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番外編SS
殺伐としたお礼のお茶会
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よく晴れた日の庭園。青い薔薇が咲き乱れる庭園に似つかわしくない、毒々しい赤が舞い降りた。
「お招きいただき光栄でございます。皇太子殿下」
「やめろ、気持ち悪い。さっさと座れ」
「ど、毒舌だね……セシル。一応、俺の命の恩人で」
殺伐とした空気が流れはじめ、俺は縮こまるしかなかった。だって、俺を挟んでぎすぎすするから、胃がキリキリしても仕方ないだろうと。
この二人は、俺のことなんて気にも留めていないようで相変わらずバチバチと火花を散らしている。
皇宮の庭園に招かれるなんて、相当いいことをしたか何かしたかではないと入れない。部外者は立ち入り禁止の場所なのだ。もちろん俺は、セシルが行きたいといえばそれについていくので部外者ではない。単独では入れないのだが。
赤髪の彼、ゼラフ・ヴィルベルヴィントは気に食わないように鼻を鳴らしてドカッと椅子に座る。それを見てセシルは、唸るように睨みつけて舌打ち寸前のところで唇を噛んでいた。
「それで? 見りゃわかるが、ニル。体調はどうよ」
「まあ、見てのとおりだけど……おかげさまで、どうにか。魔力も戻ってきたし、剣も振れるようになったから。だいぶ回復したほうだと思うけど」
そうか、と優しく言葉を口にしたゼラフに、珍しいなと俺は声が漏れそうになる。珍しいなんて失礼だろうか。いや、でも彼の常時の素行を見ていればそう思わざるを得なかった。
ゼラフは、あのとき、俺の近くで守ってくれていた。そして、反応に遅れ俺がリューゲの稲妻に貫かれたことをひどく後悔していたらしい。そのこともあって、俺が目覚めるまでの間、彼らは酷い口論になって、絶交寸前になっていたらしい。といっても、彼らはそもそもそういう仲ではなく、セシルはセシルで、ゼラフはゼラフで俺を守れなかったことを後悔していたらしい。
けれど、俺からしたら、ゼラフがリューゲの攻撃を止めてくれたこともあって、真正面からの攻撃は防げたわけで。二人ともヒーローのように、俺を助けに来てくれたのだから、それはそれでいいだろうと思うのだが。まあ、そういうことで、今日はお礼にとセシルに頼んで彼をここに呼んだわけだ。
「まっ、後遺症が残ってねえなら問題ねえか。つっても、あの一件で、お前の心臓はかなり弱くなってんだろ? 魔法を使って負荷をかけるのはやめておけよ」
「え、そんなことわかるの?」
「俺は、魔力の鑑定は得意だからな」
と、ゼラフは自慢げに言った。
宮廷魔導士も確かに俺の心臓は魔力によって修復されたが、そのこともあって、常に心臓に魔力を送り続けており、魔法を少しでも使ったら、供給が途絶えるかもしれないというのだ。まったく不便な話で、魔法を使ってもだめだし、魔力がそもそも心臓に贈られるせいで十分に使えなくなったとハンデもおった。
いつだったか、アイネを守るときに使った氷の魔法も当分使うのは禁止だろう。あれは切り札としてとっておこう。そして、もちろんながら無詠唱もだめだといわれた。
リューゲはあれだけ無詠唱で魔法を使っていたが、あれだけ持ったということは、元から魔力が多く、そして才能があったということだ。だから、あれはまた別次元にいると。
(アイネは……まあ、このことは話してないし)
俺が死にかけたことはアイネには話していない。そもそも、今回の件に関してはアイネは関係なかったからだ。
しかし、リューゲやメンシス副団長がアイネを狙っていた理由はまだはっきりとはわかっていない。アイネの魔力に目をつけたということなのだろうが、どうやって彼を使おうとしていたかは謎である。
メンシス副団長は証拠不十分で未だ謹慎処分のまんまだし。今、血眼になりながら証拠を探しているらしいが出てこないというのだ。出てこないということは、この剣にはかかわっていなかった。リューゲが何者かにそそのかされて犯行に及んだことになるが、それはそれで違う気がして、どうにも消化不十分だ。
実際に会いに行けば、メンシス副団長を揺さぶることはできるかもしれないが、俺は面会を許されていない。
「まあ、魔法が使えなくても、剣があるから。問題ないかも」
「おっ、ずいぶんとかっこいいこと言うじゃねえか。じゃあ、あれか。俺と手合わせするか?」
「ダメだ。ニルは、まだ病み上がりだ。手合わせは禁止する」
「え、でもセシル……この間俺たち手合わせして……」
黙ってろと言わんばかりに、セシルに睨まれてしまい、俺は口を閉じる。
それから、またセシルとゼラフの口げんかが始まったがその間に、メイドたちがお茶とお菓子を持ってきてくれ、何もなかったテーブルが焼き菓子に彩られる。
「へえ、これまた上等なもんで。さすがは、皇太子だな」
「……貴様が、甘党だとニルがいったからな。用意させた。それで、借りはチャラだ」
「ふーん、ニルがねえ。なんで俺の好み知ってんだよ」
「え、前に言ってたじゃん……はは……」
それはもう疑い深い目で見られてしまった。セシルに無理を言って、甘いものを取り揃えてもらった。めったに手に入らないチョコレートだって用意した。さすが甘党のゼラフは、チョコレートに手を伸ばして一口で食べてしまう。手に食べかすをつけたまま、マドレーヌをつまんでそれも食べる。
ゼラフが甘党なのを知っているのは、ゲームの知識があるからだ。攻略キャラにプレゼントをする、という選択肢があり、そこでゼラフは毎回甘いものだった。はじめは甘党なんて知らずに彼に似合いそうなものを、ゲームの中でプレゼントしていたが、どれもヒットせず、SNSで『ゼラフ甘党』というのが流れてきて、ようやくゼラフの好みを知れた。もしそれがなければ、俺はゼラフが甘党なんて知らずに、好感度が停滞したままだっただろう。
まあ、今は別に彼の好感度を上げる必要はないが、俺からのお礼だ。俺の給料からきっちりひかれている。
「うめえな」
「それはよかった。話は変わるけど、ゼラフは進級できそう?」
「さあな。前期の分は問題ねえだろ」
「じゃあ、後期……かな。寒いからって、寮から出てこないとかやめてね」
「は~ん、ニル。お前、相当俺のこと好きだな」
と、ゼラフはニヨニヨとしながら俺の顔を見る。
「す、き。とかじゃなくて、これ以上留年したら体裁悪すぎでしょってこと。仮にも将来有望なんだから、少しは気にしたほうがいいって」
「んじゃ、転学科考えるとするか。そしたら、頑張れるぞ?」
「いや、魔法科にいてよ。ほら……リューゲみたいに、隠れた才能持っているやつがいるかもしれないじゃん。ゼラフがおっとびっくりするようなやつがいるかもだし……」
アイネは、もしかしたら化けるかもしれない。まあ、どうなるかはわからないけれど、主人公覚醒なんてよくありそうだし。
それに、一番は同じ学科になってこれ以上絡まれたくないということ。セシルが常にぷりぷり怒っているとか想像したくないってこと!
今でさえ苛立って貧乏ゆすりしているっていうのに、これ以上ゼラフが日常的に絡んできたらセシルは暴れ狂うかもしれない。さすがにそんなセシルは見たくないのだ。
ね? と念を押すように言えば、ようやくゼラフはあきらめたようにわかったよ、といった。
「しゃーねえから、一緒に卒業してやるよ。お前らも留年すんなよ?」
「留年予備軍が何を言う」
「だから、セシル。いちいち突っかかるのやめようよ……」
それでも、落ちろとか、嫌だとか言わないところを見ると、セシルも成長したらしい。二人きりにしたらどうかわからないが今のところは。
そんなふうに言いあっているうちに、お菓子は平らげられてしまい、ゼラフは用が済んだという言うように立ち上がった。
「もう行くの?」
「ん、ああ。ちょっと、公爵家で用事があんだよ。長居したらあれだしな」
「そう……」
「成績不振で怒られるのか。ヴィルベルヴィント公爵に」
セシルの言葉にゼラフは答えなかった。まさか、図星だったのだろうか。
ヴィルベルヴィント公爵とはあったことがないが、確か魔法に優れていて、モントフォーゼンカレッジに定期的に支援している人だと聞く。そういえば、ヴィルベルヴィント公爵家はモントフォーゼンカレッジの設立に携わっていた人物でもあったし、学問、学園から切っても切り離せない関係にあるのだろう。しかも、現公爵だったか、公爵弟だったかは、魔塔の管理人でもあると聞いたし。ゼラフの就職先は決まっているようなものだけど……
それでも、厳しい家系であることには変わりないのでゼラフが成績不振ともなれば……想像に難くなかった。
ゼラフは、嫌そうに舌打ちをして頭を掻きむしっていた。でも、あきらめて、俺たちに手をひらひらとふって庭園を出ていく。
もう少しいてくれてもよかったのに、といなくなったらいなくなったで悲しい気がした。
「セシル、大丈夫?」
「何がだ?」
「ほら、ゼラフと仲が悪いから……というか、言わなくてよかったの?」
「ああ。また面倒なことになりそうだからな」
と、セシルは足を組んだ。
ゼラフには俺とセシルが付き合っていることを言っていない。というか、まだ少数の人しか知らない事実だ。セシルからしたら、ゼラフにそれを言えば牽制になるのにそれを言わなかったのは、単に面倒になるのを避けたかったからなのか、それとも別に理由があるのか。俺には想像がつかなかったが、セシルはそれでいいんだというように、あの赤髪を追っていた。
何はともあれ、俺はあのときのお礼をできてほっとしている。今度、彼がピンチの時に助けてあげれられるよう、俺ももっと強くならなければと、胸に手を置く。
「ニル、後で部屋にカヌレを持っていこうか?」
「え、どうして?」
「あいつの前ではあれだったが、お前に食べさせてやりたい。あーんというやつだ」
「あ、あーん……い、いいけど。恥ずかしいかも」
本当に、セシルは突拍子もないことを言う。けれど、それはなんだか恋人らしくて、俺は誘惑に負けてOKしてしまう。
セシルは俺の返事を聞くと、嬉しそうに笑って、俺の頬を愛しそうに撫でた。
「かわいいな、ニルは」
「もう、かわいいっていわないでよ」
確かに、ゼラフの前ではいちゃつけないかも、と思いながら俺たちは、カヌレを取りにキッチンへと二人で歩いていった。
「お招きいただき光栄でございます。皇太子殿下」
「やめろ、気持ち悪い。さっさと座れ」
「ど、毒舌だね……セシル。一応、俺の命の恩人で」
殺伐とした空気が流れはじめ、俺は縮こまるしかなかった。だって、俺を挟んでぎすぎすするから、胃がキリキリしても仕方ないだろうと。
この二人は、俺のことなんて気にも留めていないようで相変わらずバチバチと火花を散らしている。
皇宮の庭園に招かれるなんて、相当いいことをしたか何かしたかではないと入れない。部外者は立ち入り禁止の場所なのだ。もちろん俺は、セシルが行きたいといえばそれについていくので部外者ではない。単独では入れないのだが。
赤髪の彼、ゼラフ・ヴィルベルヴィントは気に食わないように鼻を鳴らしてドカッと椅子に座る。それを見てセシルは、唸るように睨みつけて舌打ち寸前のところで唇を噛んでいた。
「それで? 見りゃわかるが、ニル。体調はどうよ」
「まあ、見てのとおりだけど……おかげさまで、どうにか。魔力も戻ってきたし、剣も振れるようになったから。だいぶ回復したほうだと思うけど」
そうか、と優しく言葉を口にしたゼラフに、珍しいなと俺は声が漏れそうになる。珍しいなんて失礼だろうか。いや、でも彼の常時の素行を見ていればそう思わざるを得なかった。
ゼラフは、あのとき、俺の近くで守ってくれていた。そして、反応に遅れ俺がリューゲの稲妻に貫かれたことをひどく後悔していたらしい。そのこともあって、俺が目覚めるまでの間、彼らは酷い口論になって、絶交寸前になっていたらしい。といっても、彼らはそもそもそういう仲ではなく、セシルはセシルで、ゼラフはゼラフで俺を守れなかったことを後悔していたらしい。
