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§ 恋は試案のほか。
05
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「ちょっと! 婚約なんてした覚えもないのに、婚約者って言わないでください」
「えー? だったら、なんで断ってこないのよ? あの話、親たちの間ではもう決まったも同然よ?」
「えっ? 私、お母さんに断ってって言ったのに!」
いったいどういうことだろう。お坊ちゃんとふたり、まじまじと顔を見合わせてしまった。
「波瑠ちゃん、マジで断ってたんだ? 僕は、おばさんから波瑠ちゃんが乗り気だって聞いたよ?」
「嘘! そんなはず……あっ!」
なるほど元凶は、どうやらあのオバサンだったようだ。
「そうか……そういうことね。波瑠ちゃんも大変ねぇ」
「おい?」
俊輔がどうなっているのか説明しろと目で私に訴えかけている。
「ああ、ごめんねぇ、こっちだけで盛り上がっちゃって。ここにいるってことは浅野クンも波瑠ちゃんからある程度は事情聞いてるんだよね? いやさ、ウチの親、特に母親がね、煩いのよ結婚結婚って。でも、僕はそもそも女には・・興味無いし、こっちにもこっちの都合ってものがあるじゃない? だから、その手のことは適当に躱してたのね。そしたらやたら見合い勧めてくるわけ。で、まぁ、あの日は父親の友だちの家に行くからどうしても付いていけって言われて、仕方なく行ったら見合いでさ、よーするに騙し討ちだったのよね」
「修造さんもそうだったんだ? うちなんか、母親に父が倒れたからすぐ帰ってこいって……」
「それはまた……」
「酷いと思うでしょ? だからあの日言いたい放題した挙句、家出してやったんだけど……未だ懲りてないわけね、あのオバサン」
「だったら、あのメールはなんだったんだよ?」
そんな説明では納得がいかないとばかりに俊輔が怒気を含んだ低い声で訊く。
「やだ浅野クンったら、怒らないでぇ。あれはねぇ、別に他意は無いのよ。ウチの母親さぁ、こっちが何を言っても聞くような人じゃないから言っても無駄なのよ。それで、しつこくしたら気味悪がって波瑠ちゃんの方から断ってくれるんじゃないかって考えて書いただけなの。でも、ちっとも反応が無いから、もしかして波瑠ちゃんは本気であんなマザコン野郎と結婚する気なのかもってドキドキだったわ」
「マザコン野郎って、それ、自分で言っちゃう?」
「だってさー、アレってマジ気持ち悪いお坊ちゃんじゃない? まぁ、そうは言ってもひとり暮らし始めるまでは、僕、本当にアレだったんだけどねぇ」
あははと声を上げて笑いながら、修造さんにも私と結婚するつもりはまったく無いのだと知って安堵した。ずっと頭が沸いているお坊ちゃんだと思っていたけれど、意外と話がわかる人で良かったと思う。
「えー? だったら、なんで断ってこないのよ? あの話、親たちの間ではもう決まったも同然よ?」
「えっ? 私、お母さんに断ってって言ったのに!」
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「波瑠ちゃん、マジで断ってたんだ? 僕は、おばさんから波瑠ちゃんが乗り気だって聞いたよ?」
「嘘! そんなはず……あっ!」
なるほど元凶は、どうやらあのオバサンだったようだ。
「そうか……そういうことね。波瑠ちゃんも大変ねぇ」
「おい?」
俊輔がどうなっているのか説明しろと目で私に訴えかけている。
「ああ、ごめんねぇ、こっちだけで盛り上がっちゃって。ここにいるってことは浅野クンも波瑠ちゃんからある程度は事情聞いてるんだよね? いやさ、ウチの親、特に母親がね、煩いのよ結婚結婚って。でも、僕はそもそも女には・・興味無いし、こっちにもこっちの都合ってものがあるじゃない? だから、その手のことは適当に躱してたのね。そしたらやたら見合い勧めてくるわけ。で、まぁ、あの日は父親の友だちの家に行くからどうしても付いていけって言われて、仕方なく行ったら見合いでさ、よーするに騙し討ちだったのよね」
「修造さんもそうだったんだ? うちなんか、母親に父が倒れたからすぐ帰ってこいって……」
「それはまた……」
「酷いと思うでしょ? だからあの日言いたい放題した挙句、家出してやったんだけど……未だ懲りてないわけね、あのオバサン」
「だったら、あのメールはなんだったんだよ?」
そんな説明では納得がいかないとばかりに俊輔が怒気を含んだ低い声で訊く。
「やだ浅野クンったら、怒らないでぇ。あれはねぇ、別に他意は無いのよ。ウチの母親さぁ、こっちが何を言っても聞くような人じゃないから言っても無駄なのよ。それで、しつこくしたら気味悪がって波瑠ちゃんの方から断ってくれるんじゃないかって考えて書いただけなの。でも、ちっとも反応が無いから、もしかして波瑠ちゃんは本気であんなマザコン野郎と結婚する気なのかもってドキドキだったわ」
「マザコン野郎って、それ、自分で言っちゃう?」
「だってさー、アレってマジ気持ち悪いお坊ちゃんじゃない? まぁ、そうは言ってもひとり暮らし始めるまでは、僕、本当にアレだったんだけどねぇ」
あははと声を上げて笑いながら、修造さんにも私と結婚するつもりはまったく無いのだと知って安堵した。ずっと頭が沸いているお坊ちゃんだと思っていたけれど、意外と話がわかる人で良かったと思う。
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