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「エステル、くれぐれも気を付けるんだぞ」
「はい。クロード様、行ってきます」
あっという間に一週間が経ち、お茶会の当日になった。
心配そうなクロード様を横目に馬車に乗り込む。
ゆっくりと馬車が動き出すと窓越しから見えるクロード様の姿も小さくなり、屋敷もどんどん遠ざかって行く。
そういえば、結婚して以来屋敷から出たことなかったなぁ。
そんなことを思いつつ馬車に揺られていると向かいに座るセバスさんが話し掛けてきた。
「奥様、この先に繁華街がありランブルグ家が懇意にしている仕立て屋がございます。丁度良い機会ですので衣装合わせも兼ねて市井を散策でもしてみては如何でしょうか」
今日のお茶会は午後からだが、余裕を見て早めに出ていた。
でも、スターク領は馬車で三時間以上はかかるし、あんまりのんびりしている時間はないと思うのだけど。
「ありがとうございます。でもあまりゆっくりしているとお茶会に遅れてしまいますわ」
セバスさんは一瞬首を傾げたが、何かを理解したようだ。
「ああ、奥様には申し伝えていませんでしたね。この馬車には強めの魔法がかかっているので通常よりも早い速度で移動が可能なのです」
「え!? そうなんですか?」
「はい、もう少しするとさらに速度が上がると思います」
そんな話をしている内にみるみる外の景色が流れ、速度が上がっていくのが分かる。
おおお、すごい。ちょっとしたアトラクションにでも乗っているみたいだわ。
「まぁ、凄い! どんどん景色が変わっていきますね」
「この馬車でしたら一時間も掛からずに到着が可能ですので、この調子で行くとお茶会までに時間が空いてしまいます。奥様は嫁がれてから一度も外に出られておりませんし、あの手紙を受け取って以来奥様の表情も曇りがちでしたから、気分転換も兼ねて市井散策をご提案させていただいた次第です」
ああ、そういえば出掛ける前に「ランブルグの街を楽しんでおいで」とクロード様が言っていたけど、このことだったのか。私はてっきり「車窓からの景色を楽しんでおいで」という意味かと勘違いしていたわ。
「そうだったんですね。すみません、無知な上に気を利かせていただいて」
「いえいえ、差し出がましいことをしてしまい申し訳ありません」
当初はどこか固くてとっつきにくい印象があったセバスさんだけど、今は私のことを気遣ってくれるしとても優しい。そして、セバスさんだけでなくランブルグ家の人達は皆優しくて温かい人達ばかりだ。
改めて、恵まれた環境だと思う。
「そんな事ないです! それより、いまから行く所が楽しみです」
エステルは屋敷の外に出してもらえたことなどほぼないし、嫁いでからも屋敷から出たことがなかったからなぁ。
エステルからしてみれば市井なんて本の中だけの知識だけだし、どんな街並みで、どんなお店があるのか興味がある。
これから参加するお茶会は気が重いけど、市井散策はとても楽しみだ。
流れゆく景色を眺めつつ馬車に身を委ねていると、段々速度が落ちていく。
あれ、もしかしてもう街に着いたのかしら。
「奥様、到着しました。まずは衣装合わせのためにブティックに参りましょう」
はやっ! まだ乗って10分も経っていないんじゃないかしら。
そんなことを思いつつセバスさんのエスコートで馬車から降りると豪華な門構えのお店が目前にある。
ショーウィンドウには色とりどりのドレスが飾られており、どれも美しいデザインのものばかりだ。
「さ、奥様こちらです」
「は、はい」
うわぁ、どれも高そうだなぁ。
そんな事を思っていると中からここの店主と思われる女性が出て来た。
「ランブルグ辺境伯の奥様でいらっしゃいますね。この度はご結婚、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます」
「申し遅れました、私はこのブティックの店主、マティンヌと申します。ささ、奥様のご衣裳候補はこちらにございますわ」
マティンヌさんに促されるまま奥の個室へ入ると中にはずらりとウェディングドレスが並んでいる。
「ここにあるドレスはどれも格式高い物になりますが、その中でもデザインが最新の物でご用意しております」
おお、なんか衣装を見ると一気に結婚式って感じがするわね。
それに、どのドレスも見ているだけで溜息が出るほど美しいわ。
「奥様は色白なうえに細身でいらっしゃいますから、どのタイプのドレスでも問題ないと思いますが……こちらのドレスなんて如何でしょう」
マティンヌさんが持って来てくれたドレスはシルクを贅沢に使用したAラインのドレスだ。
肩から袖にかけては刺繍が施された繊細なレースがあしらわれ、裾や腰の辺りにはダイヤモンドのような宝石が無数にちりばめられている。
「綺麗……」
まるでおとぎの国のお姫様が着るようなドレスに目が釘付けになっていると、どこからともなく店員と思われる女性達が私を囲む。
「奥様、まずは合わせてみましょう」
「え、ええ?」
前世では学生結婚だったのでウェディングドレスなんて着た事ないし、当然着方なんて分からない。
困惑している私を他所に店員達にあれよあれよという間に衣装チェンジしていく。
