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45 勝負だトカマル君
しおりを挟むアンデッドの古城。その上層にある大広間へと到達。
おそらくはここは玉座の間である。
俺達は部屋の手前で足を止め、中の様子をうかがっている。
玉座に王の姿はなく、その傍らには2体の赤い骸骨が立っていた。
玉座を守るように仁王立ちしながら、虚ろな眼窩で虚空を見つめている。
豪壮な装備品を纏った姿、肋骨の内側には青白い光が渦巻いている。
「おそらくスパルトイ・ロードですね。龍の骨で作られた特別な骸骨兵で、推定レベルは170以上。装備している武具の性能しだいではさらに強敵になります」
魔物の情報を教えてくれたのはロアさん。
部屋にはさらに8体の大きな骸骨。中央の通路を挟んで左右に4対ずつ控えている。
「そちらは普通のスパルトイですかね。ロードほどの強さではありませんが、数が多いですね」
ロアさんは相手の大まかな強さを判別できるのだけれど、それだけでなく魔物に対する知識も豊富である。
ワンコ感が強いときもある彼女だけれど、能力的にはすこぶる優秀な人である。
「エフィルア様。戦ってもいいですか?」
「ああ待ってトカマル君。少し時間を置いてブースト肉を食べなおしてからにしようか」
能力上昇効果は3時間。ちょうど、そろそろ切れる頃合だった。
「はい。じゃあこれをどうぞ。今度は食べられるはずだからね。もう一段階ステータスが上がると思うよ」
【アースクラーケンのブースト肉】
【HP】+41(+128) 【MP】+22(+74)
【HP自然回復】+10%(+31)
使用可能レベル:66
着実にレベルが上がっているトカマル君。今朝の時点では使用可能レベルに達してなかったこのイカ肉だけれど、今ならもう摂取できる。
今回はこのイカ肉を使い、これまで使っていたオーク肉は外す。
速度のハルピュイア、防御のバジリスク、HPのイカ肉という3点セットになる。
これで全開よりもHPの上昇値が+128高くなった。
しかもイカ肉は、同時にHP自然回復が+31%も強化されるという優れもの。
レベルも順調に上がっていて、ブースト肉もバージョンアップ。
現在のステータスはこんな具合である。
レベル68なのに、ブースト効果もあってHPと防御力は200を超えている。
【L V】68
【H P】73 (201)
【M P】88 (162)
【攻撃力】126
【防御力】133(235)
【魔 力】89 (152)
【速 度】76 (144)
(HP自然回復 +31%)
スパルトイの推定レベルは100~110。1対1なら十分に倒せるだろう。
スパルトイ・ロードのほうは推定レベル170以上。
ステータス値も平均170くらいだと仮定しても、今のトカマル君にはまだ厳しい敵だ。というわけでトカマル君には無印スパルトイのほうと戦ってもらうおうか。
「トカマル君よ。ロードのほうは俺が戦うから、ロアさんと一緒に普通のスパルトイの方を・」
「えー。僕も強いのと戦いたいです」
トカマル君はヤル気まんまんだった。いや、でもな。今回は危ないからね。
彼の防御とHPは高めだから、一撃で致命傷を受けたりしないとは思うけれども。
「だってエフィルア様! 自分より強い相手と戦わなきゃ強くなれないんですよ! だからお願いです」
いや、そんな真直ぐな瞳でお願いされてもな。それに今だってもう十分すぎるスピードで成長しているのだし、そんな無理しなくても良いと思うのだけど。
渋る俺、食い下がるトカマル君。
「でもでもでも、いつか真の強敵が突然現われたりしたら、無理でも何でもすごくがんばって倒さなきゃならないですから、そういう時のための練習なんです」
トカマル君は少年漫画の主人公のような熱い目で熱く語りだした。彼はなにげにバトルジャンキーっぽいところもあるよね。ちょっと心配だよ。どうしようかな……
「ふ~~む、分かった。分かったよトカマル君。それじゃあ勝負だ。そこまで言うのなら、まずは俺に勝ってもらおうか」
「え? エフィルア様と戦うんですか? 今ですか?」
「そう。今、真の強敵が君の前にあらわれた」
