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やさしい雨

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 小雨が降る森の中をグッタリしながら俺は歩く。
 拾った長い枝を杖代わりにし、重い体をそれで支えながら進んでいた。
 傷口には止血の布を巻いていたが、それでも血は滲み出てくる。

 クソッ、満身創痍だな……。

 あれから夜通し歩いたが、ファムとそれを追った二人の姿は見つからなかった。
 ファムの無事を祈りつつ、焦燥感に苛まれながら歩を進め、とうとうこの「断絶の山」の麓まで来ていた。
 ここで森は途切れ、先には草原が広がっている。

 この先にファムが行くとは思えなかった。
 草原の広がる先はすでに俺たちファームの勢力圏だからだ。
 他のファームに見つかればただでは済まない。
 きっと森の中にまだいるはずだ。

 腰かけるのにちょうど良さそうな岩を見つけてそこまで歩く。 
 怪我をおして夜通し歩いたために疲れ切っていた。
 少し休んで体力を回復させ、また森に戻るつもりだった。

『ロラン…』

 かすかにファムの声を聞いた様な気がした。
 小雨の振り続ける中、辺りを見回すが誰もいない。

 気のせいか。かなり体が弱っているな……。

 だが、あいつを見つけ出すまで絶対に諦めない。
 せめて礼だけでも言いたい。
 ファム、無事でいてくれ。
 休憩もそこそこに、元来た森に戻ろうと腰を上げ、振り返る。


 目の前の木の上にファムがいた。











 俺はファムをみて呆然としてしまった。
 手足のあちこちに傷があり血が滲んでいる。
 マントは無くなり服もところどころ破れボロボロだが、ちゃんと枝の上に立ち、そして俺を見て泣いていた。

 ファム、いつからそこに……。

 その無事な姿をみて、張りつめていた神経が解きほぐれるような安堵感を覚える。

 本当に……、無事でよかった。

 だが、俺のそんな気持ちとは相反して、奴は俺の姿を見ると顔を歪め、ますます涙を流し、しゃくり上げていた。
 こぼれ落ちる涙をしきりと手で拭い、それでも足りずに雨と一緒にポタポタと顎を滴る。

「ウウッ…ウッ……ロラン、 ●△☆▲」

 ファムは俺に謝っていた。
『ロラン、ごめんなさい』と言っている。

 そして、初めて気付く。
 こいつはまだ俺が怒っていると思っているのだ。
 ファムに剣を突きつけて洞穴を出て行ったきり、まともに向き合っていない。
 そう思っていても仕方がなかった。

 俺は、もう怒ってなんかいない。
 ファムと別れた、このたった一日の間に、俺にとってこいつがどれほど大切かを痛いほどわかっていた。
 何しろ、別れてからずっとファムのことを考えていた。
 考えていない時なんか、いっときたりとも無かった。

 俺はファムに話しかける。

「ファム、俺が悪かった……。俺は自分の事しか考えずに……、言葉がわからなくて不安になっているお前の事をぜんぜん理解せずに、俺一人で自己満足していた。もっとお前の気持ちを考えるべきだった」

 ファムは泣きながらも必死に俺の言葉に耳を傾けるが、理解できずに困惑の表情をみせる。

 難しい事をいっても無理だ。
 ますますファムは混乱するだろう。
 何とか今の俺の気持を伝えたい。
 

 杖を放り出し、大きく両手を広げる。

 今、一番彼女にして欲しい事を、一言で……
 彼女にも伝わる様に、一言で……

 心から叫ぶ。

「──ファム、来い!──」

 ファムはその言葉を聞いて大きく目を見開くと、嬉しそうに顔を歪める。
 涙を流しながら、満面の笑顔を浮かべる。

 そして、飛んだ。

 俺に向かって白く長い髪をなびかせ、鳥の様に木から飛んだのだ。
 慌ててファムを受け止める。
 俺の胸に抱きつき、泣きじゃくりながら、何度も頬をすり寄せる。

「ロラン! ロランッ! ♡♡♡」

 ファムの輝く髪をなで、震える暖かい背を抱きしめながら、改めて思う。

 こいつと生きていこう。

 村の仲間たちとは会えなくなるが、こいつと一緒なら二人きりでも寂しくはない。
 ファームツリーの加護も受けれなくなるが、何かあっても二人でいれば支え合っていける。
 互いの言葉もゆっくりと覚えていけばいい。
 この白いミーム……ファムと二人で、この世界を生きていくのも悪くない。

 きっと上手くいく、なんとかなるさ!
 ファム、二人で生きよう!

 俺はそう心に決め、しがみつくファムをしっかりと抱きしめマントで包み込んだ。
 ファムの紅い瞳が俺を見上げ、優しく見つめてくれている。
 その瞳を優しく見つめ返す。
 そして、どちらからともなく互いに口付けた。

 緑の草原が広がる中、優しく雨が俺たちを包む。

 二人に言葉はいらなかった。
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