3 / 68
001
しおりを挟む
「緑子の残りでいいよ」
目の前でカプチーノを一口飲み朱音ちゃんがそう呟いた。
目の前のお皿にはナッツの塩バタークッキーがあるのだけれどコレは私が注文したもので朱音ちゃんが頼んだガトーショコラはもう完食している。
それに残り物ではなく楽しみにしているクッキーだよ?朱音ちゃん。
「クッキーはパサつくから好きじゃないって言ってなかったけ?でも朱音ちゃん、食べる?美味しいよ」
塩味が効いて美味しい愛しいクッキーだけれど、朱音ちゃんの方が愛しい。クッキーに別れを告げ濃い目のミルクティーを頼りに生きていこうと決意する。
「──それじゃないよ」
クッキーじゃないなら……このミルクティが欲しいの?
「でも朱音ちゃんミルクティー嫌いじゃなかった?」
しかも私の記憶だとスパイス入りのチャイはもっと嫌いなはずだ。
「だから、食べ物の話じゃない。男の話よ」
「男?」
突拍子のないワードで思考が付いていかず、混乱しているのに朱音ちゃんは飄々としている。
「あの……朱音ちゃん、どうしたの?」
首を斜めに傾け疑問でしかない会話の糸口を探すけれどさっぱり分からない。
チャイを飲めばシナモンとミルクがガツンと効いた味に少しは脳が活性化されないだろうかと試みるがどうやらダメそうだ。
「私と緑子、陽と榮吾」
「陽ちゃんと榮吾くん?」
4人は中学校時代からの幼馴染だ。
私と朱音ちゃんが女子校の高校と大学に通った時期は一緒にいられなかったけれど、それでも交流は続いていたし社会人になった今も仲良しの4人だと思っている。
でもそれがどうしたのか。
どう今の話に繋がるのだろうか?
「緑子は陽と榮吾どっちがいいの?私は緑子の選んだ方の残りでいいから」
「なに──いってるの朱音ちゃん」
陽ちゃんと榮吾くんとは友人であるがそんな関係になった事も無ければ、そんな雰囲気になった事もない。
緑子にとって陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんと変わらない大切な友人だ。
「緑子がいつまでもそんなんだから今まで誰もこの幼馴染の関係を崩そうとはしなかった。けど……もう今までのようにはいられない。4人で仲良くなんて無理だよ」
朱音ちゃんの言葉に整理がつかない。
なぜ急に朱音ちゃんはこんな事を言い出したのか?
4人で仲良くなんて無理だと言われた言葉に寂しさが募る。
「──朱音ちゃんは陽ちゃんか榮吾くんのどっちかを好きなの?」
今まで周りから4人の関係を面白くおかしく言われたことはあったけど、時が経てばそんな事をに言う人はいなくなった。
それなのに仲間内であり朱音ちゃんにそう言われるとは思ってもいなかった。
朱音ちゃんを覗き込めば私を冷たく見遣っている。
──朱音ちゃんはどちらかといえばクールなタイプだけれど今の表情はクールというよりは冷ややかと言える。
その表情に焦ってしまう。
「……朱音ちゃんは陽ちゃんと榮吾くんのどっちが好きなのなら私、協力するよ!」
陽ちゃんは学生時代から頭が良く穏やかでイタズラ好きな甘えん坊で……格好いいから歩いているだけで女の人に声を掛けられるなんて事も何度かあった。
今はモノ書きの仕事をしている。
榮吾くんは自動車販売の営業をしている。
海外メーカーの会社で私は詳しくないけれど高そうな車を販売している。学生時代から友人が多くて野球やサッカーとなんでも皆で楽しんでいた榮吾くんは明るくて優しいから老若男女にモテていてなぁと昔を思い出す。
今でもよく4人でご飯を食べに行ったり、旅行にも行く。
その時の朱音ちゃんの行動や視線を思い出し朱音ちゃんが陽ちゃんと榮吾くんのどちらを好きなのか考えてみる。
「──朱音ちゃんの好きな人は──陽ちゃん?」
朱音ちゃんの瞳は伏せられ表情を読み取れない。
肯定も否定もしないから正解かわからない。
「──なんでそう思うの?」