「お、おおお」
「ただし、もちろん直接戦うわけじゃあない。いいかトカマル君よ。俺は左側のノーマル・スパルトイを倒して進む、トカマル君は右側からだ。もし俺より先に部屋の奥までたどり着けたら、その後は中央のスパルトイ・ロードとも戦って良いよ」
やる気満々のトカマル君には申し訳ないが、ロードのほうは俺が先に倒してしまうつもりだ。危ないからね。そう感単に大番狂わせは起こらないのだ。
「よーし、じゃあ頑張りますよっ。本当に僕が先に倒しちゃいますから。秘密の奥の手も出しちゃいますからね」
「十分に気をつけて。それじゃ行こうか、用意、スタート!」
トカマル君に奥の手。そんなものがあったとは全然知らなかったが、とにかく戦いは始まった。
コボルト戦士団は今回は見学。
ロアさんには全体のフォローをお願いしてある。何があるか分からないからな。
そもそも一番奥にいるスパルトイ・ロードが先陣を切ってこちらを攻撃してくることだって普通にありえるので、そのときはロアさんにサックリ仕留めてもらう。
玉座の間に飛び込んだ俺とトカマル君。それを歓迎するようにノーマル・スパルトイ達が自分の周囲に骸骨騎士を複数召喚しはじめた。
部屋中が骨だらけになる。
「「「トカマル殿、がんばってー」」」
これまでトカマル君と共にレベル上げに勤しんできたコボルト戦士団が、トカマル君に声援を送る。
「ありがとうー。よし! いっくぞーーーー」
そしてトカマル君の初手。いきなり大鎌を全力で投擲した。それはヒュンヒュンと空を斬りながら骸骨騎士の骨をガシャンガシャンと砕いて飛んだ。が、ノーマル・スパルトイに命中したところで弾き落とされる。
ふむふむ。頑張って戦ってはいるが、やはり苦戦はしそうだな。と思っていると。トカマル君は大鎌を再び手にとり、今度はそれに、燃え盛る炎を纏わせるのだった。
おおう? なんだトカマル君。いつの間にそんな技を。
炎で特殊効果付与された大鎌は、スパルトイに強烈な一撃を加えた。
炎系はアンデッドの弱点の1つだ。効果は抜群。
苦戦するかに思えた戦いだったが、そこからはトカマル君の大鎌祭りになっていた。召喚された骸骨剣士も、4体のノーマルスパルトイすらも瞬時に撃ち滅ぼされ、霊魂を吸収され、灰燼となって消えた。
そして全てが終わる。
「すごいねトカマル君。今のどうやったの?」
「うーーん、頑張ったのに…… …… 間に合わなかった。エフィルア様ずるいですよ。なんでもうロードのほうまで倒しちゃってるんですか?」
まあそれはしょうがないよね。
俺もがんばった。キッチリ先に倒させていただきました。
玉座に嵌め込まれていた宝玉を回収しながら、トカマル君の炎技について聞いてみるのだった。あんなのステータスにも載ってなかったのに。どうやったんだろうか?
トカマル君は少しだけ得意そうな顔をして語る。
「ふっふっふー 凄かったですか? 実は宴のときに食べたルビーの粉末がちょっと体内にあったんですけど、それを使ってみたら、一度だけ炎の特殊効果付与が使えたんですよね。今のでもう無くなっちゃいましたけど」
そういうことらしい。ルビーは炎系の魔力を宿した宝玉の1つだ。粉末程度とはいえ、その効力があったのだ。使えるのは一度だけ、スキル未満の技だったようだ。
それにしては素晴らしい効果だった。
粉末であの効果を引き出せるのなら、今しがた手に入れたこの立派な宝玉ではどうなるのか。さっそくトカマル君に食べてみてもらおうかと思っていると、
グラリ ゴゴ ゴゴゴゴゴ
「なんだ? 揺れている?」
どうも城全体が大きな振動に包まれているようだ。
なんだなんだ? もしやあれか? ファンタジーなゲームではよくあるやつ。ボス敵を倒すと城が崩壊するやつなのか?
「これ、城だけじゃないですよ。坑道街とか他の場所も含めた地下空間全体が捩れるように揺れてます」
ロアさんは現状をそう分析する。
今回の探索目的は不審な死霊術士を探すこと。まだ見つけられてはいないが一時撤収だな。
とりあえず俺は全ての戦利品をインベントリに収納し、坑道街へと急ぐことにした。
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