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第1部2章 死亡フラグを回避し学園生活に戻りました
09 これ以上意識させないでくれ
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「セシル、お風呂あがったよ」
「ああ……」
「別に、俺から入らせてもらわなくてもよかったのに。セシル、大丈夫?」
「問題ない。俺も入る」
すくっと立ち上がってお風呂場へ向かって歩いていくセシルを見送りながら、俺は濡れたままベッドに体を沈めた。
今日は本当に散々だ。
あの後、魔法は解けたものの熱は収まらなくて、購買に行くこともできず寮に直行した。その道中、誰にも会わなかったのは奇跡としか言いようがない。
まあ、といっても寮は男子しかいないし、まあそういうこともあるだろうとちょっと白い目で見られる程度にはすむだろう。だが、皇太子が股間を抑えているなんて噂が広まったら……それだけは避けたかったのだ。
「はあ~~~~バカ、俺、バカ、俺、バカアアァ!」
はあ、とため息を吐いて、俺は枕に顔を埋めて足をばたつかせた。
魔法が解けなかったら俺はあのままセシルとキスをしていただろう。過ちを犯していたかもしれない。セシルだって、あの空間に閉じ込められて、酸欠かなにかで頭が回っていなかっただけだろうと思う。でなければ、セシルが俺にキスしようなんて思うはずないのだ。あの空間には、閉じ込めるだけじゃなくて、そういう媚薬的効果があったのではないかとも……
(いや、セシル……前にも、俺にキスしかけたことがあったよな)
そういえば、セシルの備考欄にキス魔と書いてあった気がする。だが、だれかれ構わずキスするのは皇太子としてよろしくない。そんな、不特定多数と淫らな行為に……キスが淫らかは知らないが、とにかく、それが癖なら矯正させなければと思った。
もし、相手が俺じゃなくてセシルに好意を持っていた相手なら、自分からぶつかりに行っただろう。セシルとキスできる機会なんてそうそう巡ってこないだろうから。
「違う……俺が、したかったんだ」
もちろん、びっくりしたし、前世推していた最強の顔面がそこにあったら自分の唇くらい差し出すだろうと。だが、セシルの親友であるというフィルターが俺に待ったをかける。
もし、セシルが正常に戻ったとき、俺とのキスを後悔したら? そう思うと申し訳なくてあれはなかったことにすべきだと思ってしまう。けれど、本当にもし、もしも、セシルが正常な判断ができるときに、キスをしようと言ってきたら俺はそのとき、彼を受け入れてしまうだろう。
ああ、もう認めるしかない。
「好きだ……よ、セシル」
親友であるということを守ろうと思った。
だが、こんなふうに、天然バカ親友皇太子に振り回されると、好きにならざるを得なかった。その気持ちを。もっと前から持っていたのにしまい込んでみないふりしてきたけれど、もうムリだ。
俺はセシルが好き。
本当に驚いたけれど、さっきのは全然嫌じゃなかった。だが、セシルがどう思っているかわからない以上俺はこの気持ちを伝えることはできないと。今後も一生そうかもしれない。だって、彼が俺に言ったのは”親友”であって、恋人とかそういうのじゃなかったから。だから、俺はそれに合わせて生きていけば……
天然なセシルが悪い。あれが、確信犯じゃないことは長らく彼のそばにいるからわかることだ。
天然人たらし。
そうだったか? と、俺は口をむっと上げる。前世の知識で、セシルはそんなキャラだっただろうか。親友失った未亡人一匹狼で、主人公を親友と重ねて。そこからほだされ、氷の心が解けて溺愛ルートに突入するわけだが、それまでに天然たらしな描写はあっただろうか。
確かに、色気を無意識にまき散らすタイプではあったが。本編ルートのセシルはそうだった。哀愁漂うイケメンなんて、無自覚な色気を放たないわけがない。
「はあ……」
ため息しか出ない。もうどうしようもないし、俺が隠し通せばそれで済む話なのだが。
