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* * *

 怒涛の結婚式が終わり、数日が経過した。
 ふ~やれやれ、ようやく平和な日々が戻ってきた感じがするわ。

 そんなことを思いながら鼻歌交じりにメイドと一緒に洗濯物を干していると、風でシーツが飛ばされる。

 ああ、大変! あのシーツ高級品なのに!!

 慌てて追いかけようとすると、屋上の扉から出て来た長身の男の顔にシーツが引っ掛かった。

「おっと、びっくりした。洗濯物か?」

 遠目からでも分かる整った顔立ちに、切れ長で力強い印象の紫眼。
 そして、服の上からでも鍛え抜かれていると分かる、無駄のない引き締まったシルエット。

「クロード様!? なぜこんなところに」
「仕事がひと段落したから、エステルの可愛い顔を見に来たんだ」
「そ、そうだったのですか」
 
 クロード様はシーツを片手にこちらへ歩み寄る。
 最近、仕事の手が空く度に屋敷で家事をしている妻の顔をわざわざ見に来るクロード様。
 私のことを想ってくれる気持ちはとても嬉しいのだが、結婚式後、その溺愛っぷりが輪をかけて酷くなっているような気がしている。

 あ、そうそう。結婚式後に変わったことと言えば、私の部屋の位置。
 今までは別部屋だったんだけど、扉を開ければすぐに執務室につながるお部屋に引越しになった。
 それからクロード様は、毎朝の挨拶に加え仕事の合間まで私の存在を確かめにやって来る。
 ああ、もちろん顔を見に来るだけじゃなくて激甘な愛の言葉もセットなんだけども。

「エステルが一生懸命な姿は天使のように愛らしいな。だが、シーツを干すのは大変そうだから私がやっておくよ」
「まぁ。クロード様はそんな事をやらなくてもいいのに」
「ちょっとでもエステルの役に立ちたいんだ。それに、良いところを見せたら、エステルがもっと私に惚れてくれるかもしれないだろう?」
「もう、クロード様ったら。私はいつだってクロード様をお慕いしているのに」
「ははは! 冗談だよ。ちょっとでも妻に良いところを見せたいと思う、つまらない男心さ」

 クロード様は長身を生かし、手早くシーツを干し終えると、私の髪にそっと口づける。

「エステル、貴女の時間が欲しい。この後の予定はどうだろうか」
「え? 今日は特にこの後の予定はないですが」
「そうか。なら二人で外に出掛けないか? 美味しい甘味屋が出来たようなのだが、そこにカフェがあるようでお茶でもしようと思っているのだが」
「まぁ、そうなんですね。 それは楽しみです!」

 やった~! スイーツだ!!
 前世では甘い物が大好きだったから、家事育児の合間にコンビニとかのちょっと高めのスイーツを買って、子供が寝静まったころにひっそりと台所で食べていたっけ。
 会社にもチョコ菓子とか摘まめるものを引き出しに入れていたなぁ。っていけない、いけない、つい過去の想い出に浸ってしまったわ。
 
「瞬間移動で甘味屋に行くことも出来るが、あれは人によっては魔法酔いしやすいようだから馬車で行こう」
「はい!」

 わーい、楽しみだなぁ。
 ささっと簡単に髪だけ整えていると、ルネさんが渋い顔をしている。

「もう、奥様ったら。せっかく当主様とのデートなんですから、もう少し気合をいれないと」
「ええ? でも甘味屋に行くだけですよ?」
「奥様はランブルグ家の顔なんですから、せめてお召し物だけでも変えていってくださいませ」

 あっという間に衣装チェンジをさせられ、普段着から余所行き用の煌びやかなドレスにグレードアップした。
 こういったドレスも嫌いじゃないけど、動きにくいのが難点なのよね。
 でも、外は寒いので普段着よりも生地がしっかりしている余所行きドレスの方が少し暖かいから、その点だけは助かる。
 
「まだまだ外は寒いですから、こちらも羽織ってお出かけください」

 毛皮のコートを着せられ、防寒対策ばっちりの状態でクロード様の元へ向かうと、外套を羽織ったクロード様が玄関前でセバスさんと話をしていた。

「ではセバス、屋敷の事は任せたぞ」
「承知いたしました」

 ああ、仕事の引継ぎをしていたのかしら。
 邪魔になるかな、と思って声を掛けるのをためらっていると、クロード様が先に私の存在に気が付いたようだ。
 満面の笑みでこちらに向かって歩いてきた。

「エステル、私との外出のためにわざわざ着替えてくれたのか」
「クロード様、お待たせしました」
「普段着の貴女も素敵だが、この衣装も良く似合っている。とても綺麗だよ」

 クロード様はさっそく私の腰を抱くとちゅっと頬に軽い口づけを落とす。
 ひゃぁぁぁ! いきなりほっぺにちゅうとか刺激が強い!
 
「ク、クロード様」
「ふふ、耳が赤くなってるぞ。その初心な反応も愛らしい」

 逞しい腕に軽く引き寄せられ、厚い胸板にすっぽり覆われる。
 あああああ! いきなり抱擁とか心の準備が!!
 
「貴女をこうして抱き締めることが出来るのが私だけだと思うと、それだけで幸せを感じるよ。ああ、エステルは温かいな。ずっとこうしていたい」

 だ、ダメだ……。刺激が強くて思考回路と心臓が停止しそうだ。
 
「当主様、このままではいつになってもお出掛けが出来ませんよ。お店の営業時間も決まっているのですから、そろそろ出立されては」
「ああ、そうだな。ではエステル、馬車まで行こうか」
「は、はひ」
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