「エステル、くれぐれも気を付けるんだぞ」
「はい。クロード様、行ってきます」
あっという間に一週間が経ち、お茶会の当日になった。
心配そうなクロード様を横目に馬車に乗り込む。
ゆっくりと馬車が動き出すと窓越しから見えるクロード様の姿も小さくなり、屋敷もどんどん遠ざかって行く。
そういえば、結婚して以来屋敷から出たことなかったなぁ。
そんなことを思いつつ馬車に揺られていると向かいに座るセバスさんが話し掛けてきた。
「奥様、この先に繁華街がありランブルグ家が懇意にしている仕立て屋がございます。丁度良い機会ですので衣装合わせも兼ねて市井を散策でもしてみては如何でしょうか」
今日のお茶会は午後からだが、余裕を見て早めに出ていた。
でも、スターク領は馬車で三時間以上はかかるし、あんまりのんびりしている時間はないと思うのだけど。
「ありがとうございます。でもあまりゆっくりしているとお茶会に遅れてしまいますわ」
セバスさんは一瞬首を傾げたが、何かを理解したようだ。
「ああ、奥様には申し伝えていませんでしたね。この馬車には強めの魔法がかかっているので通常よりも早い速度で移動が可能なのです」
「え!? そうなんですか?」
「はい、もう少しするとさらに速度が上がると思います」
そんな話をしている内にみるみる外の景色が流れ、速度が上がっていくのが分かる。
おおお、すごい。ちょっとしたアトラクションにでも乗っているみたいだわ。
「まぁ、凄い! どんどん景色が変わっていきますね」
「この馬車でしたら一時間も掛からずに到着が可能ですので、この調子で行くとお茶会までに時間が空いてしまいます。奥様は嫁がれてから一度も外に出られておりませんし、あの手紙を受け取って以来奥様の表情も曇りがちでしたから、気分転換も兼ねて市井散策をご提案させていただいた次第です」
ああ、そういえば出掛ける前に「ランブルグの街を楽しんでおいで」とクロード様が言っていたけど、このことだったのか。私はてっきり「車窓からの景色を楽しんでおいで」という意味かと勘違いしていたわ。
「そうだったんですね。すみません、無知な上に気を利かせていただいて」
「いえいえ、差し出がましいことをしてしまい申し訳ありません」
当初はどこか固くてとっつきにくい印象があったセバスさんだけど、今は私のことを気遣ってくれるしとても優しい。そして、セバスさんだけでなくランブルグ家の人達は皆優しくて温かい人達ばかりだ。
改めて、恵まれた環境だと思う。
「そんな事ないです! それより、いまから行く所が楽しみです」
エステルは屋敷の外に出してもらえたことなどほぼないし、嫁いでからも屋敷から出たことがなかったからなぁ。
エステルからしてみれば市井なんて本の中だけの知識だけだし、どんな街並みで、どんなお店があるのか興味がある。
これから参加するお茶会は気が重いけど、市井散策はとても楽しみだ。
流れゆく景色を眺めつつ馬車に身を委ねていると、段々速度が落ちていく。
あれ、もしかしてもう街に着いたのかしら。
「奥様、到着しました。まずは衣装合わせのためにブティックに参りましょう」
はやっ! まだ乗って10分も経っていないんじゃないかしら。
そんなことを思いつつセバスさんのエスコートで馬車から降りると豪華な門構えのお店が目前にある。
ショーウィンドウには色とりどりのドレスが飾られており、どれも美しいデザインのものばかりだ。
「さ、奥様こちらです」
「は、はい」
うわぁ、どれも高そうだなぁ。
そんな事を思っていると中からここの店主と思われる女性が出て来た。
「ランブルグ辺境伯の奥様でいらっしゃいますね。この度はご結婚、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます」
「申し遅れました、私はこのブティックの店主、マティンヌと申します。ささ、奥様のご衣裳候補はこちらにございますわ」
マティンヌさんに促されるまま奥の個室へ入ると中にはずらりとウェディングドレスが並んでいる。
「ここにあるドレスはどれも格式高い物になりますが、その中でもデザインが最新の物でご用意しております」
おお、なんか衣装を見ると一気に結婚式って感じがするわね。
それに、どのドレスも見ているだけで溜息が出るほど美しいわ。
「奥様は色白なうえに細身でいらっしゃいますから、どのタイプのドレスでも問題ないと思いますが……こちらのドレスなんて如何でしょう」
マティンヌさんが持って来てくれたドレスはシルクを贅沢に使用したAラインのドレスだ。
肩から袖にかけては刺繍が施された繊細なレースがあしらわれ、裾や腰の辺りにはダイヤモンドのような宝石が無数にちりばめられている。
「綺麗……」
まるでおとぎの国のお姫様が着るようなドレスに目が釘付けになっていると、どこからともなく店員と思われる女性達が私を囲む。
「奥様、まずは合わせてみましょう」
「え、ええ?」
前世では学生結婚だったのでウェディングドレスなんて着た事ないし、当然着方なんて分からない。
困惑している私を他所に店員達にあれよあれよという間に衣装チェンジしていく。
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