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第5章 同じ日に同じ夢を見るということは非合理的な空想論である
034 同じ日に同じ夢を見るということは非合理的な空想論であるⅦ
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周囲は明かりぽつぽつと何軒か点いていた。
「ここから脱出するにはどうすればいいのか。一つも明からないのか……」
「でも、そうでもないのかもしれないわ」
冬月はスマホを操作して、一件のメールを見せた。
ここから見える県立高校に現れる者に力を差し伸べよ。そうすれば、道は開かれる。しかし、忘れるな。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
何だよ、これ……。特に最後の方は誰かの言葉じゃないか。それに誰がここに来るんだよ……。
「……と、言うわけなのよ。それにしても誰がここに来るのやら……」
「……待てよ。ここが北校だとすると……」
「なにか、分かったの?」
「いや、何でもない」
この状況はまずい。もしかすると……。いや……でも……まさかな……。
すると、運動場に人影の姿が見えた。俺はそれに気づくと門をよじ登って確認した。
黒い学ランを身にまとって、右手にはノートを持っている。俺はこれが誰なのか分かった大体の想像がついた。
「ねぇ、あの子まさかだとは思うけど……」
「…………」
「どう見ても、天道君よね……」
冬月は柱の隙間から運動場を見ていた。
この時期、俺には夜の学校に来た覚えがある。だとすれば、これは冬月に見せるのはまずいのかもしれない……。あれは、確かに俺の知る人物だ。
「行くわよ。メールの通りにしないとこの夢からは出ることは出来ないわ」
冬月は門をよじ登ろうとしていた。
そこまで来たのならもう仕方が無い。俺も覚悟の上で行くとしよう。
「誰だ?」
そいつは俺たちに気づいて行った。
「ああ、通りすがりの若いカップルと言ったところかな。な……」
「ちょっ、放しなさいよ」
俺は冬月の肩に手を回すと、それを放そうとする。
「少しは話を合わせようとしろよ。ここだけだから心配するな」
小声で冬月の耳元で話すと、小さく頷き承諾してくれた。
「あ、そう。なら、早く帰れよな。ここにいると危ないぞ。邪悪な気が集まってきているからな」
やっぱりだ。幼い声だがどう見てもこの男子の声は聞き覚えがある。いや、これは昔の俺だ。それも高校に入学した頃だ。しかし、なんで夢の中で俺の高校時代が出てくるのだろうか。まあ、それは置いといて、話を進めよう。
「何をしているんだ?邪悪な気ってなんだよ……」
「そのままの通りだ。これから俺は儀式をやるんだ。なんなら、お前らも見ていくか?」
ああ、これは痛い。痛すぎる。今の俺には程遠い存在だがこれは人に見せられるようなもんじゃない。
俺(高校時代の中二病の俺)は、せっせと何やら道具を持って来て、何かをやり始めた。複数の石に、小さな机、みかん、ロウソク、マッチ、チョークを袋の中から取り出した。
「これで邪悪な気を押さえるんだ」
「あなた、それをやってもどこにそんなものがいるのか私たちには分からないわよ」
冬月は馬鹿馬鹿しいほどにも程度があると思いながら額に手を当てて、呆れていた。それは否定できないが、言いすぎだぞ。この頃の子供にはこれくらいふつうだって……。あれ、普通なのか?
「うるさいなあ。おばさんは黙ってろよ。何もしないなら帰れよ」
「お、おば、おばさん……」
小声で怒りを爆発させている誰かさんは、周りの気がみるみる燃え上がっているようだ。どうやら、さっきの発言がまずかったのかもしれない。
「お、おい。ここは堪えろ、騒ぎを大きくするなよ」
「ええ、なんとなく。昔のあなたがどういう人間だったのか、少しずつ見えてきた気がするわ」
すみませんね。でも、これは夢であって、過去の俺に何と言おうが見知らぬ俺たちが言ったところで何もならない気がするけどな……。
「それで、俺らは何をすればいいんだ?」
俺は俺に尋ねる。
「そうだな。じゃあ、このノートに書いてある奴の通りにこの紙の上に書いてくれ」
持っていたノートと大きな画用紙に赤いチョークを渡した。
「あ、うん……」
「俺は準備で忙しいから早めにやってくれよ」
そう言って、高校時代の俺は他の準備をしていた。
「天道君、あなたの高校時代ってこんな感じだったの?」
俺の服を引っ張りながら、冬月は後ろから話しかけてきた。
「ああ、最初の頃はそんな感じだった。でも、すぐに現実を見て今に至るってわけだ」
「ここから脱出するにはどうすればいいのか。一つも明からないのか……」
「でも、そうでもないのかもしれないわ」
冬月はスマホを操作して、一件のメールを見せた。
ここから見える県立高校に現れる者に力を差し伸べよ。そうすれば、道は開かれる。しかし、忘れるな。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
何だよ、これ……。特に最後の方は誰かの言葉じゃないか。それに誰がここに来るんだよ……。
「……と、言うわけなのよ。それにしても誰がここに来るのやら……」
「……待てよ。ここが北校だとすると……」
「なにか、分かったの?」
「いや、何でもない」
この状況はまずい。もしかすると……。いや……でも……まさかな……。
すると、運動場に人影の姿が見えた。俺はそれに気づくと門をよじ登って確認した。
黒い学ランを身にまとって、右手にはノートを持っている。俺はこれが誰なのか分かった大体の想像がついた。
「ねぇ、あの子まさかだとは思うけど……」
「…………」
「どう見ても、天道君よね……」
冬月は柱の隙間から運動場を見ていた。
この時期、俺には夜の学校に来た覚えがある。だとすれば、これは冬月に見せるのはまずいのかもしれない……。あれは、確かに俺の知る人物だ。
「行くわよ。メールの通りにしないとこの夢からは出ることは出来ないわ」
冬月は門をよじ登ろうとしていた。
そこまで来たのならもう仕方が無い。俺も覚悟の上で行くとしよう。
「誰だ?」
そいつは俺たちに気づいて行った。
「ああ、通りすがりの若いカップルと言ったところかな。な……」
「ちょっ、放しなさいよ」
俺は冬月の肩に手を回すと、それを放そうとする。
「少しは話を合わせようとしろよ。ここだけだから心配するな」
小声で冬月の耳元で話すと、小さく頷き承諾してくれた。
「あ、そう。なら、早く帰れよな。ここにいると危ないぞ。邪悪な気が集まってきているからな」
やっぱりだ。幼い声だがどう見てもこの男子の声は聞き覚えがある。いや、これは昔の俺だ。それも高校に入学した頃だ。しかし、なんで夢の中で俺の高校時代が出てくるのだろうか。まあ、それは置いといて、話を進めよう。
「何をしているんだ?邪悪な気ってなんだよ……」
「そのままの通りだ。これから俺は儀式をやるんだ。なんなら、お前らも見ていくか?」
ああ、これは痛い。痛すぎる。今の俺には程遠い存在だがこれは人に見せられるようなもんじゃない。
俺(高校時代の中二病の俺)は、せっせと何やら道具を持って来て、何かをやり始めた。複数の石に、小さな机、みかん、ロウソク、マッチ、チョークを袋の中から取り出した。
「これで邪悪な気を押さえるんだ」
「あなた、それをやってもどこにそんなものがいるのか私たちには分からないわよ」
冬月は馬鹿馬鹿しいほどにも程度があると思いながら額に手を当てて、呆れていた。それは否定できないが、言いすぎだぞ。この頃の子供にはこれくらいふつうだって……。あれ、普通なのか?
「うるさいなあ。おばさんは黙ってろよ。何もしないなら帰れよ」
「お、おば、おばさん……」
小声で怒りを爆発させている誰かさんは、周りの気がみるみる燃え上がっているようだ。どうやら、さっきの発言がまずかったのかもしれない。
「お、おい。ここは堪えろ、騒ぎを大きくするなよ」
「ええ、なんとなく。昔のあなたがどういう人間だったのか、少しずつ見えてきた気がするわ」
すみませんね。でも、これは夢であって、過去の俺に何と言おうが見知らぬ俺たちが言ったところで何もならない気がするけどな……。
「それで、俺らは何をすればいいんだ?」
俺は俺に尋ねる。
「そうだな。じゃあ、このノートに書いてある奴の通りにこの紙の上に書いてくれ」
持っていたノートと大きな画用紙に赤いチョークを渡した。
「あ、うん……」
「俺は準備で忙しいから早めにやってくれよ」
そう言って、高校時代の俺は他の準備をしていた。
「天道君、あなたの高校時代ってこんな感じだったの?」
俺の服を引っ張りながら、冬月は後ろから話しかけてきた。
「ああ、最初の頃はそんな感じだった。でも、すぐに現実を見て今に至るってわけだ」
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