「だって──よく陽ちゃんと一緒にいるしお互いお似合いな美男美人で……なんとなく2人って空気が似ているから」
榮吾くんとも仲はいいけれど陽ちゃんといる朱音ちゃんの方が自然体な気がする。
もちろん榮吾くんもカッコいいので朱音ちゃんとはお似合いなのだけど。
「私の好きな人はどうでもいいよ。私は緑子の残り物でいいの。緑子。貴方が決めて。陽か榮吾か」
振り出しの話に戻ってしまった。
「朱音ちゃん!私は選べる立場でもないし、陽ちゃんも榮吾くんも他に好きな人がいるかもしれないよ?──まして残り物なんて言い方──嫌だよ」
朱音ちゃんはこんな物言いをする人間ではない。
そう思っていたのに……なんだか10年以上の親友なのに知らない面を見た気がして少し緊張して唇が異常に早く乾く。
朱音ちゃんは私に選べと言うけれど──自分が選べる立場じゃないのは百も承知だ。
陽ちゃんと榮吾くんは昔から人気がある──否、朱音ちゃんともだから3人だと心の中で思う。
「真っ黒な長い髪に白い肌──猫目の瞳にスラリとした軀。朱音ちゃんほど綺麗な人を芸能人でもなかなか見ないよ。それに堂々としていて綺麗な心で──朱音ちゃんは私の憧れなの」
だから陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんが好きなんだと思う。
自分が陽ちゃんと榮吾くんに好かれているなんて1ミリも思えないこの状況で選べれるほど私の心は強くない。
「──私は緑子のそのふわふわの長い髪も大きな瞳もおっとりとした性格も──その心全部が好きよ」
朱音ちゃんは身内贔屓が激しいからそう言ってくれるけれど、本当に私はモテない。
昔から一度も誰かから告白されたこともない。
今の会社でも周りは恋人の話をしているのに──私は未だに誰とも付き合ったことがない。
陽ちゃんや、榮吾くん、朱音ちゃんもいて幸せだから恋愛に興味がなかったと言えば言い訳になってしまうけれど、なんだか自分に魅力がないのを痛感して心寂しくなる事もある。
「朱音ちゃんは陽ちゃんか榮吾くんのどちらかを恋人にしたいの?」
そう問いかけながらも意外だと思った。
朱音ちゃんはもっと広い世界からパートナーを選ぶ気がしていたし、それが叶わないなら政略結婚でもしそうな程に朱音ちゃんも恋愛に興味がないと思っていた。
そうでなければ未だに恋人がいないなんておかしいレベルに朱音ちゃんは綺麗だ。
「緑子はどっちがいいの?」
さっきからこの質問を繰り返している。
困ったなぁと思いながらも何か答えないと永遠に繰り返すことになってしまう。
一度頭の中で整理しよう。
もし──私に陽ちゃんか榮吾くんどちらかを選べる権利が与えられたとしたらどうするだろう?
──やっぱり考えられない。
だって──もうずっと前から陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんを好きだと思っていた。
だから2人を恋愛対象として見てないのが実情で考えられない。
「──私は2人とも大切な友人だからそんな関係にはならないよ」
陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんと付き合わないのは何か理由があるのかもしれない。
もしかしたら──私に遠慮しているのかもしれない。
4人グループでカップルが出来ると気まずいのかもしれないし。
そう思うと朱音ちゃんの恋路を邪魔しているのかもしれない。
嫌だな……
「じゃあ緑子は他に気になる男性でもいるの?」
「いないよ!いないけど──」
ハッキリ言って陽ちゃんと榮吾くん程の男性なんて中々いないと思う。
だから特別気になる相手がいる訳では無いのだけれど朱音ちゃんに『陽ちゃんと榮吾くんは朱音ちゃんを好きだと思うよ』なんて言えばきっと朱音ちゃんは頑なに否定しそうだ。
どう言えば朱音ちゃんは納得してくれるのだろうか?
「職場の……五十鈴さんとか……」
そう言ってみれば朱音ちゃんの眉間に皺が入る。
明らかに信じてない。
「なんでそこに五十鈴が出てくるの?その人、結婚してなかった⁈」
「五十鈴さんは親切で愛妻家で感じのいい上司さんで好きなんだよ」
五十鈴さんを否定されて好きのワードを強く言ってしまった。
「陽や榮吾よりも?」
そう言われると違うのだけれど……もう!本当になんで急にこんな話をするのだろう。
「私はまだ恋愛に奥手で……よく分かんないよ。朱音ちゃんが陽ちゃんか榮吾くんどちらかと付き合っても私、気にしないよ?」
そう返せばますます朱音ちゃんの表情は苛立ちを見せる。
どう言えばこの会話を終わらせる事が出来るのか。
──きっと朱音ちゃんは陽ちゃんを好きなんだと思う。
でも私も陽ちゃんを好きかもしれないと思って──私を気にして言えないのかも知れない。
「じゃあ──……ん」
私の小さな声に朱音ちゃんは怪訝そうな顔をする。
自分の心臓の音が邪魔をして自分でさえ聞こえない。
「緑子なに──」
「じゃあ榮吾くんがいい」
朱音ちゃんを見る事が出来なくて俯いたまま吐き出せば、すぐに返答があると思っていた朱音ちゃんからのアクションが無いので恐る恐る顔を上げて其方を見る。
「朱音ちゃん?」
「あ…分かったわ。榮吾ね」
間違ったのかな。
朱音ちゃんは榮吾くんを好きだったのかなと不安が襲ってくる。
でも今更、陽ちゃんに変えても朱音ちゃんは納得しないかもしれない。
「でも!……でももし……榮吾くんが私より他に好きな人がいればその人と幸せになって欲しいの。それが朱音ちゃんなら尚更。それは知っていてね」
そう強く瞳を見れば一瞬、瞳を逸らされた気がした。
目の前でカプチーノを一口飲み朱音ちゃんがそう呟いた。
目の前のお皿にはナッツの塩バタークッキーがあるのだけれどコレは私が注文したもので朱音ちゃんが頼んだガトーショコラはもう完食している。
それに残り物ではなく楽しみにしているクッキーだよ?朱音ちゃん。
「クッキーはパサつくから好きじゃないって言ってなかったけ?でも朱音ちゃん、食べる?美味しいよ」
塩味が効いて美味しい愛しいクッキーだけれど、朱音ちゃんの方が愛しい。クッキーに別れを告げ濃い目のミルクティーを頼りに生きていこうと決意する。
「──それじゃないよ」
クッキーじゃないなら……このミルクティが欲しいの?
「でも朱音ちゃんミルクティー嫌いじゃなかった?」
しかも私の記憶だとスパイス入りのチャイはもっと嫌いなはずだ。
「だから、食べ物の話じゃない。男の話よ」
「男?」
突拍子のないワードで思考が付いていかず、混乱しているのに朱音ちゃんは飄々としている。
「あの……朱音ちゃん、どうしたの?」
首を斜めに傾け疑問でしかない会話の糸口を探すけれどさっぱり分からない。
チャイを飲めばシナモンとミルクがガツンと効いた味に少しは脳が活性化されないだろうかと試みるがどうやらダメそうだ。
「私と緑子、陽と榮吾」
「陽ちゃんと榮吾くん?」
4人は中学校時代からの幼馴染だ。
私と朱音ちゃんが女子校の高校と大学に通った時期は一緒にいられなかったけれど、それでも交流は続いていたし社会人になった今も仲良しの4人だと思っている。
でもそれがどうしたのか。
どう今の話に繋がるのだろうか?
