2 / 45
第1章 こんな転生聞いてません!!
01 それってつまり、そういうことですよね?
しおりを挟む「ん……」
翌朝、キャロル様に抱かれ続けた私は腰の痛みと喉の渇きに耐えながらベッドの上で起き上がると、洪水のように昨晩の記憶が蘇ってくる。
「ああ、結局私、朝までキャロル様と……」
思い出すだけで、体中が沸騰するように熱くなり私は、はくはくと口を動かすことしか出来なかった。
と、それと同時にこれは夢ではなかったのだと思い知らされた。
「サーモンピンクの髪……間違いなく、アドニス・ベルモント」
私は自分の髪の色を確認し、肩を落とした。
やはり、私はあの不遇令嬢という残念すぎる名で呼ばれているヒロインの親友、アドニス・ベルモントに転生してしまったようだ。
これで、瞳の色が黄色だったらもう逃れようもなく言い訳のしようもなく、アドニス・ベルモントと言うことになる。だが、きっと確認しなくても結果は変わらない。
(でも……結局、ヒロインちゃんは来なかったな……)
本来なら、昨晩、ヒロインがアドニスとキャロル様の行為中に入ってくるはずなのだ。行為中に入ってくるヒロインとはまた変わっているというか、乙女ゲームとしてどうかとか思うけど、そうして泣いているアドニスと、発情しているキャロル様を見て「私が代わりになります」といってキャロル様の相手をするのだ。
これは、キャロル様のルートを開いたときにしか訪れないイベントで、あのまま普通に皇太子のルートを進んでいれば本編にキャロル様が出てくることはない。
死んだから出てこなかったとかそういうわけではないのだろうけど、もう二度と接点をもつことがなくなる。
そして、何故かヒロインがキャロル様のルートを開かない限りアドニスがキャロルに抱かれることはない。そこはストーリー補正という奴だと思う。
だからこそ、可笑しいのだ。
キャロル様のルートを開いたのにもかかわらず、ヒロインは現われず、そしてキャロル様は私、アドニスにたいして「身体の相性が良い」と言ったのだ。もしかしたら、ヒロインがいないのでは?という仮説も立てたが、これをまだ立証できる証拠はない。
「と、取りあえず……帰らなきゃ」
と、私は痛む体に鞭を打ち立ち上がろうとするとふいにぐいっと腕を引っ張られ、ベッドに引き戻される。
「ふえええ!?」
「何処にいこうとしてたの? 何も言わずに」
「きゃ、きゃ、キャロル様! これは、その、えっと!」
衣類を一切纏わぬ鍛えられた筋肉が背中に当たっているのが分かり、私は顔を赤く染める。
(きょ、胸筋がすごい……それに、この腕もたくましくて……って、違う、違う! そうじゃなくて!)
推しであるキャロル様に後ろから抱きしめられているという現状に頭がパンクしそうになる。いや、実際に私の頭は既にオーバーヒートしていた。
しかし、キャロル様はそれを許さず私の顎を掴むと、強引に振り向かせる。すると、唇と唇がくっつきそうな距離でにこりと笑うと少し困ったような表情を浮べ口を開く。
「もしかして、昨日の事怒ってる?」
「い、いえ、そういうわけでは。あれは、事故でしたし……誰かが、キャロル様の相手をしなければいけなかったでしょうから」
本当は、めちゃくちゃ怒っているというより、少し怖かった。だって、あんなに好き勝手されたんだもん。初めてだったのに……それも、途中からだったし。
だけど、私は彼に惚れていたから、推しであったから、彼の相手が出来るのは嬉しいと思ってしまった。
「誰でも良いわけじゃないんだ」
「えっと、それは……」
聖女であるヒロインじゃなきゃいけなかったってこと?と思わず零れそうになった。
だが、必死に堪え私は説明を求めるように彼を見つめた。
「……君は、僕のことを知ってるんだよね。僕がどういう人間なのか……どんな力を持っているのか」
「は、はい。存じ上げています。帝国の光であり、戦争の英雄……魔力量が帝国一の魔剣士であることを」
という設定だったよね。
兄のライラ殿下と並び彼は帝国の光であり、戦争の英雄だった。
兄のライラ殿下は、剣術武芸に長けた男で、弟のキャロル様は魔法に長けた、ライラ殿下には劣るものの魔法と剣術を組み合わせ戦う魔剣士であることを。
ゲーム内ではそういう設定だった。
そして、その膨大な魔力を保持しているが故に、魔法を使うたび発情してしまうと言うおまけのついた体質であることも。
「長い間戦場にいてやっと昨日帰って来れたんだ。でも、戦場で流した血や魔法を使った反動と高ぶった気持ちが抑えられなくて、君を」
「ほ、本当に気にしないでください! 私なら大丈夫なので!」
「ほんとに? 痛いところとか、息苦しさとかは?」
「ないです!」
本音を言うなら、もの凄く腰が痛い。多分、一人で立てないと思う。
とは言えず、私はあたかも元気ですアピールをし、キャロル様に笑みを送る。
すると、疑い深く見ていたキャロル様の表情が柔らかくなり、「そうか」と小さくこぼす。
「ごめん、本当は痛かっただろうに……初めてだったんだろ?こういうことするの」
「……え、ま、まあ。でも、初めてがキャロル様で良かったです」
あ、思わず本音が。と、私は慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。
キャロル様は目を見開き、驚いた様子を見せると直ぐに破顔する。その笑顔が眩しくて私は目を細めた。
そうして、キャロル様の指が私の頬を撫でると、そのまま後頭部に手を回し引き寄せられる。
そして、額に触れるだけのキスをされ、私はぽかんと口を開ける。
「やっぱり、これは運命だと思うんだ。こんなに身体の相性がいい人は初めてで」
「っと……」
それは、他にも抱いた、抱かれた人がいると言うことだろうか?と胸の端がチクリと痛んだが、その痛みに気づかないフリをして私は、そうですね。と返してみる。
(そうだよね……キャロル様は格好いいし、女の人なんて選び放題で……)
それでも、その一人にして貰えたことが嬉しいと私は言い聞かせて首を横に振った。すると、そんな私の不可解な行動を見てかキャロル様は小首を傾げ、爆弾を投下する。
「こんなに波長が合う人は初めてなんだ。今までは、魔力量が足りなかったり、相手側が逃げてしまったり……上手くいっても前戯までで萎えてしまったり。ああ、でも、萎えたというよりかは、この子は無理だって思ってしまったりして帰って貰って……最後までしたことがなかったんだ」
「えっ」
私はその言葉を聞いて、耳を疑った。ということはキャロル様も初めて……
「え、え、じゃあ、これまでどうやって……!」
「まあその色々ね」
と、キャロル様は誤魔化しながら笑う。
ああ、そういえばゲーム内では性欲処理係が見つからず戦場に戻っては人を斬って、時にはライラ殿下と剣を交えたりして高ぶった気持ちをどうにか外へ逃がそうとしている描写が合った気がする。
そんなときに波長も合い、魔力量が互角なヒロインに出会い初めは性欲処理という名目で身体を繋げていたけど、次第にそこに愛情が芽生え……というのがキャロル様のルートの流れだった。そして、そのルートに入った時アドニスは、一度抱かれたことをきっかけにキャロル様を気になりだし、もう一度抱いて下さいと言って腹上死するというエンドを迎えていた。
しかし、今はどうだろう。
彼は私と波長が合うと言って、性欲を全て発散できていて発情していないし、ゲームとは違った展開になっているような……まさか、現実だからシナリオが変わったのか?
いや、でも、それならキャロル様が私を抱いて、私が無事な理由にはならないはずだし。
どれだけ考えても答えは出なかった。でも、まあそれでも良かった。
「アドニス」
「はい、何でしょうかキャロル様」
だから、こんなこと言われると思っていなかったのだ。
キャロル様は私を真剣な瞳で見つめ、ゆっくりと口を開いた。見つめられるだけでも、身体の体温が上がり妊娠してしまうのではないかと思うぐらいに熱烈な視線。私はそれに耐えながら、キャロル様の言葉を待つ。
「君さえ良ければ、また抱かせてくれないか?」
「へ?」
そ、それはつまり――――
(性欲処理係になってくれってこと!?)
12
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!
Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる