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038 幸村朱音

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空いた口が塞がらないとはこのことだ。
部屋で着替える緑子を見ればコートの下はブラジャーもせずに、素肌にカーディガンをセーターのように着てはいる。
私の視線に気づき身体を隠すけれど──信じられない。

「緑子、そんな格好で男と一緒にいたの⁈しかも車で送ってもらうなんて──信じられない」

襲ってくださいと言っているようなものだ。
緑子はあの男が愛妻家だと言っているけれど私にはそうは見えなかった。
実際、私へ当てつけるような言動を残して去っていったのを見てもいい性格をしてるし、緑子に興味があるのはすぐに分かった。

「でも火傷が酷くならなかったのも、風邪を引かずに済んだのも五十鈴さんのお陰なんだよ」

それとこれは話は別だ。
緑子は自分がどれだけ男の興味を唆る身体と性格なのかをわかっていない。
白い肌に柔らかな髪──豊満な胸とくびれた腰と張ったお尻。
それだけで涎を垂らした獣の男たちが寄ってくるのに。
良く言えばほんわかした性格も悪く言えば隙だらけで格好の餌食だ。

「せめてタクシーで帰るとかしたらよかったじゃん!」

責めたい訳じゃないのにイライラする。
緑子が自分をわかってない事にイライラする。

「──考えたよ。他にも朱音ちゃんは車を持ってないし陽ちゃんに迎えに来て貰おうかなとか、榮吾くんはまだ仕事だろうなとか──考えたよ!でもなんだか最近──上手くいかなくて──どう言えばいいのか分からないし……五十鈴さんのことは朱音ちゃんより私の方がよく知ってるよ。面倒見のいい優しい先輩だよ」

珍しく緑子が強く感情を表す。
それほど感情が迷走させているのは私たちなのだろうけれど、ここはどうしても譲れない。
こんな格好で男の2人きりになるのは阿呆を通り越して誘っているのかと思う。
それに陽や榮吾を呼ぼうか考えている時点でやっぱり緑子は考えが圧倒的に劣っている。

「私がいなかったらヤラれちゃてたよ」

「なっ──」

間違いなく陽を呼んだならヤラれてたし、榮吾だって分かったもんじゃない。

「私を呼べばよかったんだよ!」

そう叫びながら──緑子が涙目になっているのが目に入る。
なんで泣いてるのよ?
悔しくて?侮辱された気がして?それとも別の感情なの?
わかんない。
緑子──アンタの考えがわかんないよ!

「だって──もう──わかんない。朱音ちゃん──私どうしたらいいの?朱音ちゃんも榮吾くんも陽ちゃんも大好きなのに──わかんない……」

今日は酔っていたとはいえ勝手にキスをしたことを誤りに緑子に会いに来た。
緑子の好きな苺のショートケーキを2人で食べて友人のように仲直りしようと思って──ここへ来た。

「先日の事を誤りに来たの。酔って緑子にキスをした。ごめん。でも今はアルコールは飲んでない」

酔ってない。
けれど──緑子の色気に──涙に酔ってしまった。
涙を舐め、驚く顔の緑子の唇を喰む。
首の角度を変え唇を合わせる。
そのまま──キスをしながら押し倒す。
胸は下着をつけていない柔らかな感触を指に伝える。
少し赤くなっている首筋を舌先で舐めれば緑子の身体が反応し跳ねる。
想像よりもずっと敏感な身体をしていると──興奮する。

「朱音ちゃん?──まって…」

待って?
もうずっと待ったよ。
どれだけ緑子の身体に触れ肌を合わせたいと思っていたか。
カーディガンのボタンを一つ一つ外していけば白い肌にピンク色の頂きが顔を出す。
胸のサイズの割に乳首はちっちゃくて──可愛い。
ぺろりと舐めればまた身体が浮く。
ちゅーと吸えば甘く高い声が漏れる。

「──可愛い。緑子──可愛い」

こんなの見せられて止められる訳がない。
好きな人のこんな姿──止まれない。

「朱音ちゃん!」

好きな人が自分を呼ぶ声も愛おしい。
緑子の髪先にキスをし再び唇にキスをする。

「緑子はなんにもしなくていいから──私に身を任せて……気持ちよくなって」

押し倒したラグは柔らかな厚手のコットンラグできっとここでも大丈夫。
タイトスカートに手を差し入れ下着の上から秘部を優しく擦る。
腰がうねりビクリと脚が神経を伝える。
緑子の身体に私の身体を合わせたい。
素肌と素肌を合わせ──その身体を舐め回したい。

「朱音ちゃんは──私から陽ちゃんを奪うのね……」

我に──返った。
言葉の内容よりも酷く冷めた声に意識を奪われてた。
顔を上げれば緑子は腕を顔の前で組み隠していて表情が見えない。

「朱音ちゃんに抱かれちゃえば陽ちゃんは私を許さない。陽ちゃんに抱かれれば朱音ちゃんも私を許さない。私──どうしたらいいの?もう教えてよ!朱音ちゃんと陽ちゃん2人で決めて!従うから!言う通りにするから……」

細い指で隠れた目元から涙が流れる。
震える身体が緑子の不安を表している。

「本当に私と陽で決めていいの?そこに緑子の意思は無いの?」

「私は!朱音ちゃんも陽ちゃんも榮吾くんもいる今の関係がいいの!でも──それは無理なんでしょう?私の願いは叶わないんでしょ?朱音ちゃんも陽ちゃんも私の願いより自分の思いが大事なんでしょ……」

「そうだね……ごめん緑子。私たちはもうそれでは満足出来なくなっちゃった。いつか──緑子が他の誰かに──自分以外の誰かに触れさせるなんて考えたら狂いそうなの。貴方を自分のモノにしないと狂いそうなの──」

陽もそうだ。
私と陽は同じ。
だけど私と陽は別人で、緑子を共有なんて出来ない。
緑子が陽を選べば私は耐えられない。
陽も緑子が私を選べば耐えられない。

「緑子は──私と陽どちらが好き?」

「わかんない──分からないよ」

「イメージして──私が他の誰かのモノになるの。緑子じゃない誰かと笑い身体を合わせる。陽が他の誰かと笑い身体を繋げる── 」

緑子の身体がビクリと小さく痙攣したように動く。
わかってる──緑子は本当は陽が好き。
きっと自覚もしている。
でも緑子は私を捨てられない。
私を捨てられないから、わからないフリをする。
私は──それを利用してしまう。
緑子に捨てられたくなくて怯えているのは私なの。
いつか緑子は──陽を選ぶ。
明日?明後日?──今日かもしれない。

「ごめん。ごめん緑子。今日みたいな事は2度としない。だから緑子──陽のモノにならないで。お願いよ。私を──捨てないで」

暖房の暖かさでケーキはドロドロに溶けてしまった。




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