57 / 61
57 ゴリラいちご
しおりを挟む「よーう兄ちゃん、昨日の食い物はほんとにすげえな。ここまでの効果があるならよ、いざというときの為に取っておくべきだったぜ」
この食いしん坊おじさんも冒険者だったようだ。しかも魔法職。どうみても山賊か盗賊っぽいのだが。
「しっかし美味過ぎてなぁ、食い始めると止まらなくてなァ、気がついたら普通に全部食っちまったんだよなぁ。マジックアイテムならよう、効力もちゃあんと書いておいてくれりゃ良いのにな」
「ええと、もしかして昨日のを全部もう食べたのですか?」
「あたぼうよ。サクサクっとしてスパイシーで、食い始めたら止めるのは至難のわざだろうよ」
「気分悪くなったりはしてませんか?」
「ああん? 何をいってやがんだ。むしろ絶好調だよ。生まれて以来最高の気分だぜ。って、ん? あれか? もしかして魔力酔いの事か? はっはっは、俺はなぁ、自慢じゃあねえが魔力酔いと毒耐性だけは強めなんだよ。だからこそ、兄さんみたいな訳のわからねえ奴の売ってるもんでも食えるんだ。ヴァッハッハ」
豪快なおじさんはそう語る。
昨日の夜のうちに食べたのが3パック。今朝起きてから食べたのが9パック。
今の魔力は12上昇。MPの自然回復速度も12%上昇しているそうだ。
なんだこのおっさんの消化能力は。人間にあるまじきお腹の強さだな。
もしアマゾネスなギルマスが知ったら、これまた驚嘆するだろうな。彼女はブースト食材を大量摂取したがったいたから。
もっとも、これはあくまで人間用。トカマル君が食べているやつに比べると、ずっと軽いブースト効果にはなっているが。
「効果の持続は3時間てところか?」
「それくらいですね」
「よし、そんなら軽く森の方まで行ってくるか。今日は稼ぎ時だぜ。うぃ、ちょっくら行って来るぜ!」
おじさんはガサツな印象とは裏腹に、風の魔法をたくみに操って飛ぶように駆けて行った。ほとんど山賊にしか見えないような風貌なのに、風と炎の魔法使いらしい。
おじさんにはワイルドキラーストロベリーの生息場所をもう少し詳しく聞きたかったのだが、あまりにルンルンと跳ね跳んで行く後姿には声が掛けられなかった。
俺たちはイチゴ探しを続行する。
この近くに出没するはずなのだけれどな。いっこうに見当たらない。
魔物だからブラブラしていれば向こうから襲い掛かってくるはずな・ ん?
おや? もしかして、これは?
「エフィルアさん、どうしたんですか? そんな岩石タイラントなんて見つめて? クン、クンクン、お? これがもしや?」
そこにあるのは一見すれば岩だった。もう少し正確に言えば、岩のモンスターである。半身を地面にうずめて、誰かが近くに来るのを待ち構えている。
何かの魔法を練り上げている最中のようでもある。
あと一歩近づけば、襲い掛かってくる距離に入るだろう。
しかし、なんだ、あの頭の先にチンマリとくっついた赤い物体は。
岩の隙間に小さな葉っぱがあり、その影に小さな赤い実。
【鑑定】
ワイルドキラーストロベリー:
植物系モンスター。魔素伝導力の低い低品質な砂岩が採取できる。叩くと良い香りがする。食用には向かない。
おお、これか。これなのか。想像していた物とあまりに違いすぎて、気がつかなかった。
イチゴ部分ちいさいな~。地球の野苺も食用にするには物足りないような大きさだけれど、これはまた小さい。小指の爪の半分くらいのサイズしかない。
そして岩石質の部分があまりにも大きい。
ゴリラサイズの岩が寝転がっているような感じ。その頭の上にちょこんと小さな苺。
もしこれで苺のタルトを作ろうと思ったならば、何トン分の岩ゴリラを処理しなくてはならないのだろう。
これならオロチ苺のほうがまだ食べやすそうである。
「エフィルア様。これは倒しちゃって良いんですか?」
トカマル君は手に持った大鎌で、ヒュンヒュンと華麗に空を切っている。
「頭の天辺にある草と実の部分だけは残して、あとは細切れでもいいよ」
この岩にどの程度の強度があるのかも見てみたいしな。
「ワーイ、それじゃあ、エイッ」
トカマル君が一歩踏み込むと、ゴリラ大岩が音をたてて動き出した。が、そのまま綺麗に細切れに斬り飛ばされてしまう。
こうして切り刻んでみると、なるほど確かにこの魔物からは甘い苺の香りが漂ってくるのだった。意外と砂岩質の部分も香りは良いのだ。
お、植物らしく根っこもあるようだ。
「はい、どうぞ。頭の上に生えていた部位です」
トカマル君が収穫した苺をもってきてくれた。
コンコンッ その小さな苺を叩いてみると、ガラスのような澄んだ高い音が鳴った。硬そうだな。しかも実の部分よりも種の部分が多い。
「エフィルアさん。この岩ゴリラでしたら町の周囲にあと8体ほど湧いてますよ。きれいに等間隔にならんでて分かりやすい場所にいます。全部収穫しておきますか?」
ロアさんは広域探知術で周囲の様子を調べてくれた。
「では根付きの状態で3つ。残りは実と素材だけ獲りましょうか」
「「はーい」」
出来れば生体のまま持ち帰りたいけれど、インベントリには意志のある生き物は収納できない。かといって、生きたこれをそのまま持ち帰るのも問題があるよな。
今後植物の収集をやっていくなら、何か生きたまま運搬できる道具が必要になりそうだ。
ロアさん&トカマル君が狩ってきてくれたワイルドキラーストロベリーをインベントリに仕舞いこむ。砂岩部分も一応しまっておこう。これはこれで売れるはずだ。
ワイルドキラーストロベリーのまるごと素材 ×3
ワイルドキラーストロベリーの砂岩 ×6
ワイルドキラーストロベリーの実 ×6
ワイルドキラーストロベリーの魔石 ×6
魔石も相変わらずの100%ドロップ。この魔石はトカマル君に食べさせたらどうなるだろうか?