「緑子は陽と榮吾どっちがいいの?私は緑子の選んだ方の残りでいいから」
「なに──いってるの朱音ちゃん」
陽ちゃんと榮吾くんとは友人であるがそんな関係になった事も無ければ、そんな雰囲気になった事もない。
緑子にとって陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんと変わらない大切な友人だ。
「緑子がいつまでもそんなんだから今まで誰もこの幼馴染の関係を崩そうとはしなかった。けど……もう今までのようにはいられない。4人で仲良くなんて無理だよ」
朱音ちゃんの言葉に整理がつかない。
なぜ急に朱音ちゃんはこんな事を言い出したのか?
4人で仲良くなんて無理だと言われた言葉に寂しさが募る。
「──朱音ちゃんは陽ちゃんか榮吾くんのどっちかを好きなの?」
今まで周りから4人の関係を面白くおかしく言われたことはあったけど、時が経てばそんな事をに言う人はいなくなった。
それなのに仲間内であり朱音ちゃんにそう言われるとは思ってもいなかった。
朱音ちゃんを覗き込めば私を冷たく見遣っている。
──朱音ちゃんはどちらかといえばクールなタイプだけれど今の表情はクールというよりは冷ややかと言える。
その表情に焦ってしまう。
「……朱音ちゃんは陽ちゃんと榮吾くんのどっちが好きなのなら私、協力するよ!」
陽ちゃんは学生時代から頭が良く穏やかでイタズラ好きな甘えん坊で……格好いいから歩いているだけで女の人に声を掛けられるなんて事も何度かあった。
今はモノ書きの仕事をしている。
榮吾くんは自動車販売の営業をしている。
海外メーカーの会社で私は詳しくないけれど高そうな車を販売している。学生時代から友人が多くて野球やサッカーとなんでも皆で楽しんでいた榮吾くんは明るくて優しいから老若男女にモテていてなぁと昔を思い出す。
今でもよく4人でご飯を食べに行ったり、旅行にも行く。
その時の朱音ちゃんの行動や視線を思い出し朱音ちゃんが陽ちゃんと榮吾くんのどちらを好きなのか考えてみる。
「──朱音ちゃんの好きな人は──陽ちゃん?」
朱音ちゃんの瞳は伏せられ表情を読み取れない。
肯定も否定もしないから正解かわからない。
「──なんでそう思うの?」
「だって──よく陽ちゃんと一緒にいるしお互いお似合いな美男美人で……なんとなく2人って空気が似ているから」
榮吾くんとも仲はいいけれど陽ちゃんといる朱音ちゃんの方が自然体な気がする。
もちろん榮吾くんもカッコいいので朱音ちゃんとはお似合いなのだけど。
「私の好きな人はどうでもいいよ。私は緑子の残り物でいいの。緑子。貴方が決めて。陽か榮吾か」
振り出しの話に戻ってしまった。
「朱音ちゃん!私は選べる立場でもないし、陽ちゃんも榮吾くんも他に好きな人がいるかもしれないよ?──まして残り物なんて言い方──嫌だよ」
朱音ちゃんはこんな物言いをする人間ではない。
そう思っていたのに……なんだか10年以上の親友なのに知らない面を見た気がして少し緊張して唇が異常に早く乾く。
朱音ちゃんは私に選べと言うけれど──自分が選べる立場じゃないのは百も承知だ。
陽ちゃんと榮吾くんは昔から人気がある──否、朱音ちゃんともだから3人だと心の中で思う。
「真っ黒な長い髪に白い肌──猫目の瞳にスラリとした軀。朱音ちゃんほど綺麗な人を芸能人でもなかなか見ないよ。それに堂々としていて綺麗な心で──朱音ちゃんは私の憧れなの」
だから陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんが好きなんだと思う。
自分が陽ちゃんと榮吾くんに好かれているなんて1ミリも思えないこの状況で選べれるほど私の心は強くない。
「──私は緑子のそのふわふわの長い髪も大きな瞳もおっとりとした性格も──その心全部が好きよ」
朱音ちゃんは身内贔屓が激しいからそう言ってくれるけれど、本当に私はモテない。
昔から一度も誰かから告白されたこともない。
今の会社でも周りは恋人の話をしているのに──私は未だに誰とも付き合ったことがない。
陽ちゃんや、榮吾くん、朱音ちゃんもいて幸せだから恋愛に興味がなかったと言えば言い訳になってしまうけれど、なんだか自分に魅力がないのを痛感して心寂しくなる事もある。
「朱音ちゃんは陽ちゃんか榮吾くんのどちらかを恋人にしたいの?」
そう問いかけながらも意外だと思った。
朱音ちゃんはもっと広い世界からパートナーを選ぶ気がしていたし、それが叶わないなら政略結婚でもしそうな程に朱音ちゃんも恋愛に興味がないと思っていた。
そうでなければ未だに恋人がいないなんておかしいレベルに朱音ちゃんは綺麗だ。
「緑子はどっちがいいの?」
さっきからこの質問を繰り返している。
困ったなぁと思いながらも何か答えないと永遠に繰り返すことになってしまう。
一度頭の中で整理しよう。
もし──私に陽ちゃんか榮吾くんどちらかを選べる権利が与えられたとしたらどうするだろう?
