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第1部1章
03 最低◇
しおりを挟む「――殿下、下ろして、下ろして下さい……きゃあっ!」
「お望み通り下ろしてやったんだ。ギャーギャー騒ぐな……これだから女は」
「そんな女なので、公爵邸に返して貰えませんかね」
「断る」
皇宮の方に転移するのかと思いきや、まさかの殿下の寝室に転移した。聞き慣れていないはずの魔法詠唱が、何だか転移魔法の詠唱と違うなと思ったら、その理由がこれだった。魔法石は正しい詠唱を唱えると魔法が発動する仕組みになっている。魔法石によって効果は変わるが、あれは魔法石の中でも転移魔法を使うためのものだった。そして、その転移魔法は大雑把な位置を指定できるものなのだが、そこにもうワンフレーズ付け加えることで、より正確なところに転移することができる……
というのが、ロルベーアの記憶の中にあった。
そうして、転移早々、私は殿下に乱暴に投げられ、ベッドの上に降ろされた。
「これは誘拐ですよ」
「どこが誘拐なんだ。番と一夜を共に過ごすのに、いちいち親の許可が必要か?」
「そういうわけでは……って、一夜なんて過ごしません。帰らせて頂きます」
身の危険を感じ、私はベッドから飛び降りて扉へと逃げる。がしかし――ガチャガチャという音がしただけで扉は開かなかった。鍵がかかっているようだ。でも、こちら側から鍵をかけるタイプのものなのに、何故? と考えていれば、ふと施錠魔法が扉に仕掛けられているのではないかという考えが頭に浮かんできた。それなら辻褄が合う。しかし、そうなると、はじめからこうするつもりだったのだろうか。恐ろしいくらい用意周到するぎる。
「逃げても無駄だぞ。公女の力では開けられない」
「誘拐の次は、監禁ですか」
「俺にそんな趣味はない」
「……」
「自分から番契約を申し込んできた女だと聞いていたが、何故俺から逃げる?」
「……失礼ですが殿下。首を跳ねられる覚悟でいますと、公爵家の為なのです。公爵家は今、帝国の三つの星、侯爵家と伯爵家にその地位を脅かされているのです。ですから、公爵家は後ろ盾が欲しい……そこで、皇族との婚約……番契約に踏み切ったのです。なので、私の意思ではありません」
「公女は嫌だったと」
「断れるわけがないじゃないですか」
私はありのままに伝えた。もしかしたらここで殺されるかも知れない。でも、腹上死よりいいんじゃないかと思った。この男が優しくするはずもない。
まあ楽に死ねるとは思っていないが。
私は、そう思いつつも、最後まで抵抗しようと殿下を睨み付けた。殿下は、夕焼けの瞳で私を見下ろし、ただ一言呟いた。
「そうか」
それだけだった。
私の本能が察したのか、私はブルリと身体を震わせた。そう、これは――殺気だ。殿下は本気で私を殺そうしている。あの視線から明らかだピリピリとした空気が部屋の中を満たしていくのがわかる。けれどそれは一瞬だった。
次の瞬間にはその空気も消え去り、いつもの穏やかな彼に戻っていたのだ。訳が分からないと思ったときに彼は笑い出した。
「ハハハハッ。本当に噂は当てにならないな。俺を恐れる女はいたが、俺に興味がない女は初めてだ。これまで向けられてきた数多の殺意と憎悪とは違う目……面白いな。公女は」
「誉めてないですよね」
「いいや、誉めている」
殿下はそう言うと、私の手を掴んで再びベッドの上に転がした。今度は先程みたいに乱暴ではなく、優しく寝かされる。そして、彼は私の頬に触れてきた。
「俺は公女を愛している」
「……っ!? 冗談は辞めてください!」
私は流されまいと慌てて起き上がろうとする。しかし、手首を捕まれて起き上がることもできない。
嘘なのだ。
殿下が愛の言葉なんて吐くはずがない。これは、私を試しているんだろうと、私は「嘘ですよね」と真剣な眼差しを送る。殿下はそれを見て、また満足げに笑った。彼の真紅の髪がハラリとカーテンのように落ちてくる。
「面白いぞ、公女」
「私は何も面白くありません。本当に離して下さい」
「いいや、離さない。離したくない理由ができたからな」
殿下は、片手で私の腕を一纏めにして頭の上に押し付けた。
「俺の下に組み敷かれる気分はどうだ?」
「……最悪です」
私は殿下を睨んだまま答えた。最悪だ、前世でも今世でもこんな男に出会ったことがない。酷い男だ、本当に。今の私の気持ちなんて一切考えてないんだろうと思う。
まあ所詮は嫌われている悪役。少しヒーローに興味を持たれたぐらいで結末は代りはしない。
「浮かないな、公女。今から俺に抱かれるのに、不満か?」
「こんなの強姦です」
「番同士なら許される。それに、番である以上、身体の相性は確かめなければならないだろ?」
「そんなの関係ありません。以前にもいいましたけど、殿下には一年以内に呪いを解いてくれる女性が――」
「黙れ」
低く唸るような声が響く。
私はその気迫に押され殿下を見上げる。逆光になった彼の顔は良く見え無かったが、怒っているのかも知れない。酷くされる前に謝るべきだろうか。
(いいや、謝らない。私は悪くないわ)
