上 下
49 / 55
第四章 新世界編

進級しました!

しおりを挟む
☆ ☆ ☆

リスタリア王国に戻り一月が経過した。

疲れが出たのか、実家に戻ってからの数日間発熱で寝込んでしまった私。
発熱が治ってからはすっかり元気になったので学園に通いたかったんだけど……。

大事件の後ということと、学園が進級前の休暇(前世で言うところの春休みのようなもの)に入ってしまうということで、寮には戻らずそのまま実家で過ごすことになった。

生徒会メンバーや学友と会えないのは寂しかったけど、長期間実家にいるのも久々だったので至り尽くせりの実家ライフを満喫していた。

とは言っても、保育園の運営や孤児院の様子も気になり、領内を駆け回る日々ではあったのだけど。

前世でのワーママライフスタイルが骨の髄まで染み付いてしまっているせいか、何かしていないとどうも落ち着かないのよね。

私が忙しない日々を過ごす中、国民の生活にも変化が起こっていた。

まず、魔獣がいなくなったことで辺境地の結界が不要になり、人々の交流が増えたこと。
私からのお願い事の一つに「魔獣や魔王との交流を図ること」を提案したこともあり、魔獣の安全性について周知されたことも大きいだろう。
人々はまだまだ半信半疑なところもあるが、行動範囲が広くなったことにより近隣の領地との交易が増え、国全体が活性化してきているようだ。

それと、王都では平民用の保育園や学園の建設が進められている。
これも私からのお願い事として「教育改革」を挙げたことで実現に至ったのだ。
アルノ―領だけではなく国を挙げての事業に拡大出来たことはとても嬉しい。
これで少しでも多くの国民に教育が行き渡り、将来を担う子供達に職業選択の自由が生まれるといいのだけど……。

頑張れば自分の希望が叶う社会。
未来を自分で創造出来る社会の実現は、国の明るい未来のために必要なことだと思うから。

そうそう、それと私達が持っていた能力である魔法は「ギフト」という別の力に替わり、引き続き魔法のような能力が使えることで大きな混乱は生じなかった。
これも創造神様の能力なのだろうか? 新世界を間近で見届けた者以外は「魔法」という言葉を忘れており、「ギフト」という言葉を当たり前のように使っていた。
私も「ギフト」が何のことなのか、誰かに教えられたわけでもないのに自然と理解が出来たのだ。
それと、光や闇の魔力は代替えとして、全ての魔法要素を含んだ力へ変化した。
元々持っていた魔力量がそのまま引き継がれる形だったので私の力は依然として弱いままだけど、満遍なく能力が使えるようになったことで利便性も上がり、日常生活がより快適になって助かっている。

「お嬢様、もうすぐ到着いたします」
「ありがとうアニー」

車窓から学園の校門が見えて来る。
なんだかんだでもう二ヶ月近く学園に行けてなかったのよね。
久々で少し緊張するな。

そんなことを思いながら馬車から降りると、通いなれた教室を目指した。

☆ ☆ ☆

「イザベル様、お久しぶりです!」
「イザベル様、ごきげんよう」

教室に着くや否や、その場にいた生徒達は一斉に私に話し掛けて来る。
おおお、久々だから何を話したらいいか困ってしまう。

「皆さま、おはようございます」

気の利いた言葉の一つでも浮かべばいいけど、生憎私には適当な言葉が浮かばないので無難な挨拶を返す。
すると、近くにいたクラスメイトがそわそわした様子で何か言いたげな様子だ。

「あの、どうされましたか」

私の声がかかるとクラスメイトは嬉しそうな様子で矢継ぎ早に話し掛けてきた。

「あ、あの、イザベル様や生徒会員の皆様って隣国に留学されていたんですよね!? 私、この国から出た事がないので外国についてのお話が聞きたくて!」
「え!?」

私や生徒会メンバーが隣国に留学!? ……ああ! もしかして、いきなり学園を長期間休むことになったから不審に思われないように、関係者が教師や生徒達にそう説明したのかしら。さすがに私が魔王に攫われたなんて本当の話をしたら皆も混乱するだろうし。

うーーん、どうしよう。
隣国の事は書物で読んで知っているけど、実際に行ったことはないから下手なことも言えない。

「えっと……そ、そうですわね。実は部屋に籠って勉学に励むことが多くて、あまり外に出ていないの」

なんとかこの場を切り抜けるべく頭をフル回転させていると、トントンと背後から肩を叩かれる。
振り向くと金髪のキラキラ王子……じゃなかった。ヘンリー殿下がにっこり笑顔で私の後ろに立っていた。

「イザベル嬢おはよう」
「ヘンリー殿下、おはようございます」

おお、ヘンリー殿下、ナイスタイミング!

「さて、挨拶は済んだかな? もうすぐ進級式だし、そろそろ皆も移動しないと」

話し掛けてきたクラスメイト達は時計を確認する。

「あっ、本当ですね。もうこんな時間ですわ」
「イザベル様、またお時間ある時にお話を聞かせてください!」

クラスメイト達も移動の準備のため席に戻って行く。
ヘンリー殿下の耳元でそっと「あとで詳しく説明するけど、不在の理由を留学していたことにしたそうだ。もし会話に困った時は私も間に入る」と耳打ちする。ああ、やっぱり予想通りね。

「さて、そろそろ私達も移動しよう。今年は留年者もいないそうだし、皆で揃って進級出来るとは喜ばしいことだ」
「そうなのですね! それは良かったです」

進級式のあと、私達は一番上の学年になる。
本来なら私を含む生徒会メンバーは魔王の件で出席数が不足しているのだけど、特殊事案ということで特認で進級出来ることになったのよね。
この学園では勉学のための留学であれば授業に出席したことになるから、それもあって不在の理由を留学にしたのかも。

「進級式は講堂で行うそうだよ。行こうか」
「はい!」

ヘンリー殿下のエスコートで教室を出て講堂を目差すことにした。

しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

ダサいモブ令嬢に転生して猫を救ったら鉄仮面公爵様に溺愛されました

あさひな
恋愛
猫好き喪女の私はある日車に轢かれそうになっていた野良猫を助けて異世界転生を果たす。 転生先は買ったばかりの乙女ゲームの世界で、悪役令嬢の取り巻きのモブ令嬢。 しかもピンク色ばかり好むセンスの悪さから『ピンク令嬢』だなんて不名誉なあだ名で囁かれる人物に転生してしまった。 ヒロインに転生できなかったのは残念だけど、お気楽ポジションに転生出来たんなら異世界ライフを満喫しよう! と、持ち前のポジティブ思考と行動力で、センスの悪いフリフリピンクなドレス達を早々に断捨離。 ドレスを売ったお金で前世の夢だった保護猫カフェを異世界で設立しちゃいました! そんな中、怪我をした迷い猫を発見し助けてあげたところ、飼い主らしき青年と従者が現れたが……その飼い主は攻略対象者の一人である鉄仮面公爵様だった! その日の出来事をキッカケになんだか鉄仮面公爵様に気に入られ、プロポーズされてしまいました。 「少しずつで良い、僕を見て。そして僕の事を知って欲しい」 え? 私、モブ令嬢なんですけどヒロインと勘違いしていませんか!?

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。