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帰還の宴が終わったあと、クロード様は一度私の部屋を訪れてくれた。
でも、クロード様に対する恋心を認識してしまった今、顔を合わせるのが辛くて、体調不良を言い訳にクロード様との面会を初めて拒否してしまったのだ。
今朝もクロード様は私の部屋を訪れてくれたが、体調不良であることを言い訳に面会を拒否した。
「エステル、私は討伐の報告で王宮へ行くため家を留守にするが、何かあれば無理せずルネに言うんだぞ」
クロード様は心配そうな声で扉の前でそう言い残し、公務のため出て行った。
「はぁ……」
このままじゃいけない、と分かっているんだけど。
クロード様との面会を拒否してから、気まずさも相まって顔を合わせづらくなってしまった。
参ったな……好きになってはいけない相手を好きになってしまうなんて。
「ミイラ取りがミイラになる」とはまさにこのことだと思う。
はぁ、今後どうやってクロード様に接したらいいんだろうか。
「奥様、失礼いたします」
ルネさんは水差しと軽食のような物を机に置くと心配そうな様子で私に話しかけてきた。
「昨日は奥様の体調不良に気付かずに申し訳ありませんでした。昨日から何も召し上がっていないので軽食をお持ちしましたが、お召し上がりになれそうでしょうか」
そういえば、昨日宴会前に食べた食事から何も食べていないんだった。
でも、クロード様の事を考えると胸がきゅっと苦しくなり、不思議とお腹が減らない。
「ルネさん、ありがとうございます。でもあまり食欲がなくて……」
「そうですか、でも水分くらいは取らないと脱水を起こしてしまうので、こちらだけでもお召し上がりください」
「ありがとうございます」
ルネさんはそう言うと私に白湯をもってきてくれた。
ああ、ルネさんの優しさが染みる。
まるで実のお姉ちゃんのように甲斐甲斐しく世話をしてくれるルネさんに、つい甘えたくなってしまう。
「……ねぇ、ルネさん。聞いてもいい?」
「はい、私にお答えできる事でしたら何でも聞いてください」
「もし……もし、仮に好きになってはいけない人を好きになってしまったら、ルネさんだったらどうする?」
ルネさんは答えを考えてるようで暫く沈黙の後、口を開いた。
「そうですね……好きなってはいけない相手によるとは思いますが、私でしたら想いを伝えると思います」
「でも、それって相手の迷惑にならないかしら。それに好きになってはいけない相手よ? 黙って気持ちを封じることもできるわ」
「奥様、お言葉ですが、恋心というのは『気持ちを封じなければならない』と思えば思う程、反対に湧き上がるものです」
うっ、それは一理ある。
それは恋心に限ったことではなく、ダメと思えば思う程嫌でも意識してしまうことってよくある話だし。
「これは私の戯言になりますので聞き流してください。……私は昔、とある身分の男性が好きでした。しかし、お相手の身分の方が高かったのでその方との恋愛は諦めていました」
へぇ、ルネさんにそんな過去があったのか。
「もちろん、恋心を伝えることなく気持ちに蓋をしていたのですが、ある日、その方が結婚すると聞きました。その相手は私の姉だったのです」
「えっ!?」
「実は姉もその方を想っていたようですが、私と違ったのは身分差に関係なく想いを相手に伝えたことです。それが功を奏し、二人は身分差を乗り越えて結婚に至りました」
ルネさんの想い人とお姉さんの想い人が一緒だったなんて。
それはさぞかし複雑な想いだっただろうな。
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