けれど、俺からしたら、ゼラフがリューゲの攻撃を止めてくれたこともあって、真正面からの攻撃は防げたわけで。二人ともヒーローのように、俺を助けに来てくれたのだから、それはそれでいいだろうと思うのだが。まあ、そういうことで、今日はお礼にとセシルに頼んで彼をここに呼んだわけだ。
「まっ、後遺症が残ってねえなら問題ねえか。つっても、あの一件で、お前の心臓はかなり弱くなってんだろ? 魔法を使って負荷をかけるのはやめておけよ」
「え、そんなことわかるの?」
「俺は、魔力の鑑定は得意だからな」
と、ゼラフは自慢げに言った。
宮廷魔導士も確かに俺の心臓は魔力によって修復されたが、そのこともあって、常に心臓に魔力を送り続けており、魔法を少しでも使ったら、供給が途絶えるかもしれないというのだ。まったく不便な話で、魔法を使ってもだめだし、魔力がそもそも心臓に贈られるせいで十分に使えなくなったとハンデもおった。
いつだったか、アイネを守るときに使った氷の魔法も当分使うのは禁止だろう。あれは切り札としてとっておこう。そして、もちろんながら無詠唱もだめだといわれた。
リューゲはあれだけ無詠唱で魔法を使っていたが、あれだけ持ったということは、元から魔力が多く、そして才能があったということだ。だから、あれはまた別次元にいると。
(アイネは……まあ、このことは話してないし)
俺が死にかけたことはアイネには話していない。そもそも、今回の件に関してはアイネは関係なかったからだ。
しかし、リューゲやメンシス副団長がアイネを狙っていた理由はまだはっきりとはわかっていない。アイネの魔力に目をつけたということなのだろうが、どうやって彼を使おうとしていたかは謎である。
メンシス副団長は証拠不十分で未だ謹慎処分のまんまだし。今、血眼になりながら証拠を探しているらしいが出てこないというのだ。出てこないということは、この剣にはかかわっていなかった。リューゲが何者かにそそのかされて犯行に及んだことになるが、それはそれで違う気がして、どうにも消化不十分だ。
実際に会いに行けば、メンシス副団長を揺さぶることはできるかもしれないが、俺は面会を許されていない。
「まあ、魔法が使えなくても、剣があるから。問題ないかも」
「おっ、ずいぶんとかっこいいこと言うじゃねえか。じゃあ、あれか。俺と手合わせするか?」
「ダメだ。ニルは、まだ病み上がりだ。手合わせは禁止する」
「え、でもセシル……この間俺たち手合わせして……」
黙ってろと言わんばかりに、セシルに睨まれてしまい、俺は口を閉じる。
それから、またセシルとゼラフの口げんかが始まったがその間に、メイドたちがお茶とお菓子を持ってきてくれ、何もなかったテーブルが焼き菓子に彩られる。
「へえ、これまた上等なもんで。さすがは、皇太子だな」
「……貴様が、甘党だとニルがいったからな。用意させた。それで、借りはチャラだ」
「ふーん、ニルがねえ。なんで俺の好み知ってんだよ」
「え、前に言ってたじゃん……はは……」
それはもう疑い深い目で見られてしまった。セシルに無理を言って、甘いものを取り揃えてもらった。めったに手に入らないチョコレートだって用意した。さすが甘党のゼラフは、チョコレートに手を伸ばして一口で食べてしまう。手に食べかすをつけたまま、マドレーヌをつまんでそれも食べる。
ゼラフが甘党なのを知っているのは、ゲームの知識があるからだ。攻略キャラにプレゼントをする、という選択肢があり、そこでゼラフは毎回甘いものだった。はじめは甘党なんて知らずに彼に似合いそうなものを、ゲームの中でプレゼントしていたが、どれもヒットせず、SNSで『ゼラフ甘党』というのが流れてきて、ようやくゼラフの好みを知れた。もしそれがなければ、俺はゼラフが甘党なんて知らずに、好感度が停滞したままだっただろう。
まあ、今は別に彼の好感度を上げる必要はないが、俺からのお礼だ。俺の給料からきっちりひかれている。
「うめえな」
「それはよかった。話は変わるけど、ゼラフは進級できそう?」
「さあな。前期の分は問題ねえだろ」
「じゃあ、後期……かな。寒いからって、寮から出てこないとかやめてね」
「は~ん、ニル。お前、相当俺のこと好きだな」
と、ゼラフはニヨニヨとしながら俺の顔を見る。
「す、き。とかじゃなくて、これ以上留年したら体裁悪すぎでしょってこと。仮にも将来有望なんだから、少しは気にしたほうがいいって」
「んじゃ、転学科考えるとするか。そしたら、頑張れるぞ?」
「いや、魔法科にいてよ。ほら……リューゲみたいに、隠れた才能持っているやつがいるかもしれないじゃん。ゼラフがおっとびっくりするようなやつがいるかもだし……」
アイネは、もしかしたら化けるかもしれない。まあ、どうなるかはわからないけれど、主人公覚醒なんてよくありそうだし。
それに、一番は同じ学科になってこれ以上絡まれたくないということ。セシルが常にぷりぷり怒っているとか想像したくないってこと!
