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エピローグ

無事ベッドは壊れました

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「……でくすさま、ユーデクス様……へへ、いる。よかった……」
「んん、スピカ?」
「はい。おはようございます」
「はああぁ……今日も天使。スピカ可愛すぎる」
「ちょ、ちょっとユーデクス様、引っ付きすぎですって。く、くすぐったいです」


 ぎゅっと腰に回した手をユーデクス様は離してくれなかった。まだ寝ぼけているのかもしれないし、確信犯かもしれない。
 でも、起きて朝――彼が隣にいることはとても幸せなことで、私の願いがかなったといっても過言ではない。これほどの幸せを私は知らないだろう。


「いやだ、スピカから離れたくない」
「怖い夢でも見たんですか?」
「ん? うんん。幸せな夢を見たよ。スピカが、俺のこと大好きだって、引っ付いてくれる夢。毎時間、毎分、毎秒、俺の事好きって離してくれないんだ」
「それは、その、めんどくさくないですか?」
「まさか。可愛すぎて! スピカが、一人、二人、百人いても、俺は全員平等に愛してあげられるよ」


と、彼は群青色の瞳を輝かせて言ってきた。さすがにそれは怖いんだけど、と苦笑いしていれば、彼は本当だよ、と私の胸に顔を埋めた。彼のちょっとチクチクとした黄金色の髪が刺さって痛かったけれど、少しくすぐったくて、よしよしとあやすように頭を撫でれば、彼は私の谷間でふふっと笑った。


「今笑いましたね?」
「ごめん。スピカがそんなことしてくれるなんて思ってもいなくて。昨日の夜もそうだったけど、スピカって意外と大胆?」
「え? ~~~~っ、待ってください。昨日の夜は、その! 感極まってですね!」
「そういうときこそ、素が出るっていうじゃない? 本当に可愛かったな、昨日のスピカ」


 彼は、思い出すように懐かしむようそういって頭を擦りつける。私の小ぶりな胸の谷間で幸せそうに擦り付けるものだから、何がいいのだかさっぱりわからず、でもユーデクス様がいいのなら、と好きなようにさせていた。
 でも、彼の言葉でドキドキしているのはバレてしまって恥ずかしくて、いつ彼の顔が上がってくるか、ひやひやしていた。今はきっとリンゴよりも赤くなっていると思う。
 昨日の夜のことを思い出してしまったら、誰だって、赤くなってしまうだろう。


(だって、私、酷くしてくださいって言ったら、ほ、本当にその通りに……!)


 私に触れる指は意地悪に、でも、私を掻くように。私の敏感な場所を当てては執拗に攻めて、私が達しそうになったら止めて、またそれが意地悪で。もう我慢できないと、私に抱き着くようにして中に入ってきたときには圧迫感と、多幸感でいっぱいになって……


(――って朝から何を考えちゃってるんですか。私!?)


 思い出すなぁ、思い出すなあって念じて、自分を鎮めようとしたけれど、彼を思えば思うほど、また体が熱くなって、淫らに求めてしまう。内またをスリッと摺り寄せれば、昨日彼が吐いた精が中からあふれてくるようで……でも、そこには本当はもうなくて。


「スピカ?」
「ひぇっ、な、何ですか。ユーデクス様」
「ううん、名前よんだだけだよ。スピカって。だって、好きなんだもん。スピカの事」
「あ、ありがとうございます。私も好きですが」
「じゃあ、スピカ。俺の事、昨日みたいにユーデクスって呼んでくれない?」


と、ユーデクス様は、ごろんと寝転がって私の方を見た。期待に満ちたキラキラとお星さまのような瞳に、私は眩しくて目を閉じる。ユーデクス様は、目をそらさないでというけれど、自分の輝かしさに気づいていないようだった。

 数多の女性を落としてきたあざとくて、可愛くて、かっこいい笑み。それを一身に浴びればもう何も言うことなどなかった。目がつぶれる!


「ゆ、ユーデクス様」
「様、ついちゃってるよ? いいんだよ。婚約者同士だし、ゆくゆくは夫婦に……ああ、結婚式はいつにしよっか。ハネムーンは? いつ? どこで?」
「ゆ、ユーデクス! ちょっと待ってください!」


 一人暴走気味なユーデクス様の口をふさげば、彼はぱちくりと目を瞬かせた。それから、まるかった目は細められて、幸せそうに目じりを下げ、眉を下げ彼は笑う。
 その顔もとてもよろしくて、私もついつられて笑えば、彼はぺろりとあろうことか、私の手のひらを舐めたのだ。思わず、いやあぁ!? なんて、拒絶しているような声を上げてしまい、ユーデクス様も、シュンとしていたけれど、今のは完全にユーデクス様が悪かった。


「ゆ、ユーデクス様な、何を!?」
「つい」
「ついじゃありません! 全く油断も隙もない! 貴方って人は!」
「だって、スピカが可愛くて」
「だからって舐め……もう、私だけにしてくださいよ」
「もちろんだよ。神に誓うよ」
「……うぅ」


 なんでこの人はこうも猪突猛進というか、まっすぐなんだろうか。うらやましいくらいに。
 黄金色の髪は朝日を帯びてキラキラと輝いていた。幾千の星のように、星をぎゅっと彼に集めたように。そして、優しい色合いの群青色の瞳は、キラキラと輝いていて、夜明けの空に見える薄い青色にも見える。こんなにもかっこいい人が、私のことしか好きじゃないなんて、私はどれほど幸せ者なんだろうかと思ってしまう。
 彼は、チュッと、私のミルクティー色の髪にキスを落として再度幸せそうに微笑む。
 ぎゅぅううっと胸を掴まれるような、その笑みに、私はユーデクス様を潤んだ瞳で見つめてしまう。なんて愛らしくて、庇護欲に駆られて……いや、守ってもらうのは私なんですけど! でも、守りたいですけど! と心の中で思っていると、何を思ったのか、ユーデクス様は私に覆いかぶさってきて、ベッドに縫い付ければ、ふわりと笑みを顔に張り付け、私の唇に触れた。


「スピカ、何その顔。誘ってるの?」
「さ、誘う!? いいえ、ただ、ユーデクス様の顔が素敵だなあと思って」
「俺の顔、そんなに好き? 困っちゃうなあ……顔だけ? 嫉妬しちゃう?」
「貴方を構成する要素の一つですが!?」


 自分の顔さえ嫉妬するなんて、生きていくのが大変そうだと思ってしまう。どこにでも、誰にでも、自分にさえも嫉妬を飛ばすユーデクス様は、自分のどこを見てほしいんだろうか。いや、全部ひっくるめて、全部好きだと言ってほしいんだろ。彼は、ちょっとだけ自身がないから。
 そういうところも全部含めて愛おしい。
 私も、ユーデクス様と同じ思考を持っているのだろう。


「ユーデクスのすべてが好きですよ。もちろん、貴方の声も、顔も、優しく触れる指も、貴方の心も。すべて好きです。初恋の人……出会った時よりももっとかっこよくなりました」
「す、ぴか……」
「はい」


 恥ずかしながらも、小出しにすると決めた手前、朝一番でも、昼でも夜でもいい、言いたいことがあるなら、その時にいってしまおうと口にしたのだが、ユーデクス様は顔を覆って、プルプルと震えていた。何かまずいことでも言っただろうか? と思っていれば、彼はぼそりとおなじみの言葉を発した。


「ダメ、スピカ……スピカが可愛くて爆発しそう」
「ば、爆発しないでくださいね!?」
「……うっ、善処する。でも、もう一回、スピカのこと抱かせて?」
「え、今からですか!? ひゃっ」


 夜にあれだけしたのに? と、首筋にちゅぅっと吸い付いてきたユーデクス様を私は拒むことが出来なかった。そうして、彼は下着の中に手を入れ、グッと、ベッドに力を入れた――その瞬間だった。
 バキッと音を立てて、ベッドが半分に割れたのは。


「え、え、えええ!?」
「す、ぴか。ごめ……」
「いや、ごめんって、……え、ベッドが、真っ二つに!?」


 どんな割れ方をしたら、いや、どんな行為に及べばベッドがたてに真っ二つに割れるのだろうか。私たちはその溝にはまって、抜けられないという状況になってしまった。密着で。
 ユーデクス様はこれはこれでいいな、みたいな感じで行為を続けようとしたが、ドタバタと、私たちの悲鳴と音を聞きつけてか、ノックもせずに扉が開かれた。


「スピカ!」
「お、お兄様!?」
「やあ、オービット。さすがに、部屋はノックしてね。君の妹と恥ずかしいことをしているかもしれないから」
「貴様、スピカを!」
「お、お兄様落ち着いてください!」


 もしこの場に、殿下がいたら、笑い転げていたかもしれない。
 お兄様も、何をどう取って怒っているのかは分からなかったけれど、真っ二つに割れたベッドの溝にはまった私と、主にユーデクス様を睨みつけて、背後に氷魔法を生成し、つららの先端をこちらに向けていた。
 またいつもの日常が戻ってきたなって、私はつい笑みがこぼれてしまい、ユーデクス様もつられて笑ってくれた。


「スピカ、悪夢はみなかった?」
「はい。もちろんです。ユーデクスが、ずっと私の隣にいてくれて、あ、愛してくれたので」
「何それ可愛い。俺も見なかったよ。スピカがいたからだね」


と、ユーデクス様は私の額にキスを落とす。


「もっと丈夫なベッドかおっか。そしたら、もっと激しくしてあげられるから」
「なっ、ユーデクスのえっち! は、破廉恥です!」
「ふふっ、スピカ。世界一可愛いよ」


 私の耳元にふーっと息を吹きかけながらいたずらっ子のように笑うユーデクス様は誰よりも幸せそうな笑顔を、私に向けてくれていた。晴れやかなその笑みは、もう不安など何一つないと、彼の心を表しているようで、私も愛しています、と口にして彼の胸に飛び込んだ。

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