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しおりを挟む暫くすると医者らしき男がやって来た。
どうやらベテランの先生のようでテキパキとした様子で私の身体を診てくれた。
「脈も正常ですし、身体には異常はなさそうですね。もう起き上がって動いても大丈夫でしょう」
う。実は、既に起き上がって鏡を見たり、ベッドでの寝心地を堪能したりと部屋で好き勝手に動いていたことは内緒にしておこう。
「ありがとうございます」
一先ずお礼を言うとお医者様は丁寧にお辞儀をして出て行き、今度は入れ違いで執事らしき男が入って来た。
「旦那様の専属執事を務めております、セバスと申します。エステル様、まだ体調が万全ではない様ですし、本日はこのまま屋敷にお泊まりになられては如何でしょうか」
「え?」
エステルの記憶では今日は縁談の顔合わせの予定だけだ。
縁談もまとまっていないのに泊まったりしたら変な噂が立つかも知れない。そうなってはクロード様も困るのでは?
でも、先程流れ込んだエステルの記憶……。
ここを出たとしても、今のエステルに帰る場所なんてあるのだろうか。
「医者はあのように申しておりましたが、万が一道中でまた倒れてしまっては大変です。それに、外も暗くなって来ておりますから、旦那様が大変心配をしております」
「で、ですが……」
「ここでの事は決して外部に漏れる事はございませんし、旦那様を安心させるためにもどうかこのままお休みいただけないでしょうか。その間エステル様の不自由なき様、私共が給仕をさせていただきます」
後ろに控えていた使用人達は一斉に私に頭を下げて来た。
わわ、どうしよう。何だか大事になってしまったぞ。
「わ、わたくしが勝手に倒れたのが悪いのですからクロード様が気に掛ける必要等ございませんわ。それに、ほら! もうピンピンしていますし」
セバスさんは私の言葉を聞くと、スッと目を細めた。
「エステル様は思慮深い方でいらっしゃいますね。ですが、ここは辺境地でございますので魔物が出没する可能性もございます。身の安全を考えて、ここは屋敷に留まられた方が宜しいかと」
そう、この世界は魔法だけでなく魔物も実在する。
恐らく元となる乙女ゲームが中世ヨーロッパ風のファンタジー要素が強い世界観だったから、この世界もその影響を受けているのだろう。
ちなみに魔物は人を襲うため、夜中に襲撃でもされたら命の補償はない。
(転生早々に命の危機に瀕するのは流石に嫌だわ。それに今のエステルには帰る場所もなさそうだし、ここは大人しくクロード様のご厚意にあやかった方が良さそうね)
「では……お言葉に甘えさせていただきますわ」
「畏まりました、旦那様にお伝え致しましょう。意識が戻られてから何も口にされていらっしゃらないでしょうし、直ぐに軽食のご用意を致します」
セバスさんはニッコリ笑うと丁寧にお辞儀をして、その場を後にした。
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