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「奥様、お待たせいたしました」
「ルネさん、ありがとうございます。ルネさんも疲れたでしょうし、こちらの席に座って下さい。落ち葉が炭にならないと蜜芋は入れられないので、それまで私の雑談にお付き合いいただけると嬉しいです」

 ルネさんは少し戸惑う様子を見せたが「では、お言葉に甘えて失礼します」と向かいの席に座った。

「ルネさんに聞きたいことがあるんです」
「はい、私で分かることでしたらお答えいたします」
「このお屋敷には魔法製品がほとんど見当たらない気がするんだけど、なぜだか知っていますか?」
「ああ、それは当主様の魔力が強過ぎて魔法製品がすぐに壊れてしまうからです」
「そ、そうなんですか?」
「私達使用人の暮らす場所には魔法製品は揃っていますが、当主様の意向でこの屋敷内は基本的に魔法製品は置いていないのです」

 なるほど、それで私が生活していても不自由を感じなかったのか。

「そうだったのですね。でも魔法製品ってそんなにすぐ壊れる物なのかしら?」
「そうですねぇ。製品によって寿命はありますが、基本的にはすぐ壊れたりしないですわ」

 こんなところでクロード様の強さを思い知ることになるとは。
 魔力を持たないエステルの身からすると、近くにいる人の魔力の強さなんて全く分からないのよね。

「アンティーク製品は魔法製品より手間もかかるし量産していないので非常に高価ですが、当主様は首都に行くと度々アンティーク製品を購入されていらっしゃるようです。この前はご自身と私達使用人のお土産として懐中時計を購入されていました」
「へぇ、使用人の方にもお土産を買って来るんですね」
「はい、当主様は使用人思いであり、領民達の事を一番に考えていらっしゃる器の大きいお方なのです。表では色々と良からぬ噂が流れていますが、それは大きな間違いなのです!」

 おお、ルネさんが熱弁し始めたぞ。
 どうやらクロード様は使用人に慕われているようね。

「まず、当主様は出自は家柄で人を判断しません。その人の持つ資質や性格を見て判断して下さいます。そして、一度目を掛けた方々を大切にして下さいます。ですから、巷で噂されるような恐ろしいな方ではございませんわ!」

 お、おお。
 ルネさんの気迫に押されそうになりそうだわ。
 でも……確かにここに来て思ったのよね。クロード様は外から見える情報だけではなく、人柄で判断される方なんだろうなって。
 それは使用人達を見ていて気付いたことだった。

「そ、そうでしたの。確かにここの使用人達を見ていて私もそう思いましたわ」
「さすがは奥様! よく分かっていらっしゃる! そうなんです。当主様は素晴らしいお人柄なのに、あの魔力と任務のせいで悪く見られがちなのが本当に残念でなりませんわ……あ、焚き火がだいぶ弱くなって来ましたね」
「あら本当ね。じゃあ、そろそろ蜜芋を入れましょうか」

 よかった。いつルネさんの熱弁を止めようか困っていたところだったのよね。

 そんな事を思いながらガゼボから焚き火の場所まで移動して、蜜芋を炭の中へ入れて行く。

 うんうん、後は炭の火が消えない様にして暫く放置すれば完成ね!

「奥様、焼き芋の完成までお時間がかかりますし、本日も良い天気ですから先程のガゼボでお茶をされては如何でしょうか? すぐにティーセットをお持ちします」

 焼き芋作るだけなのになんだか至りつくせりで申し訳ないな。
 でもこのまま待っているだけではつまらないし、甘えさせてもらおう。
 
「お気遣いありがとうございます。ではお願いしても良いですか?」
「ではすぐに用意いたします」

 ルネさんは小型のトランシーバーのような物で屋敷内の従業員に指示を出しているようだ。
 
 この世界でもトランシーバーがあるんだなぁ、と思っているとあっという間にメイドがティーセットを運んできた。

 ルネさんに入れてもらったお茶とお茶菓子を堪能しつつ時間を潰す。

 あ、そろそろ出来た頃かしら?

「ちょっと蜜芋の状態を見て来ます」

 炭の中から芋を取り出して皿の上で割ってみると、甘い香りの湯気とともにホクホクとした黄色い身頃が顔を出す。

 よかった、美味しそうに出来たわ!

 そのままフーフー冷ましつつ一口味見をしてみると、ホクホクした口当たりと芋の甘味が口いっぱいに広がった。

「んーっ美味しい!」

 よし、残りの芋達を回収しよう。
 一旦ルネさんにお皿を預けて芋達を回収していく。
 途中で火傷が危ないからとルネさんが芋回収を手伝ってくれたお陰でアツアツのうちに全ての蜜芋が回収出来た。

 よし、あとはみんなに配って行こう!
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