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第1章 何かの勘違いよね?

05 貴方を守る義務

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「お嬢様、おはようございます」
「シェリー様、おはようございます」


 あれから、公爵家に使える使用人達の態度は一変した。騎士団の方はかなり大規模な人員入れ替えが行われたが、公爵家の財力と権力を持ってすればそんなの朝飯前で、公爵家につかえたいという雄志ある騎士達が新たにはいってきてくれた。その人達は、ロイにも優しく、私が本物の公女じゃないと知っても、優しく接してくれた。
 メイド達は、一年前から変わった私に少なからず好感度を抱いていた人もいたようで、前よりもフレンドリーに話し掛けてくるようになった。これで、一応は一件落着した。お父様には何度も感謝の言葉を述べたし、お父様も、自分を頼ってくれたことが嬉しいのか、まんざらでもない様子だった。家族仲も良好で、婚約破棄されてから一週間も経たないうちに、かなり身の回りが改善された。


「ロイ、最近はどう?」
「はい。シェリー様のおかげで、師範も見つかり、トレーニングにも参加させて貰えるようになりました」
「そう、よかった」


 やはり、これまでは参加させて貰えていなかったようで、ああやって、一人で素振りや走り込みをしていたらしい。でも、ロイはそんな状況でも弱音一つ、文句一つ言わずに耐えてきた。強いのか、元々一人が好きなのか。そう思ったのは、彼が鍛錬に参加できるようになった時、ちょっぴり寂しそうなかおをしていたからだ。もしかしたら、人と何かをいっしょにすることが苦手なのかも知れないと。それでも、ロイには強くなって貰いたかったし、彼だって、のびのびと訓練場が使えるようになれば良いんじゃないかって思ったから。迷惑だったら、本当に申し訳ないけど。
 そんな私の気持ちを感じ取ったのか、ロイは訂正するように首を振った。


「本当に感謝してます。シェリー様が声を上げてくれたおかげで、何のストレスもなく過ごせているので」
「本当?」
「はい……シェリー様が動いて下さった理由が、俺だったら……何て、考えたりもしますが、さすがに、そうじゃないですよね」


と、ロイはちらりと私を見てきた。もうそれは、的を得ている。

 ロイは、無口であまり自分の意見を口にしないタイプだと思っていたが、あの夜以降、私に対して思った事を口にするようになった。いや、もしかしたら初めからそういうタイプだったかも知れないけれど、婚約破棄されるまでの一年、どうにか皇太子に好かれようと努力していたせいで、周りが見えていなかったのかも知れない。そこは、反省している。


「そうよ。貴方のため」
「本当ですか、シェリー様」
「本当よ。私が悪口言われるのも、馬鹿にされるのも私が我慢すれば良いだけの話だし、貴方に実害がないなら良いけれど。けど、ロイが馬鹿にされたり、虐められたりするのは見過ごせない」
「俺は、シェリー様の悪口を言われるのは嫌です。馬鹿にされるのも」


 そう言うと、ロイは、自分を大切にして下さい、と私に真っ直ぐな目を向けて言ってきた。それは、忠誠心からか、それとも別の感情からか。
 私は、さすがに自分を下げすぎたかと、反省しつつ、ロイの手を取った。


「もう大丈夫。心配してくれてありがとう。私が馬鹿にされたから、ロイも馬鹿にされたんじゃ無いかって思って、だから、私変わろうとしたの」


 ロイは何か言いたげに口を開きかけたが、グッと堪えて口を閉じた。痛いぐらい強く彼の唇が噛まれる。
 何を言いたいか何となく察して、私はロイの手を離す。名残惜しそうに、その手を見つめながら、ロイは顔を上げた。矢っ張り、少し押さなく見えるのは、私よりも年下だからだろうか。それでも、私より背は高いし、かっちりとしているし。ただ、その無表情は怖いけど、何考えてるか分からなくて。高級なワインのような深い赤色の瞳を見て、私はにこりと笑ってあげる。その瞳に私がうつっているのを確認したから。


(きっと、さっきも『俺の為に変わってくれたんですか?』って聞きたかったんだろうな。でも、二回目だししつこいと思われたら嫌だとか、考えたのかな……)


 本当に物わかりがよくて私の護衛には勿体ないぐらいだと思った。でも、私の護衛はロイしかいないと思う。私は彼が良い。


「ありがとうございます。シェリー様」
「良いって。ロイが私を守ってくれるから、そのおれいがしたくて」
「お礼なんてそんな……俺は、貴方を守りたくて」


と、ロイは、言葉を詰まらせた。護衛が出しゃばりすぎるのはよくないと思ったのだろうか。そんなこと気にしなくて良いのに。

 転生して一年、ようやく此の世界の文化に馴染めたけれど、この上下関係、身分の関係はどうも断ち切れない。夫婦になれば、もしかしたら変わるのだろうけど、私とロイは、主人と護衛っていう関係だし。


(でも、肉体関係持っちゃったんだよね)


 あれ以降、ロイは何も言ってこないし、忘れてくれたって事で良いんだよね。と、私からは何も言わないようにしている。そんな、未練がましいオなとか思われたらいやだし、何よりも、彼にこれ以上気を遣わせたくなかったから。


「そうだ、ロイ。これからお出かけにいこうと思うの。ついてきてくれる?」
「勿論です。俺は、シェリー様の護衛なので。貴方を守る義務があります」
「義務ってそんな」
「貴方に何かあっては大変です。シェリー様に何かあれば、俺はきっと正気ではいられません」


と、ロイは、私をじっと見つめてきた。少しドロッとした瞳を向けられて、思わず背筋が伸びる。ぞわぞわっとした何かがかけていき、私は自分でも気づかないうちに、彼から一歩下がっていた。


(何今の……)


 執着心? みたいなのが、垣間見れて、それが尋常じゃ無い気がして、本能的に危険だと身体が判断したのだろうか。
 顔を上げてロイを見れば、先ほどと変わらない無表情で私を見ている。気のせいだと言い聞かせて、私は支度をしてくるからと、足早にその場を去った。


(何だったの、さっきの……)


 ぞわぞわっとした、嫌な何かと混ざって、彼に見つめられて、身体がキュッとなるような、お腹周りが疼いたようなそんな不思議な感覚だった。まるで、魔法……まやくのような。
 私は、首を横に振って、何もなかったと、早速出かける準備に取りかかった。


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