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26 帰ってきました

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 洞穴の奥に発見した地下へと続く道の前で、保護した女の子を抱きかかえるロアさん。

「おや、この子、今は孤児院にいますけど聖女さんの親戚の子ですよ。幸い大きな怪我はなさそうですね。眠ってるみたいです」
 
 なにはともあれ無事で良かった。
 人面獣は少女を半裸にしてまたがっていたが、繁殖相手に選ぶには、いくらなんでもまだ早いのではないだろうか。
 
「狂気の魔物をさらに怨念が支配したような獣ですから、たぶん見境はなくなってると思いますよ」
 トカマル君はそう言った。戦闘が終わってすっかり俺の頭の上で寛ぎながら。

 俺達が少女を連れて洞穴の外に出ると、ちょうど町から兵士達が到着したところだった。少女の事も内部の後処理も彼らに引継ぎ、俺達は町へと歩き始めた。

「私、さっきまでエフィルアさんの力を読み違えてました。思った以上の強さみたいですね。でも身のこなしとか、剣の扱い方や魔法の使い方もたどたどしいんですよね。ちょっとそれに騙されたかもしれません」

 ロアさんの見立ては恐ろしく正確だった。
 なにせこっちは平凡な地球人の1人なのだ。剣と魔法の世界には来たばかりで完全な初心者。それがなぜか強大な魔力を持ってる状態。傍から見れば意味不明な存在だろうな。 

「私の探知術も、まだまだ修行が足りないみたいです」
「いえいえ素晴らしい能力だと思いますよ。たぶん」

 そもそもこの世界では普通、他人のステータスは覗けないし、相手の強さを量る方法もないはずだ。
 ギルドや関所なんかにあるステータスチェッカーという魔道具を使えば覗くこともできるが、これにしたって計測される側が同意しないと機能しないのだ。

「ロアさんはどれくらいの事が分かるんですか? ステータスが丸見えってこともなさそうですけど」

「ええと、大雑把にですが魔素濃度レベルが分かります。それから非常に広域の精密探知なんかも得意ですね」

「ほう、そんな事が……」
「私のユニークスキルです。特別な探知スキルなんですよ。でもこれ秘密ですからね。あまり他人には教えてないんですから」

 個人がどんな能力を持っているのかは、あまり公にしないもののはずだ。
 自分の手の内を知られてしまえば、どんな強者だって弱点をつかれたり対策を取られて危険な目に合う可能性が高まってしまう。
 だから特別な場合を除いて、信頼できる相手にしか自分の能力を教える事はない。

「そんな情報、俺なんかに言っちゃって良いんですか?」
「だめですよ。だから、代わりにエフィルアさんの事も教えてください」

「うーん、そうですね…… 俺自身も良く分かってないことだらけなんですけどね。ほら、俺って別な空間から来たばかりの人間なわけですし」

「あ、さては今、はぐらかそうとしてますね。教えてくれないとだめですよ?」
「いやいや、そんなわけでもないですよ。それにほら、どうせロアさんには俺のレベルは分かっているのでしょう? それに、今日の戦いの中でなんとなく力も見てもらったと思いますし」

「それはそうですけど。もっと教えてくれてもいいんですよ」
「また今度ですね」
「分かりました。じゃあ今度。約束です」

 ロアさんはそれ以上聞いてくることはなかったけれど、ただ、こうして一緒に行動する事があれば必然的に互いの能力なんて分かってしまうものだと思う。ある程度はね。ギルドの依頼をこなしていくだけだって同じ事だ。
 
 トカマル君は我関せずで、頭の上で寛いでいる。
 のんびりしたトカゲだよな。

 町に戻ってみると、人間たちは相変わらず大騒ぎ状態だった。
 すでに子供が保護された事は伝わっていて、町の中の探索も終了していたようではある。
 あの蝶もほとんど焼き払われ、他に潜伏していた5匹の人面獣を発見して駆除したそうだ。

 最終的に複数の探知スキル使いが町中を調査したので、もう安全だろうという事になってる。ロアさんも得意の精密な広域探知術を使って調べたようだが、異常はないという。

 今回新たに見つかった洞穴の奥に広がる空間の探索は明日以降に持ち越し。
 まだ帰れない衛兵達もいるようで、今晩は寝ずの番なのかもしれない。ご苦労様である。夜はもう、とっぷりと更けている。
 俺はボロ家に帰る。

「ゴッハッンー ごっはんー、ごはごはごっはんー」
 上機嫌でゴハンソングを歌い始めたトカマル君に促されて、夕食の材料をインベントリから取り出す。
 ドンッ はいお待ちぃ。コボルトさんから貰った生のコバルト鉱石だよ。たっぷり召し上がれ。
 これにザッと魔素を流し込むだけで、トカマル君は美味い美味いと喜んで食べてくれるから楽なものである。

 俺も今日はオークの丸焼きだけでいいや。ちょっとお腹すいてるし、このまま丸ごと食べちゃおう。

 モグモグパクパク、ゴシャゴシャ バキンバキン。
 2人揃ってご馳走様でしたっと。


 トカマル君は待望の生鉱石を食べられたという事もあって、この食事でまた少し見た目が変化した。
 人間モードでの身長がちょっと伸びたな。そして肘のあたりに小さな盾のような物体が生えてきた。

「おお、見てください見てくださいー」 
 はしゃぐトカマル君。どうやらその盾は、身体のあちこちに移動させられるようだった。
 これまでと同じように食べたい物を食べてレベルアップするトカマル君。


  【名前】トカマル
  【種族】冥界ジュエルサラマンダー __人型__#
  【職能】未設定
UP 【LV】21→ 29
 ------------------------
UP 【H P】24→ 32
UP 【M P】30→ 39
UP 【攻撃力】34→ 44
UP 【防御力】24→ 36
UP 【魔 力】32→ 41
UP 【速 度】24→ 32

 今回は特に攻撃力と防御力が上昇している。やはり硬い物を食べた影響なのだろうか? 相変わらずバランス良く成長している。

「エフィルア様。まだまだ生鉱石食べたいです。きっともっと進化できる気がします。ええと、特に金属系だと硬く頑丈に、宝石系だと魔法の強化ができる感じです。たぶん強化だけじゃなくて、魔法そのものも使えるようになるはずです」

 宝石か。魔導具を作る際にも欠かせない素材で、様々な魔法的特性を持っているとは聞いている。例えばルビーなら炎系の魔力を、アクアマリンなら水系の魔力を。
 たしかにトカマル君ならば、食べることで何かの能力を使えるようになりそうだ

「鉱石か宝石ねぇ…… たしかコボルトさん達の集落は坑道街っていう名前みたいだし、そこに行けば手に入ったりするかな?」

「おおお、そうですね。きっとそうですね。行きましょう!」
 元気いっぱいなトカマル君だが、しかし場所が分からないんだよな。行ってみたいのは山々だけれども。


 とりあえず今日はもう寝よう、続きは明日だ。それではおやすみなさい。
 と思いつつ、俺はふと真っ暗な部屋の中で、探知魔法を妨害していた術のことを思い出した。洞穴の中で人面獣が使っていたものだ。

 あれを見たのは【魔導視】を発動させた状態だったから、あの術の構造が良く見えた。
 なにせ魔導視スキルを使うと、普通は目に見えない魔素の動きや魔法の構造がまざまざと目に見えてしまう。あれだけしっかり見えてしまうと、なんとなく自分でもできる様な気がしてくるもので…… ちょっと試してみたくもなるな。

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