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第二章 流刑地への追放

第36話 謎の白い石

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 獣人三族に依頼をしてから十日が経った。
 白狼族のサラ、熊族のボイチェフ、リス族のキューが、アンジェロ領の建設中本拠地にやって来た。
 三人とも背中の背負子に毛皮やら何やら満載にしている。

「前回の取引でアンジェロが塩を沢山くれたので、一族みんなが喜んでいたぞ。族長がアンジェロによろしくとの事だ。今回の依頼も喜ばれたぞ。一族総出で張り切ってやったぞ!」

「ありがとう! 白狼族が喜んでくれてよかった。鉄製品は用意してあるよ」

 獣人三族の中で鉄製品の価値は、相当高いようだ。
 今まで人族との取引が騎士ゲーとだけだったから無理はない。

「じゃあ、食堂の中に運んでくれるかな? 今日は詳しい人に来てもらっているからさ」

 俺は石が鉱物資源かどうかわからいので、商業都市ザムザの商業ギルドから鉱石に詳しい人を派遣してもらった。
 冒険者ギルドからも黒丸師匠と魔物素材の買い取り担当の人に来てもらっている。

 食堂の中に入ってお互いを紹介しあい、早速開始だ。

 植物関連は、ルーナ先生と白狼族のサラ。
 魔物素材は、黒丸師匠と冒険者ギルドの買い取り担当者とリス族のキュー。
 石は、商人のジョバンニと商業ギルドの鉱石担当者と熊族のボイチェフ。
 こんな風に担当分けをして、それぞれ見て貰っている。

 植物関連の方で動きがあった。
 ルーナ先生がサラに採取方法を教えている。

「この黄色い花は『三日月草』と言って魔力補充薬の原料になる。それからこちらの青い草は、『青草』だ。青草はポーションの材料になる。両方交易出来る」

「そうなの? 両方とも沢山生えているよ」

「それは良い。この黄色い花『三日月草』は、花の部分だけ摘んで来てくれ。毎年花が咲くから、根は残すのだぞ。『青草』も根を残して葉の部分だけ集めるのだ。時間が経てば、また葉が生えてくる」

「子供らが集めてくるから、子供らによく言っておくよ」

 早速成果が出たか。
 横から覗くと『三日月草』は、月見草の様な黄色い可愛らしい花だった。
『青草』はヨモギっぽい。

 探せばアンジェロ領内にも生えているかもしれない。今度村人に聞いてみよう。
 魔物素材の方はどうかな?

「この魔物は角。こちらの魔物は爪も買い取り対象ですから、持ってきて下さい」

「おお! 角と爪もですか! わかりました。次回からは必ず」

 リス族のキューが、冒険者ギルドの買い取り担当者から色々教わっている。

「黒丸師匠、魔物素材の方はどうですか?」

「ふむ。初級から中級冒険者が対象の魔物であるな」

「何か珍しい魔物素材は?」

「特にないのであるな。ただ、リス族のキューの話では生息数が多いらしいので、狩場としてはなかなか良いと思うのである」

 まあ、悪くない結果かな。
 レア魔物のレア素材とかが飛び出してくれば最高だったけれど、数があるのも狩場としては立派な強みだ。

「そうすると問題は……」

「うーん。やはり商業都市ザムザからの距離であるな。しばらくはキューたちが狩ってきた分を買い取る対応が良いのである」

 そうなるな。
 まあ、うちはしばらく手間賃商売だな。
 転移魔法で商業都市ザムザまで素材を運んだり、物々交換の品を仕入れたりして手間賃を貰う感じかな。


 後は……、鉱石だな。
 俺も領内で石を拾い集めておいた。
 一攫千金があるかもしれない。これが一番期待だ!

「ジョバンニ、どう?」

「ダメですね……」

 ジョバンニは苦笑いしている。
 商業ギルドの担当者に目を向けると気まずそうな顔をした。

「どうですか? 鉄鉱石や銅鉱石はありませんか?」

「アンジェロ王子、残念ですがございませんでした……」

「金、銀、宝石もありませんか?」

「そちらもございません……」

「ミスリル、オリハルコンとか?」

「ございませんでした……」

「そうか……、ダメか……」

 商業ギルドの担当者は、申し訳なさそうに頭を下げた。
 ボイチェフが泣きそうな顔をしている。

「ご、ごめんよお。アンジェロ~。おらたちも色々石を拾い集めてみたんだあ」

「ああ、ボイチェフ! 大丈夫だよ! 植物と魔物の方は悪くない結果だし、ちゃんと約束通り鉄の斧は渡すから」

「ほ、ほんとうか! 良かったあ」

 まあ、ボイチェフの責任じゃないからな、白狼族やリス族にも石は拾い集めてもらった。
 俺の領地の周辺に鉱物資源がないって話だからな。

 あーあ。残念。

 俺は床に散らばる石に目をやった。
 黒い石、灰色の石、ザラザラした石、つるっとした石、これだけ色々な種類の石があっても価値のある石はないのか……。

 ……。

 ……。

 ……。


 ん?


「なんだ? これ?」

 俺は一つの小さな石を拾い上げた。
 その石はクリームぽい白さの石で、ごくわずかに茶色が混ざっている。

 どこかで見た事があるような……。
 商業ギルドの担当者に聞いてみるか……。

「この白い石は?」

「そちらの石は私も見た事がございません。ですが、宝石や鉱石ではございません」

「じゃあ商品価値は無いですか?」

「はい。まことに残念ではございますが……」

「わかりました。今日は来てくれてありがとうございます。商業ギルド長にもよろしくお伝えください」

「ははー!」

 そうか……。
 この白い石は、ただの石か……。

 俺は白い石をズボンのポケットに入れた。
 どうしてもこの石が気になるのだ。

 その後、俺は商業ギルドと冒険者ギルドの担当者を、商業都市ザムザに転移魔法で送り届けた。

 ポケットの中の白い石が気になる。
 なんだったかな~。以前、見た気がする。

「アンジェロ! 食事だ!」

 建設中の領主エリアの食堂に戻るとルーナ先生から声が掛かった。
 今日の昼食メニューは、地球料理のハンバーグ。獣人三人が来るので、ルーナ先生とたっぷり準備をしておいた。

 周りは初めて食べるハンバーグに大盛り上がりだが、俺は白い石が気になって仕方がない。
 ポケットから白い石を取り出し、テーブルの上に置いた。
 無言で白い石を凝視する俺を不審がってか、隣に座る黒丸師匠が話しかけて来た。

「アンジェロ少年は、その白い石が気になるのであるか?」

「ええ。どこかで見たのですが……」

「ふむ……。天界石ではないであるな……」

「違いますね……」

 天界石は、真っ白な大理石の様な石の事だ。
 その美しさから天界にある石、天界石と言う名がつけられた。
 建物の建材として使われる。

 建材……、そうだ、この白い石は何に使われるのだ?
 その時、テーブルの上の木皿が目に入った。
 白い石と皿……、記憶のピースがカチリとはまった。

「これは磁器の原料になる石だ! 磁器が作れる!」

 高校の修学旅行で九州に行った時、天草で見た。
 天草は陶磁器の原料になる石を産出している。
 白い石は、天草で見た石と同じだ。

 西洋食器や有田焼のように白くて薄いのが磁器だ。
 この異世界で磁器を見かけた事はない。

 白い食器、磁器が作れれば、アンジェロ領の名産品になるぞ!
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