実をいうと、先ほどの熱が抑えきれず俺は風呂に入るついでに抜いてきた。久しぶりに抜いたということもあって、かなりの量が出たし、疲労感もあった。
セシルは俺が風呂から上がってくるまでにそういうことをしたような感じはなかった。ということは、抜いていないのではないかと。さすがに、股間を見て確認することはできなかったのだが、あのセシルのことだから、もうとっくに熱は収まって冷静になったのではないかとも思った。
俺だけ、セシルで抜いたみたいで、なんだか癪だった。何か弱みでも、とよこしまで、卑劣な考えが頭をよぎっていく。
「よし……セシルだって、そういう盛りなお年頃だし。すました顔して抜いてるんだろう」
まったくどうかしていると思った。ヤケになってるのかもしれない。
先ほど、親友として! とか、好きな人の! とかいろいろ言ったものの、結局は好奇心には勝てず、俺はセシルが入っているお風呂場の近くまで抜き足差し足と忍び寄る。こういうときにお得意の気配消しで近寄る。それは、セシルを守るために身に付けたものだ。だが、それを悪用してしまう。俺は悪いやつだ。
風呂場からはシャワーの音が聞こえ、髪の毛を洗っているようなシャカシャカとした音が聞こえてきた。抜いてはいない、普通にお風呂に入っているだけだ。セシルはそんなことしない。主人公以外にはしないのかもしれない。
そう思って、とぼとぼとベッドに戻ろうかと思ったとき、シャワーの音に交じって、はあ、といったセシルの色っぽい吐息が聞こえた。
俺は、その色っぽい吐息にドキッとして、また風呂場のドアに張り付く。
セシルは、今、何をしている? 気のせい? 普通に頭を洗っているだけだ。そうに決まっている。
だが――はあ……と再び熱い息とともに、しゅ、しゅっ、と何かを擦るような音が聞こえた。
(せ、セシル……!)
そうだ、これは、そうに決まっている。
頭を洗っているのに、こんな悩ましげな声が出るはずもないし、音も先ほどのカシャカシャとかくような音とも違う。
セシルもやっぱり、とななぜか嬉しくなり、さらにドアに張り付いてしまう。はたか見たらただの不審者であり、見つかったらどう弁明すればいいかわからない。現行犯。
というか、これまで生きてきて、セシルがそういった性欲処理をしていたところを見たことがなかった。彼には性欲がたまらないんじゃないかと思うときはあった。まあ、かという俺もそこまであるほうではなかったが、今回ばかりは仕方なかったというか。
もちろん、セシルがそういう方法を知らないわけではないだろう。閨教育を受けてこなかったわけでもない。ただたんに、そういう気がなかっただけだと。だからといって、ためるのも体に良くないわけで、俺の知らないところで抜いていたのかもしれない。さすがに、そこまで踏み入る親友は気持ち悪いよな、と自分に言って、うんとうなずく。
(てか……すごい、色気……)
また緩く勃ちそうになり、俺は痛む股間を抑える。どれだけセシルに興奮しているんだと。先ほど好きが抑えきれない! とかいってタガが外れ、あやうく本当に道を踏み外しそうになった。けど、それじゃいけないと、俺は耳を澄ませるだけにとどめようと必死にこらえる。
しかし、次の瞬間聞こえてきた声に、名前に俺は耳を疑うことになる。
「に……る……」
「……ッ!?」
「……っ、誰だ!!」
俺の名前が彼の口から飛び出し、思わず飛びのいてしまった。その拍子に、大きな音が出てしまい、バン! と風呂の扉が開けられる。びしょ濡れで、泡をまとってはいるが、裸のセシルが飛び出してきた。俺は無様ったらしく、その場にひっくり返ってしまい起き上がるまでに時間がかかった。
「に、ニル……!?」
「せ、セシル……」
どうして、とでも言わんばかりの顔でセシルは俺を見下ろしていた。まさか、俺が扉に張り付ているなんて考えもしないだろう。だから、なぜここにいるのか、という疑問よりも俺がここにいるということそのものに驚いている。
「どうした。何か緊急の用か?」
と、セシルは慌てた様子もなくいう。いや、それこそが慌てている証拠というように、俺がここにいるのを何か用があってと思うようにしたらしい。良心が痛むというか。用もなければばっちり聞いていたんだけど、と申し訳なさに唇を噛む。
セシルは自分が裸のことに気づいたらしく一度ぴしゃりと扉を閉め、身体についていた泡を洗い流し、腰にタオルを巻いてもう一度扉を開けた。
「ごめん、風呂場に忘れ物しちゃって」
「忘れ物? 何をだ?」
「いや、後で探すよ。もしかしたら教室だったかも」
「そうか。だが、何か教えてくれば探しておくぞ」
とっさに出た嘘だったが、その嘘を、嘘とも思わず本気で探してくれそうだったので、俺はまた嘘に嘘を重ね「大丈夫、やっぱりお風呂場じゃなかった」といって笑みを作る。
セシルは、頭を掻いてそうか、とつぶやいていたがどこかぎこちない様子だった。セシルとて、先ほど抜いていたのを気付かれたのではないかと気にしているのではないかと思った。そうであるなら申し訳なさすぎて頭も上がらない。
「もう少しで出る。それまで待てるか?」
「え、何を?」
「探すのをだ。何をか知らないが、一緒に探すぞ?」
「ええっ、いいよ。そんな申し訳ないし。それに、そんな大切なものじゃないから。また昼休みにでも購買にいって買うから。ああ、そうだ。明日の昼に購買に言って万年筆の替えも買おうよ。そうしよう」
「あ、ああ」
「じゃあ、ごめん! お風呂の邪魔して!」
俺は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
半裸のセシルにまた興奮したとかそういうのもあったが、ただ彼もいたたまれない顔をしていたのであのまま話すのはお互い苦しいだろうと思った。セシルの優しさに付け込みそうになったし、嘘までついてしまったし、最悪だった。
好きと性欲は違うのに、と自分を責めた。どっちもあるのだろう。けれど、それを一緒くたにまとめるのはどうかと思うのだ。そんなことをしたいわけでも、今以上を望みたいわけでもない。
関係性が崩れないことだけを願う。ただそれだけ。
(はあぁ……痛い。股間も、心も)
最悪だな、ともう何度思ったかわからない言葉を吐いて、俺はもう一度ベッドに身を沈めた。そのときだけ、なぜかベッドは放置したパンのように固く感じた。
でも、最低なのは、親友の風呂を覗こうとしたこと、抜いている最中の声を盗み聞きした俺。
ルームメイト、親友、護衛……これからもしっかりとやっていけるのだろうか。不安で仕方がない。
「ああ……」
「別に、俺から入らせてもらわなくてもよかったのに。セシル、大丈夫?」
「問題ない。俺も入る」
すくっと立ち上がってお風呂場へ向かって歩いていくセシルを見送りながら、俺は濡れたままベッドに体を沈めた。
今日は本当に散々だ。
あの後、魔法は解けたものの熱は収まらなくて、購買に行くこともできず寮に直行した。その道中、誰にも会わなかったのは奇跡としか言いようがない。
まあ、といっても寮は男子しかいないし、まあそういうこともあるだろうとちょっと白い目で見られる程度にはすむだろう。だが、皇太子が股間を抑えているなんて噂が広まったら……それだけは避けたかったのだ。
「はあ~~~~バカ、俺、バカ、俺、バカアアァ!」
はあ、とため息を吐いて、俺は枕に顔を埋めて足をばたつかせた。
魔法が解けなかったら俺はあのままセシルとキスをしていただろう。過ちを犯していたかもしれない。セシルだって、あの空間に閉じ込められて、酸欠かなにかで頭が回っていなかっただけだろうと思う。でなければ、セシルが俺にキスしようなんて思うはずないのだ。あの空間には、閉じ込めるだけじゃなくて、そういう媚薬的効果があったのではないかとも……
(いや、セシル……前にも、俺にキスしかけたことがあったよな)
そういえば、セシルの備考欄にキス魔と書いてあった気がする。だが、だれかれ構わずキスするのは皇太子としてよろしくない。そんな、不特定多数と淫らな行為に……キスが淫らかは知らないが、とにかく、それが癖なら矯正させなければと思った。
もし、相手が俺じゃなくてセシルに好意を持っていた相手なら、自分からぶつかりに行っただろう。セシルとキスできる機会なんてそうそう巡ってこないだろうから。
「違う……俺が、したかったんだ」
もちろん、びっくりしたし、前世推していた最強の顔面がそこにあったら自分の唇くらい差し出すだろうと。だが、セシルの親友であるというフィルターが俺に待ったをかける。
もし、セシルが正常に戻ったとき、俺とのキスを後悔したら? そう思うと申し訳なくてあれはなかったことにすべきだと思ってしまう。けれど、本当にもし、もしも、セシルが正常な判断ができるときに、キスをしようと言ってきたら俺はそのとき、彼を受け入れてしまうだろう。
ああ、もう認めるしかない。
「好きだ……よ、セシル」
親友であるということを守ろうと思った。
だが、こんなふうに、天然バカ親友皇太子に振り回されると、好きにならざるを得なかった。その気持ちを。もっと前から持っていたのにしまい込んでみないふりしてきたけれど、もうムリだ。
俺はセシルが好き。
本当に驚いたけれど、さっきのは全然嫌じゃなかった。だが、セシルがどう思っているかわからない以上俺はこの気持ちを伝えることはできないと。今後も一生そうかもしれない。だって、彼が俺に言ったのは”親友”であって、恋人とかそういうのじゃなかったから。だから、俺はそれに合わせて生きていけば……
天然なセシルが悪い。あれが、確信犯じゃないことは長らく彼のそばにいるからわかることだ。
天然人たらし。
そうだったか? と、俺は口をむっと上げる。前世の知識で、セシルはそんなキャラだっただろうか。親友失った未亡人一匹狼で、主人公を親友と重ねて。そこからほだされ、氷の心が解けて溺愛ルートに突入するわけだが、それまでに天然たらしな描写はあっただろうか。
確かに、色気を無意識にまき散らすタイプではあったが。本編ルートのセシルはそうだった。哀愁漂うイケメンなんて、無自覚な色気を放たないわけがない。
「はあ……」
ため息しか出ない。もうどうしようもないし、俺が隠し通せばそれで済む話なのだが。
実をいうと、先ほどの熱が抑えきれず俺は風呂に入るついでに抜いてきた。久しぶりに抜いたということもあって、かなりの量が出たし、疲労感もあった。
セシルは俺が風呂から上がってくるまでにそういうことをしたような感じはなかった。ということは、抜いていないのではないかと。さすがに、股間を見て確認することはできなかったのだが、あのセシルのことだから、もうとっくに熱は収まって冷静になったのではないかとも思った。
俺だけ、セシルで抜いたみたいで、なんだか癪だった。何か弱みでも、とよこしまで、卑劣な考えが頭をよぎっていく。
「よし……セシルだって、そういう盛りなお年頃だし。すました顔して抜いてるんだろう」
まったくどうかしていると思った。ヤケになってるのかもしれない。
先ほど、親友として! とか、好きな人の! とかいろいろ言ったものの、結局は好奇心には勝てず、俺はセシルが入っているお風呂場の近くまで抜き足差し足と忍び寄る。こういうときにお得意の気配消しで近寄る。それは、セシルを守るために身に付けたものだ。だが、それを悪用してしまう。俺は悪いやつだ。
風呂場からはシャワーの音が聞こえ、髪の毛を洗っているようなシャカシャカとした音が聞こえてきた。抜いてはいない、普通にお風呂に入っているだけだ。セシルはそんなことしない。主人公以外にはしないのかもしれない。
そう思って、とぼとぼとベッドに戻ろうかと思ったとき、シャワーの音に交じって、はあ、といったセシルの色っぽい吐息が聞こえた。
俺は、その色っぽい吐息にドキッとして、また風呂場のドアに張り付く。
セシルは、今、何をしている? 気のせい? 普通に頭を洗っているだけだ。そうに決まっている。
だが――はあ……と再び熱い息とともに、しゅ、しゅっ、と何かを擦るような音が聞こえた。
(せ、セシル……!)
