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第四章 ウイスキーと異世界飛行機の開発

第60話 港に来た船

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 クイックの蒸留所が完成した。
 設備を増強して蒸留用の釜を三つ横並びにおいた異世界初の蒸留所だ。

 ははは!
 これで俺は、異世界のリカーキングになるのだよ!

 本当はもっと大規模にしたいけれど、ミスル人作業員の人数を考えるとこの規模が限界だ。
 釜の制作や加熱冷却用の魔道具制作、排水路の制作とここ数日忙しかったが、ようやくひと段落だ。

 俺の書斎に会計担当のジョバンニと製造担当のエルハムさんが報告にやって来た。
 ジョバンニから報告が始まった。

「ベルント殿はクイックの販売を引き受けてくれました。価格はご指示通り私の方で決めて参りました」

 正直な話、俺は金勘定が得意じゃない。
 転生前日本にいた頃も経理関係の仕事はした事がなかったし、領収書の精算はかなり面倒に感じていた。

 そんな訳で経理作業や会計はジョバンニに丸投げしてしまっている。
 だが、この報告は気になる。

 クイックはいくらで売れるのかな?
 どれくらい儲かるのかな?

 俺はドキドキしながらジョバンニに問いかけた。

「ご苦労様。ありがとう。それで……、いくらになった?」

「中樽一つ金貨五枚でベルント殿に売却します。ベルント殿は金貨七枚でブルムント地方の領主を中心に販売します」

 金貨来たよー!
 中樽一つが金貨五枚! 五百万円に化けるのかよ!
 これでアンジェロ領の財政は立て直し確定だろ!

「やったな! 金貨五枚なら上出来じゃないか!」

 俺は大喜びして椅子から飛び上がった。
 だが、ジョバンニは渋い顔をしている。

「いえいえ、私は金貨八枚でベルント殿に卸して、金貨十枚を販売価格にしたかったのです。それだとちょっと高いとベルント殿に言われまして……。我々は原価もありますので、迷いましたが……」

 原価か! ああ、そうだな。
 クイックは俺が買い付けた安ワインを蒸留した物だ。
 クイックを製造する為の仕入れ原価が発生しているな。

「その辺の計算ってどうなっているの?」

「一樽の原価は金貨一.五枚、つまり金貨一枚と銀貨五十枚ですね」

「じゃあ、儲けは金貨三.五枚か?」

 えーと、ベルントへの卸価格が五百万円で、その原価が百五十万円だろ。
 差し引きで俺たちの取り分が三百五十万円!
 それでもデカイと思うけどな。
 ジョバンニは何が不満なのだろう?

「いえいえ。違います。アンジェロ様が儲けとおっしゃったのは、粗利です。そこから、ちゃんと経費や投資した分を差し引いた額が利益です」

 経費か。それは日本の会社で経理担当が言っていたな。
 ボールペンを無駄にするな的な話とか、無駄に残業するな的な話とかだ。

「ああ! 人件費とかか?」

「そうです。私やエルハム殿はアンジェロ様から月々報酬を頂いております」

「少なくて申し訳ない」

「いえいえ。そのようなお気遣いは無用です。アンジェロ様にも転移魔法で商業都市ザムザまで出来上がったクイックを樽ごと運んで貰います。それも人件費になるのですよ」

 俺の分は気にしなくても良いけれど。
 どうせアイテムボックスに放り込んで、転移して樽を置いたらさよならだからな。
 まあ、でもジョバンニの立場だったら、きっちり細かく計算するよな。

「うーん。確かにそうだな。でもミスル人作業員の分はタダだろう?」

「いえ! タダではありません!」

「違うのか? 彼らは奴隷だから給料を払ってないぞ」

「最初に奴隷として買い取った時に、奴隷商人にお金を払っていますよね? あれを少しずつ回収しなくてはなりません。一樽辺りの経費に奴隷買い取りにかかった価格を少しずつ含めて計算をしています」

 なるほど。ジョバンニの言う通りだ。
 ベルントが価格交渉してミスル人奴隷は安く買い取ったけれど、奴隷買い取りにかかった費用は、クイック製造販売事業で回収しなくちゃならない。

「わかった。他にかかる経費は?」

「この事業を始めるのに、釜やかまど、魔道具を作りましたよね? あれもお金がかかっています。売り上げから少しずつ回収します」

 設備投資ってやつだな。
 釜は特注品だからホレックのおっちゃんに少なくない額を払わなきゃならないし、魔道具は魔石も使っているから結構設備投資はかかっているな。

 蒸留所を作っている時は夢中でお金の事は考えなかった。
 ただ漠然と蒸留酒を作れば儲かると思っていたが、こうしてきちんと考えると経費がかかるな。

 俺が渋い顔をしていると、ジョバンニが無慈悲に追い打ちをかけて来た。

「それと細かいですが、食事も支給しています。作業員だけでなく、家族にも一日三食ですから食費も意外とかかります」

 ああ、ええ。そうですよねー。
 俺は遠い目でジョバンニに質問した。

「事業って経費がかかるのだな……、意外と儲からないのか?」

 ジョバンニは悪そうな顔で、ニヤリと笑って答えた。

「いえいえ。それでも金貨一枚は手元に残りますよ」

「おっ! そうなの? それは悪くないよね?」

 一樽売って金貨一枚の儲け、つまり一樽で百万円儲けか!
 それなら結構儲かるな!

「エルハム様が立てて下さった生産計画を元に計算すると奴隷の買い取り分の回収は今年中に終わります。釜などの設備投資も二年目で回収が終わる計算です」

「そこからは儲けが増えるな」

「はい!」

 俺とジョバンニは二人して悪そうな笑顔をした。
 ふふふ! リカーキングの夢はここに成れり!

「驚きました。アンジェロ様は、本当に十才なのでしょうか?」

 黙ってジョバンニの横で話を聞いていたエルハムさんが呆れた顔をしている。
 まあ、驚くよな。普通十才はこんな会話しないよね。

「前に話したでしょ? 俺は異世界から転生したって。外見は十才ですが、中身はそれなりの年ですよ」

「あれは本当のお話だったのですね……。凄い! 神の御業! アンジェロ様は神の御子様なのですね!」

 エルハムさんが、キラキラした目で俺の事を見ている。
 なんか信者化していないか?
 そんな目で見られた事がないから、ちょっと居心地が悪いな。

 突然書斎のドアが激しくノックされた。

「アンジェロ様! アンジェロ様!」

 じいの声だ。

「じいか、入っていいよ!」

 じいが慌てた様子で書斎に入って来た。
 息遣いも荒い。

「み、港に船が入って来ました!」

「うお! 来たか!」

 じいの話を聞き終えると俺は港へ向け飛行魔法で飛び立った。
 港は俺が手の空いている時に整備した。土魔法で海底を浚渫して、その砂を固めて波止場を作ったのだ。

 飛行魔法で港に近づくと丁度船が波止場に接岸する所だ。
 マストが二本の横帆船で、船体はずんぐりしている。船体が所々壊れているな。

 俺は波止場に降り立ち来港した船が接岸するのを感慨深く見守った。
 この船が、アンジェロ領初来港船だからね。
 船から乗組員が飛び出して波止場で接岸作業を始めた。

「おーい! そこの! 坊や!」

 船の中から大男が俺に呼び掛けて来た。
 日に焼けた肌に白いシャツが良く似合う三十才位の体格の良い男だ。
 おお! いかにも船乗りって感じだな!

「ここは何て町だ?」

「ここはフリージア王国の北にあるアンジェロ領です!」

 俺は船内に聞こえるように声を張り上げた。
 男は片手を上げると、船内に引っ込んだ。

 しばらくすると接岸作業が終わり、さっきの男が船から降りて来た。
 じいとジョバンニもちょうど追い付いて来た。
 俺は両手を広げて、笑顔で歓迎した。

「ようこそ! アンジェロ領へ! 私は領主のアンジェロです。みなさんを歓迎しますよ! こちらは私の守役のルイス・コーゼン男爵。こちらは領地の会計を担当しているジョバンニです」

 俺が領主と名乗った事で男は驚いた顔をしたがすぐに頭を下げた。

「いや、ご領主様のお出迎えまことに恐れ入ります」

「ああ、かしこまらなくて良いですよ。私は冒険者もやっていますから、普段通りに話して大丈夫です。不敬罪とか言いませんから、くだけた話し方で構いません。お名前を伺えますか?」

「そうか。じゃあ、まあ、いつもの調子でやらせて貰うぜ。俺はこの船の船長のウォーカーだ。嵐に巻き込まれて船が破損してな。船の修理と水の補給がしたい。寄港許可をくれ」

 なるほど。ウォーカー船長の船が所々壊れて見えたのは、嵐に巻き込まれたからか。
 ウォーカー船長には悪いけれど、これは商売を広げるチャンスだ!

