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第1章 空と海
Ⅰ
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十一年前・三月下旬————
「おーい、荷物の準備、出来たか?」
父さんが、家族に呼びかけた。
「あるー!」
末っ子の楓が返事をした。
「ん。そうか。拓海と夏織も何もないな」
「ああ」
「うん……」
俺が返事をすると、一つ年下の妹の夏織がイヤホンで音楽を聴きながら返事をした。
「おいおい、元気が無いぞ。どうした? 明後日からは新しい場所なんだぞ。もう少しはしゃいだらどうだ?」
父さんが俺達にそう言ってくる。
だが、車の中にいる俺達にとっては、今から長い、長い長旅であり、おまけに何も知らない新天地へと転校するのである。
今年、高校に入学する夏織にとっては、それはそれでいろんな楽しみを期待していたのに、父親の転勤で、都会から田舎の高校へと即、転校が決まってしまったのである。
「別に夏織的には、どこに居ようと変わらないし、まぁ、知らない人と仲良くなるのも悪くないしね……」
と、言いつつも内心、少しテンションは沈んでいるのである。
それと引き換えに楓は、引っ越しに関して楽しみで仕方がないお年頃である。
「まぁ、出来れば父さんも転勤はしたくなかったんだけどな。こればかりは仕方が無いんだ。上の意向には従うしかない。社会というのは理不尽だからな」
父さんは、住み慣れたアパートの鍵を大家に返し、車のエンジンをかける。
「子供が大人の都合に振り回されるのは、仕方がないと思ってくれ」
父さんはそう言いつつ、車はゆっくりと動き始めた。
三月下旬は、少し肌寒く、そして、少し暖かい曖昧な感覚を人に与える。
× × ×
四日後————
「おい、着いたぞ。起きろ……」
「おーい、荷物の準備、出来たか?」
父さんが、家族に呼びかけた。
「あるー!」
末っ子の楓が返事をした。
「ん。そうか。拓海と夏織も何もないな」
「ああ」
「うん……」
俺が返事をすると、一つ年下の妹の夏織がイヤホンで音楽を聴きながら返事をした。
「おいおい、元気が無いぞ。どうした? 明後日からは新しい場所なんだぞ。もう少しはしゃいだらどうだ?」
父さんが俺達にそう言ってくる。
だが、車の中にいる俺達にとっては、今から長い、長い長旅であり、おまけに何も知らない新天地へと転校するのである。
今年、高校に入学する夏織にとっては、それはそれでいろんな楽しみを期待していたのに、父親の転勤で、都会から田舎の高校へと即、転校が決まってしまったのである。
「別に夏織的には、どこに居ようと変わらないし、まぁ、知らない人と仲良くなるのも悪くないしね……」
と、言いつつも内心、少しテンションは沈んでいるのである。
それと引き換えに楓は、引っ越しに関して楽しみで仕方がないお年頃である。
「まぁ、出来れば父さんも転勤はしたくなかったんだけどな。こればかりは仕方が無いんだ。上の意向には従うしかない。社会というのは理不尽だからな」
父さんは、住み慣れたアパートの鍵を大家に返し、車のエンジンをかける。
「子供が大人の都合に振り回されるのは、仕方がないと思ってくれ」
父さんはそう言いつつ、車はゆっくりと動き始めた。
三月下旬は、少し肌寒く、そして、少し暖かい曖昧な感覚を人に与える。
× × ×
四日後————
「おい、着いたぞ。起きろ……」
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