68 / 128
第2部3章
03 お気楽なことで
しおりを挟む「――ゼイ。貴方は、護衛としてではなく、用心棒として我がメルクール公爵家で雇うことになったわけだけど……まあ、いい感じね。服に合ってるわよ」
「用心棒なのに、こんなたいそうな服なあ。てか、護衛じゃねえってどういうこった?」
「貴方に、剣の才能がなかったからよ。まあ、それを抜きにしても、異種族の護衛なんて前例がないからっていう理由もあって、用心棒に。そこは、気にしなくていいわ。私は別に、そういう偏見の目はないから」
「あっそ。で? 用心棒は何すりゃいいわけだよ」
「やることは護衛と一緒よ。私の近くにいて、私を守ってくれればいい。でも、今回のパーティーには連れていけないわ。正式な護衛じゃないから」
「でも、公爵令嬢がパーティーに護衛なしってそりゃ、尊厳? とか威厳的な問題で大丈夫なのかよ」
「そこはまあ、良さそうな騎士を見繕って連れて行くから。貴方はお留守番ね」
へいへい、と軽い返事を返しあくびをした。
本当に、この態度が許されると思っているところが、ゼイの恐ろしいところではあるが、そこを気にしていては、これから先長い付き合いになるのに、やっていけないと気持ちを抑える。
水色の髪に少し不釣り合いな、公爵家の家紋が入った上等な服に身をつつみ、腰には剣ではなく、短剣が携えられている。ゼイは、身のこなしが素早く、瞬発力にたけていることから、普通の剣ではなく、レイピアか、短剣の方が合うという適性が出たため、この間奇襲時に使っていた短剣よりも少し長めの短剣がゼイの武器となる。
公爵家の用心棒として雇うことにはなったけれど、やはり品性のへったくれもない。野生に生きて、自由に生きてきたという感じが見て取れる。竜人族の話を聞いたところ、群れで行動するのではなく、単独で行動する方が多いらしく、ゼイもまたその部類なのだとか。
「そういえば、貴方には番はいないの?」
「そもそも、竜人族の人口が少ないし、雌なんて奪い合いだからな。俺は自由に生きて、望む死が手に入ればそれでいい。お嬢みたいな、きれいな令嬢と番えればいいんだが、まあ、お嬢には番がいるわけだし」
「人間とも番えるの?」
「一応な。つっても、そうなってくるとまた別の問題が浮上すんだよ。混血児が生まれるわけだろ? 一族からは煙たがれるし、人間からも嫌われる。あんまり、子供のこと考えると、おすすめはしたくない」
「いや、誰もアンタと番わないわよ……そう」
「ゲベート聖王国のやつらが、番契約を作ったのも、自身の魔力を子供に奪われないためだな」
「何それ?」
私が、気になって話に耳を傾ければ、ゼイは自慢げに胸を張った。
「竜人族もそうだが、魔力や、力を持った奴は、子供産むと、その力が子供にとられちまうんだよ。子をなすときは、人生やり切った時って感じでさあ。魔導士も一緒で、子供を産むとその魔力は子供に持っていかれる。だから、番契約をして自分の魔力が一人の子供だけに行くようにした。ほら、一夫多妻制なんてしたら、どんだけ魔力があっても足りないだろ?」
「確かにそうね……そういう意味もあって、番契約を編み出したっているのもあるのかもしれない」
なら、子供を作らなければいい話なのでは? となってくるが、そういうわけにもいかない。
番契約により、一夫多妻制が排除されたゲベート聖王国は、人口も少なかったのではないだろうか。帝国は、一夫多妻制が認められているわけだし……といっても、あんまり見たことがない。
(一人を愛するので精いっぱいなのに、二人も、三人も妻がいたら困るわよね……)
いったい、その女性たちはどうやって、夫を譲り合い、奪い合ってきたのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。
私は、殿下一人で十分だし、今でさえ抱えきれないものを貰っているのに……でも、その愛が他の人に向くなんて考えるのは苦しいし、辛い。腹の底が煮えたぎるような嫉妬に支配されてしまいそうになる。