そうだ、これは、そうに決まっている。
頭を洗っているのに、こんな悩ましげな声が出るはずもないし、音も先ほどのカシャカシャとかくような音とも違う。
セシルもやっぱり、とななぜか嬉しくなり、さらにドアに張り付いてしまう。はたか見たらただの不審者であり、見つかったらどう弁明すればいいかわからない。現行犯。
というか、これまで生きてきて、セシルがそういった性欲処理をしていたところを見たことがなかった。彼には性欲がたまらないんじゃないかと思うときはあった。まあ、かという俺もそこまであるほうではなかったが、今回ばかりは仕方なかったというか。
もちろん、セシルがそういう方法を知らないわけではないだろう。閨教育を受けてこなかったわけでもない。ただたんに、そういう気がなかっただけだと。だからといって、ためるのも体に良くないわけで、俺の知らないところで抜いていたのかもしれない。さすがに、そこまで踏み入る親友は気持ち悪いよな、と自分に言って、うんとうなずく。
(てか……すごい、色気……)
また緩く勃ちそうになり、俺は痛む股間を抑える。どれだけセシルに興奮しているんだと。先ほど好きが抑えきれない! とかいってタガが外れ、あやうく本当に道を踏み外しそうになった。けど、それじゃいけないと、俺は耳を澄ませるだけにとどめようと必死にこらえる。
しかし、次の瞬間聞こえてきた声に、名前に俺は耳を疑うことになる。
「に……る……」
「……ッ!?」
「……っ、誰だ!!」
俺の名前が彼の口から飛び出し、思わず飛びのいてしまった。その拍子に、大きな音が出てしまい、バン! と風呂の扉が開けられる。びしょ濡れで、泡をまとってはいるが、裸のセシルが飛び出してきた。俺は無様ったらしく、その場にひっくり返ってしまい起き上がるまでに時間がかかった。
「に、ニル……!?」
「せ、セシル……」
どうして、とでも言わんばかりの顔でセシルは俺を見下ろしていた。まさか、俺が扉に張り付ているなんて考えもしないだろう。だから、なぜここにいるのか、という疑問よりも俺がここにいるということそのものに驚いている。
「どうした。何か緊急の用か?」
と、セシルは慌てた様子もなくいう。いや、それこそが慌てている証拠というように、俺がここにいるのを何か用があってと思うようにしたらしい。良心が痛むというか。用もなければばっちり聞いていたんだけど、と申し訳なさに唇を噛む。
セシルは自分が裸のことに気づいたらしく一度ぴしゃりと扉を閉め、身体についていた泡を洗い流し、腰にタオルを巻いてもう一度扉を開けた。
「ごめん、風呂場に忘れ物しちゃって」
「忘れ物? 何をだ?」
「いや、後で探すよ。もしかしたら教室だったかも」
「そうか。だが、何か教えてくれば探しておくぞ」
とっさに出た嘘だったが、その嘘を、嘘とも思わず本気で探してくれそうだったので、俺はまた嘘に嘘を重ね「大丈夫、やっぱりお風呂場じゃなかった」といって笑みを作る。
セシルは、頭を掻いてそうか、とつぶやいていたがどこかぎこちない様子だった。セシルとて、先ほど抜いていたのを気付かれたのではないかと気にしているのではないかと思った。そうであるなら申し訳なさすぎて頭も上がらない。
「もう少しで出る。それまで待てるか?」
「え、何を?」
「探すのをだ。何をか知らないが、一緒に探すぞ?」
「ええっ、いいよ。そんな申し訳ないし。それに、そんな大切なものじゃないから。また昼休みにでも購買にいって買うから。ああ、そうだ。明日の昼に購買に言って万年筆の替えも買おうよ。そうしよう」
「あ、ああ」
「じゃあ、ごめん! お風呂の邪魔して!」
俺は脱兎のごとくその場から逃げ出した。
半裸のセシルにまた興奮したとかそういうのもあったが、ただ彼もいたたまれない顔をしていたのであのまま話すのはお互い苦しいだろうと思った。セシルの優しさに付け込みそうになったし、嘘までついてしまったし、最悪だった。
好きと性欲は違うのに、と自分を責めた。どっちもあるのだろう。けれど、それを一緒くたにまとめるのはどうかと思うのだ。そんなことをしたいわけでも、今以上を望みたいわけでもない。
関係性が崩れないことだけを願う。ただそれだけ。
(はあぁ……痛い。股間も、心も)
最悪だな、ともう何度思ったかわからない言葉を吐いて、俺はもう一度ベッドに身を沈めた。そのときだけ、なぜかベッドは放置したパンのように固く感じた。
でも、最低なのは、親友の風呂を覗こうとしたこと、抜いている最中の声を盗み聞きした俺。
ルームメイト、親友、護衛……これからもしっかりとやっていけるのだろうか。不安で仕方がない。
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