシの怪しげな部屋……。
 あの部屋じゃなあ……。

 俺は奴隷だったエルフたちを住民として受け入れた。
 しばらくは、魔道具製作を手伝ってもらって心の傷を癒やして貰おう。

「キューちゃん、グースを制作する素材は足りている?」

「大丈夫です。ワイバーン素材や魔物素材は、まだあります。ホレックさんが予備のボールベアリングや金属部品をかなり多めに造ってくれたので……。そうですね……十機は作れます」

「わかった。じゃあ、グースを十機増産しよう。ファーさん、魔導エンジンも十台お願いします」

「はい。お任せ!」

 グース増産の話が進んだ所で、リス族の飛行隊長がスッと手を上げた。

「アンジェロ様。パイロットの育成もお忘れなく」

「あっ! そうだね! どうしようかな……」

 そろそろリス族以外のパイロットも育成したい。
 しかし、アンジェロ領は人手不足だ。
 もう、しばらくは、リス族に頼ることになる。

「リス族の長に人を送って貰おう」

「そうして下さい。教育は私がやります」

「頼むね。さて、ここからは、グースの改良計画を立てたい」

 改めてみんなから集めたアンケートを見る。
 キューちゃんとファー・ブラケットも、俺の手元にあるアンケートをのぞき込む。

 ファーさんが眉間にしわを寄せる。

「意見がバラバラですね……」

「そうだね……。『人をもっと乗せるようにして欲しい』、『寒いのを何とかしろ』、『防御力を上げろ』……」

「うーん。グースを改良するにしても、どんな方向性に改良するかだよね。それによって、魔導エンジンの改良も変わってくるから」

「そうですよね……。ただ、大型化すると滑走路の問題が出てくる……」

 異世界飛行機グースは、ウルトラライトプレーンなので滑走距離が短い。
 機体重量も軽いので、ちょっとした平地や草地でも離着陸可能だ。

 だが、ペイロード――積載可能重量を増やせば、機体が大型化する。
 機体が大型化すれば、滑走距離も長くなる。

 離着陸時の衝撃も大きくなるので、しっかり舗装した着陸場所がないと着陸の衝撃で機体が地面にめり込んでしまう。

 そうなると滑走路が必須になるけれど、各地にちゃんとした滑走路を敷設するには手間もコストもかかる。

「大型化は避けたいな……。インフラ整備が追いつかない」

 将来的に異世界飛行機は、輸送機、旅客機、軍用機と用途別に派生し大型化すると思うが、今のところは『何でも屋の初期プロペラ機』で良いと思う。

 俺は自分が希望する機能を羊皮紙に書き出して、ファーさん、キューちゃん、リス族の技術者に見せた。

「「「「これは……」」」」


 1 主翼に魔力を通し、VTOL化する。
 2 プロペラにも魔力を通し、パワーアップする。
 3 プロペラを四枚羽根にし、パワーアップする。
 4 グースの武装戦力をあげる。攻撃用魔道具を積み込む。


 この異世界には、魔力がある。
 転生前の地球世界との大きな違いだ。

 であれば……魔力をもっと異世界飛行機に活用する方向性だ。

 俺の出した課題にファー・ブラケットが食いついてきた。

「なるほど、なるほど。面白いですね! ワイバーンは、魔力を翼に流して飛翔していますから、1は出来そうですね。2のプロペラに魔力を通すのは、風属性の魔石や魔法陣と組み合わせるかなあ……」

「そうそう。その方向性で考えて下さい」

 VTOLは、垂直離着陸の事だ。
 英語では、バーティカル・テイク・オフ・アンド・ランディング・エアクラフト。

 グースは小型軽量の機体だから、隠密行動にも向いていると思う。
 垂直離着陸が出来れば、『お城のバルコニーに降りて要人を救出する』なんて作戦も可能だろう。
 山岳地帯や森林など、現在のグースでは降りられない場所にも着陸できるから、運用範囲も広がる。

 そしてプロペラにも魔力を通して、プロペラから発生する風量や風力をアップすれば、飛翔速度が上がるだろう。
 機体重量と相談になるが、ペイロードも多少上げられるかもしれない。

「3は、キューちゃんたちリス族の出番だね」

「プロペラを四枚羽根に……。二つのプロペラを十字に組み合わせれば、出来ますね」

「そう、そう。中央に凹型に切れ込みを入れて、組み合わせれば出来ると思う」

「参考にさせていただきましょう」

「4は、エルフ族リーダーのラッキー・ギャンブルに相談して進めて欲しい」

 グースに固定武装を取り付けようと思う。
 今回のメロビクス戦役では、後部座席に魔法使いを乗せて運用した。

 しかし、魔法使いは、そもそも数が少ない。
 グースの為に、平時も魔法使いを抑えておくのは現実的じゃない。

 それなら、攻撃用の魔道具をグースに搭載出来ないだろうか?
 攻撃用の魔道具なら、魔法使いでなくても扱えるのでは?

 その辺りは、魔道具製作を担当しているエルフとよろしく相談して欲しい。

「俺は他のプロジェクトもあるから、キューちゃんの方で取りまとめてよ」

「わかりました。責任重大ですが、がんばります! 増産する十機のうち、一機を改良用にしましょう。ところで、改良するグースの機体名はどうしますか?」

「グース改!」

 よしっ! グース改の開発も決まった!
 次は、異世界自動車の開発だ!
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