今でさえ苛立って貧乏ゆすりしているっていうのに、これ以上ゼラフが日常的に絡んできたらセシルは暴れ狂うかもしれない。さすがにそんなセシルは見たくないのだ。
ね? と念を押すように言えば、ようやくゼラフはあきらめたようにわかったよ、といった。
「しゃーねえから、一緒に卒業してやるよ。お前らも留年すんなよ?」
「留年予備軍が何を言う」
「だから、セシル。いちいち突っかかるのやめようよ……」
それでも、落ちろとか、嫌だとか言わないところを見ると、セシルも成長したらしい。二人きりにしたらどうかわからないが今のところは。
そんなふうに言いあっているうちに、お菓子は平らげられてしまい、ゼラフは用が済んだという言うように立ち上がった。
「もう行くの?」
「ん、ああ。ちょっと、公爵家で用事があんだよ。長居したらあれだしな」
「そう……」
「成績不振で怒られるのか。ヴィルベルヴィント公爵に」
セシルの言葉にゼラフは答えなかった。まさか、図星だったのだろうか。
ヴィルベルヴィント公爵とはあったことがないが、確か魔法に優れていて、モントフォーゼンカレッジに定期的に支援している人だと聞く。そういえば、ヴィルベルヴィント公爵家はモントフォーゼンカレッジの設立に携わっていた人物でもあったし、学問、学園から切っても切り離せない関係にあるのだろう。しかも、現公爵だったか、公爵弟だったかは、魔塔の管理人でもあると聞いたし。ゼラフの就職先は決まっているようなものだけど……
それでも、厳しい家系であることには変わりないのでゼラフが成績不振ともなれば……想像に難くなかった。
ゼラフは、嫌そうに舌打ちをして頭を掻きむしっていた。でも、あきらめて、俺たちに手をひらひらとふって庭園を出ていく。
もう少しいてくれてもよかったのに、といなくなったらいなくなったで悲しい気がした。
「セシル、大丈夫?」
「何がだ?」
「ほら、ゼラフと仲が悪いから……というか、言わなくてよかったの?」
「ああ。また面倒なことになりそうだからな」
と、セシルは足を組んだ。
ゼラフには俺とセシルが付き合っていることを言っていない。というか、まだ少数の人しか知らない事実だ。セシルからしたら、ゼラフにそれを言えば牽制になるのにそれを言わなかったのは、単に面倒になるのを避けたかったからなのか、それとも別に理由があるのか。俺には想像がつかなかったが、セシルはそれでいいんだというように、あの赤髪を追っていた。
何はともあれ、俺はあのときのお礼をできてほっとしている。今度、彼がピンチの時に助けてあげれられるよう、俺ももっと強くならなければと、胸に手を置く。
「ニル、後で部屋にカヌレを持っていこうか?」
「え、どうして?」
「あいつの前ではあれだったが、お前に食べさせてやりたい。あーんというやつだ」
「あ、あーん……い、いいけど。恥ずかしいかも」
本当に、セシルは突拍子もないことを言う。けれど、それはなんだか恋人らしくて、俺は誘惑に負けてOKしてしまう。
セシルは俺の返事を聞くと、嬉しそうに笑って、俺の頬を愛しそうに撫でた。
「かわいいな、ニルは」
「もう、かわいいっていわないでよ」
確かに、ゼラフの前ではいちゃつけないかも、と思いながら俺たちは、カヌレを取りにキッチンへと二人で歩いていった。
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