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47 聖女神殿の地下施設

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「ダウィシエさん?」
「       そ゛   の 声は エ エフィ ルア 」
 かすかに開かれた彼女の口からかすれた声がもれた。

「こいつは 情けないところを 見られてしまったな」
 彼女は腫れ上がったまぶたを薄っすら開いてこちらに視線をむける。
 ロアさんは急な事態に驚きながらも、携帯していた回復薬を手早く取り出してダウィシエさんの手当てを始めた。

「ひどい傷です。これはもう絶対安静ですからねダウィシエさん。動かないでくださいよ。命にも関わります」
 ダウィシエさんは抱えられ、そのまま横に寝かせられた。

 彼女はこの場所で、聖女の父親神官長エグアスたちから凄惨な拷問を受けていたようだ。
 今は回復薬の効果も現われ始め、もう命の危険はなさそうだが…… 彼女の肩関節や足の腱、特に激しく破壊された部位の傷は痛々しく、損傷は著しい。

「ふふふん。私があの程度の雑魚ジジイなどに殺されるものか。この程度の傷もなんてことはない。ああ私は大丈夫だ、それよりも……」

 強がるダウィシエさんだったが、さすがの彼女も大人しく横たわったままだった。
 しかし、

「向こうを…… もっと多くの被害者を私は発見したのだ」
 その視線は力強く、部屋の奥を射抜く。

 彼女は死にかけの自分の身体のことよりも、他の被害者たちについて気にかけているようだった。

「あれは長年、私が放置してきてしまったこの町の病巣そのものだ。私が見殺しにしてきてしまった者達の末路なのだ。今このような状況になってようやく、私は……」

 ダウィシエさんの言葉を受けて、俺はその部屋の扉を開く。
 そこにあったものは、聖域だった。

 荒く冷たい石壁に囲まれた部屋。その部屋の中央には大きな落とし穴のような物があいていて、そこには聖属性魔法による厳重な結界がほどこされていた。

 中にあるのは、人の死骸。古く朽ち果てたものから、まだ真新しいものまで。
 怨霊と怨念の渦が逆巻いている。

「この場所のようですね。禁忌魔法の実験場は」
「特殊な力を得るための儀式の場。それから、おそらくは輪廻逃れの法も行使されていたようだ」
 
 地獄の2人はそう言った。

「輪廻逃れの法?」
「死後の輪廻転生に干渉するための術だが、もっと単純に言えば、不死の術である。これが世界の理すらをも酷く傷つける代物でな。人間同士のいざこざには我らは直接関与はせぬが、こういうものは放っておけぬのよ」


 聖女神殿でやっていたのは不死の術と、聖属性魔法の強化。たったそれだけの事。
 しかし、その代償として使ったのは人間の血肉と魂魄、その苦しみと怨嗟を増幅させながら使っていたらしい。
 この“聖域”の中で酷く残虐な行為が行われていたのは一見して明らかなことだった。


 これが世界を歪ませる根源の1つでもあるらしいが、さて、たちの悪いことに、この場所と禁術を破壊するだけでは事態は解決しないのだという。

 無暗に破壊をすれば、人間の町も地下空間も消し飛んでしまうというのだから迷惑な話だ。

 天地さん達は詳しい理屈を説明してくれたが、そのあたりは横に置いておいて。とにかく今の俺達に必要なこと。それはこの空間の歪みを元に戻すことだ。

 ダフネさんは再び空中に数式と魔法式を描きだしながらつぶやく。

「この状況ですと、施設と禁術の破壊を実施すると同時に、地下空間全体の再構築もやる必要がございます。崩壊をおこさないように、安定した状態へと導いてやるのですが…… 今はまだ、少々魔力が足りないでしょうね」

「なるほど、そうですか。なにか俺にできる事はあったりしませんか? あれば協力しますが」
 俺がそう告げると、地獄勢の2人は顔を見合わせた。それから大鬼の顔がこちらに向き直る。

「ふむう、まことか? いや申し訳ないな。実は手伝ってもらえるとすこぶるありがたい」

 地獄の偉い神様は、なにやら真面目な顔で恐縮している。
 ただでさえ俺を異世界から巻き込んでしまって申し訳ないのに、仕事まで手伝ってもらうのは気が引けるなどといっている。

「出来ることくらいは手伝いますよ。今回の件は俺にとってだって大切な話ですし」

 
「そうか、そうだな。ではお言葉に甘えさせてもらおう…… 地界と地上を繋ぐ地獄門の力を持つエフィルア殿の魔力であれば、これはエネルギー源としては最上のものとなる。あとはヨリシロ…… ふむ手近に頑丈で巨大で魔素親和性の高い無機物もあるし、これをもって地上で活動するためのとな依代よりしろと成そう」


 天地さんの言う巨大な無機物、それは、アンデッドの巣食っていた古城の事らしい。それと俺の魔力や存在を使って地獄方面から力を顕現させるという。
 なにやら話がでかい。

「地下空間の再構築。技術面は私にお任せください。それと、再構築にあたって、新たなレイアウトに関してエフィルア様のご希望もあれば考慮いたしますのでお申し付けください」

 地獄のセクシーメガネダフネさんにそう言われたが、とくに俺には希望も要望もない。

 古城の扱いは地獄勢で好きにやってくれれば良いのだし、その他の重要施設はコボルトさん達の坑道街だけだ。

 そうなればコボルトの群長であるジョイポン夫妻にも話を聞かないわけにはいかないか。
 コボルト戦士団の皆さんに夫妻を呼んできてもらうことになった。
 彼らの希望だけ取り入れてやってもらうとしよう。

 そして俺とダフネさんは一度アンデッドの古城へと戻ることとなった。

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