(私も人のこと言えないわね……)
殿下が嫉妬してくれると嬉しいと言っていたけれど、嫉妬は醜いからしない、と口では言ってきたけれど、実際何度嫉妬したことか分からない。婚姻前だからと、他の女性に触れられることなんてしばしばだし、番契約を切れば、前まで感じていた異性に触れられた際に起こる不快感もなくなるわけで、ますます、令嬢たちが殿下によりついていくのではないかと。
「お嬢、嫉妬漏れ漏れの顔してるぜ~ほんと、お熱いよな。アンタら」
「嫉妬って、何に嫉妬していると思ってるのよ」
「この世のすべての女性」
「大きすぎるわ……というか、やめて。熱くないわよ、別に」
「いや、稀に見ないほどのバカップルだと思うけど?」
と、ゼイは何を言っているんだと、私がおかしいとでも言わんばかりに目を丸くした。鮮血の瞳を見開いて、その縦長瞳孔がくりくりと動く。ぽかんと開いた口から見える牙は、尖っていて、下を噛んだときいたそうだな、とかしょうもないことを思ってしまう。
「どうでもいい、質問をするけれど。貴方、二百歳……って言っていたわよね。それって、人間でいう何歳なの?」
「二十歳か? 竜人族は五百年はゆうに生きるが、あんま長生きしても、面白くねえって、そのまま眠りにつくように死ぬ奴もいるぜ? 稀に、ねむりについたまま生き埋めになってるやつもいるけどな」
「……それって、飛竜の姿で?」
「当たり前だろ~? そういや、お嬢は俺が飛竜の姿になった時、目を輝かせてたな。もしかして、あっちの方がタイプか?」
「タイプとか、タイプじゃないとかじゃなくて、珍しかっただけよ。竜人族って初めて会ったし。物珍しさに見ていただけ」
「普通、令嬢だった失神するんだけどなあ。目、輝かせてる奴いるなあと思ったら、お嬢だった。やっぱアンタ変わってるよ」
「もう、皆、私が変わり者みたいに……」
殿下にも言われた。そこがいいと言われたが、本当にそこがいいのだろうか。
自分の心に素直に生きているところは、確かにいいところだとは思う。実際、あの青く美しいうろこを持つ飛竜を見たとき、目を奪われたのは事実だし。素直にかっこいいと思ったのも事実だ。あんなの、ゲームの世界でしか見たことがなかったから、実際に飛竜が飛び回って、火炎ブレスを履いているところなんてそうそう拝めないだろう。
「んでもまあ、お嬢の所に引き取られてよかったぜ。あいつの所で働かされることになったら、どうなるか分かったもんじゃないからな」
「あいつって……貴方また、殿下のことを」
「だって、俺でも怖かったんぜ!? あんな人間初めてだ。生まれたばかりの竜人だったら、もう絶対失神してたって!」
「……まあ、殿下が睨むと怖いのは分かるけど、その態度……今度殿下に会う前には直してよね? 特別に、公爵家にマナー講師を呼んで叩き直してあげてもいいけど」
「げっ……座学とか、かたっ苦しいもんは嫌いだ。お嬢の元なら、自由にやれると思ったんだがな」
「これでも自由よ? それに、自由の対価は大きいでしょ?」
「それもそうか……ハ~どっちにしろ、やべえ奴に拾われたってことには変わりねえな」
「誰がヤバいやつよ」
私が、にらみを利かせてゼイを見れば、また目をぱちくりとさせる。わざとやっているのか、それとも無意識なのか。その行動がいちいちイラっと来る。私が主人であることを自覚していないのだろうか。
(駄犬ならぬ、ダメドラゴンね……大丈夫、飼いならせるわ)
飛竜にリードなんて生ぬるいものはつけられないので、他を考えようと思った。
「ふふふ……」
「うわっ、怖っ! やっぱ、番に行動似るんだな……ほんと、あいつそっくりだぞ。お嬢」
「殿下とそっくり? それは誉め言葉ね」
「やっぱ、バカップルじゃねえか……おっかねえ女」
ゼイは、はあ~と大きなため息をついて、観念したようにその水色の頭を掻きむしっていた。
43
お気に入りに追加
952
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる