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第3章 一難去ってまた一難
08 怪しい仮面舞踏会
しおりを挟む「本パーティーでは、仮面を付けての入場となっております。また、皆さまにお願いがございます。決して、この会場内では身分を明かさないようにお願いします」
と、案内係の男は言った。
私とカーディナルは目元だけが隠れる仮面をし、案内係の男の後を遅れないように追う。
「か、カーディナルさん!潜入先って本当にここなんですか!」
「言ってたじゃない、キューバリブレ伯爵はこういうのが好みなんだって。地下でパーティーを開いてはいろんな取引やらなんやらをしてるのよ」
こそっとカーディナルは耳打ちし、そういえばそうだったと私は思い出す。
だが、本当にここにキューバリブレ伯爵が、解毒薬があるのだろうかと私は不安になってきた。しかし、今はカーディナルの情報を彼女を信じるしかないと思った。これも、すべてロイの為……でも――
「こ、このドレスには何の意味が!? め、目立ちすぎなのでは!?」
「大丈夫よ。中にはもっと凄い人達で溢れているだろうから。質素なドレスだったら逆に悪目立ちしちゃう」
「それをいうなら、このドレスの方が……」
私が着ているのは、真っ赤な薔薇のようなドレスで胸元と背中ががっつり開いており、正直とても恥ずかしかった。
しかも、スカート部分はスリットが入っているのか歩く度に足が見えてしまい、これじゃあ角度によっては下着が見えるのでは?と羞恥心が込み上げてくる。
これは果たして、公爵家の公女が着ていても良いものなのだろうか?
いつもならこんなドレス絶対に着ないのにと、カーディナルを見るがカーディナルもカーディナルで、黒を基調とした露出度の高いドレスを身に纏っていた。私より着こなしている。スタイルも良いし、その美しいくびれとすらっと長くほどよい肉付きの足には女性である私でも思わず二度見してしまうほどだ。
そんな私を見てカーディナルはくすりと笑い、私の肩に手を置いた。
「大丈夫、シェリーちゃんとっても似合ってるから。それよりも、前見たときよりも胸が大きくなって。ロブロイに育てて貰ったのかな?」
「い、言わないで下さいッ! セクハラですよ!」
そして、耳元で囁かれた言葉に私は頬を赤く染めてしまう。
自分でも最近肩がこるなあと思っており前よりもドレスがきつくなっている……太ったとかではなく胸あたりがと思っていたので、カーディナルの言葉につい反応してしまった。
だって、多分確かにその通りだから。
すると、カーディナルはくすりと笑うと、私から離れていく。私はというと、胸を両手で隠しながらカーディナルを追いかけた。
そして、暫く階段を降りていくと大きな扉が見えてき、案内係の男はその前で立ち止まると、私たちに向かってどうぞ。と中に入るように促した。
中に入ると、そこは煌びやかな世界が広がっていた。
シャンデリアは白ではなくどことなく赤いようなピンクいようなどことなくエロチックで、甘い匂いが充満していた。床は大理石のようにつるりとしており、靴音が響き渡る。まるで舞踏会のようだと私は思った。地下にこんな場所があったなんて。
会場にはカーディナルの言ったとおり私達よりも派手で煌びやかなドレスを着た女性もいれば、燕尾服を着た男性もおり、そして何故か猫の被り物をした人もいて。異様な光景だった。
そこにはたくさんの仮面をつけた男女がおり、みな一様に楽しそうに会話をしていた。
「うっ……」
「シェリーちゃん、あまり深く吸いこまないでね。お酒の匂いじゃなくてドラッグかも知れない」
「え……カーディナルさんは大丈夫なんですか?」
私は口元を手で覆い、深呼吸するのをやめると心配そうにカーディナルを見た。
カーディナルは私と違って特に顔色を変えることもなく平然としており、私の腰を抱いて守るように歩いてくれる。頼れる姉御という感じがしてときめいてしまう自分がいる。
やはり彼女のような魅力的で強い女性になりたい。
私はそんなことを考えていると、会場の奥の方から一人の男性が近づいてきた。
男は仮面をつけており、顔は見えないが背が高く、細身だが筋肉はしっかりついているようで、恐らく私よりも年上だろう。
「このパーティーには初めて出席されるのですか?」
「ええ、以前から気になっていましたの」
と、カーディナルは偽物の笑みを貼り付けて男性に微笑みかけた。男性は、一見紳士かと思っていたがカーディナルの身体を舐めるような目で見ており、確実に下心があるなと私は判断し、私は仮面で顔が見えないことを良いことに男性を睨み付けた。
すると、それに気づいたのかはたまたただ視線に気づいただけなのか仮面を付けた男性は私に話しかけてきた。
「失礼、レディ。貴女の美しさに見惚れていました」
「あ、ありがとうございます」
私はその言葉に内心舌打ちをした。
この男は美しさに見惚れていたと言ったが実際胸やら尻やらしか見ていない。今すぐにでも変態!と叫んで平手打ちをかましてやりたかったがグッと堪え私もカーディナルと同様に笑みを貼り付ける。ねっとりとした視線に耐えきれず私は俯いてしまう。
「この後、ダンスが始まるのですがよければ一緒に踊りませんか?」
「ごめんなさい、私ダンスは苦手で」
「では、その後二人きりでお話しをしましょう」
「すみません、これから用事がありまして」
「そんなこと言わずに、少しだけでも。さぁ、こちらへ」
と、男は私の腰を掴もうと手を伸ばした瞬間すかさずカーディナルが男の腕を掴んだ。
「アタシでいいなら、相手するよ?ダンスでも勿論、飲み比べでも」
そうカーディナルは甘いようなでも何処か棘のあるような声で男に囁くと、男は満足したようににんまりと笑い、そして私達にウインクを飛ばして去っていった。
私は思わずほっとする。あの男の相手をするのは嫌だったから助かった。
すると、カーディナルは私に耳打ちをする。
「目立たないようにするために、一曲誰かと踊ってきな。それから、会場を抜けて廊下に出るんだ。後は作戦通りに、ね?」
「え、え、一曲誰かと踊らないといけない……んですか?」
と、私が不安げに聞くとカーディナルは私の頭を撫でて安心させる。
そして、カーディナルは私の背中を押して早く行きなと急かす。先ほどの男はカーディナルが相手をしてくれるらしく、私は仕方なく他の男性を探すことにする。といっても、どの男性も女性に向ける目は下心見え見えのもので正直言って気持ちが悪かった。他に見るところがあるだろ!と言いたいが、生憎このパーティーは仮面で顔をかくし見えるところと言ったら胸やら尻だろうし、こんな所でない面を見てくださいなんてとてもじゃないけど言えないし、それを別にここの人達は求めていないだろうと思った。
「どうしよう……でも、踊らないと怪しまれる」
そんな風に会場内をうろうろとしていると複数の男性が私の方へ寄ってきて、一人の男性に肩を抱かれると強引に引っ張られた。
私は慌てて抵抗するが、力が強く振りほどけない。
私は助けを求めようと周りを見るが誰も助けてくれず、それが当たり前であるかのように私を無視しお酒を飲んだり会話をしたりしている。
「離してください!」
「まあまあ、そう怒らずに。君、名前は?」
「名前なんて貴方には関係ないでしょう!?」
「あるさ、君の事が気に入った。僕と付き合ってくれれば一生不自由させない」
と、私の意見を無視しその男性は私に言い寄る。
ここは我慢して一曲踊るべきかと思ったがその男性の手が私の太ももに触れようとした時「すみません」と男性の後ろから声が聞こえ、男性は振返る。
そこには狐のような仮面を付けた男性がおりその仮面越しでも、私を掴んでいる男性を殺さんとばかりの鋭い目で睨み付けていることが分かった。男性はその狐仮面の男に怖じ気づく。
「彼女は俺と踊る約束をしていたんです。俺が目を離した隙にはぐれてしまって」
ですよね? と狐仮面の男は同意を求めるように私に聞いてくる。
そんな覚えもないし、この男性とは今あったばかりだしとぐるぐると思考は巡りに巡っていたが、この人なら信頼できる。と別に何か根拠があるわけでもないのに私は、コクリと頷く。
「そんなの早い者勝ちだろ!」
と、男性は食い下がる。しかし、狐仮面の男は怯むことなく、むしろ威圧感を出しながら男性を睨み付ける。
男性はその迫力に負けて、私を手放すと逃げるようにその場を去った。
私はほっと息をつく。すると、狐仮面の男は大丈夫ですか? と優しい声色で私の顔をのぞき込むように腰を曲げた。
「あ、ああ、えっと大丈夫です。助けてくれてありがとうございました!」
私は慌ててお礼を言い頭を下げる。
この人は悪い人では無いと思う。けれど、このパーティーに出席している以上はただ者ではないと思う。私はお辞儀をしてすぐに離れようとするが腕を引っ張られ引き留められる。
私はびっくりして思わず声を上げそうになるが、それは目の前にいる男によって阻止される。
「レディ、俺と踊ってくれませんか?」
「え、えっと……」
私はちらりと横を見ると男は微笑んでいて、私はどうしたらいいのか分からず困ってしまう。
でも、何処か懐かしいようなこの雰囲気というか空気を知っているようななんとも言えない気持ちになり私は男性を見た。仮面の奥で覗く瞳は色さえうかがえなかったが熱を帯びているようで、やはりその視線というか向けられている感情は私のよく知っているものな気がした。
(どこかであった気がするんだけど……気のせい?)
確かに、この男ならさっきの男性よりかは信用できるかもしれない。それに、踊りたいと思っていたし、丁度いい機会だ。
(これも、ロイの為よ……! ううぅん、でもごめんね、ロイ!)
私は心の中でロイに謝りつつ男性の手を取った。すると、タイミング良く曲が流れ初め、私は誘われるがままに踊り始める。
ダンスなんて久々だったけど意外と体が覚えていて、私は男性の動きに合わせて動く。
違う、男性が私をリードしてくれているんだ。
(私のリズムに合わせてくれている……? そんなこと、出来るの?)
「……そんな熱烈な視線を送られたら、期待してしまいますよ」
「あ、いやごめんなさい。そういうつもりじゃ」
「分かってますよ。でも、恋人がいるのならこんな所に来ちゃダメです。今すぐに帰るべきですよ……貴方の恋人が嫉妬してしまう」
と、仮面の男は優しいながらに少し強い口調で言った。
だが、私も目的がありここに来たからそれは聞けない相談だと聞き流す。そうしてダンスも終わり、私は逃げるように仮面の男から離れた。
それでも、握られた手の感触とか匂いとか。それら全てはやはりよく知っているものな気がして私は少しモヤモヤとした気持ちを抱えながら廊下に出た。
(気のせいよ。だって、彼は……)
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