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第1章 こんな転生聞いてません!!

01 それってつまり、そういうことですよね?

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「ん……」


 翌朝、キャロル様に抱かれ続けた私は腰の痛みと喉の渇きに耐えながらベッドの上で起き上がると、洪水のように昨晩の記憶が蘇ってくる。


「ああ、結局私、朝までキャロル様と……」


 思い出すだけで、体中が沸騰するように熱くなり私は、はくはくと口を動かすことしか出来なかった。
と、それと同時にこれは夢ではなかったのだと思い知らされた。


「サーモンピンクの髪……間違いなく、アドニス・ベルモント」


 私は自分の髪の色を確認し、肩を落とした。
 やはり、私はあの不遇令嬢という残念すぎる名で呼ばれているヒロインの親友、アドニス・ベルモントに転生してしまったようだ。
 これで、瞳の色が黄色だったらもう逃れようもなく言い訳のしようもなく、アドニス・ベルモントと言うことになる。だが、きっと確認しなくても結果は変わらない。


(でも……結局、ヒロインちゃんは来なかったな……)


 本来なら、昨晩、ヒロインがアドニスとキャロル様の行為中に入ってくるはずなのだ。行為中に入ってくるヒロインとはまた変わっているというか、乙女ゲームとしてどうかとか思うけど、そうして泣いているアドニスと、発情しているキャロル様を見て「私が代わりになります」といってキャロル様の相手をするのだ。
 これは、キャロル様のルートを開いたときにしか訪れないイベントで、あのまま普通に皇太子のルートを進んでいれば本編にキャロル様が出てくることはない。
 死んだから出てこなかったとかそういうわけではないのだろうけど、もう二度と接点をもつことがなくなる。
 そして、何故かヒロインがキャロル様のルートを開かない限りアドニスがキャロルに抱かれることはない。そこはストーリー補正という奴だと思う。

 だからこそ、可笑しいのだ。

 キャロル様のルートを開いたのにもかかわらず、ヒロインは現われず、そしてキャロル様は私、アドニスにたいして「身体の相性が良い」と言ったのだ。もしかしたら、ヒロインがいないのでは?という仮説も立てたが、これをまだ立証できる証拠はない。


「と、取りあえず……帰らなきゃ」


と、私は痛む体に鞭を打ち立ち上がろうとするとふいにぐいっと腕を引っ張られ、ベッドに引き戻される。

「ふえええ!?」
「何処にいこうとしてたの? 何も言わずに」
「きゃ、きゃ、キャロル様! これは、その、えっと!」


 衣類を一切纏わぬ鍛えられた筋肉が背中に当たっているのが分かり、私は顔を赤く染める。


(きょ、胸筋がすごい……それに、この腕もたくましくて……って、違う、違う! そうじゃなくて!)


 推しであるキャロル様に後ろから抱きしめられているという現状に頭がパンクしそうになる。いや、実際に私の頭は既にオーバーヒートしていた。
 しかし、キャロル様はそれを許さず私の顎を掴むと、強引に振り向かせる。すると、唇と唇がくっつきそうな距離でにこりと笑うと少し困ったような表情を浮べ口を開く。


「もしかして、昨日の事怒ってる?」
「い、いえ、そういうわけでは。あれは、事故でしたし……誰かが、キャロル様の相手をしなければいけなかったでしょうから」


 本当は、めちゃくちゃ怒っているというより、少し怖かった。だって、あんなに好き勝手されたんだもん。初めてだったのに……それも、途中からだったし。
 だけど、私は彼に惚れていたから、推しであったから、彼の相手が出来るのは嬉しいと思ってしまった。


「誰でも良いわけじゃないんだ」
「えっと、それは……」


 聖女であるヒロインじゃなきゃいけなかったってこと?と思わず零れそうになった。
 だが、必死に堪え私は説明を求めるように彼を見つめた。


「……君は、僕のことを知ってるんだよね。僕がどういう人間なのか……どんな力を持っているのか」
「は、はい。存じ上げています。帝国の光であり、戦争の英雄……魔力量が帝国一の魔剣士であることを」


という設定だったよね。

 兄のライラ殿下と並び彼は帝国の光であり、戦争の英雄だった。
 兄のライラ殿下は、剣術武芸に長けた男で、弟のキャロル様は魔法に長けた、ライラ殿下には劣るものの魔法と剣術を組み合わせ戦う魔剣士であることを。
 ゲーム内ではそういう設定だった。
 そして、その膨大な魔力を保持しているが故に、魔法を使うたび発情してしまうと言うおまけのついた体質であることも。


「長い間戦場にいてやっと昨日帰って来れたんだ。でも、戦場で流した血や魔法を使った反動と高ぶった気持ちが抑えられなくて、君を」
「ほ、本当に気にしないでください! 私なら大丈夫なので!」
「ほんとに? 痛いところとか、息苦しさとかは?」
「ないです!」


 本音を言うなら、もの凄く腰が痛い。多分、一人で立てないと思う。
とは言えず、私はあたかも元気ですアピールをし、キャロル様に笑みを送る。
 すると、疑い深く見ていたキャロル様の表情が柔らかくなり、「そうか」と小さくこぼす。


「ごめん、本当は痛かっただろうに……初めてだったんだろ?こういうことするの」
「……え、ま、まあ。でも、初めてがキャロル様で良かったです」


 あ、思わず本音が。と、私は慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。
 キャロル様は目を見開き、驚いた様子を見せると直ぐに破顔する。その笑顔が眩しくて私は目を細めた。
 そうして、キャロル様の指が私の頬を撫でると、そのまま後頭部に手を回し引き寄せられる。
 そして、額に触れるだけのキスをされ、私はぽかんと口を開ける。


「やっぱり、これは運命だと思うんだ。こんなに身体の相性がいい人は初めてで」
「っと……」


 それは、他にも抱いた、抱かれた人がいると言うことだろうか?と胸の端がチクリと痛んだが、その痛みに気づかないフリをして私は、そうですね。と返してみる。


(そうだよね……キャロル様は格好いいし、女の人なんて選び放題で……)


 それでも、その一人にして貰えたことが嬉しいと私は言い聞かせて首を横に振った。すると、そんな私の不可解な行動を見てかキャロル様は小首を傾げ、爆弾を投下する。


「こんなに波長が合う人は初めてなんだ。今までは、魔力量が足りなかったり、相手側が逃げてしまったり……上手くいっても前戯までで萎えてしまったり。ああ、でも、萎えたというよりかは、この子は無理だって思ってしまったりして帰って貰って……最後までしたことがなかったんだ」
「えっ」


 私はその言葉を聞いて、耳を疑った。ということはキャロル様も初めて……


「え、え、じゃあ、これまでどうやって……!」
「まあその色々ね」


と、キャロル様は誤魔化しながら笑う。

 ああ、そういえばゲーム内では性欲処理係が見つからず戦場に戻っては人を斬って、時にはライラ殿下と剣を交えたりして高ぶった気持ちをどうにか外へ逃がそうとしている描写が合った気がする。
 そんなときに波長も合い、魔力量が互角なヒロインに出会い初めは性欲処理という名目で身体を繋げていたけど、次第にそこに愛情が芽生え……というのがキャロル様のルートの流れだった。そして、そのルートに入った時アドニスは、一度抱かれたことをきっかけにキャロル様を気になりだし、もう一度抱いて下さいと言って腹上死するというエンドを迎えていた。

 しかし、今はどうだろう。

 彼は私と波長が合うと言って、性欲を全て発散できていて発情していないし、ゲームとは違った展開になっているような……まさか、現実だからシナリオが変わったのか?
 いや、でも、それならキャロル様が私を抱いて、私が無事な理由にはならないはずだし。
 どれだけ考えても答えは出なかった。でも、まあそれでも良かった。


「アドニス」
「はい、何でしょうかキャロル様」


 だから、こんなこと言われると思っていなかったのだ。
 キャロル様は私を真剣な瞳で見つめ、ゆっくりと口を開いた。見つめられるだけでも、身体の体温が上がり妊娠してしまうのではないかと思うぐらいに熱烈な視線。私はそれに耐えながら、キャロル様の言葉を待つ。


「君さえ良ければ、また抱かせてくれないか?」
「へ?」


 そ、それはつまり――――


(性欲処理係になってくれってこと!?)


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