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第二章 流刑地への追放

第33話 三獣人現る

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 まったく村長も心配症というか何というか……。
 俺は村長から預かった籠一杯の魔石で、防壁に印を切った。

 魔石に一つ一つ印を刻んでいてはキリがないので、地面に魔石を広げて上からドバーっとマジックインクをぶちまけて一気に印を刻んだ。
 埋め込み作業は魔石をガバッと掴んでは防壁に埋め込み、基礎に埋め込みと忙しく作業をした。

 まあそれでも、お昼には終わりましたよ。集中力をかなり消耗したけど、これも領民の為だ。偉いぞ! 俺!

「アンジェロ様。大変でしたね」

 ジョバンニが労ってくれた。

「村長さんもこれで安心だろ。あれ? 村長さんは?」

「さっき村の人に呼ばれていましたよ」

「そう。じゃあ、挨拶して帰ろうか」

 俺とジョバンニは村の防壁から、掘っ立て小屋が並ぶエリアに向けて歩き出した。
 まだ種まき前の畑が並んでいる。今日俺が持って来た鉄製の農具が活躍してくれると嬉しいな。

「ご領主様~!」

 村長だ!
 掘っ立て小屋が並ぶエリアから、こちらに走って来る。

 何だろう……。
 また何か頼まれるのかな?
 流石にもうやらないぞ。

 村長は息を切らせて、俺のところまで走って来た。

「ご領主様! お客様です!」

「はい!?」

 客? 俺に? この村に? 誰だろう?
 この辺に知り合いは、いないけど……。




 村の中央、掘っ立て小屋が並ぶエリアに戻ってくると、そこには三人の獣人がいた。

 一人は大きな熊獣人だ。あまり人化していない獣人で、熊が立ち上がってチョッキを羽織った見た目だ。
 デカいな……。ニメートル越えで横幅もある。
 でも、やさしそうな顔をしていて、のんびりと村を見回しているから害はなさそうだ。

 もう一人は……、リスだな。
 このリス獣人もあまり人化していない。半ズボンとシャツを着た大きなぬいぐるみのリスみたいで、大きなフワフワ尻尾が目立つ。モフモフ勢にはたまらないだろうな。
 背は低くて十才の俺よりも小さい。
 好奇心が強いのか、キョロキョロと辺りを見回している。

 最後の一人は、かなり人化している獣人だ。何獣人だろう?
 女の子でかなり可愛い。
 ピンとした三角形の犬耳に大きな尻尾、胸と腰回りに毛皮を巻き付け、髪はショートカットだ。
 
 女の子の獣人と目が合った。
 あっちから先に声を掛けて来た。

「オマエがアンジェロか!」

 オマエ呼ばわりは、久しぶりだな。
 気の強そうな感じの女の子だ。
 まあ、用件が何だかわからないから、ここは友好的に対応しよう。

「そうだよ。俺がアンジェロだよ」

「オマエが新しい領主か?」

「そうだ」

「うむ。毛皮や薪を持って来たぞ。塩や大麦と交換してくれ」

「交換?」

 俺はジョバンニと顔を見合わせた。
 なんだろう?
 事情がよくわからない。

 獣人の女の子が指さす先には、背負子が三つ地面においてある。
 背負子には、魔物の毛皮や薪が満載されている。

 俺とジョバンニが首をひねっていると、村長が話を補足してくれた。

「この子たちは、ここからずっと北にある山の中に住んでいます。月に一度の割合で、この村に来て毛皮や薪と食べ物を交換していました」

 そういう事か!
 北の山というと、俺達が今街を建設している北側かな?
 俺は人が近くに住んでいる事、交易相手が近くにいる事に少し嬉しくなった。

「じゃあ、村長さん。騎士ゲーが毎月来て物々交換していたのですか?」

「左様でございます」

 騎士ゲーの物々交換……。
 嫌な予感がする……。
 まさか、また小さじ一杯の塩と交換か?

「オイ! 何を内緒で話をしている! 交換してくれるのか? くれないのか? はっきりしろ!」

 ヤバイ! 獣人の女の子がブチ切れそうだ。
 顔は可愛いけど短気なのかな。

「ああ、ごめん、ごめん。交換します」

「そうか! 良かった!」

 獣人の女の子がホッとした声を出した。
 ああ、交換してもらえるかどうか不安だったのだな。

「ジョバンニ! 他の部族が相手だから、俺が対応するぞ。交換品は先に渡すね」

「はい。お願いします」

 俺とジョバンニは学んだのだ。
 この間、村人から魔物素材を預かった時は、ちゃんと査定してから交換品を渡そうとした。
 そしたら、村人に『ご領主様に魔物素材を取り上げられた!』と誤解されてしまった。

 親切のつもりでちゃんとした査定、ちゃんとした価値でフェアに物々交換しようとしたのだけれど、それが裏目に出て、村人からの信用を失ってしまったのだ。

 そこで俺とジョバンニは、次に似た事が起きた場合、物々交換を希望された場合は、先に何か交換品を渡す事にしたのだ。
 もし、査定して高額な品だった場合は、後で差額を補填すれば良い。

「ほう。領主のオマエが対応してくれるのか?」

「君たちの部族を尊重するからだ」

 交易相手になるかもしれない部族だ。
 こちらから少しでも誠意を見せないとな。

 それに……。
 こんな可愛い子の相手は、他の人に任せられないのです!
 性意……、もとい! 誠意を持って対応いたします!

「そうか! なら私もオマエを尊重するぞ!」

 色々と一歩前進か?

「ありがとう。三人は同じ部族なの? 別々の部族?」

「別の部族だ。近くに住んでいるので一緒に来ている」

 俺はアイテムボックスから、塩の入った小さな壺と小麦の入った袋を、それぞれ三つ取り出した。
 アイテムボックスを見るのは初めてみたいで、三人は驚いている。

「わかった。じゃあ、それぞれ塩一壺と小麦一袋でどう?」

「オマエ! 今どこから、それを出した!」

「えーと、これはアイテムボックスっていう神様から貰った能力だよ」

「そうなのか! 凄いな! あと、それとだな! こんなに沢山の物と交換して貰えるのか?」

「うん。交換するよ。ちなみに前はどれくらいの物と交換していたの?」

「塩小さじ三杯と大麦を三つかみだ」

 またかよ! 騎士ゲー……。
 交換レートが渋すぎるだろう。
 これがゲームだったら辞めるユーザ続出で、速攻で過疎ってるぞ……。

「そ、そうだったのか」

「オマエは良いやつだな! うむ。気前の良い男は好きだぞ!」

 獣人の女の子は、ニコニコ笑っている。
 その笑顔に完敗で乾杯だ。

「ところで大麦はないのか? 小麦とは何だ?」

「えっ!? 小麦を知らないの!?」

「知らない。食べられる物なのか?」

「焼いてパンにすると美味しいよ」

「パン? パンとは何だ?」

 小麦もパンも知らないのか……。
 俺が呆然としているとジョバンニが小声で話しかけて来た。

「アンジェロ様。そろそろお昼ですし、建設中の本拠地に戻って続きを話しませんか?」

「そうだな。詳しく話も聞きたいし、戻ろうか」

 俺は獣人三人を本拠地に招待する事にした。
 獣人三人とジョバンニと本拠地に転移魔法で移動した。
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