もしかすると苺フレーバーなトカマル君になったりするだろうか?
魔石は各種アイテムの作成にも使える素材である。
コボルトさん達も魔導具作りのために沢山の魔石を所望していたが、イチゴフレーバーな魔石も使い道があるだろうか。
それはさておき、収穫した苺を1つ口に入れてみる。
バキィン バリバリ バキィ 硬いな。ほとんどガラスを食べてるようだ。
だがしかし香りは素晴らしいし、ほんのりと甘みもある。
「魔道炉に入れて魔素漬けにしたらダメですか?」
トカマル君も一口食べてから、そう言った。
魔道炉で錬金調理すれば柔らかくなる可能性は確かにあるな。
ただし、含有魔素が多くなりすぎるから普通の人間には食べられなくなってしまうのが難点か。まあ、俺は食えるから問題ないのだが。
あとはあれだな、浮遊古城に帰ったら種を撒いてみようかな?
実には種がしっかり付いている。どこか栽培に適した場所があると良いのだけれど。モンスターだからな。栽培方法も良く分からないよな。
10
お気に入りに追加
804
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
第五皇女の成り上がり! 捨てられ皇女、皇帝になります
清家未森
ファンタジー
後宮でくらす見捨てられた第五皇女・ユーゼリカは弟を養うため、趣味と実益を兼ねた節約貧乏生活を送っていた。幼い時に母を亡くし、後ろ盾のないユーゼリカたちは他の皇子皇女にも嘲笑われる立場。そんな中、父である現皇帝は、後宮中の皇子皇女を集め、『これから三年の後、もっとも財を築き、皇宮を豊かにした者』を次期皇帝にすると宣言。戸惑う彼らの中でまっさきに手を挙げたのはユーゼリカだった。しかもその方法は――人材育成!? 次代の天才を育成し、彼らにがっぽり稼いでもらうため、おんぼろ屋敷を買い上げ、寮経営を始めたユーゼリカだったが、集まったのは奇人変人ついでに美形の曲者ぞろいで……!?
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの…
乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。
乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い!
原作小説?1巻しか読んでない!
暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。
だったら我が道を行くしかないじゃない?
両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。
本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。
※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました)
※残虐シーンは控えめの描写です
※カクヨム、小説家になろうでも公開中です
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!
林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。
夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。
そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ?
「モンスターポイント三倍デーって何?」
「4の付く日は薬草デー?」
「お肉の日とお魚の日があるのねー」
神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。
※他サイトにも投稿してます
転生赤ちゃんカティは諜報活動しています そして鬼畜な父に溺愛されているようです
れもんぴーる
ファンタジー
実母に殺されそうになったのがきっかけで前世の記憶がよみがえった赤ん坊カティ。冷徹で優秀な若き宰相エドヴァルドに引き取られ、カティの秘密はすぐにばれる。エドヴァルドは鬼畜ぶりを発揮し赤ん坊のカティを特訓し、諜報員に仕立て上げた(つもり)!少しお利口ではないカティの言動は周囲を巻き込み、無表情のエドヴァルドの表情筋が息を吹き返す。誘拐や暗殺などに巻き込まれながらも鬼畜な義父に溺愛されていく魔法のある世界のお話です。
シリアスもありますが、コメディよりです(*´▽`*)。
*作者の勝手なルール、世界観のお話です。突っ込みどころ満載でしょうが、笑ってお流しください(´▽`)
*話の中で急な暴力表現など出てくる場合があります。襲撃や尋問っぽい話の時にはご注意ください!
《2023.10月末にレジーナブックス様から書籍を出していただけることになりました(*´▽`*)
規定により非公開になるお話もあります。気になる方はお早めにお読みください! これまで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる