66 / 358
第四章 ウイスキーと異世界飛行機の開発
第66話 異世界飛行機テスト飛行
しおりを挟む
「ふう。飛行場は暑いな」
俺はテスト飛行前の異世界飛行機の操縦席で独り言ちる。
アンジェロ領で迎える初めての夏。
大陸北部にあるアンジェロ領は、夏でもそれほど暑くはならないようだ。体感で昼間は二十五度くらい、夜になるとかなり涼しい。
記憶の中にある日本の猛暑に比べると過ごしやすい。
今日は異世界飛行機の一回目のテスト飛行を行う。
土魔法で造成した、だだっ広い飛行場に俺の乗った飛行機『グース』がポツンと待機している。
飛行場は荒れ地エリアに作ったので遮蔽物がない。その上、荒れ地エリアは風も吹かないので夏場はちょっと暑い。
飛行場に夏の日差しが降り注ぐと滑走路の石は熱を持ち、輻射熱がパイロット席に座る俺を焼く。
「まあ、今日は失敗する予定だけどね……」
開発メンバーや見学者たちは、滑走路から離れた所に待機している。聞こえないのを良い事に、俺は一人で言いたい放題だ。
今回テスト飛行に漕ぎ着けた異世界飛行機『グース』は、『ウルトラ・ライト・プレーン』だ。
ウルトラ・ライト・プレーンは、転生前の日本でTVやインターネットで見かけた。ハンググライダーの下に小さなエンジンと座席を設えた超小型飛行機で、TVの中では渡り鳥と一緒に編隊を組んで空を飛んでいた。
ウルトラ・ライト・プレーンの利点は、コンクリート製の飛行場がなくても、平地、草地なら離着陸出来る上に、離着陸に必要な距離も短い。機体重量が軽いからだ。エンジンも、ちゃんとした飛行機ほどのパワーを必要としない。
欠点としては、操縦者はほぼむき出しの状態なので、空の寒さに影響を受けるし、空気の薄い高度まで上昇は出来ない。
また、機体強度がなく、エンジンが小さいので、強風に弱い。
今回テスト飛行をする異世界飛行機『グース』は、ハンググライダーのような三角形の布製翼の下に木材で骨組みを作り操縦者が座る。魔導エンジンとプロペラは操縦者の後ろに取り付けた。
魔導エンジンを除くとほとんどが木製で、テスト機というよりは、実物大のモック――木製の模型だ。正直、このテスト機で飛行は出来ないと思う。
今日は失敗しても良いのだ。
異世界飛行機の構想は、大分前からあった。
女神ズからこの世界のポイントを上げろと言われた頃から朧げに考えていた。
『異世界で飛行機を飛ばしたら、みんなビックリするだろう!』
飛行機を開発しようと思ったきっかけは、そんな悪戯心だ。
実現方法を考えているうちに『自分で作った飛行機で空を飛びたい!』と気持ちが強くなった。
つまりは……ロマン!
サンテグジュペリに、愛を捧げるのだ!
もちろん、ロマンだけではない。
飛行機を開発すれば、情報伝達の高速化や軍事利用などの実利もある。
飛行魔法を使えない者でも、空を飛ぶ事が出来るのは大きい。
技術ツリーをコツコツと書き地球の技術体系を整理して、ルーナ先生の妹ファーさんに魔導エンジンの開発を手紙で依頼した。
手紙のやり取りは五年以上続き、ルーナ先生の妹ファーさんはアンジェロ領に引っ越して来てくれた。
ファーさんはダメな理系女子って感じで、髪の毛はいつももしゃもしゃ。動きやすいからとショートパンツを愛用しているが、あまり色気を感じさせない。
俺とファーさんは、五年間の手紙のやり取りがあるので、異世界飛行機が『どんな物なのか』具体的なイメージを共有できている。
だが、ホレックのおっちゃんや他のエルフ、リス族のキューは、異世界飛行機のイメージが掴めていない。
そのせいで作業に迷いがあるようだ。イマイチ作業スピードが上がらない。
そこで、俺はみんなを急かして無理矢理『グース』を組み上げ、テスト飛行を強行する事にしたのだ。
グースが飛ばなくても動いている所を見れば、自分の作っているパーツがどんな役割なのか? 自分の作業は何の為にやっているのか? その辺が掴めると思う。
滑走路わきに立つリス族のキューが手を上げた。ゴーサインだ。
俺は操縦席から振り返り、機体後部の魔導エンジンのスイッチをオンにした。
ハイブリッド車が走り出す時に似たフィーンという音が聞こえて来た。魔導エンジンが燃料タンクの魔石から魔力を取り込み起動した証拠だ。
魔導エンジンが動き出し、機体後部の木製プロペラがゆっくりと回転を始めた。
