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第3章

09 貴方とつながりたい◇

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「あーもうだめ。にやける。にやけちゃう……ごめん、スピカ。今俺、凄い顔してると思うから、見ちゃだめだよ」
「み、みせてください。ユーデクス様の顔みたいです」
「す、スピカぁ~」


 ぎゅっと抱きしめて「何それあざとすぎる、というか、どこで覚えたの!? 俺以外にやってないよね!? ね!?」と詰め寄られてしまい、私がユーデクス様だけです、といったら、それはもう満足げに、「そうだよね。そうじゃなかったら、そいつ命なかったと思うよ」と物騒なことをいった。タガが外れると、ユーデクス様は危ないな、と身の危険を感じつつも、私しか見ていない彼を見て優越感に浸っていた。
 元から両想い……両片思いということもあって、気持ちを伝えあってからは、もうそれは長年の好きを凝縮したダムが決壊したようにユーデクス様は私に好きをこれまで以上に伝えるようになった。といっても、ここ数分ずっと……っていう話だけど。


「ユーデクス様……その、本当にごめんなさい」
「ええっと、何? もう謝ることなんて何もないじゃん。やっと、スピカと両想いになれたんだから。俺はもう何も言わないし、思わないよ」
「で、でも……そうではなくて! やっとではなくて、ずっとだったんです!」
「スピカの初恋はオービットじゃないの?」
「な、何でお兄様が出てくるんですか!?」
「オービットがそういってたから……ふーん、あいつ俺に嘘ついたんだ」
「……ひぇえ。あ、あの、本当ですから。ユーデクス様が初恋だって。ずっと、ずっと私の一番だったんだって……」
「うん、そうだよね。ありがとう。俺もだよ」


 一人百面相でするようにユーデクス様の顔はコロコロと変わる。それでも、幸せに満ちた表情を向けられると、私まで幸せな気持ちになってくる。相乗効果ってやつでしょう。


「……それで、なんだけどスピカ」
「はい、何ですか? きゃあ!?」


 ひょいと体を持ち上げられ、いわゆるお姫様抱っこをされ、私は自分がいた天幕ではない方へと歩いていくユーデクス様を見上げて、口をパクパクと動かす。いったいどこへ向かっているのか、聞きたかったが、聞く耳も持たないほど幸せそうな顔をしている彼に私はぽかんと口を開けたまま何も聞けなかった。
 そうして、たどり着いたのは、少し小さめな天幕で、ユーデクス様はそこへ入ると胸ポケットから白い四角い箱のようなものを取り出し地面へと投げつけた。すると、キンッと音ともに、魔法陣が浮かび上がり、天幕を包み込む。


「え、え、何をしたんですか?」
「オービットからもらった防御結界。魔法が施されていて、発動中は誰も入れないし、中からの声も外からの声も聞こえないんだ」
「へーそんなものがあるんですね……ってなぜそれを今!?」


 よいしょ、と優しく簡易的なベッドに下ろされれば、私の靴を脱がせ、自分の靴を脱いでユーデクス様はベッドの上に上がってきた。思わず後ずさってしまえば、彼はまたへにょっと眉を下げる。


「前にスピカ、下心あるって言ったよね」
「あ、えーっと言いましたね。ああ、の、近いです!」


 ずいっと近づいてきたユーデクス様を前に私は近くにあった枕で顔を隠すしかなかった。なんだか途端にユーデクス様がかっこよくでも可愛くでもなく、大人の色気を放つ男に見えてしまったからだ。それは、あの悪夢とはまた違う、彼本来の色気というか……


(じゃなくて、じゃなくてえ!)


 今から何をされるか分かってしまい、沸騰した顔は真っ赤になっているだろう。こんな顔見られたら、きっと同意だと思われる。別に不都合はないけれど、こんな――


「顔を見せて、スピカ」


 けれど、抵抗しようと思っても、彼の心地いいテノールボイスを聞けば、抗えない本能に体が支配されたように枕を膝の上に置き、ユーデクス様を見た。彼は、はぁ、と熱っぽいと息を吐いた後、爽やかな笑みを向けた。


「可愛いよ。スピカ」
「うぅ、ユーデクス様もずるいです。その顔」
「俺の顔、好き?」
「……ん」


 好き、なんて口では恥ずかしくて言えなくて、私はこくりと頷いた。すると、嬉しいなあ、なんていったかと思うとユーデクス様が私の顎を掴んで親指で私の唇を撫でた。ゾクゾクッと背筋に快感のようなものが走り、私は数度瞬きをする。


「ダメ、かな……」
「何が、だめ、なんですか……」
「俺たち、その、両想いだったわけじゃん。それで、その、婚約の件は狩猟大会が終わった後正式にって形になるだろうけれど、今日この場で、その……」
「ユーデクス様?」


 分かってる。
 彼が望むものなんてとっくにわかっている。
 いじわるしたいわけじゃないし、言わせたいわけじゃないけれど、彼も恥ずかしがって口にしないから可愛くって。
 私も彼が欲しいと、すでに体が彼を求めている。
 ユーデクス様は何度か、うーん、うぅーん、とうなった後、熱をはらんだ群青の瞳を私に向けてきた。今すぐにでも襲いたいとそんな感情が伝わってくる。
 私も、ユーデクス様と一つになりたい。


「スピカ。君を抱きたい。抱かせてください」
「……っ」


 頭を下げ、そして私の手を取ってその手の甲にキスを落とす。そして、ダメの一押しと言わんばかりにユーデクス様は顔を上げて、目を潤ませた。


(もう、反則過ぎるんですよ!)


