上 下
68 / 110
2.再開期

20

しおりを挟む

 アウスの息が正常に動いていることを確認したノルマンはアウスの事は気がかりでも進めなければならない事象が多すぎることに手を着けようと動いた。


「……まずは、聖女暗殺未遂の件でウィリエール含む全員を勾留する。次にこの黒龍が公国の主であることを知らぬとはいえ石を投げた者とそれを見ていたもの達を別途勾留することになる。傍観を決めていただけ、は今回は残念ながら通用しない。警備兵は半数に分かれこの場に居るものの全ての家の者に勾留と理由を伝えよ」


 ノルマンの決定は貴族達からすれば絶望そのものであった。
学生とはいえ、両親不介入であった空間で『聖女暗殺未遂』という国を揺るがす事件に加え、追い打ちをかけるように『公国主への傷害』という国家単位の事件にも関与が認められ勾留される。どれほど一族の名前に泥を塗る行為か。

 ある程度の頭が回るものはノルマンへ慈悲を賜ろうと頭を下げたが、ノルマンは一切の見向きもせずマリアを気遣うばかりであった。

 学生達の両親含む家にも相当な衝撃が走ったことであろう。聖女が二人いるという噂であったりある程度の流される要因があったとしても関与の認められ勾留決定がされた者が息子娘であるという事実を叩き付けられるのだ。
ただの警備兵たちからの通達であれば反論も多少の賄賂による慈悲もあったかもしれないが、まず警備兵達が告げたのは『国王陛下よりの通達』である。

 国の頂点である国王ならびに王妃が一族の汚名を見つけ、それを勾留し断罪するというのは言い訳すらも通じない本当の終わりを意味した。


 勿論、エトワール家にも警備兵は向かい事情の説明をした。オズモンドの留守に応対をしたのはシャルロットであったがあまりの衝撃に持っていた花瓶を落とし割り意識を失った。
 花瓶の割れる音で駆けつけてきたランゼルにもう一度警備兵は同じ話をした上で学院にいらしてください、と言えば食い気味の返事で勿論です。とランゼルは答えた。


 続々とこの一件に関わるもの達とその親族に事のあらましが伝えられると、学院は今までに類を見ない程に混沌を極めた。
あまりにも多い学生の勾留決定、順を追い勾留所への移動をするため公道を含めた移動手段で何かあったことは明白であった。

 依然、目を覚ます気配すらないアウスに気を取られつつもアウスの蜷局の真ん中にいるであろうラウリーの安否も不安にはなる。マリアはウィリエール達生徒の対応をノルマンに任せ、教員達に状況の説明とこれからの動きを伝える対応に回った。


「……失礼ながら王妃様、王妃様がこの学院にいらしてから騒ぎが何度も起きています。今までこんなこと無かったんです」


 教員にはまるでマリアが疫病神ではないのかと遠回しに言うものもいた。ノルマンが聞けばただでは済まない言葉でもマリアは決して否定も肯定もしなかった。
 前回の回帰でマリアが事の全容を知ったのは、三年後。ウィリエール達が四年生。卒業パーティで。それまでは何もかもを知らんぷりで。人が何人屍になろうとも。

 デクドーとマリアの子であるウィリエールという存在に目を背け続けてきた。


「教員の言い分も分かります。ですがこの学院に根付いていたものが爆発し、こうして騒ぎになるのは例え今日でなくともいつかは起きていたことです。
そのいつかに頼るのではなく、今こうして摘める時に根を一つでも取るのが大人の出来ることではないのですか、未来は私たちでなく彼ら生徒達が担うのにどうして未来を蔑ろにし今責任転嫁に勤しむのか甚だ理解出来ないわ」


 記憶を所持した回帰、これが今まで目を逸らしてきた者達へのせめてもの贖罪。
回帰しても守れなかった者達へ見せるこれからの姿勢。
王妃として振りかざせる権力を必ず曲げることなく助けられるものにするために。


「……わかりました」


 渋々動く教師達を見送り、マリアは立ち止まりそうな心をグッと堪えてアウスがまだ眠る裏広場へと戻るため足を進めた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

悪役令嬢の正体と真相

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
公爵令嬢アデライードは王宮の舞踏会で、男爵令嬢アネットを虐めた罪を断罪され、婚約者である王太子に婚約を破棄されてしまう。ところがアデライードに悲しんだ様子はなく……? ※「婚約破棄の結末と真相」からタイトル変更しました

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

邪魔者というなら私は自由にさせてもらいますね

影茸
恋愛
 これまで必死に家族の為に尽くしてきた令嬢セルリア。  しかし彼女は婚約者を妹に渡すよう言われてしまう。  もちろん抵抗する彼女に、家族どころか婚約者さえ冷たく吐き捨てる。  ──妹の幸せを祈れない邪魔者、と。  しかし、家族も婚約者も知る由もなかった。  今までどれだけセルリアが、自分達の為に貢献してきたか。  ……そして、そんな彼女が自分達を見限ればどうなるかを。  これはようやく自由を手にした令嬢が、幸せに気づくまでの物語。 ※試験的にタイトル付け足しました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...