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1.回帰

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 男は撃たれ、出血が止まらず肌が刻々と蒼白くなる女を服が汚れるのも躊躇うことなく抱き締めて王城へと飛んだ。
パレードから馬で来る、と聞かされていたメイドや使用人達はざわめき、慌てたがその腕に抱かれた存在を見たことで更にパニックとなった。


 「王城内ニイル医師ヲ全員集メロッ、即刻二ダッ!」


 地鳴りが起きるような深い声は、多くの人の背筋に雷を落とす。
足を止めることは死を表すかのように駆け出す者を、見下すように見ながら腕の中の小さな命の灯火が消えかかる事実に震え上がる。

 どうすることも出来ない現状に、彼女の呼吸と心拍を確認することしか叶わない。
額に大きく刻印された奴隷の紋。
 人間以下の証明としてつくられた、ひし形の枠組みの中に黒目の部分に亀裂の入った眼が描かれている。

 まだ、彼女の表情も見たことがない。
酷く虐げられてきた彼女はどこで何をしてきた者なのか、いつからこの生活をしていたのか、訊きたいことは山のようにある。
 公主様ッ!と叫び声に近い大きな声が城入り口のロビーに響く。
昔より城に仕えている医師数名がフル装備で階段を駆け降りてくる。


 「…俺の番だ…………何としても助け出してくれ…ッ」


 龍の姿は不安と冷静で解け始め、人間の姿で彼女を腕から医師に見せる。
酷い状態だ、すぐに手術を。とバタバタと走り回る医師の一人が「番様を救えるよう尽力致します」と頭を深く下げ、治療が出来る部屋へと彼女を担架に乗せ連れて行く。

多くの使用人が感じたことのない緊張感を感じながら次の一挙手一投足に目を向ける。
 男は血塗れの服を着替えることなく、怒りを露にし『国中の主要貴族を集めろ』『俺の不在時の責任者、代行公主は誰だ』と投げ掛けた。


 リュド公国は、王制度ではなく代表的な貴族が公主という立場を担い成り立つ国だが、元は栄えていた王国の一部として人間の配下に居た。
反逆者達により王の軍は壊滅し、その反逆のリーダー格だったアウスが公主となった。

 人外が受けた人間からの非人道的な扱いから守るため。
この理由と同等の理由で公国の隣に位置する帝国も独立した。
そんな公国で最も禁止していたこと、それが奴隷売買。
 高値で取引され裏や闇で蔓延しているこの問題には手を振れるべきであったが、戦地に赴くことを理由に遅れ続けてきた案件。


 まさか、自分の番がそんな奴隷売買の商品として人でありながら人間以下の扱いをされてきたという事実だけで怒りが限界を越えてしまう。

 絶対に公国内で起きないようにするべきと、そう誓った筈なのに。


 厳格な王城に溢れる殺気に怯えきった馬が引っ張る馬車次々と門をくぐり、中から明らかにきらびやかな貴族達が慌てたように入っていく。
先ほどまでのパレードの面影もない空気感に、人によっては冷や汗が止まることが無かった。

 王城のホールに集められた貴族は頭を上げることが出来なかった。
怒りに人間の姿でありながら龍の鱗が現れたままの姿。
龍の一族の眼光の鋭さに怯えることしか出来やしない。


 「…………で?、頭を下げるだけではなく教えてくれ。
俺や公国騎士団を総動員し国のため尽力していた時間、お前らは何をしていた?
何をしていたらこの国で最も赦されぬ奴隷が足の台になることになる?答えろ」
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