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「そうですね……植物を育てるのは大変な事もありますが、植物を育て、それを食べる事は植物達の持つエネルギーを身近に感じる事が出来る気がするのです。その感覚が好きで、気付いたら趣味になっていた、という感じでしょうか」
「ほう、なるほど。奥様は本当に園芸が好きなのですな。……そうじゃ、裏庭に菜園がありましてな。良ければ見て行かれますか?」
「まぁそうなんですか!? 是非見たいです!」

 ドンさんはプロの庭師だし、どんな野菜を育てているのか楽しみだわ。
 ドンさんと話が弾んでいると、ルネさんは呆れた様子で口を挟んできた。

「奥様、舗装されていない場所はお召し物が汚れてしまいますわ」

 うぐっ! それを言われてしまうと痛い。この服は全て夫のクロード様が買った物だし、汚してダメにしてしまって何か言われたら困るし……。
 そんな事を思っているとドンさんは残念そうな様子で口を開く。

「確かにそうじゃな。奥様は御令嬢ですし、土のある場所なんかに誘ってしまい申し訳ありません」

 ああ、せっかくドンさんと仲良くなれそうだったのに。
 このままでは使用人達と仲良くするきっかけを損なってしまうわ。

「ドンさん、謝らないで下さい。あ! そうだ。明日は私が着てきた服で来ますから、その時にドンさんの育てた食物を見せて下さい」
「ですが……本当に大丈夫なんですか?」
「私が持ち込んだ服なんだし、汚そうが捨てようが自由に使えるはずよ。ね、ルネさん?」

 私の気迫に押されたのか、ルネさんは何か言いたそうな表情で「え、ええ」とだけ返事をした。

 よし、言質は取ったぞ。

「ほら、ルネさんもいいって言ってくれたし、明日またお庭で会いましょう!」
「ほほほ! 侍女を煙に巻くとは、奥様は中々肝の座ったお方のようじゃな。さすがは当主様が見初めたお相手だけあるわい。では、改めて明日またお会いしましょうぞ」

 わーい! 明日が楽しみだわ!

「もう、奥様もドンさんも。当主様にはこの事はナイショですよ?」
「やったぁ、ルネさんありがとうございます!」
「了解しましたぞ」

 ふふ、楽しみが増えたわ。
 そんな事を思いつつ笑顔でドンさんと別れると、ルネさんが私に話かけてきた。

「奥様は貴族出身ですのに、珍しい趣味をお持ちなのですね」
「そ、そうですか?」
「私の様な平民でしたら理解できますが、貴族の方でそういった話はあまり聞かないので」
「ほ、ほほほ」

 なんて言ったらいいか分からないし、とりあえず笑って誤魔化そう。

 あ。そういえば、この屋敷にきて気付いたことだけど、どうやらここの使用人は身分や出身に関係なく雇われているみたい。
 ルネさんは平民出身だと言っていたし、ドンさんの肌の色はこの国では珍しい褐色だ。

 スターク家は男爵家だったけど使用人に外国人は絶対雇わなかった。
 でも、クロード様はそういった偏見のない方なのかも知れない。

 そんな事を思いつつ、私とルネさんは庭から屋敷へ戻ることにした。
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