「寄港を許可します。水は領主エリアの方に来て貰えれば、自由に汲んでもらって構いません。船大工はいませんが、木材の販売は可能です」

「そ! そうか! それは助かるぜ! いや~しかし、いつの間にこんな港が出来ていたんだ? 良い港だな。まだ新しいんだろ?」

「ええ。良ければ館の方に来ませんか? 食事を出せますよ」

「おお! 良いのか? じゃあ、ご馳走になるぜ!」

 ウォーカー船長を領主エリアの食堂へ招待した。
 じっくり話を聞いた所ウォーカー船長は、エリザ女王国の商人だった。大陸の北西の島国でアンジェロ領から海峡を渡った所にあるそうだ。



 じいが情報を補足してくれた。

「エリザ女王国は中堅の商業国ですな。島国ですので海運や造船の盛んな国です。鉄鉱石やミスリル鉱石が豊富です」

「フリージア王国と付き合いはないよね?」

「そうですな。フリージア王国は内陸国ですので海洋国とは縁遠いですな」

 ウォーカー船長は、ガツガツと夢中で料理を平らげている。船の中はあまり食事事情が良くないのかな。
 オーク肉のステーキ三人分を平らげてやっと落ち着いた。

「いや~ご馳走さん! メシをご馳走になった礼だ。情報提供に応じるぜ」

 商人は情報の宝庫だ。
 交易で色々な地域・国に出張っていくので、現地の生情報や経済情報、時に取引先の貴族や王族の情報を持っている。

 ありがたく情報を頂く事にしよう。
 話は各国の情勢に詳しいじいに任せる事にした。

「ふむ。それは助かるの。エリザ女王国の交易相手国の情報が欲しい」

「そーだな。知っての通り俺の国は大陸諸国に鉄やミスリルを売って、ワインやチーズ、コショウなんかを買ってる。俺の主な交易相手はメロビクス王大国とニアランド王国だな。この二か国の情報で良いか?」

「頼む。ニアランドはどうじゃ? このフリージア王国の隣国だからの。気になるのじゃ」

「ニアランド王国は相変わらずムカつく国だな! あそこは立地だけのクソだ! 特に動きはねえな」

 ウォーカー船長は、余程ニアランドが嫌いらしい。
 ジョバンニに、コソッと事情を聞いてみた。

「ニアランド王国は大規模な良港を持っています。その港に出入りする商品に結構な額の関税をかけているのです。商業都市ザムザに集まったコショウは、ニアランドの港に運ばれて、そこで関税がかけられ大陸外の国や大陸西部に船で運ばれます」

「なるほどね。商人からしてみれば、何もしてないのに税金をかける。要は儲けのピンハネをしていると?」

「そういう事ですね。さらに言うとニアランド王国の商人は関税で優遇されているのですよ。だからニアランド王国は、他国の商人には嫌われていますね」

 ふーん。立地チート国って訳か。
 まあウォーカー船長の立場だと面白くない話だろうな。

「メロビクス王大国の方はどうじゃ?」

 じいが話を続けた。
 メロビクス王大国は、ニアランド王国の西にある大国だ。大陸北西部の随一の大国なので、王国でなく、王大国と名乗っている。
 フリージア王国とは、魔物の森を挟んでだが一応国境を接している。

「あそこは最近気になる事が二つあるぜ。まず、小麦の価格が下がってる。チーズも少し安くなったな。それから鉄鉱石の買い入れが増えている」

「ふむ。穀物がダブついて安くなり、鉄鉱石つまり鉄の需要が増えたという事か。お主どう見る?」

「おっと! 情報提供はここまでだぜ。メシ代ぐらいにはなっただろう?」

「お主の予想を聞くのは別料金か?」

「まあ、そういう事」

 ウォーカー船長はニカッっと笑った。
 ここから先の話を有料で聞くか、聞かないか。
 じいが俺に判断を求めて視線を飛ばしてきた。

「ジョバンニどう思う?」

「そうですね……。鉄鉱石の買い入れが増えたのは、剣や盾――つまり軍備の増強、戦争準備に思えます。しかし、戦争準備なら兵士の食料も買い入れるので、穀物の取引が増え小麦の価格も上昇するはずです」

「小麦は値段が下がっているのだよな?」

 ウォーカー船長に話を振るが、そっぽを向いている。
 ここからは本当に有料らしい。

「わかった。木材の提供でどうだ? 船の修理には木材が必要だろ? その木材を提供しよう」

 ウォーカー船長は、食いついて来た。

「ホントか?」

「ああ。ウチの木こりが切り出して製材済みの木材がある。それを無料で提供するよ」

「よし! それなら良いだろ! 俺の集めた情報だが……、メロビクス王大国は農業生産量が大幅に上昇したらしい。何でもこれまでと違う農業方法を王の直轄地で採用したら、収穫がガツンと上がったとか。今は王様と仲の良い貴族の領地にその農法を広げているらしいぞ」

「ふむ。元々メロビクス王大国は農業国だからのう。しかし、その新しい農業方法というのは?」

「あー。俺も船乗りだからあまり詳しくはわからんが。何でも、り…、りん…、輪栽式とかいうらしい」

「輪栽式? 知らんのう……」

「噂だけどな。神童と言われる子供がメロビクス王大国に生まれたらしく、その子供が発明したらしい」

「神童……」

 じいが俺をチラリと見た。
 俺は農業については詳しくないのだよな……。
 輪栽式が何かはわからないよ。

「それでな。俺の読みだが……メロビクス王大国では新しい農業方法が開発されて、穀物作物が沢山取れるようになった。それで小麦の価格が下がった。穀物作物の収穫が増えれば家畜も増やせるだろう? それでチーズの値も下がった」

「なるほどのう。メロビクス王大国は畜産も盛んじゃからな。羨ましい事だ。それで鉄鉱石はどう読む? 新しい農業方法が出来たという事は、鉄鋼石の行き先は農具かの?」

 ウォーカー船長がテーブルに身を乗り出した。
 思わず俺たちも身を乗り出す。
 ウォーカー船長が小声で囁き鉄鉱石の行き先を話した。

「いや。どうも鉄鉱石の買い取り先は軍らしい」

「それは確かか?」

「ああ、間違いない。親しい商人がいるが、そいつはメロビクス王大国の王宮に出入りしている」

「情報の出所はメロビクス王大国の王宮か……。それならお主の言う通り軍に鉄鉱石が流れておるのじゃろうな」

 物騒な情報だな。
 しかし、農業生産力がついたら速攻で軍備増強、侵略のコンボか?
 メロビクス王大国はそんなにイケイケなのか?

「なあ、アンジェロさんよ。あんたフリージアの王子様だろ? 気を付けなよ! メロビクス王大国が軍備を増強しているのは間違いない。メロビクスの牙がどこに向くのかは知らんが、数年以内に大陸北西部は荒れると思うぜ」


 *


 アンジェロがウォーカー船長から情報提供を受けている頃、メロビクス王大国の王領にある実験農場では一人の子供が汗を流していた。
 王領にある日当たりの良い丘陵地帯に広がる良く整備された畑で、多数の奴隷が作業をしていた。

 まだ幼く五才の少年は、鼻歌交じりに土を掘り返している。
 少年の側には、甲冑を来た騎士数人とローブを来た魔法使いが控え辺りを警戒していた。
 少年は畑から作物を掘り出すと喜びの声を上げた。

「出来た! 出来た!」

 少年は手にした作物をお付きの騎士や魔法使いに見せた。
 まだ若い女性の魔法使いは、少年が手にした作物を見て首を傾げた。
 初めて見るその作物は、茶色くゴツゴツと不細工で控えめに言って不味そう、正直に言って口にしたくない代物だ。

「あ! みんなわかってないな~! この作物の価値をわかってないんだ~! 鍋を出して! これを煮て!」

 少年は五才の子供であったが、なぜか周りの騎士たちは少年の指示に従い行動を始めた。
 一人の騎士が自分のアイテムボックスから野営用の鍋を取り出し、魔法使いが水魔法と火魔法で鍋に湯を沸かした。

 少年は手にした作物を丁寧に洗うと次々に鍋に放り込んだ。
 作物が煮えると鍋から取り出し、ナイフで十字に切れ目を入れた。

「バターはある? ああ、ありがとう! この切れ目にのせて……そうそう。はい! 召し上がれ!」

 少年は騎士と魔法使いに一人に一つずつ茹で上げバターを載せた作物を渡した。
 作物からは美味しそうな匂いが漂っていたが、騎士と魔法使いはどうやって食べるのか分からず困惑した。

「ああ! まったくもう! この世界の貴族ってのは! それは、丸ごとかぶりつくんだよ! バクッと! 下品かもしれないけど、それ美味しいからさ。礼儀は気にしないでバクッと行ってみて!」

 騎士と魔法使いは顔を見合わせた。彼らはメロビクス王大国の貴族であった。
 メロビクス王大国の貴族にとって、屋外で、手づかみで食事をするなど下品極まりない行為であった。

 しかし、手にした作物からは美味しそうな匂いが……。
 耐えかねた一人の騎士が言い訳を捻り出した。

「これは! 護衛任務の一環! 軍事行動である! よって手づかみで食す事も許されるであろう!」

 そう言うと騎士は手の中にある作物にかぶりついた。
 続けて他の騎士も魔法使いも食べ始めた。

「な!?」
「これは!」
「ホクホクとして、何と美味な!」

 少年は得意顔で女魔法使いの足にしがみついた。

「ふふ。美味しいでしょう? どうどう?」

「驚きました! 最初この作物を見た時は、正直不細工な作物と思い食べたくないと思いましたが……。この豊かな味はどうでしょう! ネットリとした触感と美味さが素晴らしいですし、バターによく合います!」

「食レポありがとう! ねえ! 最高でしょう! これはね栽培が簡単で、栄養価も高い作物だよ」

「この作物は……、何と言う?」

「ジャガイモ! 君たちはこの世界で初めてジャガイモを食べた人になるね」

 騎士たちは口々にジャガイモを褒めそやした。

「素晴らしい成果です!」
「これでまた我が国の国力が上がりますな!」
「このジャガイモを軍の糧食に加えてみては?」
「国王陛下もお喜びになるでしょう!」

 少年は女魔法使いに命令した。

「じゃあ、ご褒美のキスをしておくれよ」

「こ、ここで、でしょうか!?」

「そうだよ! ここで今すぐキスをしてくれ。これは命令だよ」

「……わかりました」

 騎士たちは二人を囲み、周りから見えないように壁になった。
 女魔法使いは膝をつくと少年にキスをした。

 キスが終わると少年は女魔法使いのローブの中に潜り込み、女魔法使いの体をまさぐり出した。

「あの……、そのような事は……」

「ああ、ちょっとだけ、ちょっとだけ。本格的には夜だから」

「いえ……、その……」

 女魔法使いは、顔を真っ赤にして羞恥に耐えていた。
 だが少年はそんな女魔法使いの気持ちなど無視していた。

「僕はまだ五才だからね。こんな事しか出来ないけど、まあ、可愛がってあげるよ。ああ、早く体が成長しないかな」

 周りの騎士たちは、壁になる事に徹し何も聞こえていないフリをした。
 少年は気が済むまで女魔法使いの体を撫でまわした。

 少年の名は、ハジメ・マツバヤシ。
 地球世界の神々が秘密裏に、この異世界に転生させた者である。

 孤児として生を受けながらも不思議な力で異例の立身出世をし、今では五才ながら伯爵号を得ている。
 輪栽式農業をメロビクス王大国にもたらしたのは、ハジメ・マツバヤシ伯爵である。

 マツバヤシ少年は女魔法使いのローブから頭を出すと、周りの騎士に話しかけた。

「さてと。今日の農作業はここまでだね。これから可愛い奴隷ちゃんを虐めに行くけど、一緒に来る?」

 マツバヤシ少年は爽やかに言ってのけたが、口にした内容は穏やかではない。周りの騎士たちは返事を保留した。

「あれあれぇ? ドン引きしたの? 君たちも貴族でしょう? 貴族に生まれて特権があるなら、それを利用しなきゃ? 欲望に忠実にならなきゃね。じゃあ行くよ!」

 足取り軽く少年は、歩き出した。

「いやあ、いいねえ。異世界! やりたい放題やらせてもらうよ!」
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