「おおっ!」
「回転した!」
「魔導エンジンは順調!」
「すごい!」
「画期的だ!」
滑走路脇で様子を見ているエルフやホレックのおっちゃんたちから歓声が上がる。
魔力を回転運動に変換する事、無属性魔石の魔力を燃料にする事はクリアだ。ルーナ先生の妹ファーさんが、この五年間取り組んで来た研究成果が実証された。
さて、ここからどうなりますか……。
プロペラの回転速度が上がり、徐々に異世界飛行機『グース』が前進を始めた。
タイヤも木製なので乗り心地が悪い。運転席にゴツンゴツンと振動が伝わって来る。滑走路は魔法で造成したので、真っ平で継ぎ目はない。振動が伝わるという事は、タイヤが歪んでいるか、車軸の不具合だな。
長い滑走路をグースが進んでいくが、スピードが上がらない。
スクーターがゆっくり走る程度の速度しか出ない。これではとても飛行は出来ないな。
プロペラの軸受けの部分は木製なので、キイキイと摩擦音がうるさい。これでは魔導エンジンのパワーを相当ロスしている。
魔導エンジン自体もパワーが足りない。もっとパワーアップしないと空には飛びたてない。
滑走路の端まで来たので機体から降りて手作業でグースを回転させ、また滑走路を走る。
すると見学に来ていた白狼族のサラがグースに並走し出した。
「アンジェロ! 凄いな! ちゃんと走っているじゃないか!」
「ああ、でも今回は失敗だよ。空を飛ぶ事は出来なかった」
俺は気落ちした声でサラに答えた。失敗するだろうとは思っていたけれど、実際に失敗するとガッカリ来る。
「でも、走っているぞ! 凄いぞ! 凄いぞ! ハハハハハ!」
この異世界の人にとっては、魔道具が自走するだけでも画期的な出来事だろうな。
サラは楽しそうに笑うとグースにヒョイと飛び乗り、俺の背中に抱き着いて来た。サラと二人乗りのグースは、ノンビリと滑走路を進む。ふふ、悪くないな。気持ちが和んだ。
「ありがとう。サラ」
俺は小さな声でサラに礼を言った。だけどプロペラの音がうるさいみたいで、サラにはよく聞こえなかったらしい。
「うん? 何か言ったか?」
「別にー!」
後ろからギュッと抱き着いて来たサラに照れながら、俺は開発メンバーが待つ方へグースを走らせた。
魔導エンジンのスイッチを切って、グースが完全に停止すると開発メンバーが集まって来た。
さて、課題はまだまだ多いが、一つ一つみんなで力を合わせて乗り越えて行かないとな。
今日が異世界飛行機『グース』開発の再スタート日だ。
*
「ご苦労だった。それでは報告せよ」
リス族の族長ペーは粗末な小屋の囲炉裏のそばに座り、目の前に座るリス族の男に報告を命じた。男はアンジェロ領とリス族の間を定期的に往復している連絡員だ。
族長ペーも連絡員もあまり人化していない為、大きなリスのぬいぐるみが向かい合って話をしているように見える。
「はっ! キュー様は新しい魔道具開発に加わっており、先日そのテストが行われました」
「ふむ。空を飛ぶ魔道具だったな? テストは見たのか?」
「はい! それはもう不思議な光景でした! こう……大きな物が動いたのですよ!」
族長のペーは男の話している事が、さっぱりわからなかった。
ただ、何か凄い物をアンジェロ領では制作しており、その制作に自分の息子が加わっている事は理解出来ていた。
「うむ。それで空飛ぶ魔道具は完成したのか?」
「いえ。まだ難しいそうです。そこでアンジェロ殿から依頼が来ております。空飛ぶ魔道具の制作にリス族の人手を借り受けたいそうです」
「ほう!」
族長ペーは、喜びの声を上げた。
アンジェロたちと接触してから、獣人三族の暮らしに変化が訪れた。
それまでは騎士ゲーと細々と物々交換を行うだけだった。物々交換で得られるのは、ほんの少しの塩と大麦だけ。
獣人たちの食事は質素で、少しの塩を振りかけただけの魔物の肉と大麦のカユであった。
だが、アンジェロと交易を持ってから小麦の柔らかいパンを食べられるようになり、肉に使う塩の量も増えた。
どうやら前の交易相手より、新しい人族の長であるアンジェロは良い交易相手だ。
獣人の族長たちはアンジェロと積極的に交流を持つ事を決め、自分たちの子供――サラ、ボイチェフ、キューの三人を領主エリアに常駐させる事にした。
すると子供たちは、ちょこちょこと仕事の依頼を引き受けて来る。
