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57 ゴリラいちご

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「よーう兄ちゃん、昨日の食い物はほんとにすげえな。ここまでの効果があるならよ、いざというときの為に取っておくべきだったぜ」

 この食いしん坊おじさんも冒険者だったようだ。しかも魔法職。どうみても山賊か盗賊っぽいのだが。

「しっかし美味過ぎてなぁ、食い始めると止まらなくてなァ、気がついたら普通に全部食っちまったんだよなぁ。マジックアイテムならよう、効力もちゃあんと書いておいてくれりゃ良いのにな」


「ええと、もしかして昨日のを全部もう食べたのですか?」
「あたぼうよ。サクサクっとしてスパイシーで、食い始めたら止めるのは至難のわざだろうよ」

「気分悪くなったりはしてませんか?」
「ああん? 何をいってやがんだ。むしろ絶好調だよ。生まれて以来最高の気分だぜ。って、ん? あれか? もしかして魔力酔いの事か? はっはっは、俺はなぁ、自慢じゃあねえが魔力酔いと毒耐性だけは強めなんだよ。だからこそ、兄さんみたいな訳のわからねえ奴の売ってるもんでも食えるんだ。ヴァッハッハ」

 豪快なおじさんはそう語る。
 昨日の夜のうちに食べたのが3パック。今朝起きてから食べたのが9パック。
 今の魔力は12上昇。MPの自然回復速度も12%上昇しているそうだ。

 なんだこのおっさんの消化能力は。人間にあるまじきお腹の強さだな。
 もしアマゾネスなギルマスダウィシエさんが知ったら、これまた驚嘆するだろうな。彼女はブースト食材を大量摂取したがったいたから。

 もっとも、これはあくまで人間用。トカマル君が食べているやつに比べると、ずっと軽いブースト効果にはなっているが。

「効果の持続は3時間てところか?」
「それくらいですね」
「よし、そんなら軽く森の方まで行ってくるか。今日は稼ぎ時だぜ。うぃ、ちょっくら行って来るぜ!」

 おじさんはガサツな印象とは裏腹に、風の魔法をたくみに操って飛ぶように駆けて行った。ほとんど山賊にしか見えないような風貌なのに、風と炎の魔法使いらしい。

 おじさんにはワイルドキラーストロベリーの生息場所をもう少し詳しく聞きたかったのだが、あまりにルンルンと跳ね跳んで行く後姿には声が掛けられなかった。

 俺たちはイチゴ探しを続行する。

 この近くに出没するはずなのだけれどな。いっこうに見当たらない。
 魔物だからブラブラしていれば向こうから襲い掛かってくるはずな・ ん?

 おや? もしかして、これは?

「エフィルアさん、どうしたんですか? そんな岩石タイラントなんて見つめて? クン、クンクン、お? これがもしや?」

 そこにあるのは一見すれば岩だった。もう少し正確に言えば、岩のモンスターである。半身を地面にうずめて、誰かが近くに来るのを待ち構えている。
 何かの魔法を練り上げている最中のようでもある。
 
 あと一歩近づけば、襲い掛かってくる距離に入るだろう。
 しかし、なんだ、あの頭の先にチンマリとくっついた赤い物体は。
 岩の隙間に小さな葉っぱがあり、その影に小さな赤い実。 
 
【鑑定】 
 ワイルドキラーストロベリー:
  植物系モンスター。魔素伝導力の低い低品質な砂岩が採取できる。叩くと良い香りがする。食用には向かない。

 おお、これか。これなのか。想像していた物とあまりに違いすぎて、気がつかなかった。
 イチゴ部分ちいさいな~。地球の野苺も食用にするには物足りないような大きさだけれど、これはまた小さい。小指の爪の半分くらいのサイズしかない。

 そして岩石質の部分があまりにも大きい。
 ゴリラサイズの岩が寝転がっているような感じ。その頭の上にちょこんと小さな苺。
 もしこれで苺のタルトを作ろうと思ったならば、何トン分の岩ゴリラを処理しなくてはならないのだろう。

 これならオロチ苺のほうがまだ食べやすそうである。

「エフィルア様。これは倒しちゃって良いんですか?」
 トカマル君は手に持った大鎌で、ヒュンヒュンと華麗に空を切っている。

「頭の天辺にある草と実の部分だけは残して、あとは細切れでもいいよ」
 この岩にどの程度の強度があるのかも見てみたいしな。

「ワーイ、それじゃあ、エイッ」

 トカマル君が一歩踏み込むと、ゴリラ大岩が音をたてて動き出した。が、そのまま綺麗に細切れに斬り飛ばされてしまう。
 こうして切り刻んでみると、なるほど確かにこの魔物からは甘い苺の香りが漂ってくるのだった。意外と砂岩質の部分も香りは良いのだ。
 お、植物らしく根っこもあるようだ。

「はい、どうぞ。頭の上に生えていた部位です」

 トカマル君が収穫した苺をもってきてくれた。
 コンコンッ その小さな苺を叩いてみると、ガラスのような澄んだ高い音が鳴った。硬そうだな。しかも実の部分よりも種の部分が多い。

「エフィルアさん。この岩ゴリラでしたら町の周囲にあと8体ほど湧いてますよ。きれいに等間隔にならんでて分かりやすい場所にいます。全部収穫しておきますか?」

 ロアさんは広域探知術で周囲の様子を調べてくれた。
 
「では根付きの状態で3つ。残りは実と素材だけ獲りましょうか」
「「はーい」」

 出来れば生体のまま持ち帰りたいけれど、インベントリには意志のある生き物は収納できない。かといって、生きたこれをそのまま持ち帰るのも問題があるよな。
 今後植物の収集をやっていくなら、何か生きたまま運搬できる道具が必要になりそうだ。

 ロアさん&トカマル君が狩ってきてくれたワイルドキラーストロベリーをインベントリに仕舞いこむ。砂岩部分も一応しまっておこう。これはこれで売れるはずだ。

 ワイルドキラーストロベリーのまるごと素材 ×3
 ワイルドキラーストロベリーの砂岩 ×6
 ワイルドキラーストロベリーの実 ×6
 ワイルドキラーストロベリーの魔石 ×6

 魔石も相変わらずの100%ドロップ。この魔石はトカマル君に食べさせたらどうなるだろうか? 
 もしかすると苺フレーバーなトカマル君になったりするだろうか?

 魔石は各種アイテムの作成にも使える素材である。
 コボルトさん達も魔導具作りのために沢山の魔石を所望していたが、イチゴフレーバーな魔石も使い道があるだろうか。

 それはさておき、収穫した苺を1つ口に入れてみる。
 バキィン バリバリ バキィ 硬いな。ほとんどガラスを食べてるようだ。
 だがしかし香りは素晴らしいし、ほんのりと甘みもある。

「魔道炉に入れて魔素漬けにしたらダメですか?」 
 トカマル君も一口食べてから、そう言った。
 
 魔道炉で錬金調理すれば柔らかくなる可能性は確かにあるな。
 ただし、含有魔素が多くなりすぎるから普通の人間には食べられなくなってしまうのが難点か。まあ、俺は食えるから問題ないのだが。

 あとはあれだな、浮遊古城に帰ったら種を撒いてみようかな?
 実には種がしっかり付いている。どこか栽培に適した場所があると良いのだけれど。モンスターだからな。栽培方法も良く分からないよな。
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