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§ 魯肉飯
緣分の二
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「さて、今日はこれを使います!」
意気揚々と掲げて見せたそれは、おいしそうに煮上がった肉の写真が前面に印刷された魯包の箱。このミックススパイスの袋を材料や調味料と一緒に電鍋に入れるだけで、簡単においしい魯肉飯ができあがるのだ。
インターネットでたくさんのレシピを検索研究し、材料も吟味したものを揃えた。
もちろん、レシピどおり分量を計るのも忘れていない。前回の教訓を踏まえ、水の量も最低限。仕上がり具合を確認しつつ、追加で煮込む必要があることも覚えた。
これだけの準備をしたのだから、きっと今回は大丈夫。
お店に出せるほどの魯肉飯を作るのは無理でも、家庭料理としては、十分通用するものができるはず。
すべての材料を入れ、蓋を閉めスイッチを入れたら、あとは待つだけだ。
「おまえさあ、いちいちオレに解説しなくていいから」
「いいでしょべつに」
一緒に買い物をしてきたのだから、全部知っているのはわかっている。けれど、わたしだってカイくんとのお喋りにすっかり慣れてしまったのだから、仕方がない。
電鍋からブクブクと音が漏れ出し、調理のはじまりを知る。
鍋を見張っている必要もないので、参考書を片手にベッドへ腰をかける。時間つぶしに勉強でもしようとページを開いたが、カイくんのお喋りに先を越された。
「なあリンリン、曉慧のことなんだけどさ」
「なによ?」
「ホントに月さんに相談するのかよ?」
「するつもりだよ? だってこのまま放っておけないでしょう?」
「そうなんだけどさ。もう少し考えてからにしたらどうかなと」
なぜいまごろになって急に、そんなことを言い出すのだろう。カイくんの言いたいことがわからない。
「これ以上なにを考えるの? 考えてもいい方法が浮かばないから相談するんでしょ? わたしも、みんなも心配してるし、カイくんだってそうなんじゃないの?」
「そりゃあ、オレだって心配してるし、どうにかなるもんならしたいさ。だけどさ、小鈴。あいつらが決めたことだろう? オレたちが余計な首を突っ込むと逆効果っていうか、さらに曉慧を傷つけることにならないか?」
返す言葉がなかった。カイくんのそれは正論。他人の恋愛に外野が余計な手出し口出しをするべきではない。
わたしだってはじめのうちはそう思っていたのだが。しかし。
「芙蓉姐は、縁があれば、って言ってたよね? ねえ、カイくん。縁ってなんだと思う? 偶然とは違うのかな?」
「縁は……縁だろ? そりゃ偶然みたいなもんだと思うけど、説明できないなにかがたしかにある気がする」
「いまは、だけどな」と、気まずそうに念押しをするカイくんに、ちょっと笑ってしまう。生粋の理系男子でも幽霊になると、考え方が変わるらしい。
「でもさ、うまくいかなかったからって『縁がなかった』のひと言で片づけちゃうのはどうなんだろう? なんか寂しくない?」
わたしは曉慧のあのひと言が、無性に腹立たしいのだ。
「まあな。でも、仕方ないだろ? 縁もいろいろだしさ。それこそ、そこまでの縁でした、ってことなんだよきっと」
「そうなのかなぁ」
男女の縁は、どんなに好きでも一方通行では報われるわけもなし。両思いであってもなにかの事情で引き裂かれることもある。
縁とはそういうものだと言われてしまえば、否定する材料もないのだけれど。
「あれ?」
「ん? どうした?」
「月老ってさ、たしか、男女の縁が記してあるノートみたいなのを持ってる神様だったよね? だったら——縁の有無を最初から知ってるってことでしょう?」
「あ、まあ、そうなるな」
「それなら、やっぱり月老に相談するべきよ。先にわかってるんだったら、ダメならダメではっきり言うでしょ? ダメならなにもしなければいいだけだし、縁があるなら、方法を教えてくれるんじゃない? ついでに、月老が本物かどうかも確かめられるし、一石二鳥?」
わたしって、頭いい。これ以上ない思いつきに、にーっと頬が緩む。
「おまえさ……」
「なに?」