人族の長アンジェロは、小麦、塩、酒、鉄製の道具を対価として支払ってくれた。獣人の族長たちは喜び、人族の若い長アンジェロへの信頼を深めた。
だが、リス族の族長は、自分の部族が他の獣人族――白狼族と熊族より少し出遅れたと考えていた。
白狼族は狩りの得意な獣人部族で、魔物の素材や採取した薬草を定期的に人族の長アンジェロと交換している。
オマケに白狼族族長の娘サラは、人族の長アンジェロについて回っているらしい。
熊族はとにかく力が強い。若い熊族の男を木こりとして人族の集落へ派遣し対価を得ている。
だが、自分たちリス族は……手先が器用で得意なのは道具作りだけだ。
人族の持つ道具の方が、物が良いので、取り引きをする材料がない。
獣人三族の中で力が弱く、元々少し引け目を感じていたリス族は、自分たちの置かれた状況に危機感を感じていた。
これまでは自分たちが獣人三族の中で道具作りを引き受ける事で、存在価値を示して来た。
だが、人族の鉄製の道具が入って来た為、自分たちの存在価値が下がり始めている。
(リス族が生き残る為には、どうしたら良いのか……)
族長のペーは、悩んでいた。
そこへ人族の長アンジェロから、『リス族の人手を借り受けたい』と言う依頼は心が晴れやかになる出来事だった。
自分たちリス族は必要とされている!
その事を族長ペーは素直に喜んだ。
(ここかも知れぬ……)
自分たちリス族が生き残るには、空飛ぶ魔道具制作に貢献する事だと族長ペーは考えた。
「わかった! 人族の長の依頼を受けよう!」
リス族は派遣を決定した。
こうしてアンジェロ領北部にある獣人たちは、徐々にアンジェロに依存し取り込まれて行くのであった。
アンジェロ領は、多部族多人種が共存する領地として発展しようとしていた。
俺はテスト飛行前の異世界飛行機の操縦席で独り言ちる。
アンジェロ領で迎える初めての夏。
大陸北部にあるアンジェロ領は、夏でもそれほど暑くはならないようだ。体感で昼間は二十五度くらい、夜になるとかなり涼しい。
記憶の中にある日本の猛暑に比べると過ごしやすい。
今日は異世界飛行機の一回目のテスト飛行を行う。
土魔法で造成した、だだっ広い飛行場に俺の乗った飛行機『グース』がポツンと待機している。
飛行場は荒れ地エリアに作ったので遮蔽物がない。その上、荒れ地エリアは風も吹かないので夏場はちょっと暑い。
飛行場に夏の日差しが降り注ぐと滑走路の石は熱を持ち、輻射熱がパイロット席に座る俺を焼く。
「まあ、今日は失敗する予定だけどね……」
開発メンバーや見学者たちは、滑走路から離れた所に待機している。聞こえないのを良い事に、俺は一人で言いたい放題だ。
今回テスト飛行に漕ぎ着けた異世界飛行機『グース』は、『ウルトラ・ライト・プレーン』だ。
ウルトラ・ライト・プレーンは、転生前の日本でTVやインターネットで見かけた。ハンググライダーの下に小さなエンジンと座席を設えた超小型飛行機で、TVの中では渡り鳥と一緒に編隊を組んで空を飛んでいた。
ウルトラ・ライト・プレーンの利点は、コンクリート製の飛行場がなくても、平地、草地なら離着陸出来る上に、離着陸に必要な距離も短い。機体重量が軽いからだ。エンジンも、ちゃんとした飛行機ほどのパワーを必要としない。
欠点としては、操縦者はほぼむき出しの状態なので、空の寒さに影響を受けるし、空気の薄い高度まで上昇は出来ない。
また、機体強度がなく、エンジンが小さいので、強風に弱い。
今回テスト飛行をする異世界飛行機『グース』は、ハンググライダーのような三角形の布製翼の下に木材で骨組みを作り操縦者が座る。魔導エンジンとプロペラは操縦者の後ろに取り付けた。
魔導エンジンを除くとほとんどが木製で、テスト機というよりは、実物大のモック――木製の模型だ。正直、このテスト機で飛行は出来ないと思う。
今日は失敗しても良いのだ。
異世界飛行機の構想は、大分前からあった。
女神ズからこの世界のポイントを上げろと言われた頃から朧げに考えていた。
『異世界で飛行機を飛ばしたら、みんなビックリするだろう!』
飛行機を開発しようと思ったきっかけは、そんな悪戯心だ。
実現方法を考えているうちに『自分で作った飛行機で空を飛びたい!』と気持ちが強くなった。
つまりは……ロマン!
サンテグジュペリに、愛を捧げるのだ!
もちろん、ロマンだけではない。
飛行機を開発すれば、情報伝達の高速化や軍事利用などの実利もある。
飛行魔法を使えない者でも、空を飛ぶ事が出来るのは大きい。
技術ツリーをコツコツと書き地球の技術体系を整理して、ルーナ先生の妹ファーさんに魔導エンジンの開発を手紙で依頼した。
手紙のやり取りは五年以上続き、ルーナ先生の妹ファーさんはアンジェロ領に引っ越して来てくれた。
ファーさんはダメな理系女子って感じで、髪の毛はいつももしゃもしゃ。動きやすいからとショートパンツを愛用しているが、あまり色気を感じさせない。
俺とファーさんは、五年間の手紙のやり取りがあるので、異世界飛行機が『どんな物なのか』具体的なイメージを共有できている。
だが、ホレックのおっちゃんや他のエルフ、リス族のキューは、異世界飛行機のイメージが掴めていない。
そのせいで作業に迷いがあるようだ。イマイチ作業スピードが上がらない。
そこで、俺はみんなを急かして無理矢理『グース』を組み上げ、テスト飛行を強行する事にしたのだ。
グースが飛ばなくても動いている所を見れば、自分の作っているパーツがどんな役割なのか? 自分の作業は何の為にやっているのか? その辺が掴めると思う。
滑走路わきに立つリス族のキューが手を上げた。ゴーサインだ。
俺は操縦席から振り返り、機体後部の魔導エンジンのスイッチをオンにした。
ハイブリッド車が走り出す時に似たフィーンという音が聞こえて来た。魔導エンジンが燃料タンクの魔石から魔力を取り込み起動した証拠だ。
魔導エンジンが動き出し、機体後部の木製プロペラがゆっくりと回転を始めた。
「おおっ!」
「回転した!」
「魔導エンジンは順調!」
「すごい!」
「画期的だ!」
滑走路脇で様子を見ているエルフやホレックのおっちゃんたちから歓声が上がる。
魔力を回転運動に変換する事、無属性魔石の魔力を燃料にする事はクリアだ。ルーナ先生の妹ファーさんが、この五年間取り組んで来た研究成果が実証された。
さて、ここからどうなりますか……。
プロペラの回転速度が上がり、徐々に異世界飛行機『グース』が前進を始めた。
タイヤも木製なので乗り心地が悪い。運転席にゴツンゴツンと振動が伝わって来る。滑走路は魔法で造成したので、真っ平で継ぎ目はない。振動が伝わるという事は、タイヤが歪んでいるか、車軸の不具合だな。
長い滑走路をグースが進んでいくが、スピードが上がらない。
スクーターがゆっくり走る程度の速度しか出ない。これではとても飛行は出来ないな。
プロペラの軸受けの部分は木製なので、キイキイと摩擦音がうるさい。これでは魔導エンジンのパワーを相当ロスしている。
魔導エンジン自体もパワーが足りない。もっとパワーアップしないと空には飛びたてない。
滑走路の端まで来たので機体から降りて手作業でグースを回転させ、また滑走路を走る。
すると見学に来ていた白狼族のサラがグースに並走し出した。
「アンジェロ! 凄いな! ちゃんと走っているじゃないか!」
「ああ、でも今回は失敗だよ。空を飛ぶ事は出来なかった」
俺は気落ちした声でサラに答えた。失敗するだろうとは思っていたけれど、実際に失敗するとガッカリ来る。
「でも、走っているぞ! 凄いぞ! 凄いぞ! ハハハハハ!」
この異世界の人にとっては、魔道具が自走するだけでも画期的な出来事だろうな。
サラは楽しそうに笑うとグースにヒョイと飛び乗り、俺の背中に抱き着いて来た。サラと二人乗りのグースは、ノンビリと滑走路を進む。ふふ、悪くないな。気持ちが和んだ。
「ありがとう。サラ」
俺は小さな声でサラに礼を言った。だけどプロペラの音がうるさいみたいで、サラにはよく聞こえなかったらしい。
「うん? 何か言ったか?」
「別にー!」
後ろからギュッと抱き着いて来たサラに照れながら、俺は開発メンバーが待つ方へグースを走らせた。
魔導エンジンのスイッチを切って、グースが完全に停止すると開発メンバーが集まって来た。
さて、課題はまだまだ多いが、一つ一つみんなで力を合わせて乗り越えて行かないとな。
今日が異世界飛行機『グース』開発の再スタート日だ。
*
「ご苦労だった。それでは報告せよ」
リス族の族長ペーは粗末な小屋の囲炉裏のそばに座り、目の前に座るリス族の男に報告を命じた。男はアンジェロ領とリス族の間を定期的に往復している連絡員だ。
族長ペーも連絡員もあまり人化していない為、大きなリスのぬいぐるみが向かい合って話をしているように見える。
「はっ! キュー様は新しい魔道具開発に加わっており、先日そのテストが行われました」
「ふむ。空を飛ぶ魔道具だったな? テストは見たのか?」
「はい! それはもう不思議な光景でした! こう……大きな物が動いたのですよ!」
族長のペーは男の話している事が、さっぱりわからなかった。
ただ、何か凄い物をアンジェロ領では制作しており、その制作に自分の息子が加わっている事は理解出来ていた。
「うむ。それで空飛ぶ魔道具は完成したのか?」
「いえ。まだ難しいそうです。そこでアンジェロ殿から依頼が来ております。空飛ぶ魔道具の制作にリス族の人手を借り受けたいそうです」
「ほう!」
族長ペーは、喜びの声を上げた。
アンジェロたちと接触してから、獣人三族の暮らしに変化が訪れた。
それまでは騎士ゲーと細々と物々交換を行うだけだった。物々交換で得られるのは、ほんの少しの塩と大麦だけ。
獣人たちの食事は質素で、少しの塩を振りかけただけの魔物の肉と大麦のカユであった。
だが、アンジェロと交易を持ってから小麦の柔らかいパンを食べられるようになり、肉に使う塩の量も増えた。
どうやら前の交易相手より、新しい人族の長であるアンジェロは良い交易相手だ。
獣人の族長たちはアンジェロと積極的に交流を持つ事を決め、自分たちの子供――サラ、ボイチェフ、キューの三人を領主エリアに常駐させる事にした。
すると子供たちは、ちょこちょこと仕事の依頼を引き受けて来る。
人族の長アンジェロは、小麦、塩、酒、鉄製の道具を対価として支払ってくれた。獣人の族長たちは喜び、人族の若い長アンジェロへの信頼を深めた。
だが、リス族の族長は、自分の部族が他の獣人族――白狼族と熊族より少し出遅れたと考えていた。
白狼族は狩りの得意な獣人部族で、魔物の素材や採取した薬草を定期的に人族の長アンジェロと交換している。
オマケに白狼族族長の娘サラは、人族の長アンジェロについて回っているらしい。
熊族はとにかく力が強い。若い熊族の男を木こりとして人族の集落へ派遣し対価を得ている。
だが、自分たちリス族は……手先が器用で得意なのは道具作りだけだ。
人族の持つ道具の方が、物が良いので、取り引きをする材料がない。
獣人三族の中で力が弱く、元々少し引け目を感じていたリス族は、自分たちの置かれた状況に危機感を感じていた。
これまでは自分たちが獣人三族の中で道具作りを引き受ける事で、存在価値を示して来た。
だが、人族の鉄製の道具が入って来た為、自分たちの存在価値が下がり始めている。
(リス族が生き残る為には、どうしたら良いのか……)
族長のペーは、悩んでいた。
そこへ人族の長アンジェロから、『リス族の人手を借り受けたい』と言う依頼は心が晴れやかになる出来事だった。
自分たちリス族は必要とされている!
その事を族長ペーは素直に喜んだ。
(ここかも知れぬ……)
自分たちリス族が生き残るには、空飛ぶ魔道具制作に貢献する事だと族長ペーは考えた。
「わかった! 人族の長の依頼を受けよう!」
リス族は派遣を決定した。
こうしてアンジェロ領北部にある獣人たちは、徐々にアンジェロに依存し取り込まれて行くのであった。
アンジェロ領は、多部族多人種が共存する領地として発展しようとしていた。
16
お気に入りに追加
4,046
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します
burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。
ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。
モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。
この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる