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第五章 メロビクス戦争
第83話 黒丸と獣人少女姉妹
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黒丸は戦場へ向かって冬空を飛んでいた。
既に太陽は真上から西に傾いていた。
「お腹がすいたのである。どこか町か村に降りて食事を――あれは!?」
黒丸の目が一筋の煙をとらえた。
どす黒い煙……何度か戦場で見た煙だ。
やがて、煙は二筋、三筋と増えだした。
「ふむ。あそこは戦場ではないであるが、何かが起こっているのである」
黒丸は飛翔速度を上げ、煙の立ち上る方角へ急いだ。
五分ほど飛ぶと煙の正体が見えてきた。
「村が襲撃されているのである。盗賊であるか?」
まだ距離があるが、黒丸の目には村の様子がはっきりと見えた。
二十ほどの家が並ぶ村が、襲撃されていた。
道には村人の遺体が並び、遺体には尻尾や獣耳がついていた。
「獣人の村であるな。気の毒である……」
黒丸は村の上空にたどり着いた。
村人は全員が排除されたらしく、家々に襲撃者が入り込み家捜しの最中であった。
「おー! 肉があるぜ!」
「小麦はあまりないな」
「肉でも良い! 運び出せ! とにかく食料を探せ!」
家から出てきた兵士と指揮官を上空から見て、黒丸がつぶやく。
「あの軍装は、メロビクス王大国軍であるな。はあ……、略奪とは……。初代メロビクス王の理想は、どこへ行ったのであるか」
右を見れば村人の遺体。
左を見れば村人の遺体。
黒丸は心を痛めた。
「皆殺しであるか。ひどいのである」
この異世界の戦争では、略奪は当たり前のように行われていた。
抵抗をすれば見せしめに男を数人殺すが、村人を皆殺しにすることは行われない。
皆殺しにすれば、村人から地元の情報を得られなくなるし、占領後の税収がなくなってしまう。
つまり、襲撃した村を皆殺しにするデメリットが大きいのだ。
それでもこの村は皆殺しにあった。
よほど強く抵抗をしたか、あるいは……。
「獣人の村だからであるな」
異世界では、獣人に対する差別意識があり、特にメロビクス王大国では、獣人差別が強い。
いや、差別というのは正確ではない。
メロビクス王大国の人族は、獣人を同じ人と見られないのだ。
――人と同じ言葉をしゃべる生物。
――人と同じ言葉をしゃべる獣。
獣人は、その程度の存在と思われている。
人族よりも、はるかに命の価値が軽いのだ。
黒丸は淡々と村を見下ろす。
気の毒に感じるが、これまでの人生で何度か見た光景。
戦争になれば、避けて通れない略奪と殺戮の現場。
黒丸の心は、動かなかった。
それよりも敵の戦力や状況を冷静に観察し始めた。
「襲撃した兵士は百……もう少しいるのである。装備は鉄製で新品であるな。兵士の遺体がないところを見ると、不意をついて襲いかかったのである」
黒丸は上空から観察を続ける。
肉を中心に食料が、運び出されている。
恐らく魔物の肉であろう。
兵士の中には、斧などの鉄製品や毛皮などを略奪している者もいる。
宝石ほど高価でなくとも、末端の兵士にとっては、一財産であろう。
「アンジェロ少年の所へ行くのである。多分、近いのである」
黒丸は、村から立ち去ろうとした。
その時、子供の声が耳に入った。
「やめて! やめてよ! 妹を放して!」
黒丸は声のする方へ空中で振り向く。
そこには幼い獣人の姉妹と兵士が三人いた。
兵士は小さな女の子の首根っこをつかみ持ち上げ、刃物を突きつけている。
「ほーれほれ! おまえの妹を切り刻むぞお~」
「ひっひっ! 早くやっちまえよ!」
「ほれ、どうする! 妹がどうなるかな~?」
妹を助けようと、姉は必死で兵士にしがみつくが、兵士は姉を蹴り飛ばす。
姉の顔が泥にまみれる。
「ひゅー! 良い蹴りだな! オイ!」
「あははは! 泣いてやがるよ!」
「いいぞ! もっと泣け!」
空の上、無言で腕を組んでいた黒丸が動いた。
背中のオリハルコンの大剣を抜くと、獣人の妹を持ち上げている兵士に向かって投げつけた。
オリハルコンの剣は空を切り裂き、兵士の背中から腹まで貫いた。
兵士が前のめりに倒れ、獣人の妹をつかむ手が緩んだ。
獣人の妹は、兵士の手から逃れ姉に抱きついた。
「お姉ちゃん!」
妹をしっかりと抱きしめる姉。
その前に、黒丸がゆっくりと降り立った。
姉が黒丸に礼を告げる。
「おじさん。ありがとう」
「偉いのであるな。妹を守ろうとがんばったのである。立派である」
獣人の姉は目に涙を浮かべ、しかし、気丈に歯を食いしばりながら強くうなずいた。
「お父さんも、お母さんも、死んじゃったの。だから妹は私が守るの!」
獣人の少女の言葉を聞いて、黒丸の心の中で何かが、ほんの少し動いた。
「そうであるな……。守るのであるか……。ふう、さて――」
黒丸は剣の刺さった兵士の方へ振り向いた。
兵士の体から無造作にオリハルコンの大剣を引き抜く。
「う……やめて……くれ……がっ!」
兵士は体から血をまき散らし、低くうめいた。
黒丸は淡々と兵士に語りかける。
「安心して死ぬのである。仲間も一緒である」
黒丸がオリハルコンの剣を横に払うと、もう一人の兵士の首が飛んだ。
ゴトリと音を立てて、兵士の首が地面に落ちる。
同時に生きている兵士が、顔を引きつらせながら叫び声を上げた。
「オイ! こっちだ! 生き残りがいるぞ! 来てくれ! 敵が――」
言い終わる前に黒丸の大剣が、兵士の頭を直上から叩き潰した。
ひしゃげた音が村に響く。
わらわらとメロビクス王大国軍の兵士が集まり黒丸と獣人の姉妹を囲む。
その数は百人以上だ。
士官が前へ進み出て、黒丸に誰何した。
「貴様! トカゲ獣人風情が!」
「トカゲではないのである。それがしは、ドラゴニュートである。竜人である」
「やかましい! 何をしておるか!」
「害虫を駆除したのである。貴官が害虫の親玉であるか?」
「貴様!」
士官は腰のサーベルを抜くと、真っ向正面から黒丸に斬り付けた。
黒丸は無造作に、士官の腕ごと払いのけた。
サーベルをつかんだままの士官の腕が空を飛び、士官が甲高い悲鳴を上げ地面を転げ回る。
「ああ! 腕……俺の腕! い、痛い! いた――」
「うるさいのである」
士官が言い終わる前に、黒丸が大剣を突き刺し止めをさした。
黒丸は士官から大剣を引き抜くと、片膝をついた姿勢で大剣を横に払った。
名工ホレックが鍛えたオリハルコンの大剣にとって、鉄製の鎧など紙同然であった。
五人の兵士が、一振りで胴を輪切りにされた。
「幼い子を嬲るとは、人とは言えぬ所業なのである。よって! おまえたちは人ではないのである。害虫である!」
黒丸はゆっくりと歩みながら言葉を発し、剣を振るう。
その度に、メロビクス王大国軍兵士が、命を落とした。
「害虫を駆除するのに、理由はいらないのである」
メロビクス王大国軍の兵士は、逃げ出したかった。
しかし、黒丸が発する威圧にあてられて、足が動かなかった。
震える手で剣を握れた者は、まだマシな方で、ほとんどの兵士は何も出来ず、ただ斬られた。
メロビクス王大国軍兵士の無残な遺体がまき散らされ、地面は真っ赤な血で染まった。
やがて、血は地面に吸われ、陽に照らされて乾き、どす黒く変色した。
血なまぐさい惨劇を、獣人の少女二人はしっかりと見ていた。
獣人特有の闘争本能が刺激され、少女二人は恐怖を感じなかった。
自分たちを殺そうとしていた兵士が消え去ることで、自分たちが助かる。
安心と感謝の気持ちを黒丸に持った。
村を襲撃したメロビクス王大国軍の兵士を、黒丸は無言の肉塊に変えた。
真っ赤に染まったオリハルコンの大剣を、くるりと回し血振りを行う。
白さの戻った大剣を背負い、獣人少女姉妹に近づく。
「竜のおじちゃんありがとう!」
「ありがとう!」
「うむ。二人は、どうするであるか? それがしは、友達のところへ行くのである。一緒に行くであるか?」
「「うん!」」
黒丸は獣人少女二人を背負って、空を飛びアンジェロの元へ向かった。
既に太陽は真上から西に傾いていた。
「お腹がすいたのである。どこか町か村に降りて食事を――あれは!?」
黒丸の目が一筋の煙をとらえた。
どす黒い煙……何度か戦場で見た煙だ。
やがて、煙は二筋、三筋と増えだした。
「ふむ。あそこは戦場ではないであるが、何かが起こっているのである」
黒丸は飛翔速度を上げ、煙の立ち上る方角へ急いだ。
五分ほど飛ぶと煙の正体が見えてきた。
「村が襲撃されているのである。盗賊であるか?」
まだ距離があるが、黒丸の目には村の様子がはっきりと見えた。
二十ほどの家が並ぶ村が、襲撃されていた。
道には村人の遺体が並び、遺体には尻尾や獣耳がついていた。
「獣人の村であるな。気の毒である……」
黒丸は村の上空にたどり着いた。
村人は全員が排除されたらしく、家々に襲撃者が入り込み家捜しの最中であった。
「おー! 肉があるぜ!」
「小麦はあまりないな」
「肉でも良い! 運び出せ! とにかく食料を探せ!」
家から出てきた兵士と指揮官を上空から見て、黒丸がつぶやく。
「あの軍装は、メロビクス王大国軍であるな。はあ……、略奪とは……。初代メロビクス王の理想は、どこへ行ったのであるか」
右を見れば村人の遺体。
左を見れば村人の遺体。
黒丸は心を痛めた。
「皆殺しであるか。ひどいのである」
この異世界の戦争では、略奪は当たり前のように行われていた。
抵抗をすれば見せしめに男を数人殺すが、村人を皆殺しにすることは行われない。
皆殺しにすれば、村人から地元の情報を得られなくなるし、占領後の税収がなくなってしまう。
つまり、襲撃した村を皆殺しにするデメリットが大きいのだ。
それでもこの村は皆殺しにあった。
よほど強く抵抗をしたか、あるいは……。
「獣人の村だからであるな」
異世界では、獣人に対する差別意識があり、特にメロビクス王大国では、獣人差別が強い。
いや、差別というのは正確ではない。
メロビクス王大国の人族は、獣人を同じ人と見られないのだ。
――人と同じ言葉をしゃべる生物。
――人と同じ言葉をしゃべる獣。
獣人は、その程度の存在と思われている。
人族よりも、はるかに命の価値が軽いのだ。
黒丸は淡々と村を見下ろす。
気の毒に感じるが、これまでの人生で何度か見た光景。
戦争になれば、避けて通れない略奪と殺戮の現場。
黒丸の心は、動かなかった。
それよりも敵の戦力や状況を冷静に観察し始めた。
「襲撃した兵士は百……もう少しいるのである。装備は鉄製で新品であるな。兵士の遺体がないところを見ると、不意をついて襲いかかったのである」
黒丸は上空から観察を続ける。
肉を中心に食料が、運び出されている。
恐らく魔物の肉であろう。
兵士の中には、斧などの鉄製品や毛皮などを略奪している者もいる。
宝石ほど高価でなくとも、末端の兵士にとっては、一財産であろう。
「アンジェロ少年の所へ行くのである。多分、近いのである」
黒丸は、村から立ち去ろうとした。
その時、子供の声が耳に入った。
「やめて! やめてよ! 妹を放して!」
黒丸は声のする方へ空中で振り向く。
そこには幼い獣人の姉妹と兵士が三人いた。
兵士は小さな女の子の首根っこをつかみ持ち上げ、刃物を突きつけている。
「ほーれほれ! おまえの妹を切り刻むぞお~」
「ひっひっ! 早くやっちまえよ!」
「ほれ、どうする! 妹がどうなるかな~?」
妹を助けようと、姉は必死で兵士にしがみつくが、兵士は姉を蹴り飛ばす。
姉の顔が泥にまみれる。
「ひゅー! 良い蹴りだな! オイ!」
「あははは! 泣いてやがるよ!」
「いいぞ! もっと泣け!」
空の上、無言で腕を組んでいた黒丸が動いた。
背中のオリハルコンの大剣を抜くと、獣人の妹を持ち上げている兵士に向かって投げつけた。
オリハルコンの剣は空を切り裂き、兵士の背中から腹まで貫いた。
兵士が前のめりに倒れ、獣人の妹をつかむ手が緩んだ。
獣人の妹は、兵士の手から逃れ姉に抱きついた。
「お姉ちゃん!」
妹をしっかりと抱きしめる姉。
その前に、黒丸がゆっくりと降り立った。
姉が黒丸に礼を告げる。
「おじさん。ありがとう」
「偉いのであるな。妹を守ろうとがんばったのである。立派である」
獣人の姉は目に涙を浮かべ、しかし、気丈に歯を食いしばりながら強くうなずいた。
「お父さんも、お母さんも、死んじゃったの。だから妹は私が守るの!」
獣人の少女の言葉を聞いて、黒丸の心の中で何かが、ほんの少し動いた。
「そうであるな……。守るのであるか……。ふう、さて――」
黒丸は剣の刺さった兵士の方へ振り向いた。
兵士の体から無造作にオリハルコンの大剣を引き抜く。
「う……やめて……くれ……がっ!」
兵士は体から血をまき散らし、低くうめいた。
黒丸は淡々と兵士に語りかける。
「安心して死ぬのである。仲間も一緒である」
黒丸がオリハルコンの剣を横に払うと、もう一人の兵士の首が飛んだ。
ゴトリと音を立てて、兵士の首が地面に落ちる。
同時に生きている兵士が、顔を引きつらせながら叫び声を上げた。
「オイ! こっちだ! 生き残りがいるぞ! 来てくれ! 敵が――」
言い終わる前に黒丸の大剣が、兵士の頭を直上から叩き潰した。
ひしゃげた音が村に響く。
わらわらとメロビクス王大国軍の兵士が集まり黒丸と獣人の姉妹を囲む。
その数は百人以上だ。
士官が前へ進み出て、黒丸に誰何した。
「貴様! トカゲ獣人風情が!」
「トカゲではないのである。それがしは、ドラゴニュートである。竜人である」
「やかましい! 何をしておるか!」
「害虫を駆除したのである。貴官が害虫の親玉であるか?」
「貴様!」
士官は腰のサーベルを抜くと、真っ向正面から黒丸に斬り付けた。
黒丸は無造作に、士官の腕ごと払いのけた。
サーベルをつかんだままの士官の腕が空を飛び、士官が甲高い悲鳴を上げ地面を転げ回る。
「ああ! 腕……俺の腕! い、痛い! いた――」
「うるさいのである」
士官が言い終わる前に、黒丸が大剣を突き刺し止めをさした。
黒丸は士官から大剣を引き抜くと、片膝をついた姿勢で大剣を横に払った。
名工ホレックが鍛えたオリハルコンの大剣にとって、鉄製の鎧など紙同然であった。
五人の兵士が、一振りで胴を輪切りにされた。
「幼い子を嬲るとは、人とは言えぬ所業なのである。よって! おまえたちは人ではないのである。害虫である!」
黒丸はゆっくりと歩みながら言葉を発し、剣を振るう。
その度に、メロビクス王大国軍兵士が、命を落とした。
「害虫を駆除するのに、理由はいらないのである」
メロビクス王大国軍の兵士は、逃げ出したかった。
しかし、黒丸が発する威圧にあてられて、足が動かなかった。
震える手で剣を握れた者は、まだマシな方で、ほとんどの兵士は何も出来ず、ただ斬られた。
メロビクス王大国軍兵士の無残な遺体がまき散らされ、地面は真っ赤な血で染まった。
やがて、血は地面に吸われ、陽に照らされて乾き、どす黒く変色した。
血なまぐさい惨劇を、獣人の少女二人はしっかりと見ていた。
獣人特有の闘争本能が刺激され、少女二人は恐怖を感じなかった。
自分たちを殺そうとしていた兵士が消え去ることで、自分たちが助かる。
安心と感謝の気持ちを黒丸に持った。
村を襲撃したメロビクス王大国軍の兵士を、黒丸は無言の肉塊に変えた。
真っ赤に染まったオリハルコンの大剣を、くるりと回し血振りを行う。
白さの戻った大剣を背負い、獣人少女姉妹に近づく。
「竜のおじちゃんありがとう!」
「ありがとう!」
「うむ。二人は、どうするであるか? それがしは、友達のところへ行くのである。一緒に行くであるか?」
「「うん!」」
黒丸は獣人少女二人を背負って、空を飛びアンジェロの元へ向かった。
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◇
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