「いや、いい」
カチンと上がった電鍋の蓋を開ける。お玉でかき混ぜ、うーんと唸った。
もう少し煮てみるかな? これはこれで悪くはないと思うのだけれど。
意気揚々と掲げて見せたそれは、おいしそうに煮上がった肉の写真が前面に印刷された魯包の箱。このミックススパイスの袋を材料や調味料と一緒に電鍋に入れるだけで、簡単においしい魯肉飯ができあがるのだ。
インターネットでたくさんのレシピを検索研究し、材料も吟味したものを揃えた。
もちろん、レシピどおり分量を計るのも忘れていない。前回の教訓を踏まえ、水の量も最低限。仕上がり具合を確認しつつ、追加で煮込む必要があることも覚えた。
これだけの準備をしたのだから、きっと今回は大丈夫。
お店に出せるほどの魯肉飯を作るのは無理でも、家庭料理としては、十分通用するものができるはず。
すべての材料を入れ、蓋を閉めスイッチを入れたら、あとは待つだけだ。
「おまえさあ、いちいちオレに解説しなくていいから」
「いいでしょべつに」
一緒に買い物をしてきたのだから、全部知っているのはわかっている。けれど、わたしだってカイくんとのお喋りにすっかり慣れてしまったのだから、仕方がない。
電鍋からブクブクと音が漏れ出し、調理のはじまりを知る。
鍋を見張っている必要もないので、参考書を片手にベッドへ腰をかける。時間つぶしに勉強でもしようとページを開いたが、カイくんのお喋りに先を越された。
「なあリンリン、曉慧のことなんだけどさ」
「なによ?」
「ホントに月さんに相談するのかよ?」
「するつもりだよ? だってこのまま放っておけないでしょう?」
「そうなんだけどさ。もう少し考えてからにしたらどうかなと」
なぜいまごろになって急に、そんなことを言い出すのだろう。カイくんの言いたいことがわからない。
「これ以上なにを考えるの? 考えてもいい方法が浮かばないから相談するんでしょ? わたしも、みんなも心配してるし、カイくんだってそうなんじゃないの?」
「そりゃあ、オレだって心配してるし、どうにかなるもんならしたいさ。だけどさ、小鈴。あいつらが決めたことだろう? オレたちが余計な首を突っ込むと逆効果っていうか、さらに曉慧を傷つけることにならないか?」
返す言葉がなかった。カイくんのそれは正論。他人の恋愛に外野が余計な手出し口出しをするべきではない。
わたしだってはじめのうちはそう思っていたのだが。しかし。
「芙蓉姐は、縁があれば、って言ってたよね? ねえ、カイくん。縁ってなんだと思う? 偶然とは違うのかな?」
「縁は……縁だろ? そりゃ偶然みたいなもんだと思うけど、説明できないなにかがたしかにある気がする」
「いまは、だけどな」と、気まずそうに念押しをするカイくんに、ちょっと笑ってしまう。生粋の理系男子でも幽霊になると、考え方が変わるらしい。
「でもさ、うまくいかなかったからって『縁がなかった』のひと言で片づけちゃうのはどうなんだろう? なんか寂しくない?」
わたしは曉慧のあのひと言が、無性に腹立たしいのだ。
「まあな。でも、仕方ないだろ? 縁もいろいろだしさ。それこそ、そこまでの縁でした、ってことなんだよきっと」
「そうなのかなぁ」
男女の縁は、どんなに好きでも一方通行では報われるわけもなし。両思いであってもなにかの事情で引き裂かれることもある。
縁とはそういうものだと言われてしまえば、否定する材料もないのだけれど。
「あれ?」
「ん? どうした?」
「月老ってさ、たしか、男女の縁が記してあるノートみたいなのを持ってる神様だったよね? だったら——縁の有無を最初から知ってるってことでしょう?」
「あ、まあ、そうなるな」
「それなら、やっぱり月老に相談するべきよ。先にわかってるんだったら、ダメならダメではっきり言うでしょ? ダメならなにもしなければいいだけだし、縁があるなら、方法を教えてくれるんじゃない? ついでに、月老が本物かどうかも確かめられるし、一石二鳥?」
わたしって、頭いい。これ以上ない思いつきに、にーっと頬が緩む。
「おまえさ……」
「なに?」
「いや、いい」
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