 ユーデクス様こそ、どこで覚えたんだっていうくらいあざとい顔をして。そんな顔をするから、他の令嬢が落ちたんじゃないかって思うと腹立たしくて、私にしか見せないでほしくて。湧き上がった独占欲と嫉妬は抑えられそうになくて、私は口を開いた。


「だ、抱いてください。ユーデクス様に、抱かれ、たいです」


 恥ずかしくて死にそうだった。でも、もっと恥ずかしくて、愛を証明するための行為をするのだと、気を引き締める。
 ユーデクス様は顔をパッと輝かせて、私を抱きしめたあと、優しくするね、と唇にキスを落とす。先程とは違ったソフトタッチに体を震わせつつも、彼は私が緊張しないようにとキスをつづけながら、私の服をほどいてく。慣れた手つきで、リボンを背中の紐をほどけば、パサリとドレスが下へ落ちる。そうして、下着一枚になった私を見て、顔を赤らめながらも、触るね、とおぼつかない手つきで彼は私の胸に触れた。


「んやぁっ」
「ご、ごめん痛かった?」
「じゃ、じゃなくて……くすぐったくて、触られたところ、熱い、です」
「ははっ、そっか……そっか。よかった、スピカも期待してくれていたんだ」
「き、期待って」
「だって、スピカも下心あるんだよね?」


と、ユーデクス様は意地悪気に笑うと、私の下着に手を忍ばせ、円を描くように揉むと、その手のひらに伝わってくる感触を楽しむように、私の大して大きくもない胸をうっとりと眺めた。


「んんっ……」
「可愛い声。もっと聞かせて?」
「恥ずかしいです」
「俺しか聞いてないよ。ね? そのための結界だ」
「……うぅぅっ」


 何もかも彼の思惑通りというか、私が拒絶しても興奮のまま襲ったんじゃないかとすら思ってしまう。だってここに入った時点で、私は逃げられなかったのだから。


(でも、ユーデクス様はそんなことしない)


 丁寧に私の胸を揉み、彼の長い指先が私の先端に触れれば、先ほどとはまた違う感覚が体を駆け巡り、大きな声を上げてしまった。


「あぁあっ」
「スピカ、感度いいんだね。新しい、君の一面を知れて、俺も嬉しいよ」
「や、やあぁ、待って。吸わないで……っ!」


 ぱくっ、と口に含み、もう片方の手で乳輪を撫でまわし、時々カリカリと指先で先端を掻く。ちゅうちゅうと、吸われれば、私は耐えきれなくて、彼の頭を掴んでしまうけれど、彼の器用な舌に翻弄され、びくびくと体を震わせることしかできなかった。


「スピカ、下も触るね」
「いやぁっ、ま、待ってくださぁあっ」


 布越しに触れただけなのにねちょっと糸を引いて、恥ずかしさのあまり気を失ってしまいそうだった。だって、まだ触れてもなかったのに、そんな……!
 私が恥ずかしがっていることなんてお構いなしに、彼は、私の体の隅々まで堪能するように撫でまわして、下の割れ目にそっと触れ、ふっと息を吹きかけた。


「あ、ぁあぁっ」
「可愛い、ピンク色……ああ、誰にも触れられていないスピカの場所……かわいー」


 ユーデクス様はまじまじと私の秘所を見つめ、下着を横にずらして、直接私のそこに触れた。


「や、だ……ユーデクス様、やぁ、むり、むりですっ」
「何が無理なの? スピカのここは綺麗で可愛くて、俺を誘うようにひくついてて……ああ、こんなにもいっぱい蜜を垂らして」
「い、いわないでぇ!」


 羞恥が限界値を超えそうになっていると彼は私にキスを送りながら、指を一本中へと入れてきた。ぐにっと肉壁を押し広げるようにして入ってきたそれに思わず私は彼の首に抱き着く。離れようと思ったが、ユーデクス様が指をくいくいと動かすたびに体がビクンとはねてそれどころじゃなかった。


「あぁっ、やぁっ」
「痛い? 痛くない?」


 こくこくと頷けば、よかったあなんて安堵したような声が鼓膜を震わせた。二本、三本と徐々に増やし、ばらばらに彼は指を動かす。そのたびじゅぶじゅぶという卑猥な音と私の声が天幕の中に響き渡る。そして、次第に早くなる指の動きに私はユーデクス様の背に爪を立てながらいやいやと首を振っていた。