だって事実だから。ここが小説の世界だって分かっているからこそ、その事実を教えてあげただけ。それを信じていないのは殿下だ。
「……黙って俺に抱かれろ。公女」
「……ッ」
そういったかと思うと、殿下は私の唇を強引に奪った。強引に口内に侵入してくる舌が、私の舌に絡みつき蹂躙する。キスはこれで二回目だ。しかし、一回目のとは比べものにならない、何処か感情的なキス。
「ん……っぁ」
くちゅりと厭らしい音が響いてくる。唾液をたっぷり流し込まれそれを飲み込むと身体がカッと熱くなる。
「ぷは……っ」
離れる唇の間に銀糸が伝いぷつりと切れた。肩で息をすることしかできず、いきなり何をするんだと睨もうとすれば、それよりも先に、殿下は無言で私の身体に手を当てた。そして、邪魔だといわんばかりにドレスを脱がされ、あっという間に下着姿にされてしまう。それから、スルリと背中のホックに指を滑りこませられてパチリと簡単に外れてしまう。
「ひゃっ!」
抵抗しようにも片手で抑えられているため上手く動けない。そんな私を殿下は愉快そうに見下ろしてきた。私はせめてもの抵抗で足を擦り合わせるようにして下着が見えないようにする。
「綺麗な身体だな。本当に男を知らないような身体だ」
「だからいったじゃないですか。もう、この辺で戯れはよして下さい。あと、ドレス弁償して下さい」
「ドレスなら後で幾らでも送ろう。だが、まだ俺は信用していない。今日はたまたま、そういう痕が残っていないだけかも知れないからな」
「この人間不信……ああっ」
モニュ、と殿下が私の胸を掴む。いきなりのことで声を上げてしまい、しまったと唇を噛む。
「は、ハハッ……公女、本当に初めてか? それにしては、感度がいいように思うが」
「本当にやめてください……そ、それに、殿下も初めてでは?」
「いや、俺は違う。だが今は俺の事はどうでもいいだろう」
殿下は少しイラついたように、私の胸を強く揉んだ。今度は痛かった。それを訴えれば、悪い悪い、と全く悪びることなく私の胸の先端を口に含んだ。舌で飴玉のように転がされれば、次第に息が上がってくる。
「っ……や……」
「優しくしてやらないとな。公女は、俺の大切な番だから」
「……あっ! いやぁっ!」
音を立てて吸われれば身体が痺れるような感覚がした。恥ずかしくて、気持ちよくてどうにかなりそうだと首を振るのに、殿下はやめようとはせずむしろ強く吸ってくる始末だ。拘束をほどいた手は、もう片方の胸を揉みしだいていく。ゆっくりと揉むように動かされると背筋を何かが這い上がってくるような感覚に襲われた。嫌なのに、嫌なのに、身体は勝手に熱くなっていくばかりだ。
「んっ……んぁ……」
「ここがいいのか?」
「……ちがっ」
「嘘をつくな」
もう片方の胸の先を口に含まれ、舌で舐められる。時々甘噛みされれば体がびくんと跳ね上がった。何故こんなにも感じてしまうのだろうと不思議でならない。こんなのおかしいと思う反面もっとしてほしいと思っている自分がいた。認めたくなくて必死に首を横に振る私に彼は何を思ったのか下半身に手を這わせてきたのだ。そこは自分でもわかるほどに濡れており、太腿を伝って垂れているのが触らなくても分かった。
「嘘じゃないようだな」
「……ッ!?」
殿下の指が下着の上から割れ目をなぞるように動かす。それからゆっくりと上下に動かされる。そのたび、指を中に入れていないのにもかかわらず、表面でくちゅといやらしい水音が響いた。恥ずかしくなって足を閉じようとするけれど、間に彼がいるせいでそれも出来ない。
ああ、違う。これは私のせいじゃない。
きっと、番になったから、番補正だ。と、私は考えることにした。身体の相性が、と殿下は言っていたけれど、実際そんなものはなく、番になれば自然と身体の相性がよくなるんじゃないかと。それか、あれだ、番がいたら発情してしまうのかも知れない。全く、節操のない身体だと思う。
「公女、他事を考えているな?」
「……ああっ!?」
つぷり、と長い指が膣の中に入ってくる。いきなりのことに私は声を上げた。中が圧迫され、何かが彼の指を汚していく感覚がする。誰も入れたことがなかったそこがこじ開けられている。けれど、不思議と不快感はなかった。それはきっと番補正のおかげなのだろうと思うことにした。
「もっと声を出せ」
殿下はそう言って私の口に指を突っ込むと舌を軽く引っ張ったりしてきた。その度閉じれない口から唾液が流れ落ちる。殿下はそれを指に絡めると今度は膣内をかき回すようにして動かし始めた。その度にグチュグチュという音が聞こえてきて耳を塞ぎたくなる。
「んんっ……やめっ……」
「公女の中は気持ちいいと、絡みついてくるぞ」
「そんなっ、ちがい……ますっ!」
「そうか? じゃあ、もう一本増やすか」
ずるりと抜かれた指に安堵すると今度は指が二本入ってきた。二本の指はバラバラに動き始め膣内を犯していく。何かを探るように動いているのが分かったが私にはどうすることも出来ない。やがて、ある一点を掠めた時ビクビクと身体が震え上がった。
「ここか」
「やぁあっ! だめぇえっ!」
その反応を見た殿下は執拗にその場所を攻め立てた。爪で引っ掻くように擦られれば身体の痙攣が止まらなくなる。
(やだ、やだっ!)
このまま身を委ねてはいけない、という気持ちから私は必死の思いで手に噛みついた。だが直ぐに引き剥がされて口づけられてしまう。舌が絡み合いお互いの唾液を交換するような深いキスに翻弄されてしまう。それが嫌で、私はせめてもの抵抗と、殿下の舌を噛んだ。するとようやく彼が私のくびるから離れ、舌を引っ込めながら、親指で自分の唇を拭う。しかし彼は怒ることなく、その夕焼けの瞳を愉快そうに歪ませて対。
「熱烈だな」
「……さい、ていです…………」
「大丈夫だ。時期に最高によくなる」
どこからそんな自信が湧いてくるのか分からなかった。でも、事実なのだろう。身体が彼を欲していたから。けれど、心だけは守ろうと、私は彼を否定する。身体は暴かれても、それは番だからであって、心までは番であっても縛り付けられないと。
「公女、力を抜け」
「……うっ、んいやっ」
指が引き抜かれて殿下のものが宛てがわれる。私は覚悟を決めるように一度深呼吸をするとぐっと目を閉じた。身体は、言うことを聞かない。暴かれていくことにすら快感を覚えているようだった。
されるがまま、そしてその瞬間衝撃が走る。メリメリと音を立てて入ってくる感覚に背筋がぞくりとした。痛いのか苦しいのか分からない感情が込み上げてくるのだ。呼吸の仕方が分からなくて助けを求めるように殿下を見つめたけれど彼は動きを止めてくれる様子はないようだった。それどころかもっと奥深くへ押し入ろうとするものだからたまらない。
「やぁっ ……あぁあっ」
ゆっくりと時間をかけながら侵入してくるそれに身体がついていかない。番補正はどこに行ったのだといいたくなるくらい。もうこれ以上入らないと思うのにまだ入ってくる。苦しくて仕方がない。けれど、それと反するようにむしろもっと奥に欲しいと思っている自分がいて恐怖を覚えた。これ以上は駄目だと頭の中で警鐘が鳴っているのがわかるのだ。けれど身体は言う事をきかない。いや、もう本能の方が勝っていたのかも知れない、と思ったその時だった。ずんという感じがして奥まで貫かれたかと思うと、身体が引き裂かれるかのような痛みに襲われた。
「全部入ったぞ」
「……ッ!」
そう耳元で囁かれて私は小さく悲鳴を上げた。あまりの大きさに痛くて仕方ないのだ。そんな私を無視して殿下はゆっくりと腰を動かし始めた。最初は痛みを感じていたが徐々にそれも薄れていく。それと同時に何かむず痒いような感覚を覚え始め無意識に腰が揺れたような気がしたが、それは直ぐに自分の意思とは関係なく勝手に動いたのだと気がついた。
(なんでこんな)
こんなはずじゃないと思いたいのに、身体は言うことをきかない。それが悔しくて唇を噛むがすぐに殿下によって阻止されてしまった。
「傷がつくだろう」
「……なら……はっ……抜いてくださいっ!」
「それは無理な相談だ」
そう言うと彼はさらに深く押し入ってくる。奥に当たって苦しいのに、もっと欲しいと思ってしまう自分がいた。初めてなのにまるで待っていたかのように子宮はきゅんと疼くのだ。それと同時に彼のものが膨張していくのを感じて私は声を上げた。
「公女ッ……出すぞ……!」
「だっ、駄目……――~~~ッ!」
彼は私を無視して最奥を突き上げてくる。子宮口にピタリとつけられたまま熱いものが注がれていく感覚に私は声にならない悲鳴を上げた。ドクリドクリと脈打ちながら大量に放出されているのが分かる。それを受け止めるように膣内はうねっているというのに一滴も零さないとばかりに締め付ける自分がいて恥ずかしかった。
引き抜かれるその瞬間にすら快感を覚えてしまう自分の身体が嫌だった。悪くないって思ってしまっている自分が一番……
「さい……てい」
そんな強がりとしか思えない言葉を吐いて、私は初めてのその行為に疲れ意識を落とした。
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