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第5章 同じ日に同じ夢を見るということは非合理的な空想論である
033 同じ日に同じ夢を見るということは非合理的な空想論であるⅥ
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鏡を見ると、顔立ちは綺麗で、目元には少し涙が出ていた。自分の体の感覚も本物みたいに五感が伝わってくる。
間違いなく、俺の体ではない。と、思った。
「梓、今日、起きるのが遅いわね」
扉を開けると年上の女性が言った。それは何か恐ろしい声色の持ち主だと俺は悟った。
「ほら、もうできているよ」
椅子に座って朝食を食べている彼女の向かい側に座って、彼女の顔を覗き込んだ。
「ん……?どうしたの?私の顔に何かついている?」
テレビのニュースを見ながらその人は言った。
「い、いや、何も……」
「そ、そう。ほら、早くしっかりと食べなさい。栄養をちゃんと取らないと大きくなれないわよ」
楽しそうに年上のお姉さんらしき人は俺に言ったのである。
本当に夢にしてはしっかりと出来ている。それに彼女が最初に言った名前、『梓』。どこかで聞いて様な名前でもある。
「あ、うん。ねぇ、姉さん。今日はいつ?」
「あんた、頭でも打ったの?今日は十二月三日。本当に大丈夫なの?」
「……」
十二月三日?
た、確か……俺がいたのは梅雨に入り始めるころだった気がするが……。
何かがおかしい……。この朝食を食べる時、味がするし、温かさも感じる。本当にここは夢の中なのだろうか。でも、夢ならばこんなことはあり得ない。
俺はどうしてしまったのだろうか。自分の身に何がおこったのか、はっきりとしない。
この夢は一体何なんだよ……。
「おはようございます。十二月三日、午前七時を回りました」
女子アナが挨拶をしながら言った。
「それでは今朝のニュースです。今日未明……」
ニュースの一覧を見ると、過去に一度は見たことのある内容であった。なぜ、今になってこんな記事が出てくるのか少し驚いてしまう。
「……てん……」
頭の中で誰かが俺を読んでいる。頭に声が響いて、頭痛がする。
「……天道君」
誰だよ。俺の夢の中で邪魔をしてくる声は……。うるさい。
「起きなさい」
もう、起きているだろうが……。誰なんだよ、さっきから頭の中に呼びかけてくるのは
……。
「早く起きなさい、さもないと頬叩くわよ!」
頬を叩く?俺の妄想癖はどうやら異常らしい。夢なら早く冷めてくれ……。
パンッ!
頬を思いっきり叩かれた。俺は一瞬、目を閉じて恐る恐る目を開けるとさっきいた場所とは違う所にいた。後頭部は温かいものが当たっており、冬月が俺の顔を覗き込んでいた。
「やっと目を覚ましたわね」
なんで、夢の中に冬月がいるのか俺には分からなかった。と、言うことは……これは悪夢なのかもしれないということだ。
「早く、どいてもらえるかしら」
俺は後頭部に伝わる感触が冬月の膝であることに気づいた。
なんで、膝枕をしてくれたのかは知らないが、夢だからこれはありがたいと言っておくべきだろう。
「……で、なんでお前がここにいるわけ……」
「知らないわ。目を覚ました時にはここにいたもの」
「あ、そう……」
しかし、よくできた夢だ。この場所には見覚えがある。以前、少し前まで俺が在籍していた県立延岡北高校だ。冬月はこの場所にはいなかったはずだ。空は夜のままで校舎には明かりが一つも点いていない。
俺は立ち上がると、寝間着しか着ておらず、足元は裸足で何も履いていなかった。
夜、外に裸足で出るのは後になって風邪を引く可能性がある。冬月も俺と同じ寝間着しか着ていないからどうすればいいのやら……。
「戻る方法とか分からないわけ?」
「ええ、私も最初は夢だと思っていたのだけれど、どうやら違うみたいね。感触もあるし、寒さも感じられる。これは科学的にはあり得ないことよ」
「しかし、それが起きてしまったからには何かしらあるということか……」
「そういうことになるわ」
「冬月は携帯とか持ってないのか?」
「持っているけど無駄よ」
冬月はポケットの中からスマホを取り出して、画面を俺に見せた。
モバイル回線は圏外表示されている。時間も止まったままのようだ。
「なるほどね。電子機器は当てにならないというわけか」
間違いなく、俺の体ではない。と、思った。
「梓、今日、起きるのが遅いわね」
扉を開けると年上の女性が言った。それは何か恐ろしい声色の持ち主だと俺は悟った。
「ほら、もうできているよ」
椅子に座って朝食を食べている彼女の向かい側に座って、彼女の顔を覗き込んだ。
「ん……?どうしたの?私の顔に何かついている?」
テレビのニュースを見ながらその人は言った。
「い、いや、何も……」
「そ、そう。ほら、早くしっかりと食べなさい。栄養をちゃんと取らないと大きくなれないわよ」
楽しそうに年上のお姉さんらしき人は俺に言ったのである。
本当に夢にしてはしっかりと出来ている。それに彼女が最初に言った名前、『梓』。どこかで聞いて様な名前でもある。
「あ、うん。ねぇ、姉さん。今日はいつ?」
「あんた、頭でも打ったの?今日は十二月三日。本当に大丈夫なの?」
「……」
十二月三日?
た、確か……俺がいたのは梅雨に入り始めるころだった気がするが……。
何かがおかしい……。この朝食を食べる時、味がするし、温かさも感じる。本当にここは夢の中なのだろうか。でも、夢ならばこんなことはあり得ない。
俺はどうしてしまったのだろうか。自分の身に何がおこったのか、はっきりとしない。
この夢は一体何なんだよ……。
「おはようございます。十二月三日、午前七時を回りました」
女子アナが挨拶をしながら言った。
「それでは今朝のニュースです。今日未明……」
ニュースの一覧を見ると、過去に一度は見たことのある内容であった。なぜ、今になってこんな記事が出てくるのか少し驚いてしまう。
「……てん……」
頭の中で誰かが俺を読んでいる。頭に声が響いて、頭痛がする。
「……天道君」
誰だよ。俺の夢の中で邪魔をしてくる声は……。うるさい。
「起きなさい」
もう、起きているだろうが……。誰なんだよ、さっきから頭の中に呼びかけてくるのは
……。
「早く起きなさい、さもないと頬叩くわよ!」
頬を叩く?俺の妄想癖はどうやら異常らしい。夢なら早く冷めてくれ……。
パンッ!
頬を思いっきり叩かれた。俺は一瞬、目を閉じて恐る恐る目を開けるとさっきいた場所とは違う所にいた。後頭部は温かいものが当たっており、冬月が俺の顔を覗き込んでいた。
「やっと目を覚ましたわね」
なんで、夢の中に冬月がいるのか俺には分からなかった。と、言うことは……これは悪夢なのかもしれないということだ。
「早く、どいてもらえるかしら」
俺は後頭部に伝わる感触が冬月の膝であることに気づいた。
なんで、膝枕をしてくれたのかは知らないが、夢だからこれはありがたいと言っておくべきだろう。
「……で、なんでお前がここにいるわけ……」
「知らないわ。目を覚ました時にはここにいたもの」
「あ、そう……」
しかし、よくできた夢だ。この場所には見覚えがある。以前、少し前まで俺が在籍していた県立延岡北高校だ。冬月はこの場所にはいなかったはずだ。空は夜のままで校舎には明かりが一つも点いていない。
俺は立ち上がると、寝間着しか着ておらず、足元は裸足で何も履いていなかった。
夜、外に裸足で出るのは後になって風邪を引く可能性がある。冬月も俺と同じ寝間着しか着ていないからどうすればいいのやら……。
「戻る方法とか分からないわけ?」
「ええ、私も最初は夢だと思っていたのだけれど、どうやら違うみたいね。感触もあるし、寒さも感じられる。これは科学的にはあり得ないことよ」
「しかし、それが起きてしまったからには何かしらあるということか……」
「そういうことになるわ」
「冬月は携帯とか持ってないのか?」
「持っているけど無駄よ」
冬月はポケットの中からスマホを取り出して、画面を俺に見せた。
モバイル回線は圏外表示されている。時間も止まったままのようだ。
「なるほどね。電子機器は当てにならないというわけか」
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