「いやぁっ! いやですぅ! 何か、き、きちゃう」
「イきそう? いいよ? イって?」
「あ、ああっ! ああぁっ!」


 ぎゅうっと中に入っている彼の指を締め付けると、今まで感じたことのない刺激が駆け巡った。はぁーはぁーと息を切らしながらも私は絶頂の余韻に体を震わせていると、ユーデクス様が下着を取り払い、脱ぎ捨てたかと思うと今度は彼は私に覆いかぶさってきた。
 親近感のあるそれに、今から彼のを受け入れるんだと。もちろん同意あって受け入れるんだと胸がきゅんとする。まだ乱れたままの呼吸をどうにか整えて、彼の顔を見れば、黄金色の髪を額にくっつけて汗だくのユーデクス様の顔がそこにあった。


「はぁ……スピカ」
「あっ……」


 彼は待てないと、私の足を大きく開きながらその大きなものを私の秘所にあてたが、思いとどまったようで、私の方を見た。焦点のあっているような、あっていないような目。ぎらついた獣の目を見て、秘所が疼く。早く頂戴と、彼のものを見れば、悪夢の時に見た彼のアレよりも数倍大きなものがそこに反りあがっていた。


「あ、ぇ……大きすぎます、想像してたのよりも」
「へぇ、想像してくれていたんだ。どんな想像していたの? 聞かせてほしいな……ああ、でも、今はスピカを感じたいから、また今度聞かせてね。今からね、スピカのここに俺のが入るんだよ?」


と、とんとんと私のお腹をユーデクス様は人差し指でつつく。あんな大きいものが私の中に、とごくりと唾を呑み込めば、彼は切なそうに微笑んで私の両内腿を掴んだと思えば、彼のそれを秘所にぴとりと押し当てた。

 ああ、くる――と思って身構えたけれど、一瞬彼の動きが止まったかと思えば、あーなんて少し低い声が聞こえ私はふと顔を上げる。
 そこには、先ほどとはまた変わった、自制が効かないと、理性の糸が切れたような彼が私を見下ろしていた。黒い執着の渦巻く目が見降ろし、恍惚としたように口をゆがめる。


「――本当はゆっくり入れようと思ってたんだけど……だめみたい」
「ひ――っ!? ああああっ! ああぁぁっ!」


 ずんっといきなり奥までそれが入ってきて私は背中がのけぞった。ごりっと何かに当たったと思ったら、目の前が真っ白になって、何が起きたのか一瞬理解できなかった。身体の痙攣が収まらない。与えられた快楽は許容量をはるかに上回っていて、息をするので精いっぱいだった。けれど、愛しの彼はそれどころじゃないようで、私を見ているようで、見ていないみたいだった。


「ああ、今のでイっちゃったの? スピカ、嬉しい……でも、ごめんね俺まだだから」
「ひっ!?」


 ぐったりと力が抜ける私をお構いなしにユーデクス様は今度はぱちゅんぱちゅんと中をかき乱す。私はもう何が何だか分からなくなってただただ彼の動きを受け止めることしかできなくて――だけどそれでも気持ち良くて。 
 乱暴なのに、ちょっといいところから外れたりもするけれど、それでも一生懸命に、私の身体をむさぼるユーデクス様はたびたび懺悔するように言葉を漏らす。


「ごめんっ、スピカ、っ、ダメ、俺、スピカに優しくしたいのにっ。酷くしたいって思って、っ!」
「あっ、あぁっ! ユーデクスさまぁ……っ」
「ねえ、スピカ。初めてを俺にくれたの嬉しい。けど、こうやって他の人にも奪われているのかもしれないと思ったら、許せなくて、君が誰かのものになるなんて耐えられなくて……っ、でも、優しくしたい。本当にどうしたらいいのか分かんないんだっ!」


 ごめんねとユーデクス様はいうけれど私は頷くだけで精いっぱいで何もいえなかったし、彼の懺悔に答えられるほどの体力は残されていなくて。ただ彼にしがみついて、とまってくれない彼を受け入れて。でも、それが幸せで、幸せで。
 彼が何を思って、何を想像して、その結論に至ったか分からない。
 私が他の人に体を明け渡すと思ったのだろうか。
 そんなこと絶対にしない。だって、好きなのはユーデクス様だけなんだから。


「くっ、ごめんっ、スピカ。好き、好きだ、愛してるっ」
「わ、私もですから、っ、あ、ああああっ」
「……クッ」


 ドクン、と彼の熱が奥ではじける。
 その後も擦り付けるように私の中へ一滴残らず注ぎ切った彼は、私の頬を撫でて優しくキスを落とす。ふわふわとまだ戻ってこれない頭は、許容量を超えた彼の愛にショートしてしまったようで、意識が途切れる。
 暗くなっていく視界の中、何度も私の名前を呼んで「愛している」と呟いた彼は、私の知っている大好きなユーデクス様だった。

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