──やっぱり考えられない。
だって──もうずっと前から陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんを好きだと思っていた。
だから2人を恋愛対象として見てないのが実情で考えられない。
「──私は2人とも大切な友人だからそんな関係にはならないよ」
陽ちゃんも榮吾くんも朱音ちゃんと付き合わないのは何か理由があるのかもしれない。
もしかしたら──私に遠慮しているのかもしれない。
4人グループでカップルが出来ると気まずいのかもしれないし。
そう思うと朱音ちゃんの恋路を邪魔しているのかもしれない。
嫌だな……
「じゃあ緑子は他に気になる男性でもいるの?」
「いないよ!いないけど──」
ハッキリ言って陽ちゃんと榮吾くん程の男性なんて中々いないと思う。
だから特別気になる相手がいる訳では無いのだけれど朱音ちゃんに『陽ちゃんと榮吾くんは朱音ちゃんを好きだと思うよ』なんて言えばきっと朱音ちゃんは頑なに否定しそうだ。
どう言えば朱音ちゃんは納得してくれるのだろうか?
「職場の……五十鈴さんとか……」
そう言ってみれば朱音ちゃんの眉間に皺が入る。
明らかに信じてない。
「なんでそこに五十鈴が出てくるの?その人、結婚してなかった⁈」
「五十鈴さんは親切で愛妻家で感じのいい上司さんで好きなんだよ」
五十鈴さんを否定されて好きのワードを強く言ってしまった。
「陽や榮吾よりも?」
そう言われると違うのだけれど……もう!本当になんで急にこんな話をするのだろう。
「私はまだ恋愛に奥手で……よく分かんないよ。朱音ちゃんが陽ちゃんか榮吾くんどちらかと付き合っても私、気にしないよ?」
そう返せばますます朱音ちゃんの表情は苛立ちを見せる。
どう言えばこの会話を終わらせる事が出来るのか。
──きっと朱音ちゃんは陽ちゃんを好きなんだと思う。
でも私も陽ちゃんを好きかもしれないと思って──私を気にして言えないのかも知れない。
「じゃあ──……ん」
私の小さな声に朱音ちゃんは怪訝そうな顔をする。
自分の心臓の音が邪魔をして自分でさえ聞こえない。
「緑子なに──」
「じゃあ榮吾くんがいい」
朱音ちゃんを見る事が出来なくて俯いたまま吐き出せば、すぐに返答があると思っていた朱音ちゃんからのアクションが無いので恐る恐る顔を上げて其方を見る。
「朱音ちゃん?」
「あ…分かったわ。榮吾ね」
間違ったのかな。
朱音ちゃんは榮吾くんを好きだったのかなと不安が襲ってくる。
でも今更、陽ちゃんに変えても朱音ちゃんは納得しないかもしれない。
「でも!……でももし……榮吾くんが私より他に好きな人がいればその人と幸せになって欲しいの。それが朱音ちゃんなら尚更。それは知っていてね」
そう強く瞳を見れば一瞬、瞳を逸らされた気がした。
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる