1 / 44
プロローグ
俺の飼い犬は駄犬です◆
しおりを挟む飼い犬にはしっかりと首輪をつけておかなければならない。
これは、犬を飼うなら頭に入れておいたほうがいい知識の一つだ。もっというのなら、首輪をつけても全く躾けることができない駄犬の首輪は、一生外さないほうがいい。
だって、そいつは飼い主の首を掻っ切ろうと襲ってくるから。
「ま――って! おい、擦り付けんな。発情すんな!」
「仕方ないだろう。主が……俺のことを、そうしたのだから……」
「俺、俺のせい!?」
暗がりで、顔がよく見えないが、ぎらついたターコイズブルーの瞳は闇の中でもギラリと光った。灰色の髪もぼんやりと見え、今俺をベッドに押し倒しているのが、俺よりも大きな大男であることもわかった。
そいつは、筋肉質な手で俺の腕をベッドに縫い付けて、はっ、はっ、と息を切らして俺を見下ろしている。こんな大男にマウントポジションをとられてしまっては、俺の貧弱な身体ではどかすことすらできない。
貧弱というか、この男……ゼロ・シュヴェールトが筋肉質なだけで、俺は平均な気がするのだ。俺の黒い髪も、赤い瞳も、なんというか気品はあるが、おきれいなだけだ。体全ておきれいな貴族令息といった感じで。
まあ、元傭兵で現俺の護衛であるゼロが貧弱だったら話にもならないが。俺、ラーシェ・クライゼルはあまり筋肉がつかない体質なのも確かだった。
妹から言わせれば受け受けしい身体だと。
(ここが、妹の書いた悪役に容赦ないBL小説の世界じゃなければ――!)
べろりと赤く長い舌で俺の首筋を舐めるゼロ。その姿は犬そのもので、俺のもう片方の首筋も舐め上げる。ぞわぞわと背筋に悪寒が走る。生暖かくて、少しざらざらしているゼロの舌は俺の口まわりも舐め始めた。さすがに、戯れが過ぎると、俺は隙を見計らってゼロの舌を噛んだ。
「……っ」
「この、駄犬! ……うう、ゼロ! お前、何のつもりだ」
ゼロは、俺の手を今度は片手で縛って噛まれた舌に指をあてる。指を伝って、つぅと血が流れ、またそれを舌で舐めとる。その光景が艶めかしくて、なぜかきゅっとお腹の奥のほうが締まる。ありえない、俺は男だし、相手も男だ。
これは、BL世界の補正だ、と俺は言い聞かせてゼロを睨みつけた。
そう、ここは妹が書いたBL小説の世界。今はやりの異世界もの。そして俺は、その小説の悪役令息……断罪後は、モブ姦、薬漬け、肉便器になるかわいそうな悪役令息なのだ。
絶対に、モブ姦なんて嫌だし、そもそも断罪されたくない。今の暮らしには贅沢しているし、家から勘当なんてまっぴらごめんだ。
だから、心を入れ替えてクライゼル公爵家の長男として体裁をと取り繕うとしたが、この男にだけは通用しなかった。
いや、もっと早く前世の記憶を取り戻していれば俺はこんなことにならなかったはずなのだ。
ぴくりと、ゼロの耳が動く。その耳は、顔の横についているのと、頭についているので合計で四つあった。よく見れば、俺の足元にふさふさとした尻尾のようなものが揺らめいている。
「……何のつもりだと?」
ターコイズブルーの瞳は、憎しみに染まっており、俺を見下ろす目は冷たかった。
ゼロは、俺の腹に手を当て、グッとへそ辺りを押す。鈍痛とともに腰が跳ね上がり、俺は自分の体の敏感さに嫌気がさす。
「主が俺に呪いをかけたせいだろ? 俺だって、別にアンタに発情なんてしたくない。でも、仕方ないんだ。これは呪いなのだから」
「しかないって……んんっ!」
強引に俺の唇を奪って、開けろとまだ血が流れている舌で俺の唇を突っつく。べろべろと舐めるもので気持ち悪くて口を開いたら、その隙間から分厚い舌をねじ込んできた。息継ぎをする暇もなく、彼の舌が俺の口内を蹂躙する。じゅるじゅると卑劣な音を立てながら、唾液を吸われ、舌が絡ませて、俺は酸欠と、与えられた快楽に頭がついていけず、目が上に上がる。
「はっ……やっ」
「んっ……ああ、主……」
ゼロの手が俺の胸へと触れる。筋肉がつきにくい体質で華奢な体躯は女のように柔らかくはないものの、ゼロの大きな手にすっぽりとおさまるくらいの大きさだ。その胸をもみほぐし、乳首をつまむと俺は思わず腰が跳ねてしまう。
「んんんっ!」
「男なのに感じているのか、主」
「うるさいっ、この、駄犬っ、マジで、やめろ」
「責任取ると、主は言った。あの言葉は、嘘じゃないだろう。心を入れ替えたと、そう屋敷で働く皆の前で言ったこと……忘れたわけじゃないだろう?」
と、ゼロは舌で口の周りを舐めとりながらいう。
いつもは、俺のいうこと何も聞いていないくせに、覚えていないくせに。そういうのだけ覚えている。憎たらしいやつだ。
(そうだよ。呪いをかけたのは俺だし、呪いを解くって約束したのも俺だよ!)
けど!
その呪いがこんなものだと誰が思っただろうか。
「ああ、もう忘れてない! お前の呪いも解くの手伝うっていった! 言ったけど! お前、ポメラニアンになるだけじゃないのかよ!」
「……みたいだな。あの姿から人に戻るとき、どうやら発情するらしい」
そうゼロは淡々というと、ゴリッと己の熱くなったチンコを摺り寄せてきた。つられて俺も、緩く勃ちあがってしまい、羞恥心で死にたくなる。
男なんかのチンコで。それも、俺よりも二倍くらい大きいチンコなんかで!
嬉しいのか、発情しているだけなのか、彼はまだ人間に戻り切れていないようで、髪色と同じ灰色のしっぽをぶんぶんと振り回し、かくかくと腰を揺らしていた。もうこの駄犬のリードを握れそうにない。首輪も自分で引きちぎってしまうくらいの狂犬だ。
俺は、改心せずにこのままいくと、ゼロに見放されて娼館に売られたのちにモブどもに蹂躙される未来がまっている。
それを回避するには、俺がゼロにかけてしまった呪いを解かなければならないのだ。未だ解呪に至らず、彼は定期的にこうやって発情する。その熱は、俺にしか鎮静できないらしい。俺に触ってもらうか、俺の中でしか射精できないらしいのだ。まったく、どんな呪いだ。自分でかけたのだが、過去に戻って自分を殴りたいくらいだ。
(まさか……『ポメラニアンになる呪い』をかけちまったなんて…………この、狂犬に)
ポメラニアンになる呪い。あのちんちくりんで、手足短くて、もふもふのポメラニアンになるのだ。この二メートル近い男が。あのポメラニアンに。
今でも、たまに信じられなくて自分の目を疑うが、まぎれもなく彼は、灰色のポメラニアンになるときがある。そして、ポメラニアンから人間に戻すには、彼を満足させないといけないらしいのだ。そのうえ、戻ったら戻ったでこのように発情して、俺がその熱をと……
本当に解せぬ。
それでも、モブにハメられて輪姦されるよりかはましなのだ。ありがたいことに、BL世界だから俺の身体はそういう男を受け入れられるようになっているから。
「主、俺の息子も先ほどのようによしよししてくれ」
「おまっ、お前、言い方~~~~ッ!!」
ぶるんとパンツの中から飛び出したチンコは赤黒く、凶器そのものだった。こんなの腹にいれたら、つか、尻にいれた時点で、避けるに決まっている。
早くしろと、慰めてもらう側の癖に態度のデカいゼロは俺にいう。
「あーっ、クソ!」
俺はゼロのチンコを恐る恐る手に包む。他人の男のものを触らないといけないなんて思いもしなかったが、そういう状況なのだから仕方ない。掌の中でどくんどくんと脈打つそれが怖い。今にもはちきれそうで、なら早く射精してくれとさえ思う。
「早くイケよ。早漏」
「主が、しごいてくれなきゃいけないが?」
「ああ、もう! じゃあ、黙ってろ!」
「……御意、主」
こういうときだけ、ききわけのいい従順ワンコのふりをする。本当にこいつは嫌いだ。
俺はそう思いながら、自分よりも大きいそれを上下に擦る。すぐに、先走りが溢れてきて滑りがよくなり、てかてかと光る亀頭部分を少し強くこすってやれば、まるで生き物のようにずぐんとゼロのチンコは動く。
気持ちいいんだろうな、と自分がいつも自慰するときと同じやり方でやれば、ゼロは、自身のチンコを握り込んだ。
「ちょ、お前、手ぇ、離せ!」
「主としごいたらいけそうだ…………クッ」
「おいっ、ひぎぃっ!?」
びゅるっ、と勢いよく白濁が噴水のように飛び出した。それを顔で受け止める羽目になった俺は、声にならない叫び声をあげる。勢いでひっくり返りそうになったが、ゼロは俺の腰に手を回しており、ひっくり返ることもままならなかった。
(……顔射してきやがったこいつ!)
「ぜ、ゼロ、お前ぇ……」
「はっ、主。その顔、そそるな。征服欲が掻き立てられる」
「はあ!? ――お、あっ!?」
いとも簡単にもう一度押し倒され、俺は、恐怖を覚えた。先ほどの凶器がまたその熱と固さを取り戻して、俺の腹の上に乗っていたから。
ゼロはぎらついた眼で俺を見下ろし、悪役よりも悪そうな笑みを浮かべていた。
「今度は、俺が主を奉仕する番だな。良い声で啼いてくれ。主」
そういって笑った駄犬は、俺のチンコに、自身のずっしりと重いチンコをこすりつけたのだ。
63
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
馬鹿犬は高嶺の花を諦めない
phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。
家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
第9回BL小説大賞にもエントリー済み。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜
百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。
最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。
死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。
※毎日18:30投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる