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22 モフモフ現る

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 翌日、俺とトカマル君は百合根を大量確保するべく森の外周部でミニデーモンリリーを探して周ることにした。

 手始めに昨日と同じ場所にまた行ってみる。そこには新たなミニデーモンリリーが出現していた。魔物というのは倒しても倒してもまたすぐに湧いて出るものだと聞いてはいるが、これは確かにとんでもない再生力である。

 ただ、昨日の個体よりはサイズが小ぶりだった。とくに球根部分は貧弱だ。収穫するにはまだ早そう。
 しばらくこのままにして、生育の様子を観察してみようか。そう思い埋めなおす。

 しかし埋め戻してすぐの事だった。森の中から現れた1匹の魔狼にデモリリが食われてしまったのだ。花から球根部分まで丸呑みである。うーん、なんという弱肉強食。
 
 デモリリも成体なら魔狼くらいには負けないと思うが、まだ幼苗だったからな。
 ちなみに、その魔狼は俺達にも襲いかかってきた。もちろん返り討ちになり、我々の晩ゴハンへと成り果てた。
 
 町から離れて少し奥まった場所に行ってみると、今度はとても立派なミニデーモンリリーを見つける事ができた。日当たりの良い場所で大きく成長していて、花はもはやラフレシアのように巨大であった。花だけでも魔狼ぐらいは丸呑みにしてしまいそうなサイズである。
 この個体からは実に立派な百合根が獲れた。保存しておいてどこか良い場所に植えたらどうだろうか? 町の近くで栽培したら怒られそうな気はするが、どこか良いところはなかろうか。
 引き続き採集を続け、それなりの数の百合根を見つけることが出来た。

 百合根_大×1 百合根×14 魔狼まるごと素材×47 角兎のまるごと素材×32

 どうしても百合根より魔狼や角兎のほうが数は多くなる。こいつらの肉は美味しくもないから沢山はいらないのだけれど、襲ってくるのだから倒さなくては仕方がない。魔石だけ抜いて残りを放置するのも忍びないから、とりあえず全てインベントリへ収めておく。

 さて、このあたりで百合根の獲れそうな場所はあらかた周ってしまったように思う。後は森に入って他の魔物を討伐しながら町へと戻ることにした。
 
 浅い森で出現するのは角兎、魔狼、オークばかりなのでサクサクッと返り討ちにしてゆく。特に魔狼は数が多く、大きな群れを成していることも多い。

 次から次へと現れる魔狼を倒し、また倒し、またもう一体だと剣を繰り出した瞬間。俺はちょっとした異変を感じて攻撃を止めた。

「おや? 魔狼じゃない?」
「お お待ちをを。我らは魔狼のような狂った狼とは違いますので」

 目の前のわんちゃんは両手を挙げて降参を示しているし、ちゃんと会話もできそうだった。完全に魔狼とは違う。なんか可愛い犬だ。

「これは失礼いたしました。ええと……」
「わわわ、我らは大地の精霊、コボルトなのでございます」

 俺の前に立つ二足歩行の犬はそう名乗った。
 確かに魔狼とは全く違う生き物だった。
 魔狼は人間を少し超えるくらいの大きさで、牙が長く、よだれもダラダラの狼である。人を見れば問答無用で襲ってくる。

 それに比べて目の前にいるのは、2足歩行だし理知的で全体的にかわいらしい。モフモフの毛皮の上には服も着ている。
 やぶに隠れて顔しか見えなかったから間違えてしまったようだ。

「いやはや、すみません。突然襲いかかってしまいまして」
「めっそうもございません。弱肉強食は世の摂理。あのまま倒されてもしかたのない事です」
 俺達は互いに、いやいやこちらこそ、いやいやこちらこそと恐縮してしまう。

 彼の後ろには別なコボルトも何名か控えていたのだが、みな身長1mくらいで2足歩行。ぴょこぴょこ歩く感じが可愛らしい。

 身なりから察すると、俺と話をしている個体が最も身分が高そうに思えた。

「ああ、膨大な闇の魔力を扱う偉大な御方。なにとぞこの者らの命はご容赦を。私は群長の“じょいぽん”と申します。我が一命も魂も捧げますゆえ、なにとぞ、なにとぞ……」

 コボルトの群長を名のるじょいぽんさんは、恐れを露にしながらうやうやしく頭を下げた。
 いったい俺の事を何だと思っているのだろうか?
 ちょっと遠い場所の出身ではあるものの、基本的にはおおむね人間だ。
 ステータスにだって、人間(擬態)というふうに記されている。立派な人間だ。

 俺がいかに普通の人間であるかを説明する。そんなふうに恐れるような価値はないのだと説明をする。がんばって説明を続ける。なんとなく理解はしてくれたようだ。しだいに打ち解けていった。そして、

「実は我々、迷子なのです」

 コボルトさん達は眉尻をさげた困り顔で、そんな事実を打ち明けてきた。
 集団迷子なのだそうだ。棲家に帰れなくて困っているらしい。 

 彼らの住んでいた地下集落は、ある日突然、大規模な空間転移に巻き込まれたらしい。気がついたらこのあたりの地下にいて、今は周囲の状況を調べるために地上に上がっていたところ。

 ふうむ、なんとなく俺と似たような状況だな。
 空間を飛び越えての迷子である。
 もっともコボルトさん達がもともといた場所は、この世界の中のどこか別の大陸っぽいのだけれど。


「偉大なる御方。それでですな、我々いま想定以上に魔素を消耗してしまいまして、地下に戻るための力すら失っている有様でございまして…… それで、あの、もし、できれば……」

 遠慮がちに言葉を選ぶじょいぽんさん。結局彼が言いたいのは、魔素だかMPだかを少しだけ分けてほしいという事のようだった。
 いやべつに余ってるから全然いいのだが、そんな遠慮しなくとも。

「ええと、どのようにお分けすれば良いのやら分かりませんけど、俺で出来る範囲でしたらお手伝いしましょうか?」

「「「おおお」」」
「ありがとうございます。とっても助かりますぞ」

 コボルトさん達はどよめき、モフモフと音を立てながら俺の傍に集まってくる。

 彼らは地中を移動できるそうだが、その能力を使うため必要なMPマジックポイントが足りないらしかった。

 行儀良く1人ずつ俺の前に整列し始めるコボルトさん達。
 先頭の1人が、その鼻先を俺の手にあててきた。

 なに? これはどうすれば良いのだろうか? 鼻を揉めばいいのやら、さすれば良いのやら?

「あ、ゆっくり穏やかに魔力を手先から染み出すようにしていただければ、あとはこちらでやりますので」

 言われたとおりにやってみると、コボルトさんの犬鼻がピクピクヒクヒクと脈動する。1名終わってまた1名。代わる代わる順番に進めてほんの数分の出来事だった。

「おおエフィルア様。救世主よ。ぜひ、地下にお越しの際は我らの坑道街にもお立ち寄りください。コボルトの族長じょいぽんの名にかけて、一同で歓待いたしましょう」

 コボルトさん達はその言葉を残し、大地に溶け込むように消えていった。
 彼らが立ち去った後の地面の上には、握りこぶし大の銀白色の塊が残されていた。

「なんだろうかね、これは」

 俺が呟くと、一瞬、ひょこりと地面から顔を出したじょいぽんさん。

「我らの街の鉱脈で採れたコバルト鉱石でございます。些少ですがお納めください」
 そう言うと、今度こそ消えていった。

 彼らの街に帰っていったのだろう。
 遊びに来てくれとも言ってはいたが、さて何処にあるのやら。

 ぜひ行ってみたいものだ。 
 なにせ人間の町は居心地がやや良くない。出来ることなら今すぐに連れて行ってほしいぐらいなのだが。

「もしもーし、じょいぽんさーん」
 地面に向かって声をかけてみるが、俺の叫びは虚しく響くだけ。彼らが再び姿を現すことはなかった。


 いつまでも地面を眺めていても仕方がないので、気を取り直して狩りを再開しつつ町へと戻った。帰り道でも狩りは続けて、今日一日の収穫はこれくらいになった。

 百合根_大×1  百合根×14  オーク×4  魔狼×55  角兎×38

 今日も魔石だけで100万ロゼを超えそうだ。
 ああもちろん、この魔石の一部はトカマル君の食事になってしまうから、全部が全部収入になるわけではないけれど。


 ちなみにこれだけの魔物を倒しても俺のレベルに変化はない。145のままである。効率よくレベル上げをするには、自分より高レベルな魔物を倒すと良いらしいが。

 魔狼や角兎、オークやレッサートレント。これらの魔物のレベルは10~30くらいだという。どう考えても俺のレベルには合わなさそうだ。

 もう少し強い魔物と戦ったほうが良いのかもな。
 レベル145くらいの魔物か。近場には生息していなさそうだが。

 トカマル君のレベルは21だから、このあたりの魔物はちょうど良い。
 ただし、トカマル君は戦ってレベルアップしたことなんて一度もない。彼の今までのレベルアップは全て食事によるものなのだ。生態が独特すぎるよトカマル君。

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