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番の拷
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しおりを挟む意識が朦朧としてる中、ふと思い出した光景。
統、季秋と鳴の三人で近所の農家さんの畑で芋堀をさせて貰っていた時にした会話だ。
あと数年で第二の性が出るんだよね、血液検査だって言ってたから注射打つんだよ、怖いよね。なんて他愛もない会話の中にあった気がする。
あれはどっちから話を切り出してきたかはわからない、朧気ですぐに思い出せるような状態でもない。
ただ、確実に言っていた。
「鳴ちゃんが例えどんな性にいたって、俺と運命の番なんだよ。
ずっと鳴ちゃんだけが良い匂いなの、俺を幸せにする匂いなの」
両親はその言葉を聞いて底知れぬ不安を持ったと思う。
まだ第二の性が開花する前、判別前であったのに『匂い』という実際にαがΩに感じるとされるものを感じていると言われたのだから。
ただ、その時の鳴もまだまだ幼かった。
そんな風に言われても、番のなんたるかを知らぬまま。
「二人と離れないでいられるならなんでもいいよ」
そう答えたのだから。
そうか、そうだった。
鳴は二人と居ることを望んでいた。
中学に入り、βの番と蔑まれ白い目で見つめられることに慣れてしまって忘れていた。
高校だって、季秋の頭脳であればもっと頭の良い進学校に行けたはず。
統は他の凄く有名なスポーツの進学校からスカウトが来ていたのに、全て蹴ってまで鳴の学力や体力に合わせたこの学校を選び一緒に受験してくれた。
離れないで、そう言った鳴の言葉を守るため。
鈍い痛みで意識が覚醒する。
埃っぽい、古くさい匂い。使われていない空き教室か何かだろうか。
見たことのあるαが一人と、先ほどの大柄とそれに従う一人。部屋の外にも一人、気配だけだが感じる。
殴られた顔とお腹が痛い。
それに起こすために更に殴ったのか、口の中に血の味が広がる。
パッと、自分の状態に目を向けるとYシャツはボタンを引きちぎられはだけて、ズボンのベルトは失くなっている。
明らかに平静を保って情報を集めている場合では無いことだけは確かだ。
「…お前って女みてぇな身体してんのな。そりゃαだって誘惑できるだろうな」
ガッと、髪の毛を鷲掴みにされ痛みとαの威圧感に流石に気圧される。
見たことのあるαは季秋のクラスにいた優秀生。中間考査で、季秋が一位だったのを酷く悔しそうに見ていた二位だったはず。
「弱点であるお前さえ消せれば、アイツらなんかすぐにでも潰せるんだ」
その言葉はまるで呪いのように、突き刺さる。
誰が、誰の弱点だと言ってるんだこいつらは。
遠くからでも解る、あり得ないほどビシビシと伝わるこの殺意を目の前にいるαは気付いていないというのか。
「……勉強が出来ても頭が悪いって噂は本当みたいだ」
カチンと言わんばかりに青筋を立ては?とドスの効いた声で威圧するαを鳴は精一杯の言葉で煽り立てた。
威圧するαのオーラが広がればそれだけ見つけて貰える可能性が増える。
それにあの二人なら見つけ出してくれるはず。
「…統や季秋に勝ちたいと俺を使う時点で負けてることに気付くべきだ。
お前らがどれだけ言おうが、弱点になんか成りやしない。
運命の番ってのは、『逆鱗』なんだよ」
意味なんか間違えてたって良い。
その瞬間だけでも時間を稼げれば、きっと。
横目にαたちに伸びた拳を視界に入れた途端、また鳴は張り詰めていた緊張が解け意識を飛ばし倒れた。
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