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第2部1章 死にキャラは学園生活を満喫します

05 恋敵多いとかそういう問題じゃない、ハーレム反対!!

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(どうしてこうなったんだ……)


「僕も、ニーくんの隣がいいです」
「ニルの隣はダメだ。それは、他国の王子であってもな」
「チェッ……なんで俺は、いつも俺にかんけーねえやつの隣なんだよ」


 いや、俺も聞きたいよ、いろいろ。

 昼食をとりに、食堂へ行き、いつも通りセシルと座れば、そこにゼラフがやってき、アイネではなくアルチュールが俺の前に座った。ゼラフは、腐っても他国の王子の機嫌をとるためか、セシルの前へ移動したがぶつくさと文句を言っている。俺の前がアイネじゃないなんてなんだか新鮮だなあと思いつつも、四分の三はいつものメンバーなので、そこが変わっただけでとくに代り映えはしない。
 ただ、銀、黒、赤、青と髪色がめちゃくちゃカラフルになったのは言うまでもないというか。


(はあ……問題はそこじゃないんだけど)


 アルチュールから向けられる好意的なまなざしに、俺は委縮してグリンピースを皿の上で転がすことしかできなかった。

 アイネのときはあれもイレギュラーだったのだが、ゼラフにも俺は絡まれて、なんだか俺専用のゲームストーリーになっているんじゃないかとさえ錯覚する。主人公の攻略キャラとして追加されるなんて言う異常事態。そして、夏休み明けにやってきた攻略キャラにもすでに目をつけられている。俺は何をしたというのだろうか。

 セシルの機嫌がだんだんと悪くなり、それを抑えるために、彼の太ももをポンポンと叩けば「やめろ、ニル。になるだろ」と言われたので、思わずセシルの足を踏んでしまった。もう、知らない、と思いつつも、それでセシルが他に当たり散らしたらまずいので、俺はおとなしくしておこうと思った。
 セシルは嫉妬深いし、その火の粉を周りに飛ばすが、一応理性的な部分はあるし、曲がりなりにも皇太子ということで。それなりに、自身の感情をコントロールする手立ては知っている。まあ、昔はそれが俺の前ではぶっ壊れていたのか、何度もペチンと叩かれたけど。今だって、たまには……

 とはいえ、この異色メンツのせいで、周りに人が寄り付かなくなったのも事実だ。
 ひそひそと、何度見かされて、それでみんなトレーをもって離れていく。申し訳なさ過ぎて、学園内での孤立が加速する。今に始まったことじゃないんだけど。


「三人は、いつも一緒に昼食をとっているんですか?」
「……ああ。はじめは俺とニルだけだったが、こいつが増えてな。あとは、後輩が」
「増えたとかいうな。いいだろ、ルールがあるわけじゃねえんだしよ。席は早い者勝ちだぜ?」


 と、ゼラフは、セシルとアルチュールに突っかかるようにして笑う。相変わらずな態度に、俺はため息が漏れる。

 威勢がいいのはいいこと。また、それだけの実力もあるし、何かあっても自分で責任が取れるからの発言なんだろうなとは思う。ゼラフはそういう余裕にあふれた男だし。それは、あの大会でも垣間見えた。
 真剣じゃないふうに見えて、努力はそれなりにしていて、やるときはやる男だ。


(……はあ~でも、会話がみんな男子学生!!)


 年相応でよろしいが、俺を挟まないでほしい。
 俺の胃もあまり丈夫じゃないんだけどなぁ……と、思っていると「ニル先輩」と天使のような声が降ってきた。


「ニル、先輩。お、お久しぶりです」
「アイネ!」


 むさくるしい、息が詰まるような空気をぶち壊すようにやってきた後輩は、こちらも相変わらずかわいくてまさに天使のようだった。


(主人公だもんな……そりゃ、かわいいよ)


 自身が、彼の攻略対象トップを走っているのをつい忘れて、彼の可愛さになごんでしまう。もちろんだが、かわいい後輩というふうにしか見ていない。それ以外の感情はない。ただ、彼が巻き込まれ体質であることも知っているため、目が離せないなとは思う。学年が違うと、関わる機会は、本当にこの時間しかないため、どうしたものかとは思うが。
 アイネは、いつも自分が座っている席にアルチュールが座っていることに気づいたようだ。それで、あっ、と悲しそうに眉をペションと下げる。


「今日は、えっと……違う人が」
「ああ、うん。彼は魔法科の留学生のアルチュール・ユニヴェール王太子殿下。隣国アルカンシエル王国からの……」
「そ、そうでした! 僕、実は、ルームメイトと遅刻して、途中からしか集会に出れていなくて」
「あ、あはは……そういうこともあるよね」


 アイネも同じだったか。一緒だっていったら、運命感じますね、とか言われそうで口が裂けても言えない。そうでなくとも、俺たちも遅刻している組なので視線を逸らすほかなかった。


(というか……ほんっとうに、アイネ……俺以外興味ないのか?)


 こんなキラキラ王子様系のアルチュールを前にして、なぜ俺に話しかけてくるのだろうか。あ、とかじゃないし、アルチュールが不憫でならないんだけど。俺は攻略キャラにはいっちゃったけど、魅力的かと言われたら魅力的じゃない。他の攻略キャラよりも幸薄めというか病弱部類だし。
 アルチュールは気にしていないだろうけど、俺が気にする。アイネ、頼むから、他の攻略キャラを。俺はもともと死にキャラだったんだから……と、心の中で叫んだあと、それを表に出さないように、後輩に向ける笑顔を作ってやれば、アイネはトクゥンとでも効果音が鳴りそうな顔で、俺を見てきた。


「一緒にお昼ご飯食べられないんですね。残念です」
「いや、俺たちの周り、まだ空いてるから、隣とか、前……とかじゃなければ、空いてるかも」


 ゼラフの隣か、セシルの隣か。最悪の二択だが。
 俺の隣や、前に座りたいといっているのに、その二人の隣が、という意味で、俺だったら別にセシルの隣を選ぶけど。
 アイネは食事のトレーを持ったまま、どうすればいいか迷っているみたいだし、昼時の食堂は席取り合戦なので早めに場所を決めなければ座れない。もう、ゼラフかセシルの隣……それか、俺が一個ずれればいいのだが。


「アイネ、何迷ってんの?」
「わっ、びっくりした……フィリップ!?」


 ポンと、アイネの肩を叩いてしゃべりかけてきたのは、目立つゴールデンイエローのウルフカットの男だった。丸いエメラルドの瞳と、その容姿にはとても見覚えがあった。
 アイネは、もう……というように頬を膨らませてその男を見ていた。男は、魔法科の制服を着ており、アイネの反応を見るに同級生なのだろう。しかも親しい。ということは、彼がルームメイトで間違いないだろう。


(……フィリップ・ツァーンラート。今日だけで、攻略キャラに何人会うんだよ)


 これまた、そういえば……なのだが、このゴールデンイエローのウルフカットの男は、フィリップ・ツァーンラートで間違いないだろう。アイネのルームメイトで、攻略キャラ。攻略難易度は一番低くて、良き相談相手。ただ、ゲームが進むごとにヤンデレになっていく仕様の。とはいいつつも、他のキャラと比べるとお調子者で、元気でちょっとチャラい。よくいう序盤に仲良くなるタイプだ。
 そして、彼の父はツァーンラート侯爵で現宰相を務めている。厳格で、伝統を重んじる父とは違い息子のフィリップは気まぐれでチャラいというか。


(ルームメイトと半期過ごしているんだから、そっちを攻略してくれないかな……なんで俺)


「おわっ、皇太子殿下ご一行じゃないっすか。アイネ、殿下たちと知り合い?」
「え、まあ、そうだけど。知り合いというか、僕はニル先輩のこと」


 フィリップが口を開いたかと思えば、俺たちのことを何か展示品というか、芸能人みたいに騒ぎ立てるのであまりいい気がしなかった。この男のいいところでもあり、悪いところでもあるのは怖いもの知らずで突っかかってくるということだろうか。ゲームでもたびたびトラブルを起こしていたし。
 ゲームとは違うとわかっていても、どうにもこうにも、俺にとって初対面の攻略キャラはそういう印象が強い。
 硬派ででも王道な皇太子セシルルートに、俺様ゼラフルート、異国の爽やか王子様アルチュール、そしてお調子者の同級生兼ルームメイトのフィリップ……もう少し、キャラとしてはいるのだが現在俺が関わっているメンツとしてはこれくらいか。そして、巻き込まれ体質な主人公のアイネ。

 ――で、春休みに死ぬはずだった死にキャラの俺になるのだが。ここにいるほとんどに何かしらの矢印を向けられている気がしてならないのは、気のせいじゃないだろう。


「アイネ、ごめんだけど。やっぱり今日は一緒に食べられないかも。今度、もうちょっと広めに席をとって待ってるから、その時にでも」
「……わかりました。ニル先輩の周りには、本当に素敵な人ばかりですね。僕なんかじゃ、勝てない、な。なんて」


 シュン、と悲しそうなオーラを出すものだから、胸がドクンと脈打つ。その仕草は、かわいい人間にしか許されないものだ。目を潤ませて、視線を下げて。それで、眉を下げて口を優しく結んで。
 ああ、かわいい後輩だな、と見惚れていると、ルームメイトの変化に気づいたのか、フィリップが助けに入る。


「ええっと、ニル先輩でしたっけ。アイネ、めっちゃかわいいんでお勧めしますよ!」
「ふぃ、フィリップ何言うの。ニル先輩が困っちゃうよ」
「アイネのかわいさに気づける人間って多いんすけど、ルームメイトとして言わせてもらいます。めっちゃ、かわいいです。そこら辺の女子より!」
「……あ、あはは、そうだね。アイネはかわいいからね」


 俺がかわいいと口にすれば、アイネは「ほんとですか」と顔をパッと上げる。
 俺は何を見せられているのだろうか。フィリップは「けど、オレが一番仲いいんで!」と、漂うくらいの独占欲を出し、親指をぐっと立てていた。よくわからない。絡まれているのもだけど……どうやら、フィリップは常にこのような調子なのだろうが、すでにアイネに惚れているようにも思えた。アイネが悲しんでいるのを察知して、俺とくっつかせてやろうか、みたいな雰囲気は伝わってくる。だが、その実、手放したくないというのがアイネの腰に回している手を見ればわかるというか。
 そこでくっつけばいいのに、と思いながらも「プレゼンどうもありがとう」ととりあえずフィリップにも礼を言う。

 それから、二人は席を探しに俺たちのもとを去っていった。これまた、嵐のような二人だったな、と俺は息を吐く。


「……それで? なんで、三人はむすくれてるの?」


 視線を戻せば、セシルも、ゼラフも、アルチュールもみんなむっすーとした顔で俺を見ていた。
 今度はこっちの相手をしなきゃいけないのかあ、と思いながら俺は苦笑いを浮かべる。


「ニーくんは、とても人気ものなんですね。後輩にも好かれるくらい、わかります……しかし、いささか周りにいい顔をしすぎなのでは?」
「まったくだぜ。ニルは、すーぐ人を引っかけるからな。今日だけで、二人もだ。ハッ、誰かにとられちまう前に、もっと外堀うめるべきだな」
「……言っておくが、ニルは俺のだからな?」


 アルチュールもゼラフも何を言っているんだろうか、と思ったがセシルが一番的を得ていたが、この流れでそれを言うのはまずいんじゃないかと思った。セシル以外の二人は彼の言葉に気づいたようだが、にこりと笑ってこちらを見る。笑顔の圧がすごくて、全く食事が進みそうにない。


「どうした、ニル。食欲ないのか?」
「えっ、いやあ……そういうわけじゃないんだけどね、セシル…………近い」


 顔を覗き込むにしては近すぎる。何、キスしたいの? キスしたいっていうの? と、俺は喧嘩腰に、セシルの夜色の瞳を見つめる。すると、セシルはゆっくりと目を閉じたかと思えば、俺の半分開いた口に一口大に切り分けたハンバーグを突っ込んだ。口の中にデミグラスソースの味が広がる。


「んんんっ!?」
「食べろ。お前が少食なのは知っているが、魔力の回復のためにも、身体のためにも食べてくれ」
「……ん、んぐ。強引だなあ、セシルは」


 何とか口の中で噛んで飲み込んだ。そのフォーク、セシルが使っていたよね、間接キスだよね……と、いうとまた面倒なことになりそうだったので言わなかったが、それもあって少しうれしかった。周りに嫉妬の火の粉を飛ばしつつも、それだけじゃなくて俺のことを見てくれるセシルが好きだなあ、とじんわりと心が温かくなる。
 俺が飲み込んだのを確認すると、ハンカチで、口の周りについた食べかすをぬぐってくれる。よし、なんて満足げにほほ笑んで。さすがにそれは恥ずかしいかも、と俺は重ねるように自分の手の甲で口をごしごしと擦った。


(はあ~すっごい、エネルギー使うなあ)


 セシルのいうように、食べなきゃ、やっていけない、と俺は感じながらもう一口いい? と、セシルに聞く。セシルは、もちろんだといったうえで、俺にあーんさせてきたので、目の前の二人の視線が痛かった。だが、セシルはマウントをとるでもなく、俺がしっかり食べることに対し、喜びをかみしめているみたいだ。
 過保護だなあ、なんて俺はセシルがくれたハンバーグを咀嚼しながら思うのだった。


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